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4巻
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しおりを挟む第一章 エトワ商会!?
どもども、エトワです。交通事故に遭って、異世界に転生することになった私ですが、転生した先は魔法使いの名家シルフィール公爵家でした。
魔力がまったくなかった私は、初日で後継者失格の烙印を押されてしまいました。そんなことがありつつも公爵家でぬくぬく居候暮らしを満喫していた私のもとにやってきたのは、シルウェストレと呼ばれる五つの侯爵家からやってきた五人の子供たち。才能のない私に替わり、公爵家の後継者候補に選ばれたみたいです。
どの子も才能抜群で、勉学も優秀、おまけに美少年美少女ばかり!
後継者候補である彼らには試験が課されました。それは私を仮の主として十五歳になるまで護衛役という仕事を勤めること。その期間の中で、もっとも公爵家の後継者として相応しい成長を遂げた者が当主に選ばれるということだとか……
異世界でマイペースにゆらゆら過ごしつつ、特に意味もなく神様に貰ったパワーに目覚めたり、貴族学校に入れられたり、冒険者学校に入ったり、自称魔王の娘と友達になったり、疎開先で魔族に襲撃されたり、なんかいろいろあったけど、そんな私もようやく小学三年生。
本来なら魔法使いだけが参加するアンデューラって競技に、家のごたごたのせいで参加させられたりしたけど、それもいい経験になりました。
アンデューラに関わるいろんな騒動が終わり、私の生活にもすっかり日常が戻っていた。
あのあとシーシェさまの命令で家でも侍女ごっこをしていたら、それを聞いたお父さまが私が侍女になりたがっていると勘違いして、侍女学校へ入学させようとした騒動があったんだけど、それはまあ置いておこう。
今は友達のリリーシィちゃんと一緒に、ポムチョム小学校で授業を受けている。
「普通のべんきょうは退屈だよ~。冒険のべんきょうしたーい!」
先生が教材を取りに行った休憩時間、リリーシィちゃんが叫ぶ。
「まあまあ、あと三十分で今日の授業は終わりだし」
「エトワちゃんはいいよね。テストもいつも花マルだし」
「そこらへんは年の功ですから」
ポムチョム小学校の授業は小学生レベルの問題ばかりなので、簡単に解けてしまう。
「むーエトワちゃんも私と同じ年でしょー」
リリーシィちゃんと話をしながら、先生の帰りを待ってるけど、妙に遅い気がした。
社会担当のバーバラ先生は、まだ若い先生でいろいろと手際はわるいけど、冒険者を引退したばかりで動きの俊敏さには定評がある。冒険者時代はレンジャーをやっていたらしい。先生なら教材を取りに戻るぐらいすぐに済ませてしまいそうなのに、と私は首をかしげていた。
それから十分ほど経ったころ、ようやく先生の声が聞こえた。
「だ、だから、困ります! 子供たちは授業中なんですよ!」
「いやいや、お時間は取らせませんよ、すぐに済みますから、なにとぞお願いします」
誰かともめてるようで、その声はどんどんこちらへ近づいてくる。
「ちょっと失礼しますよ」
そんな声と共に、教室の扉が開き、一人の男性が姿をあらわした。
でっぷりと太った、ちょっと成金趣味っぽい服装の男性だ。指や首にじゃらじゃらと、金色のアクセサリーをつけている。その後ろに、困ってる表情のバーバラ先生が見えた。
「勝手に教室に入らないでください! ウィークマン先生とボルゲェイ先生を呼びますよ!」
「いやー、本当にすぐに済みますから! どうかご容赦ください!」
男性は言葉は低姿勢だけど、やってることは強引だった。
押し負けたバーバラ先生は、ちょっと涙目になっている。新任の先生の経験不足がでてしまった感じだ。元冒険者の腕っ節を発揮するわけにもいかないし大人は大変だ。
それにしても教室に部外者、いったいどういう用件かと、みんなと一緒に見ていると……
「エトワちゃんという子はいるかな?」
急に名前を呼ばれた。
「はいー?」
「返事しなくていいですよ、エトワさん!」
そう言われても反射的に答えちゃったので、時すでにお寿司。
私の返事に男性は喜色の笑みを浮かべ、ダダダと床を鳴らし走ってきた。
「君か!」
いったいなんなんだろうと思っていると、その男性の右手に握られたものに気づく。銀色のひらひらした一切れの紙。
これ、私がクリュートくんに作ってもらったアルミホイルだ!
