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2巻
2-1
第一章 初めての社交界
日本から事故で転生して、風の魔法を使うシルフィール公爵家の長女に生まれた私、エトワ。
でも魔力をもってないせいで、後継者失格になってしまいました!
そんな私のもとにやってきたのが、銀色の髪をもつ天使みたいな良い子のソフィアちゃん、燃えるような赤い髪をした強気な男の子リンクスくん、お人形さんみたいな金髪碧眼の何を考えてるのかわからない不思議な子ミントくん、黒い髪がさらさらの何かと腹黒いクリュートくん、背が高く慇懃で執事みたいな態度のスリゼルくんの、五人の子供たち。
彼らはシルフィール家の分家である五つの侯爵家の子息で、私の代わりの跡継ぎ候補としてシルフィール家に招かれたんです。
みんな才能のある子ばかりで、誰が跡継ぎになるかわかりません!
そのため試験として私が彼らの仮の主人になって、彼らには護衛役を務めてもらい、一緒に生活することになりました。
みんなで貴族の学校ルーヴ・ロゼに入学したんだけど、そこでもいろんなトラブルが……
名門貴族の子供が集まる桜貴会と呼ばれるサロンで、そこの偉いメンバーであるパイシェン先輩とソフィアちゃんたちが衝突してしまったのだ。
でもなんとか仲直りして、最終的になぜか私もソフィアちゃんたちと一緒に、桜貴会に入ることになったんだけど……
「そういうわけで新たなメンバーも加えて、桜貴会の神聖なるお茶会を開くことにするわ。ええ、神聖な……ね……」
お昼休み、桜貴会の館で、パイシェン先輩がテーブルの真ん中の席に座ってそう言った。
パイシェン先輩は水の魔法を使うニンフィーユ侯爵家のご令嬢。今の桜貴会では、唯一、ソフィアちゃんたちと同格の家格をもつ貴族のお嬢さまだ。
「ふぁーい」
私は持ってきたお弁当をもぐもぐしながら返事をする。
前回のお茶会はパイシェン先輩以外、全員立ってたんだけど、今回は他のメンバーの子も椅子に座っている。あれはシルウェストレの子たちを迎えるための特別な態勢だったらしい。こっちのほうがいいよね、うん。
ちなみにシルウェストレとは、ソフィアちゃんたちの実家である五つの侯爵家の別称だ。
メンバーの女の子の一人が、青い顔で汗を垂らしながら私を見る。
「お、桜貴会のお茶会の席で、お弁当を食べだす人がいるなんて……」
そんなこと言われても、ポムチョム小学校に行く日はお弁当食べていいって約束で桜貴会に入ったし。現にパイシェン先輩も文句は言わない。
まあちょっとだけ沈痛な面持ちはしてるけど。
あ、ポムチョム小学校っていうのは平民の子たちが通う学校で、私は週の半分ぐらいは午後からそっちで冒険者になるための勉強をしている。
お茶会に出ると移動だけでお昼休みが終わっちゃうから、お弁当を食べるのを特別に許してもらってるのだ。
むしろみんなよく我慢できるねぇ。もうお昼なのに。
どうやらお弁当は解散後に食べるらしい。
私みたいに別の学校に行くわけじゃないから、お昼休みの時間はあるだろうけど、でも一番お腹がすいたこの時間に我慢するのは辛いと思う。
そう思ってたら、ソフィアちゃんが私のほうに寄ってきた。
「エトワさま、その卵焼き美味しそうですね、ご自分で作られたんですか?」
「うん、そうだよ~。食べる?」
「はい! いただきます!」
やっぱりお腹すくよね。卵焼きをねだるソフィアちゃんに、フォークに刺して差し出す。
すると、ソフィアちゃんは笑顔で口を開けた。
おお、あーんね。いいよいいよ~。
「はい、ソフィアちゃん、あーん」
「あーん」
パイシェン先輩がバンッと机を叩いた。
「エトワ、あーんはしない!」
おっと、あーんはマナー違反でしたか失敬。
私はソフィアちゃんの口にさっと卵焼きを入れると、すぐさま姿勢を正し、お弁当を食べ続ける。
そうこうしてるうちに、お茶が出てきた。今回は私の分もちゃんとある。
ああ、これは助かる~。最初は入るのに戸惑っていたけど、椅子とテーブルのある場所でお茶がもらえてお弁当も食べられるなら、もう極楽だよね、極楽。優雅なお昼タイム。
