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王都
145.それを、運命と言うのだよ
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「………ふぅ、ああ、まだ頭が痛い……シルベーヌ、お前すごいな……」
父は剣を杖に立ち上がり、頭を押さえながら言った。
すごい=音痴……と、そういうことでしょうか?
ふんっ!知っているわよっ!
「お父様。ごめんなさい、私もこんなことになるなんて知らなくて……」
これは、事実ですから?
私、悪くないもん。
「家族の前で歌わなかったのは、こういう可能性があったからだな。ふむ、スピークルムが止めたのか?」
「ええ。まぁ……」
「そうか、しかしこれは……なぁ」
父は突っ伏したままの、冥府の軍勢を見て溜め息をついた。
彼らは、余程ダメージが大きかったのかまだ起き上がる気配はない。
「軍勢をこうも容易く行動不能にされるとは……終末戦争でも起こったようだな」
「あはっ。それほどでも……」
「ほめてない」
父は苛立ちを隠さずに言った。
「ごめんなさい……ああ、そうだ、お父様にお知らせしたいことがあるのです………さぁ、ローケン!お願いします!」
私は、後ろに控えたローケンを前へと押し出した。
彼は、右手を前に出し深く体を折って優雅に挨拶をする。
他国の王に対しての、当たり前の挨拶なんだけど、ローケンがするととても恭しく見えた。
「冥府の王、ルーマンド陛下。私、ヴァーミリオン領で審問官をしておりますローケン・グリーグと申します」
「うむ。ローケン。して、何用か?」
「はい。実はこの度ディラン・ヴァーミリオン新国王陛下が即位しました件について……」
「おい。それはまだ……」
「いえ、陛下。レガリアと承認書類。この2つ、ここに揃いましてございます」
ローケンは頭を垂れ、ディランのレガリアを嵌めた指と、承認書類を父の前に提示した。
「…………承認をこの短い時間でか……そんなバカな……」
父は舐めるように書類を覗き込んだ。
そして、不備がないのを確認すると、胸元の魂呼びの鏡に手を掛け言った。
「スピークラム、冥コンセンターへ繋ぎ現在のラシュカ王の名を確認させよ」
すると、父の魂呼びの鏡、スピークラムがすぐに答えた。
『はぁーい。かしこまりー!ルーマンドさまー』
スピークラムはキャンキャンと甲高い声で叫んだ。
何十年も、下手したら何百年も生きているのに、喋り方が若い娘を意識しすぎていて、びっくりするほど軽い。
冥府の王の鏡に相応しいとは到底思えないんだけど、これで何故か、気難し屋の父とのバランスがとれているのだから、相性なんてわからないものよね。
スピークラムは、冥コンセンターに連絡し、ハーミットに父の言った通りに伝えた。
するとハーミットは軽快に「ちょっと待ってなー」と言いながら、すぐに答えを返した。
「えーっとー、ラシュカの王………現在はディラン・ヴァーミリオン。へぇ、ついさっき変わったんだー!ん?そういや、前の王が裁きの間にいたなぁ?」
「え?それで、どうなったの!?」
思いがけない情報に私は食いついた!
「あ、シルベーヌ様?なんだよ、そこで家族会議でもやってるのかー?ま、いいや。あいつも相当やらかしてたみたいだね?すぐに七獄に連れてかれたよー」
ふんっ。当たり前よね。
七獄も生ぬるいかもしれないわ!
鼻息を荒くした私の前では、父が長ーい溜め息をつき項垂れた。
「はぁー……………先を読んで動いている奴がいるとは思わなかった。一応あらゆる事態を想定したつもりだが……詰めが甘いのは私だったか……」
「先を読んでいたわけではありません」
ローケンは真摯に答え、続けて言った。
「これは、なんとしても国を救おうと思った男の意地と、それに賛同した領主達の願いの結果です。ラシュカ国民の最後の足掻き、といってもいいでしょう。それに、私達ヴァーミリオン領の者が便乗したに過ぎません。言うなれば、これは偶然が重なっただけのものなのです」
「……それを、運命と言うのだよ」
父はローケンの言葉に対して、鷹揚に答えた。
父は剣を杖に立ち上がり、頭を押さえながら言った。
すごい=音痴……と、そういうことでしょうか?