男性は私を値踏みするような目で見たあと、見え見えの愛想笑いを浮かべた。
「なるほど、君がエトワちゃんなんだね。おや、その額の落書きは自分で書いたのかな? なかなかチャーミングな子だね。はは」
「はいはい~。ところでどちらさまですか~?」
失格の印を落書きと勘違いしたらしい。
でも、間違いを指摘すると話が長引きそうなので放っておいた。先生も困っているし。
「あーあー、私はロールベンツという者なんだ。この国ではなかなか名の知れた商人なんだけどね。君も名前を聞いたことぐらいはあるかもね」
聞いたことなかった。
他の子も同じ反応だ。そんな周りの反応は気にならないようで、ロールベンツさんはその手にあるアルミホイルを私に差し出してきた。
「これを君が作ったって、本当かい!?」
「えっと、そのアルミホイルは私が友達に作ってとお願いしたものです。だから作ったのは友達です」
「アルミホイルというのか。つまり考えたのは君なんだね!」
「えっ……えっと……まあ……。そうなのかもしれません」
ごめんなさい、もとの世界でアルミホイルを考えてくれた人。まさかもとの世界にあったものを作ってもらった、なんて説明できないからそう言うしかない。
それを聞くと、ロールベンツさんは私の肩をガシッと掴んで、喜びの表情を浮かべる。
「素晴らしい! 素晴らしい発明だよ、これは! 何を隠そう、私はこのアルミホイルをぜひ商品化したいと思っているんだよ! 早速、作り方を教えてくれないかな?」
なんですと、商品化!
つまりアルミホイルが商品になって、この世界に流通するってこと!? それはすごい!
私もクリュートくんを煩わせずにお店からアルミホイルが買えるようになるし、この世界の奥さん方もアルミホイルのおかげで家事がちょっと楽に!
子供たちもアルミホイルのおかげで、大好きなグラタンがいつでも手軽に!
素晴らしい、素晴らしい話ではないですか!
「構いませんよ!」
アルミホイルをこの世界に普及するためなら、私も助けになりたい。
実際はクリュートくんがすごいだけで、私は何もしてないも同然だけど、それでも、アルミホイルの普及に貢献できるならお手伝いしたかった。クリュートくんもいちいち私に付き合わされなくてよくなるから、賛成してくれるんじゃないだろうか。
快いお返事を伝えると、ロールベンツさんはニコニコして懐からお財布を取り出す。
「そうかい、そうかい。これはほんのお礼だよ、受け取ってくれないかい?」
そして子供にあげるには結構な大金を私に渡そうとしてきた。
日本円で言うと二万円ぐらい。子供たちの目が丸くなる。
「エトワちゃんすごい!」
「お金持ち!」
私は慌てて首を振った。
「いえいえ、そんなお金、受け取れません!」
「いやいや、遠慮しなくていいんだよ。ほんのお礼なんだから」
「でしたらお父さんとちょっと相談してきます!」
なぜかぐいぐいとお金を押し付けようとしてくるので、咄嗟にそう言ってしまった。まあ今はお父さまが家にいるから、本当に相談すればいいか。
それを聞くと、ロールベンツさんの顔が一瞬ぴくりと真顔になった。でもすぐに笑顔に戻る。
「そうだねー、親御さんにも相談しないといけないよねー。私もご挨拶したいから付いていってもいいかな?」
「構いませんけど、学校が終わるまで待ってもらえないでしょうか」
