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マリアの手紙(モーリス)

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〝モーリスへ〟

 貴方がこの手紙を受け取る頃には私は最早、いないんでしょう。
恐らく、自身のに肩を落としているのかしら?
もし、そうであれば私は嬉しくて仕方ありません。

やっと、私はゴミ屑の様な貴方を〝夫〟として扱わないといけない事から解放されるのですから…

貴方が子爵と平民の間にできた女と密通していたのは結婚する数ヶ月前から気付いてましたのよ。

それが最初の房事。

だって貴方の背中の両側に引っ掻き傷があるんですもの…

〝この人は私のもの〟って独占欲丸出しで…
どんなに貴族のマナーを仕込んでも中身は矯正できないと私は、その場で理解しました。
貴方には、このきっと理解できないでしょうね。

ライラを身籠り、貴方との房事をしなくて良くなりホッとしていた所に今度は、愛人に子供を作るなんて…呆れましたわ。

嫉妬して強請ったにしても、愛人を制御できないって事は貴方が〝無能〟って分かったから、ライラに隣国へ短期留学させ、従弟のコールマン公爵に当主としての教育を頼み10歳を迎えた頃に私は侯爵家当主をライラに譲渡して、私は後見人として過ごす事にしました。

ライラが成人する前に私の命は尽きる事は分かっていましたので、、従弟に当たるコールマン公爵に私の亡き後、ライラの後見人として依頼しました。

処で、お気付きかと存じますが愛人の父親である子爵と貴方の妹夫婦メイベル伯爵が疎遠になったのも、2がしでかした事で侯爵家に損害賠償が掛かっているからですよ。

散々、口を酸っぱくして申し上げましたが〝貴族は書類が大事〟最後の最後まで理解出来ていなかったなんて…残念な人ね。

〟な貴方のお陰でライラが、望まない婚約をさせられるところでした…1番許せないことを貴方は行ったんです。
ずっと黙っていましたが、貴方達が住んでいる邸宅は子爵家の損害賠償で差し押さえています。

この手紙を受け取った後は外に荷物は出されていると思いますわ。

あと最後に、私がライラにことずけ、この5年間、貴方に支払い続けたお金は、金銭的な価値を付ける訳ではないけど、貴方が私にくれた〝ライラ〟という最愛の娘を最初で最後の最高の贈り物をして頂いた御礼よ。

後は、お好きな様にしてください。

         
          マリア アズグラン

ーーーーーーーーーーーー

私は手紙を読み終えた後、茫然する。

「モーリス様、何て書いてあったのです?」

私の隣で手紙の内容を知りたがるイリスを思わず払い退けてしまう。

「キャっ…もっモーリス様?」

「何もかも終わりだ…」

はマリアの掌の上だった事。

「クソっ‼︎子爵の口車に乗らなければ、私は安泰な生活を約束されたのに…お前さえ…お前さえ私を誘惑しなければ、こんなことにはならなかったんだ‼︎お前達、親子の所為で私は全てを失ってしまった…」

「ひどいわっモーリス様‼︎」

「喧嘩は他所でやってくれないか?」

コールマン公爵閣下が止めた。

「15年以上、マリアを蔑ろにして連れ添った愛人よりアズグラスの財産が1番か…キミの欲望には見上げたものだね」

「ぐっ…」

私は言葉が出ず俯く…そうだ‼︎ライラだ‼︎

〝血は水より濃い〟って言うじゃないか‼︎

「ライラ…今までの私の愚かな行動を反省するから、この父を助けてくれないか…」

ライラは気が弱いし優しい子だ‼︎

「本っ当。に甘いんですね…つい先程までお母様マリアに似てって言っておきながら次は〝助けて〟ですか?砂糖より甘くて胸焼けがしますわ。それに私とは家族の縁は切れているんです。ご自身で何とかして下さい」

