かわいいクリオネだって生きるために必死なの

ここもはと

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第1章

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 ホーホケキョ。ウグイスのさえずり。
 小学校に入学して3ヶ月が経った。季節は夏本番だ。
 外は太陽サンサン、サハラ砂漠だというのに、ウグイスはホーホケキョと元気いっぱい。
 キミは、いつまでさえずりを続けるの?

「エアコンがなくても元気なウグイスに比べたらぼくらって弱っちいね」

 大河は教室の窓を見つめ、つぶやいた。
 
「なんだかテツガクテキだなぁー」

 あはは。ななめうしろの一也《かずや》が笑う。大河はちょっとムッとなる。
 一也は不思議なことをテツガクテキと言うくせがある。彼には中学生の兄がいて、その口ぐせをマネたみたい。
 小学校に入学してから、大河には、それなりに友達ができたが、その中でも、一也は一番なかがいい。
 一也の両親は共働きで、兄は部活で遅くなるため、大河たちと一緒に学童クラブに通っている。
 だからしゃべることも多かったし、すぐにボール遊びや鬼ごっこをしたりして、なかよくなった。
 彼は、今どきめずらしい坊主頭をしている。見るからに「やんちゃ小僧」という風貌。背丈は大河よりも低く、整列時は前の方で、少しコンプレックスを抱いているみたい。

「席替えさあ、ななめ同士でよかったな」
「うん。まあでも授業中、おしゃべりダメだよ」
「わかってるし。まだ5分休み終わってないだろ」

 席替えでななめの席になったものだから、ついついしゃべってしまう。
 大河の真面目なツッコミに、一也は口を尖らせる。

 らんらんらん。楽しげな足音が聞こえる。
 足音を聞いて大河の心も、らんらんらんって楽しくはずむ。

「楽しそうね。何しゃべってたの?」
「えーと、大河がテツガクテキだって。辻もテツガクテキだよなぁ」
「テツガクテキってどういう意味?」
「えーっと。なんかそういう世界があるって感じ?」
「ふーん。植本《うえもと》くんって、そういうのに詳しいんだね」
「ま、まあなぁー」

 わかってないでしょ、一也。なんて、口にすると、ちょっとめんどうだから、大河はそっとスルーした。
 大河は一也と交差して向きあいしゃべる中に、真鈴が入ってきた。
 真鈴は大河の右どなりの席に腰かけた。

 それから。ズズズ……。
 控えめにしたつもりだけど音を出して目立っちゃった。という具合で、後列、一也の左どなりの席に、香葉来が座った。
 香葉来は真鈴みたいに、自分から会話の渦に飛びこんでいくことは苦手でできない。そういう空気に入ること自体はイヤじゃないんだろうけど。
 

 1年3組。大河、香葉来、真鈴。なんと、みんな同じクラスになった。
 おとなりさんと大家さんで、母同士つながりが深くて、学校の外でも会う機会が多いのに。
 香葉来にいたっては、家がとなり同士で学童クラブも同じ。ほぼほぼ毎日顔をあわせてる。
 さらに、席替えもこんな近く。どれだけ偶然が重なればこうなるんだろう。
 まるでアニメや漫画の世界みたい。大河は不思議に思った。何かの縁かな?
 
 でもいいや。うれしいもん。だってさ、ぼくらはなかよし3人組だもん。

 大河は、香葉来と出会った当初は、うまくコミュニケーションが取れなかった。
 プリ魔女の話題をして、少しだけ距離感が縮められるようになった。そんな程度だ。
 それも、真鈴の登場で一気に風向きか変わった。

 真鈴は大家の娘だけれど、別に高飛車な態度は取るわけもない。
 コミュニケーション能力が高い女の子で、大河は真鈴にたびたび遊びに誘われた。
 真鈴はかがやく笑顔を振りまいてくれる。だから大河は真鈴に苦手意識はなく、ずっと真鈴とは遊びたいくらい、気のあう友達になった。

 そして。真鈴は、なかなか距離が縮まらない大河と香葉来に向けて、

「ふたりともおとなりさんなんだから、もっとフレンドリーだよ」

 ふたりがなかよくなるように、かけ橋になってくれた。
 大河と香葉来は、真鈴のことが好きだから(ライクという意味)、彼女の言うとおりフレンドリーに交流した。
 はずかしかったけど、

「香葉来ちゃん」
「大河くん」

 と、呼びあうなかに。

 真鈴のおかげで大河と香葉来は、彼女が間に入らなくても、いつしか笑ってしゃべりあえるなかよしになっていた。
 今は、大河は「香葉来」と呼び捨てにしているくらい。
 真鈴のことは、「私のことは真鈴って呼んで」と言われたときから、ずっと呼び捨てにしてたけど。
 クラス内で女の子のファーストネームを堂々と呼ぶのには、少し抵抗感はあったけど、今更、汐見さん、辻さんなんて、苗字&さん付けで呼ぶのには違和感があるし、逆にはずかしい。
 だから大河は、学校でもどこでも「香葉来、真鈴」だ。
 

 大河はゆったりと、ちょっとのあいだ、思考を過去にタイムスリップ……していたら、

「ねっ」

 真鈴に、トントンと肩を軽くたたかれた。

「あ、え?」
「ぼんやりどうしたの?」
「え? いやあ、眠たくなってた」
「ふふっ。変なの。次は算数だよ」

 真鈴にぼおっとしていたことを笑われて、大河は「えへへ」と笑い返した。
 ぼりぼりと前髪をかいて、はずかしさをごまかしながら、ごまかしを強めるように話題を広げる。

「真鈴ってかしこいよね。九九覚えたんでしょ?」

 まんざらじゃないみたいで、真鈴はうれしそうに目を細める。

「ううん。ママが数字には強くなりなさいって、幼稚園のときから算数は教えられてきたの。私がかしこいんじゃないよ。ママがかしこいの」
「だったらぼくのお母さんもかしこいんだけど……カイケー事務所で働いてて、ボキニキューもってるんだよ」
「じゃあ教えてもらいなよ」
「んー。この前、100点じゃなかったから……。そういうの、真鈴みたいにずっと100点が取れる子じゃないとダメな気がする」
「そ?」

 真鈴は目をパチパチさせた。
 大河は真鈴が開いた算数ノートに目を向けると、ていねいで大きくて。それは、まるで見本のようなきれいな数字。真鈴は字を書くことがとても上手だ。見ていて気持ちがよくなる。
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