なんか結局、ロールベンツさんが家に挨拶にくる話になってしまった。
「うんうん、構わないよ。それではお騒がせしました」
ロールベンツさんはそう言うと、ようやく教室から出ていってくれた。
バーバラ先生が泣き出す前でよかった。
「じゃあねー、リリーシィちゃん」
「うん、またねー、エトワちゃん!」
学校が終わり、玄関でリリーシィちゃんと別れる。
ロールベンツさんの姿を探すと、運動場の遊具に腰掛け、俯いてぶつぶつと呟いている。考えごとをしているようだった。
「まあこんなボロ学校に子供を通わせている親だ。十万リシスも渡せばすぐに頷くだろう」
「ロールベンツさ~ん」
「うおおっ」
私が声をかけると、やたら驚いた顔で飛び退いた。
それから私の姿を見ると、笑顔を作って言う。
「やあ、君か。もう学校はいいのかな」
「はい、行きましょう」
私はロールベンツさんと一緒に、家への道を歩き始める。
ふと気づいたように、ロールベンツさんが私の服をしげしげと見た。
「そういえば君、ずいぶんと高級な服を着ているね」
「あ、友達からのプレゼントなんです」
今日着てきた服はソフィアちゃんからプレゼントされたものだった。ソフィアちゃんは後継者候補で唯一の女の子。そのおかげか一番に仲良くさせてもらっている。
「なるほど、貰い物か。ちょっとお高いものを貰うこともあるよねぇ」
合点がいったようにロールベンツさんはうんうんと頷く。
そんなやりとりをしていると、前方から不貞腐れた表情をしている黒髪の少年が歩いてくる。クリュートくんだ。後継者候補の一人で、風と水、土と三つの魔法を使える多彩な才能の持ち主だ。ちょっとひねくれ者だけどいい子。どうやら私を迎えに来てくれたみたいだ。
「クリュートくん、珍しいね~」
「別にいいでしょ、来てあげたんだから感謝してくださいよ」
どうやらお家にお父さまがいるからしぶしぶながら迎えに来てくれたようだった。
「誰ですか、その男は」
「あ、ロールベンツさんだよ。商人をやってるんだって、お父さまに挨拶したいってー」
「ふーん、なるほど」
クリュートくんは興味なさそうに相槌をうった。
一方、ロールベンツさんは戸惑うように、私にこそこそと話しかける。
「えっと、この子も友達なのかい? ずいぶんと育ちがよさそうだけど……?」
「はい、貴族のお家の子ですから」
私は頷く。
すると、なぜか焦ったようにロールベンツさんが言う。
「き、君は違うよね? ほら、冒険者学校に通ってるし」
「そうですね。そんな感じです」
実際のところ、よくわからない立場だけど、廃嫡されてるってことだから、平民扱いが妥当だろう。いろいろと取り扱いがめんどくさい存在ではあります。申し訳ございません。
「うんうん、貴族学校がある街だ。平民の子が貴族の子と友達になることもあるよな……」
ロールベンツさんはまたぶつぶつと呟く。
しばらく歩いていくと、貴族たちの家が立ち並ぶ区画にたどり着く。私たちの家があるのも、この区画だ。なぜかロールベンツさんが、汗をだらだらかきはじめる。
「えっと、お友達の家に遊びにいくのかな? それは用事がすんでからにして欲しいんだけど。それともここらへんに君の家もあったり?」
「いえ、ここを通り過ぎたところです。もうちょっと歩きます」
