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妻の矜持
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結婚してびっくりした。
処女だった。
しかも気の強いこの娘は夜だけしおらしくなるのが意外と楽しい。
いや、そうじゃなくて、その前に馬鹿な噂を作った甥には本当に頭が痛い。
あのアホ。
女性をなんだと思ってるんだ。
身内が申し訳ないと思うばかりだ。
そして娘の気が強くて生真面目なこの性格は素晴らしいと言いたくなる。
昔、妻子の絵を画家にいくつか書かせていた。
いつまでも思い出に浸るのも体に悪いと思って屋敷には飾ってなかった。
娘が嫁に来るというのを機に屋敷の奥へ仕舞い込んだのに、それを引っ張り出して一番目立つ回廊と私の寝室に飾った。
なぜと問うと飾って大事にすべきですと当たり前のように答えた。
「物置に仕舞うなどいけません。どうしてそんなことをなさったんですか?」
逆に非難を込めて睨まれてこっちがオドオドとしてしまった。
「いや、いつまでも引きずるのは。それに君に悪いかと思ったが……」
「なぜ私に悪いのですか?大事な奥様とお子様の絵です。ちゃんと見えるところに置いておかないとお二人が悲しみますよ」
「……そうか。それは、そうだな」
この娘は亡くなった二人のことを私以上に気を使っていた。
庭に花が咲くと絵の前に飾って二人が楽しめるようにと心遣いを見せる。
その様子に泣きそうになった。
何が傲慢で我が儘なんだ。
甥は馬鹿の愚か者だ。
半年もたつと妻子への愛情とは別にこの娘がいとおしくてたまらなくなった。
思い出に耽るか仕事しかやることない日々が嘘みたいに張り合いが出た。
ついでに唯一の身内と思って甘かった兄達へも冷淡になる。
甥より年下の私の妻は国と国民のために日々の務めを熱心にこなしていた。
それに比べてと嫌悪感が生まれた。
兄達の傲慢さに傷ついた妻の過去を慰めたかった。
何をあげたら喜ぶのか。
女性が喜びそうな物は手当たり次第集めた。
私と結婚して質素になったと陰口を叩かれるのも腹が立つ。
質実剛健を好んで華やかにすることに興味がなかったが妻を着飾らせたかった。
思ったより喜ばなかったが……
学びが好きならと思って色々な講師や学者を招いて勉学の機会も増やした。
ついでに領内で大学や子供向けの学校を建てた。
妻一人に学んでも楽しくなかろう。
同じ勉学を努力する友人もいた方がいい。
それは意外と喜んだ。
私も妻との会話を深めたいから共に学んだ。
妻が飾った亡き妻子の絵を眺めた。
共に飾られた花。
今朝、妻が自分で取りに行っていた。
奥様はどんなお花がお好きでした?
絵を飾ってすぐにそう訊ねた。
昔、送ったことのある花を教えたらそれを庭に植えて気軽に飾れるようにしていた。
それから毎日、花瓶に活けている。
何故そんなことをすると聞くとお二人は喜んでくれるはずと答えた。
見たことのない愛情深さに頭が下がる。
私には勿体ないほどの女性だ。
甥にはもっと勿体ない。
あれに渡すくらいなら私のもとに置きたい。
私の妻だ。
年甲斐もなく独占欲も出てきて毎晩妻の部屋に入り浸りだ。
いままでの自分を思い返して今の自分はちょっと気恥ずかしいのだが開き直った。
今、関わらなければ後悔する。
何があるのか分からないのだから。
そうやって寝室に押し掛けてる。
そしてありがたいことに意外と嫌がらない。
今日も来たのとのんびりして、私の注ぐ愛情にまったりとくつろぐ姿にいつも安堵する。
私のことを受け入れていることに満足している。
甥への愛情があったろうに。
少しでも癒せるなら。
亡くなった妻を大事にしたかったという後悔もあって妻に尽くしてる。
最近は絵姿の亡き妻に相談していた。
彼女をどうやったら喜ばせられる?
