トワイライトコーヒー

かぷか

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一部

七夜

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 あの後、美日下は熱を出した。

 体の痛みやいろんな気持ちが押し寄せ肉体的にも精神的にも限界がきていた。気がついた時には何時間も経っていて斎藤もいなくなっていた。時折知らない人が代わるがわる様子を見に来ていたがそれも夢うつつだった。それが二日続き三日目に熱が引くと体調も回復に向かっていった。

ノックが聞こえ重い体を起こすと男が入ってきた。

「大丈夫か?」

 組員だろうか、体格の良い男が水をもってきてくれた。この人はぐったりするなか服を変えてくれたり何度か様子を見に来ていた一人。

「はい…」

「水分はたくさんとれよ、何か欲しいものあるか?」

「シャワーとか浴びれたりしますか?」

「わかった」

 男は出ていくとすぐに戻りこっちだと言って案内してくれた。

「何かあったら呼べ。これ、タオルと服。脱いだら洗濯機にいれればいいから」

「はい」

 そう言い脱衣所から出ていくとシャワーを借りた。壁にはお風呂は20分以内と書かれていた。湯船にお湯はあったが入る気になれず熱いシャワーを浴び続けた。傷が滲みたが気持ち良かった。体をしっかり洗い綺麗に拭き取るとさっぱりした。着替えも一式新しいのが用意されていた。脱衣所から出るとさっきの男と目があった。