一般的な貴族たちの家があるのはこの区画だけど、お父さまの別邸は結構な広さなので、同じ区画でももうちょっと離れてるのだ。
「そうなんだ、通り道なんだね。そういうこともあるよねきっと。貴族と平民が一緒に暮らす街なんだから」
ほっとした顔でロールベンツさんが頷く。
そうして歩いてしばらく。
「ずいぶんと広いお屋敷だねぇ。さぞ名のある貴族が住んでるんだろうねぇ」
私たちはようやく家の前に辿り着き、でも入り口はもう少し先なので、そこに向かって歩いているところだった。
ロールベンツさんは観光客気分で、きょろきょろと我が家の庭を覗き見している。
「ところで、君の家はまだまだ時間がかかりそうなのかい?」
そう聞かれたとき、ちょうど私たちは家の正門に辿り着いた。
「着きました」
「へ?」
私たちが門の前に立ってると、庭で働いていた使用人さんが挨拶してくれる。
「エトワさま、クリュートさま、お帰りなさいませ」
「いつもおつかれさまです」
私もぺこりと頭を下げる。それから、なぜか全身から滝のように汗を流し、真っ青な顔をしているロールベンツさんに声をかけた。
「あのー、着きましたけど、入らないんですか?」
「き、君……ここは……その……だれの、いやどなたの……お家なんでしょうかかか?」
私はロールベンツさんのおかしな反応に首をかしげる。
「私たちが今住んでるシルフィール家の別邸ですけど?」
「よ、四大公爵家っ……!?」
ロールベンツさんの顔色が青から白に近づいていく。
「大丈夫ですか? 家で休んでいきますか?」
ちょうど家に着いたし、気分がわるいならと思って提案する。
するとロールベンツさんに尋ねられた。
「えっと、エトワちゃんは、ここの使用人の娘さんなのかな?」
「ちがいますけど?」
みんな優しくしてくれるけど、残念ながら血縁関係はない。
「す、すみません。気分がわるくなってきたので今日は帰らせていただいてよろしいでしょうか」
「家で休んでいっていいですよ?」
「家!? いえいえいえ! お家の方のお手を煩わせるほどではありません! 帰ってゆっくり休めば大丈夫です! 本当です。本当ですとも!」
「そうですか? わかりました」
たしかに気分がわるそうだった。慣れない人の家より、一人でゆっくり休みたいのかもしれない。
「じゃあ、また今度ですね」
まだアルミホイルの商品化のお話は済んでいない。
アルミホイル普及のためにも、ちゃんとお話ししなければ。
「はい、それでは失礼させていただきます!」
ロールベンツさんは体調を崩した人にしてはとてつもない猛ダッシュで、私たちの前から去っていった。
「なんなんですか? あの男」
クリュートくんが不審げな表情でロールベンツさんが去っていった方向を見る。
「ロールベンツっていう商人さんだよ。アルミホイルを商品化したいんだって! クリュートくんのおかげだね!」
そう言うとクリュートくんはめちゃくちゃ嫌そうに顔をしかめて、ただ一言だけ呟いた。
「あんなものを……?」
一応、今日の件をお父さまに報告する。
アルミホイルというものをクリュートくんに頼んで作ってもらっていたこと。それをロールベンツさんが商品化したいと話してきたこと。二万リシスというお金を渡そうとしてきたこと。お金が絡むことだから、きちんと保護者に伝えないといけないよね。私えらい!
