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236.
コンゴミール村に出発する前日。
——依頼書には至急って書いてあったけど、下準備はきちんとしなくちゃしょうがない。
私たちはポムチョム小学校の教室に集まっていた。
もう依頼に取り組み始めてる子たちもいるようで、教室の人数はまばらだった。
この前の落ち込みようから、少し調子を取り戻したエルフィスちゃんが腕を組んで言う。
「この前はエトワのせいで酷い目にあったわ」
「いや、私のせいじゃないと思うけどね」
口は災いのもとを体現するエルフィスちゃんだけど、まだその舌は折れてないらしい。
「私はね、パイシェンさまを尊敬しているの。あの方みたいになりたくて、日頃から言葉遣いなんかを真似したりしてるんだから」
そう言われてみると、たしかに喋り方なんかは似てる気がした。
ただそこを真似してどうにかなる存在でもないと思う。パイシェン先輩も日頃からいろんな努力をしていて、そこに加えて良い部分と悪い部分があって、それ全部でパイシェン先輩として成り立ってるんだから。
表面的な素行を真似ただけで、一朝一夕にその人に慣れるわけがない。特に悪い部分だけ真似ても……。
「そういえば明日、いよいよコンゴミール村に出発なんだけど、その前に言っておかなきゃいけないことがあるんだ」
パーティーメンバーに対して、私の方としては伝えておかなければならないことというか、連れてきてしまったものがあった。
「なになにー?」
「何よ、変なことだったら承知しないわよ」
「えっとねぇ、私の家族……というか、友達の子が冒険に一緒に行くって言い出しちゃって、付いてくるかもというか付いてくることになっちゃってね……」
そう実はまだ話してなかったのだ。なんとも言い出し辛くて。
私の話への反応は、エルフィスちゃんとリリーシィちゃんで対照的だった。
「いいよー」
気軽にオッケーをくれるリリーシィちゃんに対して。
「はぁ、何勝手に了承しちゃってるのよ。しかも、勝手に他校の授業に参加したいだなんて、どう考えても頭のおかしい——」
エルフィスちゃんがそう言いかけたとき、ガラっと教室の扉が開いた。
「ただいまエトワさまから紹介に預かりました、ソフィア・フィンです!」
そして後光を放つ笑顔でソフィアちゃんが教室に入場してくる。
うん、まだ紹介まで行ってなかったんだけどなぁ……。
その美しく輝く銀色の髪と、天使のように整った容貌は、自然と教室にいた子たちの目を惹きつけた。
そしてエルフィスちゃんの反応はというと……。
「あわわ、フィン侯爵家の嫡子さま……」
泡を吹きそうな顔で動揺していた。
どうやらソフィアちゃんのことは知ってたらしい。ソフィアちゃんたちって有名人だしね。絵姿が普通に売ってあったりすることあるし、この街に住んでるなら何かのイベントに参加したときにお見かけしたりしたのかもしれない。
ソフィアちゃんは元気よく、つかつかと近寄ってくるとエルフィスちゃんとリリーシィちゃんに挨拶する。
「よろしくお願いします」
「よろしくねー!」
リリーシィちゃんはいつものように素直に手をあげる。
ソフィアちゃんはエルフィスちゃんの手をぎゅっと取って言った。
「他校からお邪魔することになって申し訳ありません。ですが、エトワさまが心配で、私も連れて行っていただけたらと思います。ご迷惑は決しておかけしませんので」
「あわわわ、フィン侯爵子さまから手を……手をっ……も、もしご無礼があったら……」
それだけでエルフィスちゃんは緊張で震えだし、本当に泡を吹いて気絶しそうになっている。
その姿を見て私は思う……。
エルフィスちゃん……パイシェン先輩に憧れるのはいいけど、真似しようとするのは無理があるんじゃないの……だって高貴な人に耐性がなさすぎるもの……。
「お願いします!」
「はっ……はひ……かこま……かひこま……かひこまりましたぁっ……」
過呼吸を起こしそうだったエルフィスちゃんは最後の力を振り絞って、そう答えた。
そしてようやくソフィアちゃんが手を離してくれると、死闘を終えたボクサーのように椅子に倒れこみ、そのまま動かなくなる。
「それでは明日からがんばりましょう!」
「おー!」
そんなエルフィスちゃんは置いといて、ソフィアちゃんとリリーシィちゃんが教室で元気よく腕を上げた。
***
そしていよいよ冒険に出発の日。
リリーシィちゃんをお家まで迎えにきた私とソフィアちゃんの前に、毛布を被ったリリーシィちゃんが扉から現れた。
「風邪かぁ」
