逆デスゲーム

盗難

　「金を盗ったのは誰だっ」
　心地の良い眠りを妨げたのは、目覚ましやスマホなどの文明の利器ではなく、その悲痛な叫びだった。
　ぐっすりと寝てしまっていた。今は何時だろうか？
　天井の小さな窓からは日差しが漏れているから夜ではないのは確かだろう。
　隣で眠っていたはずのアカネちゃんも居ない。
　
　重い瞼を擦って声のするほうへ向かうと、ツカサさんが腕を組んで棺桶を見ている。
　「おはようございます。どうかしたんですか？」
　「おはようトーゴくん、なんかお金が減ってるみたいでホンマくんが騒いでるの」
　俺が声を掛けると、ツカサさんは困った顔で返した。
　「お金が？」
　棺桶に近づくと、綺麗に並んでいた札束の一部が無くなっている。
　それも8つある棺桶全部だ。
　誰がこんなことを？

　「どうしたんですか？」
　騒ぎを聞きつけて、みんな集まってきた。

　「ふざけんなよお前ら、誰だ俺の金を盗んだのは」
　ホンマが鬼の形相で叫んだ。
　「まだあんたのお金じゃないでしょうに」
　ツカサさんが冷静に指摘し、数名がコクリと頷く。
　「うるせぇトリカブトババア、いずれ俺のもんだ。早く返しやがれ」
　「パチンカスがっ」
　昨日の仲睦まじい晩餐会が台無しだ。

　「誰かがどこかに隠したってことですか？」
　「なんでそんなことを？」
　アカネちゃんとトキネさんが顔を見合わせて不思議がる。
　確かに、意味が分からない。
　お金を隠して何の意味があるんだ。

　「保険ですか？　誰かが脱落して賞金が減ったときのための」
　「それって意味あります？」
　アンジさんの閃きをサトシさんが疑問視した。

　「このゲームを始めた人がどう扱うかですよね」
　「見過ごす訳がないと思いますけど」
　「普通に考えればね」
　オオバさんの答えに俺とツカサさんが反応した。

　「どこのバカ野郎だぁ？　盗んだままここを出られると思うなよ」
　ホンマが捲し立てた。
　「というか、自分で隠したんじゃないの？　あんたしかここで寝てないし」
　ツカサさんの言葉の後、みんながホンマに冷たい視線を送った。
　「ちげぇよ、こんなゴツゴツな札束の上で一晩寝れるかっての」
　ホンマの言葉は間違っていないだろう、綺麗に纏められた札束は固そうだ。
　「ふ～ん、じゃあここには誰も居なかったってこと？」
　ツカサさんは眉を潜めてホンマを見た。
　「だな」
　「ますます怪しい」
　ホンマは即答するけど、ツカサさんは表情を変えない。
　「ちげぇって言ってんだろ、くそっ、これから金の捜索だ。てめぇら自分が寝てた場所を教えろ」
　そのツカサさんの顔が気に入らないのか、ホンマは声を荒げる。
　「時間の無駄だと思います。どうせカメラで撮られているんだし犯人なんてすぐ分かるでしょう」
　オオバさんはホンマの肩に手を乗せた。
　「そうですよ朝ご飯が配られる時にでも運営さんに聞いてみましょう」
　「配られの？」
　不意に発したアカネちゃんの朝ご飯に俺は反応した。
　「何がですか？」
　「朝ご飯」
　「え？　配られないんですか？」
　「知らないよ」
　「晩ご飯があったんですから、朝ご飯があるのは当然じゃないですか先輩」
　良い性格だ。

　「おいっ、話を逸らすなや。俺は許さねぇぞ、必ず探し出してやる」
　相変わらずお金への執着が凄い。
　ホンマの行動力の源だからしょうがないか。

　♪
　セ・トゥ・マミだったっけ？
　なんだか悪くない曲な気がしてきた。朝にピッタリかもしれない。

　『みなさま、おはようございます。
　これより第2ゲームを開始します』
　モニターが点灯しアナウンスが響いた。

　「朝ご飯は？」
　アカネちゃんの寂し気な声で、緊張もなく挑めそうだ。