さすが貴族たちが集まるサロン。お茶も美味しい。
私はずずず~とお茶をすする。
「エトワ、音を立てない!」
パイシェン先輩から二度目のお叱りが飛んだ。
これは失敬。前世の癖で。
今のは前世でもマナー違反なので反省し、音を立てない飲み方に切り替える。
場が落ち着いたところで、パイシェン先輩が咳払いをした。
「ルイシェンお兄さまが転校したことによって、私がこの桜貴会の代表を務めることになったわ。ここにいるメンバーは全員、私が桜貴会にふさわしいと認めているメンバーよ」
もぐもぐ。
少し沈黙してから、パイシェン先輩が付け加える。
「本当よ……」
うんうん。
「だから新しく入った子も含め、全員仲良くすることを命じるわ」
「はい」
パイシェン先輩の言葉に、ソフィアちゃんたちも私もそれぞれ返事をした。
以前からメンバーだった子たちも、はい、と頷く。
まだ顔と名前も一致しないけど、仲良くなれるといいなぁ。
「それから明日は、アルセルさまとシーシェさまがこちらの館にいらっしゃるわ。みんな失礼のないように心の準備をしておきなさい」
「アルセルさまが!?」
「シーシェさまも!?」
その名前にもともとのメンバーの子たちだけでなく、ソフィアちゃんたちまで驚いた顔をした。
それもそのはず。アルセルさまはこの国の第三王子であらせられるお方だ。そしてシーシェさまはこの国にある四つの公爵家のうちの一つ、ウンディーネ公爵家のお嬢さま。どちらもルーヴ・ロゼの中等部に通われていて、今は二年生と三年生だったと思う。
いきなりの王族と大物貴族の訪問、いったいどんなご用なのだろう。
* * *
次の日の放課後、私はポムチョム小学校が終わってから桜貴会の館に来ていた。
アルセルさまとシーシェさまがもうすぐ来るからだ。
「ぬっふっふ、王子さまか~。かっこいいのかなぁ」
ちょっぴり期待してしまう。
だって王子さまだ。前世でもテレビで見たことはあるけど、現実にお目にかかるのは初めてである。
白馬の王子さま。
発想が古いとか、夢見すぎとか言われちゃうけど、正統派の良さがわかる女なんです私は。
恋愛イベントに発展したりしないかな!?
平凡な容姿の私が王子さまに溺愛されちゃって、なーんて、にゅふふ。
転生してここまで恋愛イベントなんて一切なかったから――年齢が年齢だから起きたらそれはそれで問題なんだけど。
現実はそんなうまくいかないとわかってるけど、ちょっとぐらいはこの機会に妄想しときたい。
「そういえばエトワは社交界には参加してなかったのよね。じゃあ、お会いしたこともないわね」
パイシェン先輩がお茶を飲みながら言う。
「先輩は会ったことがあるんですか?」
「ええ」
「かっこいいですか!?」
ぶっちゃけ知りたい! ぶっちゃけそこらへん知りたい!
「エトワはふくよかなお方は好き? 優しそうな感じの」
あー、太ってるのか~。
うーん。うーん。
私は想像していた白馬の王子さまを、ぽっちゃり系の穏やかそうな王子さまにチェンジしてみる。
「それはそれでありだと思います! 結婚相手に選びたいタイプ!」
「確かにそんな感じかもね」
正統派の美形も人気あるけど、そういうタイプも意外と需要がある。
一緒にいて癒されるところがいいんだとか。前世の雑誌のアンケートによるとだけど。
そう答えたら横でガタンッと椅子が倒れる音がした。
何かと思ったら、椅子を倒すほどの勢いで立ち上がったリンクスくんが、こっちをじーっと見ている。
どうしたんだーい。
私に言いたいことがあるのかと思って手をひらひらさせる。すると、ぷいっとそっぽを向かれてしまった。
うーん、わからん。
こういうところ、懐いたようで懐いてない野良猫感があるよね、リンクスくん。
「よーしよーしわしゃしゃしゃしゃ」
「うわぁっ、なにすんだよ!?」
私は猫っぽいリンクスくんに抱きついて思いっきりその頭を撫でてみた。
ああ、男の子なのにさらさらしている。しなやかなキューティクルが、キューティクルがぁ!