「ごめんね、エトワちゃん、ソフィアちゃん」
リリーシィちゃんは赤い顔で謝って、それからくちゅんっとくしゃみをした。
「いやいや、無理しないほうがいいよ。お大事にね」
「はい、お大事になさってください」
病気なら仕方ないと、申し訳なさそうにしているリリーシィちゃんに私たちは首を振る。
リリーシィちゃんのお母さんまで出てきて、私に頭を下げる。
「申し訳ありません、エトワさま、せっかく来てくださったのに」
「いえいえ、これ冒険用の熱冷ましの薬草ですけど、よかったら飲ませてあげてください」
「ありがとうございます」
私はバッグをごそごそさぐって、薬草を一束、リリーシィちゃんのお母さんに渡した。
それからお互いに頭をさげて、リリーシィちゃんのお家を去った。
***
「胃炎ですか……?」
続いて、エルフィスちゃんのお家を訪れた私は、耳慣れない病名を聞いてしまった。
風邪なら分かるけど、胃炎って何故に……。大人ならたまに聞く病気だけど……。
エルフィスちゃんの家は、パイシェン先輩の家に出入りできるような商人だけに、結構大きかった。それでもパイシェン先輩のお屋敷や、シルフィール家のお屋敷ほどではないけど。
上品そうな格好のお母さんが出てきて、私たちに頭を下げる。
「今は薬をもらって寝ているところなのですが……」
そう言いながら、お母さんは私たちをお屋敷に上げてくれようとする。
ただソフィアちゃんは断った。弱ってるときは、お友達のエトワさまだけの方が良いでしょうからと。そういうわけで私だけであがる。
でも、何故に胃炎なんかに……。
お母さんに案内された部屋に入ると、ベッドで寝ているエルフィスちゃんがいた。
なにやら青い顔でうなされてる。とても苦しそうだ。
「ううっ……パイシェンさまに大変な失礼を……。もし今度の冒険で、ソフィアさまに何があったら……しけい……とりつぶし……しけい……とりつぶし……うううっ……」
「お大事に……」
私は布団の上から、その肩をポンポンと撫でてあげてから、エルフィスちゃんの寝室をそっと去った。
「そういうわけで、コンゴミール村には私とソフィアちゃんだけで行くことになったよ!」
「エルフィスさんの分も、リリーシィさんの分もがんばりましょう!」
私の初冒険、出発前に前衛2人が倒れたけど、ソフィアちゃんがいるから戦力にはほとんど陰りなし!
——依頼書には至急って書いてあったけど、下準備はきちんとしなくちゃしょうがない。
私たちはポムチョム小学校の教室に集まっていた。
もう依頼に取り組み始めてる子たちもいるようで、教室の人数はまばらだった。
この前の落ち込みようから、少し調子を取り戻したエルフィスちゃんが腕を組んで言う。
「この前はエトワのせいで酷い目にあったわ」
「いや、私のせいじゃないと思うけどね」
口は災いのもとを体現するエルフィスちゃんだけど、まだその舌は折れてないらしい。
「私はね、パイシェンさまを尊敬しているの。あの方みたいになりたくて、日頃から言葉遣いなんかを真似したりしてるんだから」
そう言われてみると、たしかに喋り方なんかは似てる気がした。
ただそこを真似してどうにかなる存在でもないと思う。パイシェン先輩も日頃からいろんな努力をしていて、そこに加えて良い部分と悪い部分があって、それ全部でパイシェン先輩として成り立ってるんだから。
表面的な素行を真似ただけで、一朝一夕にその人に慣れるわけがない。特に悪い部分だけ真似ても……。
「そういえば明日、いよいよコンゴミール村に出発なんだけど、その前に言っておかなきゃいけないことがあるんだ」
パーティーメンバーに対して、私の方としては伝えておかなければならないことというか、連れてきてしまったものがあった。
「なになにー?」
「何よ、変なことだったら承知しないわよ」
「えっとねぇ、私の家族……というか、友達の子が冒険に一緒に行くって言い出しちゃって、付いてくるかもというか付いてくることになっちゃってね……」
そう実はまだ話してなかったのだ。なんとも言い出し辛くて。
私の話への反応は、エルフィスちゃんとリリーシィちゃんで対照的だった。
「いいよー」
気軽にオッケーをくれるリリーシィちゃんに対して。
「はぁ、何勝手に了承しちゃってるのよ。しかも、勝手に他校の授業に参加したいだなんて、どう考えても頭のおかしい——」
エルフィスちゃんがそう言いかけたとき、ガラっと教室の扉が開いた。
「ただいまエトワさまから紹介に預かりました、ソフィア・フィンです!」
そして後光を放つ笑顔でソフィアちゃんが教室に入場してくる。
