逆デスゲーム

長月 鳥

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棺桶の中の10億円

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 「マジで札束だ。本物か?」
 興奮したホンマが、箱の中の物を一つ手に取った。
 どうやら100万円の札束らしい。
 他のみんなも箱の前に集まりだしたから俺も急いで後を追う。

 箱の中には確かに札束が並んでいた。
 数える気にもならないくらいにビッシリと敷き詰められている。
 
 「これって1つの箱に10億円入っているってこと?」
 アカネが目を輝かせてみんなに聞いた。
 「たぶんそうだね横5列、縦10列、入れ物の深さから見て100万円の束が20段」
 「え~と、1束2000万だから、やっぱり10億円だ」
 ツカサとアカネはテンションが上がりっぱなしだ。
 確か1万円札の重さは1グラムだから、この箱には100㎏の札束が積まれていることになる、それも8個も。

 「通し番号もざっと見た感じ全部違う、透かし絵も、マイクロ文字も確認できる。おそらく本物でしょう」
 オオバさんが言うと説得力がある。
 「ああ、この匂いは本物だぁ」
 ホンマが興奮して箱の中に入り、札束をベッドにして寝転がった。

 「どうみても棺桶にしか見えないんですけど、大丈夫ですかね」
 あまりにも現実離れした光景に、俺の口が滑った。
 仮にこの10億円の束が本物だとして、ただゲームをみんでクリアするだけで“はいどうぞ”と受け渡されている自分が想像できない。
 サトシさんとアンジさんが感じている不安のほうが、よっぽど現実味がある。

 「おいおい、若者よ、もっと夢を持ちなさい、夢を」
 ホンマが札束の上であぐらをかき、もっともらしく論じた。
 「これだけの金があったら一生、いや3回分の人生を遊んで暮らせるぜ? ありがたく貰っておこうじゃないか。よし、お兄さんがんばっちゃうぞ、みんなで力を合わせてゲームをクリアしようじゃないか、な? はい、賛成の人ー」
 札束を目の前にしたホンマは人が変わったように明るく素直になった。
 羨ましい性格だけど、お金で失敗はしたくない。
 あれば越したことはないけど、10億もいらない。
 まして俺はまだ高校生だ。
 今これを手に入れたら俺の人生が決まってしまう気がして怖い。

 ああ、でも母や妹に裕福な暮らしをさせてあげられるかもな……。

 「人生やり直せる」
 サトシさんが手を挙げた。
 「親が死んでも部屋から出なくて済む」
 アンジさんも。
 「元カレを忘れさせてくれる気がするわ」
 ツカサさん。
 「会社辞めたい」
 トキネさん。
 「株にはもう手を出しません」
 オオバさんまで。
 「豪遊したいですっ」
 アカネが一番鼻息が荒い。
 「み、みんなが頑張るなら反対はしません」
 俺も手を挙げないといけない空気だった。
 いや、きっと心のどこかでは欲しているんだろう。
 お金は大事だ。貰えるなら貰っておいて損はない……きっと。

 「決まりだな。つーか大丈夫かよこんな無防備な状態で80億円も放置しておいて。まぁいいやゲーム始まったら起こしてくれ、こんな経験めったにないからよぉ」
 ホンマは札束の上で幸せそうに目を瞑った。
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