「お前ってヤツは…」

「お母様の手紙もお渡しましたし、手続きも全て完了しておりますので当家から、出て行ってください」

私と、イリス、アデルは嘗て自身の使用人だった者たちに羽交い締めにされ邸を追い出された。

ーーーーーーー

「生意気な奴め!」

腹を立てイリス達と暮らしている邸に戻ると 荷物が全て出されていた。

「これは、どういう事なんだ‼︎」

「アズグラン家からの、達しで次の買い手に引き渡す為に退去令が出ています。直ちに立ち去ってください」

「何日か猶予をくれてもいいじゃ無いか‼︎」

「侯爵様からの配慮です。〝此方の荷台と馬車を貸しますので早く出て行ってください〟と伝言を預かっております」

「何から何まで癪に触る」

暫くはイリスの父親である子爵の領地に身を寄せたがボロボロの離れに案内された。

「アデルはアズグラン公爵の約束があるから引き受けるが、お前達のことは知らん、早く新しい住処を見つけて出て行ってくれ」

「大体、おま…し…子爵が撒いた種じゃないですか‼︎」

「もう、お前達に関わりたくないんだ早く何処か行ってくれ」

新しい住処を探しながら新しい商売を始めてみるも上手くいかない、贅沢な生活が身に付いて脱しきれないイリスは遊び回り私は腹が立ち彼女を殴った。

「前は、あんなに優しいかったのに」

泣き喚くイリスにうんざりする。

「お前が出娑張らなければ、こんな事にはならなかった…阿婆擦れがっ!」

過ぎた事とは言え我慢ならず口にしないと気が済まない。

「何よ!大事にするって言ったのはモーリス様…もう平民になりましたからモーリスで呼び捨てで十分ですわね」

私は更にイリスの顔を叩き、有金を持ち出し出て行った。

今まで、移動は馬車を利用していたが、移動代も今は惜しい…自身の実家を目指し歩いて行くが、途中で強盗に遭い有金、身包み剥がされ命辛々、実家に辿り着いたが兄達は冷遇した。

「この恥晒しがっ!どのツラ下げて帰ってきたんだ…あぁ、この薄汚いツラかぁ」

兄達に蹴り上げられ厩に放り込まれる。

「ここがお前の新しい家だ、好きな様にしろ」

ボロボロの衣服に固いパン一個投げ込まれる。

どうして私が、こんな目に遭わないといけないんだと自分を憐れむと声が聞こえた

「モーリスいるかい?」

年老いた母だ…マリアとの結婚が決まり15歳で、この家を離れ、アズグランの婿として見合う様、貴族の教育を受けながら養子を続け17年振りの再会…

母は懇々と私に言い聞かせる

私がした愚かさ、そして妹夫妻の過ちで我が家実家が大変な事になってしまった事…

兄達に殴られて身体中が痛いが、それは〝自分の行い〟の所為だと母親の言葉は誰よりも身に染み幼子の様に泣いた。

「いいかいモーリス、お前がやった事は誰も許さない…もちろん、この私もだ…一度壊れたものは、2度と戻らない、あとはお前次第だよ…さっ私も見つかると叱られるから行くよ‼︎よく考えな」

皺々の手で頭を撫で母は去っていった。

私は〝自分が何故アズグランの婿〟になれたのかを考えた…

贅沢な生活や周りの甘い言葉に踊らされ役目を果たさなかった己を恥じた…

「に…兄さん達…その…お金を貸してくれないか?」

「モーリス何バカな事を言ってる。ウチは〝お貴族様〟じゃないんだ金が欲しければ自分で稼げ」

冷たく言い放たれ私は無我夢中で〝新たな目標〟の為にドブ掃除や肥溜め運び、人の嫌がる仕事を進んで手伝い食べるのも惜しみ、勉強した。

3年の月日が経ち会計事務所を立ち上げだ。

アズグランの元愚婿と揶揄されたが、元々は資金運用を得意としていたし、マリアの代わりに財産管理もしていた時期もある。

少しずつだが、お客様も付き、人を雇えるくらいまで成長した。

私が有金を持ち去った後、イリスは遊び癖が治らず騎士団の慰み者として連れてかれ最後は、どうなったから知らない…

だが、私の過ちでイリスの人生も狂わせたのは変わり無いと私は自身を律し生きる。
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