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立食
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「ご、ごめんなさいトーゴ先輩……」
アカネちゃんは謝ったけど震えている。
よっぽど怖かったのだろう。それはそうか、人が死んだんだ。冷静でいられるほうがおかしい……。
それなら俺は?
怒りの全てをホンマにぶつけたからだろうか?
その怒りも間違っている可能性があるからだろうか?
どちらにしても俺が怖がられるのは当然かもしれない。
この場所は今、狂いかけている。
「先輩、私、もう嫌です。こんなゲーム続けられません」
アカネちゃんはうつむき、涙声で言った。
「でも、棄権したら殺されるかもしれない」
それをサトシさんが否定する。
トキネさんの最後を目の当たりにして逃げられるなんて思えない。
「いいです。誰かを殺す可能性があるなら参加しない方法を選びます。最後までドローンと戦います」
アカネちゃんは声を震わせている。
「無理だよそんなの」
俺は必死に宥める。
「いいえ、無理じゃありません」
「無理だよっ」
「無理じゃないですっ」
「アカネちゃんっ」
「私かもしれないんですっ」
アカネちゃんは立ち上がり、顔を真っ赤にして叫んだ。
その声を聞いて、みんなが振り返る。
「私かも? なんのことを言ってるんだアカネちゃん」
俺は思わず聞き返した。
「怖くて覚えてないんです。どのボタンを押したのか分からないんです。もしかしたら私がトキネさんを殺したのかもしれない……」
どのボタンを……。
最初にマルとバツのボタンの位置を確認しただけで、手の部分が覆われていたから、どれを押したのか分からなくなったってこと?
「落ち着いてアカネちゃん」
そう言った俺の心臓の鼓動も早くなるのが分かった。
俺も本当に正解のマルを押したのか? 緊張で左手に力が入ってバツに触れていなかったか?
不安になってくる、もしかしたら俺が間違えて……。
「その可能性は大いにありますよ」
オオバさんの声が鼓動を静めてくれる。
「ボタンを押した結果を操作するなんて、主催者からしたら造作もないことでしょう」
犯人が俺達の中に居ないという結論に至ったのだろう。オオバさんの言葉には迷いがないように見えた。
「だからアカネちゃんも自分を責めないで下さい。さぁお腹も空いているでしょう。ほら、食事が降りてきましたよ」
オオバさんが頭上を指差した。
いつの間にか吊り上げられていた円卓テーブルが食事を乗せて降りてくる。
あの忌々しい椅子も一緒だ。
もうマルとバツのボタンも、手を覆っていたカバーも付いていない。
そして7脚に減っている……。
くそっ、怒りが込み上げてくる。
「嫌です。食べたくありません」
アカネちゃんが拒否した豪華な料理たちは、朝飯なのか昼食なのか分からない。起きてからどれくらいの時間が経ったのだろう。
「あんなに楽しみにしていたのにですか?」
本心なのか皮肉なのか、オオバさんが言うとどちらとも取れるから困る。
「あんな椅子になんか絶対に座りませんから」
俺も完全に同意し頷いた。二度と座るもんか。
ぐぎゅるるるる~。
腹の虫が鳴いた。
でも俺のじゃない、聞こえたのはアカネちゃんとオオバさんの居る方。
そして、アカネちゃんの赤ら顔を見た俺の心臓の鼓動は完全に落ち着きを取り戻した。
「あ~腹減った~、なんかすみません」
俺はそう言って、自分のお腹を摩りながら円卓テーブルに近づいて、零れ落ちそうなローストビーフが挟まれたサンドイッチを手に取り、頬張った。
「美味っ、これヤバいよアカネちゃん、こんなサンドイッチ食べたことない。ほら、椅子に座らなくても食べれるから、とりあえずこっち来なよ」
俺の呼びかけにスカートをギュッと握り下唇を噛んだアカネちゃん。
「確かに美味しいですね」
オオバさんが俺に続いて食事に手を伸ばす。
「……」
アカネちゃんは無言で俺とオオバさんの傍まで来て、サンドイッチを手に取った。
「美味しいでしょ?」
「はい……」
俺の問いに、涙を浮かべてもぐもぐと口を動かすアカネちゃん。
他のみんなもゆっくりとテーブルに集まってきた。
アカネちゃんは謝ったけど震えている。
よっぽど怖かったのだろう。それはそうか、人が死んだんだ。冷静でいられるほうがおかしい……。
それなら俺は?