リンクスくんは一瞬、私の腕の中で暴れようとしたけど、そうすると私が危ないと思ったのか動きを止めて、それから最小限の動作で腕の中からするっと抜け出す。
あーあ、さらさらして気持ちよかったのに。
リンクスくんは頭を押さえて、顔を真っ赤にしながら私に言った。
「勝手に頭撫でるんじゃねーよ、バカ主!」
おお、久しぶりに罵られた気がする。んー、でも許可があればいいのか。
「じゃあ、撫でていい?」
私は手をわきわきさせながらそう言った。
「やだ」
リンクスくんは逃げていく。残念。
そう思っていたら、私のスカートを誰かが掴んだ。意識をすぐ下に向けると、ソフィアちゃんが頬を膨らませて私を見上げている。
「私の頭も撫でてください、エトワさま」
なにこの可愛い生き物。
「おーよしよしよし」
私はその頭を遠慮なく撫でる。うーん、リンクスくんに勝るとも劣らない撫で心地。
シルウェストレの子たちはすごいなぁ。頭もいいけど、髪質もいい。
「えへへ~」
しばらく撫でていると、ミントくんが無言でソフィアちゃんの後ろに並んだ。
無表情な顔から視線だけで意思を伝えてくる。
えっと、ミントくんも撫でろと? 順番待ち……?
いや、うん、いいけどね。私もどちらかというと撫でたいしね。
リンクスくんは来ないかなぁと視線を移すと、シャーっと威嚇された。
そんな私たちを見て、パイシェン先輩がため息をつく。
「本当に仲がいいのね、あなたたち」
「あっ、すみません」
パイシェン先輩には、なんとなくいろいろとご迷惑をおかけした気分になる。
「別にいいけど、今日はそろそろやめなさい。アルセルさまとシーシェさまが来るわ」
「そうですね。ソフィア、ミント、護衛役の仕事とはそういうものではないはずだ。エトワさまもお控えください」
パイシェン先輩だけでなく、スリゼルくんからも注意された。
「は~い」
私は素直に返事をして席に戻る。
ソフィアちゃんとミントくん、リンクスくんもお澄まし顔で席に戻った。
「パイシェンさま、いらっしゃいました!」
桜貴会のメンバーの子が外から走ってきて、賓客の来訪を教えてくれる。
「出迎えに行くわよ」
パイシェン先輩が席を立って、私たちもあとに続いた。
二階から降り、玄関の前で並んで、お客さまを待つ。
下で待機していた子が扉を開けると、向こうから二人の人物が歩いてくるのが見えた。
小太りでちょっと背の低い、でもさらさらの金色の髪をした育ちの良さそうな少年と、深い海のような青色の髪をした、気だるそうな雰囲気を纏った大人っぽい少女。
前者は聞いていた通りの容姿だから、第三王子のアルセルさまで間違いないだろう。
青い髪の美人はきっとウンディーネ家のシーシェさまだ。ルーヴ・ロゼの中等部三年生ってことは、元の世界だと中学二年生ぐらいの歳。
でも、すでにその御身からは傾国の美女と表現できるようなオーラを放っている。
「やあ、わざわざ出迎えてもらってごめんね」
「懐かしいわねぇ、小等部の桜貴会」
アルセルさまは人の良さそうな笑顔で私たちに挨拶し、シーシェさまは館を見上げて、妖艶さを感じさせる仕草で微笑んだ。それから、パイシェン先輩のほうを見て。
「パイシェンちゃん久しぶりね」
「はい、シーシェお姉さま。来てくださってありがとうございます」
パイシェン先輩とシーシェさまは親しげな様子だった。関係の深い水の派閥の貴族同士だしね。
シーシェさまは私にも目を留める。
こんな美人に見つめられると意味もなくどきどきしてしまう。ちょっと居たたまれない。
「それから今年は面白い子も入ったみたいね」
シーシェさまはくすりと笑って微笑んだ。
「あの、エトワは身分はいろいろと複雑ですし、性格も……ちょっと抜けたとこがあって、頭も普段はとてもアレなんですけど、でも私にとって尊敬できる部分をもっていて、だから桜貴会に入ってもらいました」
パイシェン先輩が、私が桜貴会に入った事情をシーシェさまに説明してくれる。
おお……パイシェン先輩、私のことをそんな風に思ってくれていたのか……
感動し……ていいの? 感動していいんだよね、これ。でもなんかちょっと罵り言葉が多くなかった!? むしろ九割ぐらい罵られていたような。
頭がアレってどういうこと、ねえ。感動していいのこれ!?
