トワイライトコーヒー

かぷか

文字の大きさ
15 / 109
一部

斎藤 回想①

しおりを挟む
「電話」

「はい」 

 俺は仕事中やった。先日金を持ち逃げし店の女を連れて飛んだ最後の一人が捕まったのは良かったが金のありかがわからず焦っていた。使い込んでたり誰かに渡ってないかあらゆる事を聞いたがこいつはなかなか口を割らなかった。日にちも経っていてどこかに流れていれば大目玉では済まされない。それを吐かすのに手間取っていた。

「すまん、続きしよか」

「あ、俺も電話です。すんません。…今忙しい。和田さんと一緒や」 

 相手は俺の世話役の西原からだった。西原は俺より十歳ぐらい上の古参の組員。こいつからの電話は珍しくは無かった。そんな西原にたまにテンダーをやらせて美日下の様子を見て貰っていた。電話はその美日下が襲われたという内容だった。

「どういうことや!」

 聞けば薬に狂ったシオンの客が美日下を間違って襲ったとのこと。幸い西原がすんでの所で助けたらしいが怪我を負ったのとちょっとした騒ぎになっていると話した。こっちは和田さんに任せて俺は美日下の方へと行こうと思った。シオンは金になるしあの場所が騒ぎになれば警察も来ていろいろ面倒な事になる、そう理由をつけ美日下に会いに行こうとこの場を和田さんに任せたかった。

「和田さん、すんません。急用ができました」

「どうした」

「ちょっと、シオンの事でいざこざがあったみたいで…緊急で行きたいんですが…」

と話している途中で西原はある人物の名前を出した。

「は?何でそこで加成さんの名前がでてくるんや!」

 西原は加成さんの命令で動いていてその命令が優先だと言った。しかも、美日下を加成さんの所に連れて来いと言われたようで理由を聞いてもすみませんの一点張りだった。

「何で連れてかなあかんねん!拒否しろ!今から行くから待っとけ!!」

 電話を切ると和田さんに事情を説明したがそんな会話を聞いてでた答えは。

「駄目や」

「何で和田さんも止めるんですか!俺らの管轄やないですか!」

「こっちの仕事も片付いてないのにいけるか。あっちは西原に任せろ」

「嫌です」

「優先順位を考えろ」

「あっちが優先です」

 俺は思いきりはたかれた。それでも納得がいかなかった。

「馬鹿みたいに駄々こねてんじゃねぇぞ!金の方が大事やろが!」

 わかってない。結局、シオンにも美日下にも影響が出れば同じぐらいの金勘定やけどそこはまぁええ。この人に話してもわからん話やから。それより一刻も早く美日下の元に行きたかった俺はこんな所で時間を食ってる暇はなかった。和田さんになんと言われようと行くと決めた。

「吐かせたらいいんですよね?」

「あ?」

 それから車に乗り込んだ俺は西原に電話をかけたが話し中だった。何度かけても美日下には繋がらず焦っていた。西原の携帯がやっと繋がった頃には大分時間がたっていてアパートのすぐ近くまで来ていた。冷静に考えてみれば西原は俺より先に和田さんに電話をしていたに違いない。でなきゃ、優先順位だの俺を止める事などしない人だ。つまり、美日下を連れて行くまでの足止めに使ったんや。

「今どこや!!」

 電話で西原に確認すると既に美日下は加成さんに届けられた後やった。俺は西原を呼び出し落ち合うことにした。

 佐野 美日下 通信のスクール学校在中。父親は中学の時交通事故で死亡。母親はそのショックでうつ病。仕事をするも続かず転々としていた。働けなくなりあっという間に闇金に借金。どこにでもある良くある典型的な闇落ち。それが17歳になる息子に全部まわってきた。人とあまり関わりをもたされず過ごしてきた息子は世間知らずで借金もあることも知らされておらず俺の所に話がきた。

 最近は男の方が儲かり売り飛ばして稼ぐのが主流で俺はその下見に来てた。見た目は上々で男受けしそうな体に17歳にしては妙な色気もあった。少し寂しくそうな出で立ちは店に出したら飢えたオヤジどもがすぐ飛び付くやろうなぐらいにしか思ってなかった。

 身辺調査は楽やったけど…俺は美日下が気になっていた。一目惚れといえば簡単やがそれもしっくりこんくてただ気になる存在やった。

 この子はホンマに何も知らんで借金背負わされて風俗に入れられるんやなと。無理やり俺らの世界に連れ込んで人生全て終わらせてしまう。そんな事言うてたらヤクザなんて成り立たんのやけど、見張ってた時にカフェに入って飲み物飲んでるあの姿を消すんやと思ったら急に心が寂しくなった。それから何でか心に残ってしまっていた。ほんの数日やったけど実際会う頃には渡したくないとまで思い始めていた。