怒りの全てをホンマにぶつけたからだろうか?
その怒りも間違っている可能性があるからだろうか?
どちらにしても俺が怖がられるのは当然かもしれない。
この場所は今、狂いかけている。
「先輩、私、もう嫌です。こんなゲーム続けられません」
アカネちゃんはうつむき、涙声で言った。
「でも、棄権したら殺されるかもしれない」
それをサトシさんが否定する。
トキネさんの最後を目の当たりにして逃げられるなんて思えない。
「いいです。誰かを殺す可能性があるなら参加しない方法を選びます。最後までドローンと戦います」
アカネちゃんは声を震わせている。
「無理だよそんなの」
俺は必死に宥める。
「いいえ、無理じゃありません」
「無理だよっ」
「無理じゃないですっ」
「アカネちゃんっ」
「私かもしれないんですっ」
アカネちゃんは立ち上がり、顔を真っ赤にして叫んだ。
その声を聞いて、みんなが振り返る。
「私かも? なんのことを言ってるんだアカネちゃん」
俺は思わず聞き返した。
「怖くて覚えてないんです。どのボタンを押したのか分からないんです。もしかしたら私がトキネさんを殺したのかもしれない……」
どのボタンを……。
最初にマルとバツのボタンの位置を確認しただけで、手の部分が覆われていたから、どれを押したのか分からなくなったってこと?
「落ち着いてアカネちゃん」
そう言った俺の心臓の鼓動も早くなるのが分かった。
俺も本当に正解のマルを押したのか? 緊張で左手に力が入ってバツに触れていなかったか?
不安になってくる、もしかしたら俺が間違えて……。
「その可能性は大いにありますよ」
オオバさんの声が鼓動を静めてくれる。
「ボタンを押した結果を操作するなんて、主催者からしたら造作もないことでしょう」
犯人が俺達の中に居ないという結論に至ったのだろう。オオバさんの言葉には迷いがないように見えた。
「だからアカネちゃんも自分を責めないで下さい。さぁお腹も空いているでしょう。ほら、食事が降りてきましたよ」
オオバさんが頭上を指差した。
いつの間にか吊り上げられていた円卓テーブルが食事を乗せて降りてくる。
あの忌々しい椅子も一緒だ。
もうマルとバツのボタンも、手を覆っていたカバーも付いていない。
そして7脚に減っている……。
くそっ、怒りが込み上げてくる。
「嫌です。食べたくありません」
アカネちゃんが拒否した豪華な料理たちは、朝飯なのか昼食なのか分からない。起きてからどれくらいの時間が経ったのだろう。
「あんなに楽しみにしていたのにですか?」
本心なのか皮肉なのか、オオバさんが言うとどちらとも取れるから困る。
「あんな椅子になんか絶対に座りませんから」
俺も完全に同意し頷いた。二度と座るもんか。
ぐぎゅるるるる~。
腹の虫が鳴いた。
でも俺のじゃない、聞こえたのはアカネちゃんとオオバさんの居る方。
そして、アカネちゃんの赤ら顔を見た俺の心臓の鼓動は完全に落ち着きを取り戻した。
「あ~腹減った~、なんかすみません」
俺はそう言って、自分のお腹を摩りながら円卓テーブルに近づいて、零れ落ちそうなローストビーフが挟まれたサンドイッチを手に取り、頬張った。
「美味っ、これヤバいよアカネちゃん、こんなサンドイッチ食べたことない。ほら、椅子に座らなくても食べれるから、とりあえずこっち来なよ」
俺の呼びかけにスカートをギュッと握り下唇を噛んだアカネちゃん。
「確かに美味しいですね」
オオバさんが俺に続いて食事に手を伸ばす。
「……」
アカネちゃんは無言で俺とオオバさんの傍まで来て、サンドイッチを手に取った。
「美味しいでしょ?」
「はい……」
俺の問いに、涙を浮かべてもぐもぐと口を動かすアカネちゃん。
他のみんなもゆっくりとテーブルに集まってきた。
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