「あら、別にいいのよ。桜貴会のメンバーの選定は皆が納得していれば自由だわ。むしろ私の時代ももっと楽しくなるようなメンバーを選びたかったのに、アルセルさまが止めるんですもの」
「君は旅先で見かけた牛をメンバーに入れようとしたね。さすがに全員で止めたよ……」
残念そうにするシーシェさまに、アルセルさまがそのときの苦労を思い出すようなため息をついた。
「そういうわけでこの子、中等部に持ち帰っていいかしら」
どうしてそういう結論に達したかわからないが、シーシェさまは私の体をひょいっと抱き上げて、踵を返そうとする。
「だめです!」
ソフィアちゃん、リンクスくん、パイシェン先輩が私の裾をがっしり掴んでそれを止めた。
おぉぉ、良かった……。このまま献上品にされたらどうしようかと思ったぜ。
「子供たちのメンバー奪うのもやめてね……」
額を押さえたアルセルさまがため息をつきながらそう言った。苦労してそうだ……
* * *
場所は移って、いざ中等部の先輩たちとお茶会。
アルセルさまが上座に座り、パイシェン先輩がその横、私たちは適当に座る。
シーシェさまはどこからか取り出してきたソファに寝そべり、小等部の子に淹れてもらったお茶を優雅に楽しんでいた。
ふりーだむ。
王子殿下がいるのに大丈夫なんだろうか……。まあ当のアルセルさまが注意しないから大丈夫なんだろうけど。
そういうわけで用件を話すのも、身分が一番高いアルセルさまだった。
「実は君たちがシルウェストレの子たちと喧嘩をしちゃったと聞いてね。事情を聞いて仲裁できたらと思って来たわけだけど――」
そう語ると、アルセルさまは人の良さそうな顔にちょっと苦笑いを浮かべる。
「でも、僕たちが何かする前に自分たちで解決しちゃったらしいね」
「ご心配をおかけして申し訳ありません」
「ううん、仲直りできて良かったよ。まあだから用事はなくなっちゃったんだけど、どうせだから後輩の子たちとも顔合わせしておこうと思ってね。来てみたんだ」
どうやらパイシェン先輩とソフィアちゃんたちの騒動は、小等部だけでなく中等部のほうにも伝わっていたらしい。
早めに仲直りできて良かったと思う。王子さまにまで、ご心配をおかけしたわけだしね。
王子さまを出張させたことに、さすがのソフィアちゃんたちも、ちょっと焦った顔をしていた。
うん、無理して誰かと仲良くしてほしいわけじゃないけど、自分たちの影響力の大きさは理解しておいたほうがいいかもしれないね。
それからアルセルさまは、ちょっと顔を曇らせてパイシェン先輩に言った。
「ルイシェンくんの件は残念だったね」
「いえ、あれはお兄さまが悪いです。当然の報いです」
慰めの言葉をかけられたパイシェン先輩が、きっぱりとそう言った。
ルイシェン先輩は、パイシェン先輩のお兄さんで、私への嫌がらせのために使用した水の魔法が暴走を起こして、大事件に発展してしまったのだ。私の友達のポムチョム小学校の子たちも危ない目に遭ってる。その結果、ルイシェン先輩はよその学校に転校させられ、侯爵家を相続する権利も失ってしまった。
まあやったことがやったことだし、しょうがない。私もまだちょっと怒ってる。
「あの子は嫡子として甘やかされて育ったものね。今回のことはいい薬になるんじゃないの~?」
シーシェさまが容赦ない言葉をルイシェン先輩に投げた。
アルセルさまは苦笑いしつつも、その意見に頷く。
「そうだね。僕たちも子供のころからの付き合いだから、彼の悪いところもいつか直るだろうと甘く接していた気がするよ。もう少し、気にかけてあげるべきだったのかもね……」
確かに子供のころからの知り合いって、ついつい甘く見ちゃうよね。
ちょっと悪ガキなところがあったとして、そういうとこも贔屓目でかわいく見えてしまう。
私だってソフィアちゃんたちにそういう部分があっても、しょうがない子だなぁと思いながら見過ごしてしまうかもしれない。
「エトワちゃん、君には迷惑をかけてしまったね。ここにいないルイシェンくんに代わって、僕からお詫びさせてもらうよ」
「いえ、そんな!」
王子さまからお詫びされて、私は慌てて首を横に振った。
ルイシェン先輩、いきなり転校させられちゃったけど、こういう優しい人が見守ってくれるなら、きっと大丈夫かなと思った。
* * *
アルセルさまたちがここに来た用件も終わって、しばらくお茶を飲みつつ雑談タイムになった。
「そういえば来月はエントランス・パーティーだけど準備はしてるかな?」
「あ、忘れてましたわ。どたばたしていて……」
「私も他のことで頭がいっぱいで……」
アルセルさまの言葉に、パイシェン先輩とソフィアちゃんがあっと気づいた様子で返事をする。
へー、パーティーか~。二人とも大変だなぁ。
パーティーとなると、ドレスとか、装飾品とか、女の子は準備が大変なんだよねぇ。
きっと桜貴会のことで二人ともいっぱいいっぱいだったのだろう。
焦る二人を他人事のように眺めてると、パイシェン先輩の視線がこちらを向いた。
「エトワ、他人事みたいにのんきな顔してるけど、あんたは準備はしてるの? ドレスの仕立てとか、今から頼むならもうぎりぎりよ」
「いやいや、私はパーティーには無縁でして、今回も無関係ですよ~」
嬉しいのか、悲しいのか。生まれてこの方、パーティーにはお呼ばれしたことがない。
そういう理由でのんきに構えていると、アルセルさまが戸惑った顔で言う。
「エントランス・パーティーはルーヴ・ロゼの新入生を歓迎するパーティーだから、ルーヴ・ロゼの生徒は全員招待されてるよ……」
「えっ……」
まじっすか……。そんなこと聞いてないっすよ……
そう思ってたら、ソフィアちゃんが涙目で私のほうを見ていた。
「ごめんなさいぃぃぃ、エトワさまに……伝えるのも忘れてました……」
うおー、ソフィアちゃんの伝言ミスかー!
