魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。(趣味用)

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第四章

塞翁が馬24

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「ってそりゃ喋るでしょうよ!」

我に返った青年が魔王の頭を叩く。

「これでも“うー”とか“あー”とか言ってる時はありましたから!」
「そ、それは分かってるがわざわさ叩かなくとも良いだろう!? 本当にその手癖の悪さどうにか」
「そんっな事はどうでもいーんですよ! 今重要なのは」

青年は赤ん坊を持ち上げる。

「リーベが初めて話す言葉が魔王さまの事らしいって事ですよ!」
「……ん? いやそれは別にいいだろう」

青年が持ち上げた赤ん坊、いやリーベは魔王へ両手を広げて「まーお!」と笑う。

「やはり私の事のようだな」

魔王はリーベに呼ばれるがまま、彼女を抱き上げた。するとキャッキャッと嬉しそうに騒ぐ。
その姿にほっこりしていると、青年から物凄い視線を感じ硬直した。

「な、なんだどうした?」
「なっっっとくいきません、なんで初めてが俺じゃないんですか。リーベ、ロワって言ってごらん?」
「おいおい」
「ハッ! いや寧ろこれはパパと呼ばせるチャンス!? ほーらリーベ パパだよ~呼んでごらん」
「な、それはズルいぞ! リーベ私がパパだ!」
「どっちもパパでどうすんですか! 魔王さまはママにしとけばいいでしょ!?」
「いやいや意味が分からん! 寧ろ二人ともパパでいいだろう!」
「それじゃどっち呼ばれたか分かんないじゃないですか」
「た、確かに」

そんなズレた言い合いをリーベはキョロキョロと見上げる。
するとそこへ……

「まったく騒がしいと聞いて来てみれば、何をそんなつまらない事で争っているのですか」

呆れた顔でハクイが部屋へと入って来た。

「くだらなくなんてないですよハクイ様。これは重要なことです」

するとハクイの後ろからイェンも入って来る。

「いやいやくだらないって。ずっとこのまま騒がれてちゃ隣の部屋の僕の精神状態がもたないってば」

と言いながら。

「そうは言っても魔王さまが」
「おいちょっと待て私のせいか?」

「お二人ともいい加減にしなさい!」

ハクイはピシャリと言うと、二人の間にいたリーベを抱き上げる。

「まったく赤ん坊の前で本当に見苦しい。少し頭を冷やして下さい。そもそも言葉を話すようになったのなら先にそっちを喜ぶべきでしょう。パパだろうとママだろうと名前呼びだろうとどっちでも」

するとリーベはハクイの服を軽く引っ張る

「なんですリーベ」

ハクイと眼が合うとリーベは嬉しそうに笑って

「まんっま!」



その場にいた全員が固まった。


「リーベ……今なんと?」

「まんまー!」


やはりその場が凍る。
そんななか、魔王は勇敢にも言った。

「は、ハクイよ。多分そのー、マが言いやすいだけだ。まが、私の事もそうだしきっと意味も分かっておらんだろうし……勘弁してやってくれ」

「何を言ってるんですか魔王さま。わたくしは別に怒ってなど」

とは言うがその顔はニコニコと笑いながらも物凄く、そりゃもう引きっつっている。

「リーベわたくしはママではなく」
「まんま」

「……そうですか」


ハクイはよろよろと側にいたイェンに赤ん坊を預けると部屋の外へと向かう。

「まぁとにかくです。あまりくだらない話で人様に迷惑をかけぬようにして下さい」

「は、はい」
「わ、わかった。すまん」

そうしてハクイは部屋から出て行った。


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