うん、まだ紹介まで行ってなかったんだけどなぁ……。
その美しく輝く銀色の髪と、天使のように整った容貌は、自然と教室にいた子たちの目を惹きつけた。
そしてエルフィスちゃんの反応はというと……。
「あわわ、フィン侯爵家の嫡子さま……」
泡を吹きそうな顔で動揺していた。
どうやらソフィアちゃんのことは知ってたらしい。ソフィアちゃんたちって有名人だしね。絵姿が普通に売ってあったりすることあるし、この街に住んでるなら何かのイベントに参加したときにお見かけしたりしたのかもしれない。
ソフィアちゃんは元気よく、つかつかと近寄ってくるとエルフィスちゃんとリリーシィちゃんに挨拶する。
「よろしくお願いします」
「よろしくねー!」
リリーシィちゃんはいつものように素直に手をあげる。
ソフィアちゃんはエルフィスちゃんの手をぎゅっと取って言った。
「他校からお邪魔することになって申し訳ありません。ですが、エトワさまが心配で、私も連れて行っていただけたらと思います。ご迷惑は決しておかけしませんので」
「あわわわ、フィン侯爵子さまから手を……手をっ……も、もしご無礼があったら……」
それだけでエルフィスちゃんは緊張で震えだし、本当に泡を吹いて気絶しそうになっている。
その姿を見て私は思う……。
エルフィスちゃん……パイシェン先輩に憧れるのはいいけど、真似しようとするのは無理があるんじゃないの……だって高貴な人に耐性がなさすぎるもの……。
「お願いします!」
「はっ……はひ……かこま……かひこま……かひこまりましたぁっ……」
過呼吸を起こしそうだったエルフィスちゃんは最後の力を振り絞って、そう答えた。
そしてようやくソフィアちゃんが手を離してくれると、死闘を終えたボクサーのように椅子に倒れこみ、そのまま動かなくなる。
「それでは明日からがんばりましょう!」
「おー!」
そんなエルフィスちゃんは置いといて、ソフィアちゃんとリリーシィちゃんが教室で元気よく腕を上げた。
***
そしていよいよ冒険に出発の日。
リリーシィちゃんをお家まで迎えにきた私とソフィアちゃんの前に、毛布を被ったリリーシィちゃんが扉から現れた。
「風邪かぁ」
「ごめんね、エトワちゃん、ソフィアちゃん」
リリーシィちゃんは赤い顔で謝って、それからくちゅんっとくしゃみをした。
「いやいや、無理しないほうがいいよ。お大事にね」
「はい、お大事になさってください」
病気なら仕方ないと、申し訳なさそうにしているリリーシィちゃんに私たちは首を振る。
リリーシィちゃんのお母さんまで出てきて、私に頭を下げる。
「申し訳ありません、エトワさま、せっかく来てくださったのに」
「いえいえ、これ冒険用の熱冷ましの薬草ですけど、よかったら飲ませてあげてください」
「ありがとうございます」
私はバッグをごそごそさぐって、薬草を一束、リリーシィちゃんのお母さんに渡した。
それからお互いに頭をさげて、リリーシィちゃんのお家を去った。
***
「胃炎ですか……?」
続いて、エルフィスちゃんのお家を訪れた私は、耳慣れない病名を聞いてしまった。
風邪なら分かるけど、胃炎って何故に……。大人ならたまに聞く病気だけど……。
エルフィスちゃんの家は、パイシェン先輩の家に出入りできるような商人だけに、結構大きかった。それでもパイシェン先輩のお屋敷や、シルフィール家のお屋敷ほどではないけど。
上品そうな格好のお母さんが出てきて、私たちに頭を下げる。
「今は薬をもらって寝ているところなのですが……」
そう言いながら、お母さんは私たちをお屋敷に上げてくれようとする。
ただソフィアちゃんは断った。弱ってるときは、お友達のエトワさまだけの方が良いでしょうからと。そういうわけで私だけであがる。
でも、何故に胃炎なんかに……。
お母さんに案内された部屋に入ると、ベッドで寝ているエルフィスちゃんがいた。
なにやら青い顔でうなされてる。とても苦しそうだ。
「ううっ……パイシェンさまに大変な失礼を……。もし今度の冒険で、ソフィアさまに何があったら……しけい……とりつぶし……しけい……とりつぶし……うううっ……」
「お大事に……」
私は布団の上から、その肩をポンポンと撫でてあげてから、エルフィスちゃんの寝室をそっと去った。
「そういうわけで、コンゴミール村には私とソフィアちゃんだけで行くことになったよ!」
「エルフィスさんの分も、リリーシィさんの分もがんばりましょう!」
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