 引き止めた所で何がどう変わるわけでもないしと思っていたが結局引き止めてしまった。突発的な行動をしたのは初めてではないけど、してはならない事をしたのはこれで2回目め。しかも同じ轍を踏みそうになってる。学習してないんかと自問自答したが俺の何かが引き留めさせた。

 俺としても引き留めたからには早く名目をおいて加成さんから離そうと必死やったけどあの人の嗅覚は異様やった。

 加成さんが事務所に入って来たときは正直ダメかと思った。計算高いあの人がわざわざあんな場所に来るなんて美日下を見に来たに違いない。確かに持ち逃げのトラブルもあったけどそれだけじゃ来るはずもなかった。そのまま連れて帰られるかもと思ったが俺にやらせ自分は手を下さなかった。今思えばこの時から俺をそういう奴やと印象付けてたのかもしれん。けど、あの人の前でぬるいことをやってたらすぐに潰されてしまう。ぬるい選択枠がない美日下には俺の監視下に置いて俺の物や言うて下で働かせるのが一番楽やからそうしたかった。

 一番キツいのは加成さんの所に行くことやから…せやのに。

「何で渡したんや!!」

「命令です」

 西原は徐にポケットに手を突っ込みチップを俺に渡した。

「まだ、これは渡してません」

「これでおさめろ言うんか」

「今はこれしか、コピーは取りますか?」

「当然や」

 俺は現場で何があったか確かめた。音声は途切れ途切れにしか聞こえず画像も途中できれていたが美日下が襲われている姿はハッキリわかった。

「警察は」

「とりあえず、来てないです。ダミー立てて酔っぱらいの喧嘩にして大家には美日下は今旅行で友達に貸してるだけだと話してもらいます」

「そんなんでいけるんか。もう少し考えんと、美日下は大丈夫なんやろな」

「殴られたのとハサミで切り傷が、医者に見せるそうなんで大丈夫かと」

「そっちちゃうわ!何でよりによって!」

「間違ってかけたとは言ってましたけど加成さんが怪我人やるかどうかですね」

「やるやろ、そんなん関係ないからな。戻ってきたら本人に聞くけど面倒臭い、今から加成さんとこ行って取り戻してくる。間に合うかもしれん」

「そんなことしたら余計火に油です。加成さんにかけたのがあいつの運命です。取られるだけならまだしも今回は降格や飛ばされでもしたら…」

「知らん!」

「駄目です。この先もヤクザでいたいなら我慢してください」

「なら、いつまで預かるんや」

「怪我の感じからして一週間程度かなと」

「はぁ?一週間も待てるか!!あの人とおって何もないわけないよな?わかってるよな?加成という男がどういう男か!」

「…すみません、俺にできるのはこれぐらいしか」

「くそ…」

「大事な会議もありますからそれどころじゃないと思いますけど。ただ斎藤さんが今何かしたらペナルティがあるとは思います」

「…襲ったやつどこや!!」

「一応、箱入れときましたが…」

「なんや」

「和田さんに居場所は教えるなと言われてます」

「西原!!お前、誰の命令が優先なんや!!」

「すみません、今回は加成さんです」

「なら、箱は教えてもええやろ!」

「和田さんから電話で絶対教えるなと言われてます。またあそこともめたら厄介ですから。あっちで何したんですか?」

「水に浸けて吐かせただけや」

「…当分風俗の方に回れと。今回は仕方ないです」

「はぁ…どいつもこいつも。んで、シオンは」

「まだ、直接は話してませんけど一応本人の無事は確認してます」

「わかった。俺から話す」

 西原と別れると今度はシオンに連絡した。事情を説明し暫くは警戒と休みを取らせることにしたが意外にも美日下を気にしていた。

 シオンが休みとなると売り上げが落ちる。俺は風俗の仕事にすぐとりかかり他に使えるやつを探す事にした。
    
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

インテリヤクザは子守りができない

タタミ
BL
とある事件で大学を中退した初瀬岳は、極道の道へ進みわずか5年で兼城組の若頭にまで上り詰めていた。 冷酷非道なやり口で出世したものの不必要に凄惨な報復を繰り返した結果、組長から『人間味を学べ』という名目で組のシマで立ちんぼをしていた少年・皆木冬馬の教育を任されてしまう。 なんでも性接待で物事を進めようとするバカな冬馬を煙たがっていたが、小学生の頃に親に捨てられ字もろくに読めないとわかると、徐々に同情という名の情を抱くようになり……──

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中

処理中です...