ふんっ!知っているわよっ!
「お父様。ごめんなさい、私もこんなことになるなんて知らなくて……」
これは、事実ですから?
私、悪くないもん。
「家族の前で歌わなかったのは、こういう可能性があったからだな。ふむ、スピークルムが止めたのか?」
「ええ。まぁ……」
「そうか、しかしこれは……なぁ」
父は突っ伏したままの、冥府の軍勢を見て溜め息をついた。
彼らは、余程ダメージが大きかったのかまだ起き上がる気配はない。
「軍勢をこうも容易く行動不能にされるとは……終末戦争でも起こったようだな」
「あはっ。それほどでも……」
「ほめてない」
父は苛立ちを隠さずに言った。
「ごめんなさい……ああ、そうだ、お父様にお知らせしたいことがあるのです………さぁ、ローケン!お願いします!」
私は、後ろに控えたローケンを前へと押し出した。
彼は、右手を前に出し深く体を折って優雅に挨拶をする。
他国の王に対しての、当たり前の挨拶なんだけど、ローケンがするととても恭しく見えた。
「冥府の王、ルーマンド陛下。私、ヴァーミリオン領で審問官をしておりますローケン・グリーグと申します」
「うむ。ローケン。して、何用か?」
「はい。実はこの度ディラン・ヴァーミリオン新国王陛下が即位しました件について……」
「おい。それはまだ……」
「いえ、陛下。レガリアと承認書類。この2つ、ここに揃いましてございます」
ローケンは頭を垂れ、ディランのレガリアを嵌めた指と、承認書類を父の前に提示した。
「…………承認をこの短い時間でか……そんなバカな……」
父は舐めるように書類を覗き込んだ。
そして、不備がないのを確認すると、胸元の魂呼びの鏡に手を掛け言った。
「スピークラム、冥コンセンターへ繋ぎ現在のラシュカ王の名を確認させよ」
すると、父の魂呼びの鏡、スピークラムがすぐに答えた。
『はぁーい。かしこまりー!ルーマンドさまー』
スピークラムはキャンキャンと甲高い声で叫んだ。
何十年も、下手したら何百年も生きているのに、喋り方が若い娘を意識しすぎていて、びっくりするほど軽い。
冥府の王の鏡に相応しいとは到底思えないんだけど、これで何故か、気難し屋の父とのバランスがとれているのだから、相性なんてわからないものよね。
スピークラムは、冥コンセンターに連絡し、ハーミットに父の言った通りに伝えた。
するとハーミットは軽快に「ちょっと待ってなー」と言いながら、すぐに答えを返した。
「えーっとー、ラシュカの王………現在はディラン・ヴァーミリオン。へぇ、ついさっき変わったんだー!ん?そういや、前の王が裁きの間にいたなぁ?」
「え?それで、どうなったの!?」
思いがけない情報に私は食いついた!
「あ、シルベーヌ様?なんだよ、そこで家族会議でもやってるのかー?ま、いいや。あいつも相当やらかしてたみたいだね?すぐに七獄に連れてかれたよー」
ふんっ。当たり前よね。
七獄も生ぬるいかもしれないわ!
鼻息を荒くした私の前では、父が長ーい溜め息をつき項垂れた。
「はぁー……………先を読んで動いている奴がいるとは思わなかった。一応あらゆる事態を想定したつもりだが……詰めが甘いのは私だったか……」
「先を読んでいたわけではありません」
ローケンは真摯に答え、続けて言った。
「これは、なんとしても国を救おうと思った男の意地と、それに賛同した領主達の願いの結果です。ラシュカ国民の最後の足掻き、といってもいいでしょう。それに、私達ヴァーミリオン領の者が便乗したに過ぎません。言うなれば、これは偶然が重なっただけのものなのです」
「……それを、運命と言うのだよ」
父はローケンの言葉に対して、鷹揚に答えた。
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