「ありがとうございました」

 一声かけて部屋に行くと布団が綺麗に直されていた。溜め息と共にベッドに倒れた。

明日からの事を考えると憂鬱でしかなった。体はどんどん治っていくし今の自分の立場もわからずでこのまま治らないほうがマシかもしれない、と考えていた。

コンコン

「入るぞ」

 男の声がしてベッドから飛び起きた。寝ていたら叱られるのではとびくびくした。

「はい」

「傷の手当てまだだろ?また悪化する前に消毒するから脱げ」

「はい、ありがとうございます」

 上を脱ぐと確かにまだ治っておらず血が滲み出していた。そんな事どうでも良くなっていたが気にしていなかっただけに言われてだんだん痛くなった。

手際良く手当てをしてくれる男は見かけによらず何でもできそうだった。食べれなかったが料理も恐らくこの人が作って持ってきたんだと思う。腕には沢山の切り傷があった。

「若いし、この傷は残らんと思う。良かったな」

「そうですか」

「もう少し深いと残るけどな」

「…そうですか」

「水分とれ。腹も空かないかもしれないが少しだけでも食っとけ」

「はい。あの…この部屋にいていいんですか?」

「とりあえずはな。斎藤さんから出てけって言われるまではいていい。明日体調が良くなったら説明するけどここでは共同生活になる」

「……はい」

「したことないとキツいけどもっとキツいことやらされたくなかったら我慢しろ。他に比べたらどおってことない」

「俺は何をするか聞いてますか?」

「知らん。斎藤さんに聞いたらいい。それよりこの生活に慣れることが先決。できた」

「ありがとうございました」

「一つだけ、今の現実を受け止めろ。理不尽でも何でもここへ来たからには受け止めろ」

「……。」

 男は出ていった。男の重みのある言葉に心はか細くなった。明日になるのがこんなにも嫌だと思った事はなかった。

逃げて逃げて逃げきればここから抜け出せるかもしれない。でも、もし途中で捕まれば終わる。

終わったらどうなるんだろ…

 寝ていたが深夜にトイレに行きたくなり部屋に行くとさっきの男と別の男がリビングにいた。男に逃げたいと話したら…と考えながらトイレから出てくると男が話しかけてきた。

「お前も飲むか?」

カップを見せられたが首を振った。

「神谷さん、病人にそれは無理ですよ」

「そうか?」

「当たり前ですよ。コーヒーなんて逆に気持ち悪くなります」

「なら駄目か。悪い悪い」

「水だと飽きるし、ジュースなら冷蔵庫にあるけど。っていっても初めは勝手に飲みにくいよな。ちょっと待って」

 戻ろうとしたらもう一人の男が冷蔵庫に行くと何やら探していた。そうしたら神谷と呼ばれるさっきの男もやってきた。

「なんだ、冷てぇのあげんのか?温かいのにしろよ、怪我人で病人だろ?」

「コーヒーあげる人に言われたくないです」

 キッチンでガチャガチャとしている二人。

「「はい」」

 一人はジュースを一人は温かいホットレモンを出してくれた。どっちを先にもらうか迷った。これはある意味究極の選択なのでは。どちらかをとればどちらかを傷つけてしまう。喧嘩とかになったりしないだろうか…二人の無言の圧がかかった。

「ありがとうございます」

 喧嘩にならないよう同時に両方をもらった。

「あの、温かいの飲みたいんですけど冷めるまで冷たいの先に貰います」

 一言言って冷たいのを飲んだ。

「ほら~ジュースじゃないですか」
「聞いてなかったのか?温かいの飲みたいんですけどって。本当はこっち先に飲みたいって意味だよ」

「飲んだのはジュースです」
「欲しいのはホットレモンだ」

 結局二人はやいやい言っていた。それから今度は少しは食えとご飯を作り始めた。雑炊にうどん、消化の良いスープ。どれも自分の為にしてくれた。どれを一番に食べるか見られている。

 神谷という男が出してくれたのから食べたら満足げだった。全部は無理だったが二人は喜んでいた。食べながら二人は身の上話をしてくれた。

「え、ヤクザじゃないんですか?」

「まぁ、そうなんだけど」

「オーナーがヤクザってだけだ。あ、俺らは元ヤクザな」

 ここは斎藤が経営する風俗の従業員社宅。今は三人で住んでいてこの二人は店の売上管理と用心棒もかねているそうだ。店長の上のマネージャーみたいなものらしい。

ヤクザ業から足を洗いここへ来たらしいけど違法風俗ではなくちゃんとした経営の風俗だと言った。基本的には斎藤のお店は全部表向きはクリーンで、ただ、借金が多きすぎる人など何らかのブラックリストにのっている人があっちにいくのだとか…

初めて斎藤の生業を知った。お金を取り立てたり脅して取るとか犯罪ばかりとだ思っていただけに意外な一面だった。

「俺より一回り以上も年が下だがめちゃくちゃやり手だな斎藤さんは。俺はヤクザやってる時に出会ってのしあがろう思ってたが斎藤さん見てたら俺には無理だと感じた。後は年功序列やら暴力でしか片付かんから…メンツなんてのが一番厄介で嫌いだったからもうちょい楽に稼ぎたい思って足洗った」

「斎藤さんは年期が違いますからね。俺はいつの間にかここに来てた感じです。斎藤さんの下についてなかったら足も洗えない中途半端なので終わってたと思います」

「そうですか…」

「君が何でここ来たか知らんがここにきた奴は全員何かあってきてる。皆事情はあるし、大変だけどとりあえずご飯は食える」

「徐々に慣れたらいいから。考えると辛いことが多いから目の前の事を片付けいくしかないよね、神谷さん」

「そうだな」

 二人は何もかも察するように話した。まだ体はダルかったがご飯を作ってくれた二人にお礼もかね食器を洗うのを手伝った。

お茶を用意して一息つくとソファーで二人は談笑していた。お前も座れと言われ話を聞いていたが途中までしか覚えてなかった。薬が効いていたのか体がまだ回復してないのかいつの間にか眠っていた。


「っ…」

「痛むんか?」

「ぅっ…」

「掻いたらあかん、酷なるから…」

「ッ…やめて…」 

「……。」

「……ッ…やめ…いや…」

「……美日下、すまん」

 夢で会った男は何度も何度も謝りずっと俺から離れなかった。
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