君ならなんと助言してくれるかな。
“私達のこと忘れたの?ひどいわぁ”とからかう亡き妻が思い浮かんで、ふと口元が緩んだ。
それと妻の飾った花を喜ぶ姿も。
昔の姿を思い出すだけの頃よりも絵姿の表情は豊かだ。
妻のおかげで亡くした妻子がもっと華やかになった。
君達を愛し続けて良かった。
こうやって君達ごと慈しんでくれる妻に出会えたのだから。
「彼女を愛してるんだけど、私はどうしたらいいかな?」
ポツリと呟く。
“そうねぇ。あの子に何をしてあげたら良いかしらねぇ”
私の子を抱いた絵姿は一緒に悩んでくれているような気がした。
処女だった。
しかも気の強いこの娘は夜だけしおらしくなるのが意外と楽しい。
いや、そうじゃなくて、その前に馬鹿な噂を作った甥には本当に頭が痛い。
あのアホ。
女性をなんだと思ってるんだ。
身内が申し訳ないと思うばかりだ。
そして娘の気が強くて生真面目なこの性格は素晴らしいと言いたくなる。
昔、妻子の絵を画家にいくつか書かせていた。
いつまでも思い出に浸るのも体に悪いと思って屋敷には飾ってなかった。
娘が嫁に来るというのを機に屋敷の奥へ仕舞い込んだのに、それを引っ張り出して一番目立つ回廊と私の寝室に飾った。
なぜと問うと飾って大事にすべきですと当たり前のように答えた。
「物置に仕舞うなどいけません。どうしてそんなことをなさったんですか?」
逆に非難を込めて睨まれてこっちがオドオドとしてしまった。
「いや、いつまでも引きずるのは。それに君に悪いかと思ったが……」
「なぜ私に悪いのですか?大事な奥様とお子様の絵です。ちゃんと見えるところに置いておかないとお二人が悲しみますよ」
「……そうか。それは、そうだな」
この娘は亡くなった二人のことを私以上に気を使っていた。
庭に花が咲くと絵の前に飾って二人が楽しめるようにと心遣いを見せる。
その様子に泣きそうになった。
何が傲慢で我が儘なんだ。
甥は馬鹿の愚か者だ。
半年もたつと妻子への愛情とは別にこの娘がいとおしくてたまらなくなった。
思い出に耽るか仕事しかやることない日々が嘘みたいに張り合いが出た。
ついでに唯一の身内と思って甘かった兄達へも冷淡になる。
甥より年下の私の妻は国と国民のために日々の務めを熱心にこなしていた。
それに比べてと嫌悪感が生まれた。
兄達の傲慢さに傷ついた妻の過去を慰めたかった。
何をあげたら喜ぶのか。
女性が喜びそうな物は手当たり次第集めた。
私と結婚して質素になったと陰口を叩かれるのも腹が立つ。
質実剛健を好んで華やかにすることに興味がなかったが妻を着飾らせたかった。
思ったより喜ばなかったが……
学びが好きならと思って色々な講師や学者を招いて勉学の機会も増やした。
ついでに領内で大学や子供向けの学校を建てた。
妻一人に学んでも楽しくなかろう。
同じ勉学を努力する友人もいた方がいい。
それは意外と喜んだ。
私も妻との会話を深めたいから共に学んだ。
妻が飾った亡き妻子の絵を眺めた。
共に飾られた花。
今朝、妻が自分で取りに行っていた。
奥様はどんなお花がお好きでした?
絵を飾ってすぐにそう訊ねた。
昔、送ったことのある花を教えたらそれを庭に植えて気軽に飾れるようにしていた。
それから毎日、花瓶に活けている。
何故そんなことをすると聞くとお二人は喜んでくれるはずと答えた。
見たことのない愛情深さに頭が下がる。
私には勿体ないほどの女性だ。
甥にはもっと勿体ない。
あれに渡すくらいなら私のもとに置きたい。
私の妻だ。
年甲斐もなく独占欲も出てきて毎晩妻の部屋に入り浸りだ。
いままでの自分を思い返して今の自分はちょっと気恥ずかしいのだが開き直った。
今、関わらなければ後悔する。
何があるのか分からないのだから。
そうやって寝室に押し掛けてる。
そしてありがたいことに意外と嫌がらない。
今日も来たのとのんびりして、私の注ぐ愛情にまったりとくつろぐ姿にいつも安堵する。
私のことを受け入れていることに満足している。
甥への愛情があったろうに。
少しでも癒せるなら。
亡くなった妻を大事にしたかったという後悔もあって妻に尽くしてる。
最近は絵姿の亡き妻に相談していた。
彼女をどうやったら喜ばせられる?
君ならなんと助言してくれるかな。
“私達のこと忘れたの?ひどいわぁ”とからかう亡き妻が思い浮かんで、ふと口元が緩んだ。
それと妻の飾った花を喜ぶ姿も。
昔の姿を思い出すだけの頃よりも絵姿の表情は豊かだ。
妻のおかげで亡くした妻子がもっと華やかになった。
君達を愛し続けて良かった。
こうやって君達ごと慈しんでくれる妻に出会えたのだから。
「彼女を愛してるんだけど、私はどうしたらいいかな?」
ポツリと呟く。
“そうねぇ。あの子に何をしてあげたら良いかしらねぇ”
私の子を抱いた絵姿は一緒に悩んでくれているような気がした。
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