「大丈夫、気にしない! 平気! 平気! なんとかなるよ!」
慌ててソフィアちゃんを励ます。
うん、桜貴会の件で大変だったもんね。忘れてても仕方ない仕方ない。
そもそも、私なんて適当に準備しとけばオッケーだし。なんなら普段着の中からドレスっぽいやつを……
「なんか適当にドレスっぽいものを着てけばいいやとか考えてそうね……」
ぎくりっ。パイシェン先輩鋭い。
「言っておくけどパーティーの当日は、国王陛下も来るのよ」
へぇ、そりゃすごい……
私は着古した適当なドレスで王さまの前に立つ自分の姿を想像して、ちょっと青くなった。
* * *
お洒落は女の子に魔法をかけてくれるの。
今日は待ちに待ったパーティーの日。
この日のために仕立てた青いドレスを着て、薄く化粧をしてもらい、髪をアップにまとめる。
子供の私にできる精一杯のお洒落をして、鏡を覗き込んでみる。
するとどうだろう。
はい、いつも通りの糸目の私がいまーす!
何もかわりませーん!
想像通りの結果に満足感みたいなのを覚えると、ささっと必要なものを持って部屋を出た。
「エトワさま~!」
すると向こうから、同じく準備を終えたソフィアちゃんが走ってきた。
銀色の髪に白いドレス。髪は私と同じアップにして赤いリボン。その姿を一言で表すと天使。
ああ、魔法がかかってる。魔法がちゃんとかかってるよ~。
ただでさえ可愛い普段の姿から、さらに三割増しぐらい上乗せされたソフィアちゃんを見て、私はお洒落の魔法の存在を信じることにした。残念ながら私にはかからないけど!
「エトワさま、とってもきれいです」
ウットリするソフィアちゃんの目には何が見えてるんだろう。たまにこの子の目には私ではない何かが映ってるのではないかと、ふと思う。そう考えると存在論的恐怖を不意に感じる。
「ソフィアちゃんもきれいだよ~」
「えへへ」
お決まりの言葉だけど本心から返すと、ソフィアちゃんが嬉しそうに照れ笑いする。
むしろ本音を曝け出すと、ソフィアちゃん〝が〟きれいだよ~!
「それじゃあ行きましょう」
「うん」
パーティー会場はルーヴ・ロゼの高等部の敷地にある大きな建物だ。
学校なのにパーティーが開けるような建物があるってすごいよね。さすが貴族って感じ。
パーティー会場へは、今いるルヴェンドの町にある公爵家の別宅から、公爵家所有の馬車で行くので、外で男の子たちと合流する。
男の子たちは子供用のスーツを着ていた。みんなフォーマルなネクタイをつけて、ミントくんだけ赤の蝶ネクタイ。誰の趣味だろう。かわいい。
みんな子供でもスタイルがいいのでよく似合っている。
スーツが演出するちょっとした大人っぽさが、背伸びした可愛さを引き立てていた。
「リンクスくんたちかっこいいよ~。ミントくんはかわいい」
「エ、エトワさまもかわいいぞ……」
「どーもどーも」
こういうお世辞の応酬もいいよね。嘘でも褒めてもらえると気分がいいものです。
「何で俺だけかわいい……?」
「それはかわいいからとしか言いようがないよ」
屋敷の前に馬車が停まる。
あれに乗っていざパーティー会場へ。
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