「そういうわけで、ロールベンツさんは体調を崩して帰っていきました」
私が事の顛末まで説明すると、お父さまは書斎の机に座ったまま、一言つぶやいた。
「レメテンスを呼べ」
「かしこまりました」
お父さまの指示を聞いて、お付の人たちが外に出ていく。
なにごと、と思ってたんだけど、ソファに座らされて待つこと二十分。さわやか風のイケメンな青年が部屋に入ってきた。
「クロスウェルさま、お呼びいただいてありがとうございます」
青年はお父さまに深々と頭を下げると、私の方を見て微笑みながら言った。
「はじめましてエトワさま。シルフィール家に仕えております弁理士のレメテンスです。エトワさまの大切な知的財産権は私どもがしっかりと守ります」
ええええ、弁理士!? なんかすごく大げさな話になってきたぞぉ……
変な方向に転がっていきそうな予感がして、今度は私の額からだらだらと汗が流れてくる。
「いえ、知的財産権とか、そんなたいした話じゃ……。ないと思うんです……けどぉ……」
もとの世界にあったものを流用しただけだし、作ってくれたのはクリュートくんだし……
「いえ、お聞きしたところによると、すばらしい発明品だと思います。つきましては特許申請の準備をはじめたいと思うので、アルミホイルというものを拝見させていただけますでしょうか」
とっきょ……とっきょ……とうきょうととっきょきょきょきょきょ……
その日はレメテンスさんにアルミホイルを見せて終わった。
次の日、お父さまに呼び出されて書斎に行く。
書斎に入ってみると、クリュートくんとレメテンスさん以外にもロールベンツさんの姿があった。もしかしてアルミホイルの商品化の話をしに来てくれたのだろうか。でも、昨日よりも顔色がわるい。とても心配になるレベルだ。
「大丈夫ですか?」
ロールベンツさんにそう尋ねると「は、はい……」とか細い声で返事が返ってきた。
私が席に着くと、お父さまが話をはじめる。
「さてロールベンツ、お前の噂は少しだけ聞いたことがある。最近、急激に業績を伸ばしている商人だと……少々強引な方法でな」
商売の話をしにきただけなのに、お父さまの口調はまるで尋問するかのようだった。
ロールベンツさん、たしかに学校に来たときも強引だったなぁ。まあ商売をやっていくには、そういう強引さも多少は必要なのかもしれない。
「今回はエトワの発明品に目をつけたようだが、二万リシスというお金を渡そうとしたそうだな」
「い……え……は、はい……」
なんだろう、めちゃくちゃ空気が重い。
まるで処刑台で死刑を執行するかのような……そんな空気を、お父さまが放っていた。
「よもや子供の無知に付け込んで、二束三文で買い叩こうとしたわけではないだろうな」
私はお父さまの言葉に心の中で突っ込みを入れる。いやいや、アルミホイルの作り方を教えるだけなんだから、お金をもらうこと自体申し訳ないぐらいだったんですけど……。そう言いたかったけど、お父さまの放つプレッシャーが尋常じゃないので口を挟めませんでした。
ロールベンツさんは、お父さまの灰色の瞳でじっと見られ、ガクガク震えて滝のような汗を流しながら首をブンブンと振る。
「め、めっそうもございません! お嬢さまにはしかるべき報酬をのちほど支払わせていただく予定でした! 二万リシスはあくまで、私の話を聞いてくれたお礼です!」
「その言葉に偽りはありませんね」
レメテンスさんがロールベンツさんに尋ねる。
「もちろんでございます! エトワさまとは極めて誠実な取引をさせていただく予定でございました!」
「そうか……」
ロールベンツさんの言葉を聞き、お父さまが頷く。
「この際だ。過去にどういった心持ちで取引をしようとしていたかは問わない。今述べた心境が、今の本心であるかが大切だ」
「は、はい……! エトワさまとは今後、一切の嘘偽りなく、誠実な取引をすると約束させていただきます……!」
ロールベンツさんは頭を下げて、お父さまにそう言った。お父さまがそれに対して言う。
「エトワが発明した品を商品化するためには、商売の知識に長けた者の誠実な助力が必要だ。そういう存在になると誓えるか?」
「はい! エトワさまのためにもアルミホイルの商品化を成功させてみせます! この命に代えましても!」
「そうか、ではよろしく頼むぞ」
「はいぃぃ!」
ロールベンツさんが裏返りそうな声で返事をした。
一方、レメテンスさんが場の空気に合わない、さわやかな笑顔で言う。
「私も微力ながら助力させていただきます」
お父さまは最後にクリュートくんの方を見て言う。
「クリュート、このアルミホイルの発明には君も関わっているらしいな。できればエトワに、力を貸してやって欲しい。しかるべき報酬は我が家から払うつもりだ。頼めるだろうか?」
「わ、わかりました!」
あのクリュートくんもお父さまの迫力に押されてこくこくと頷く。
「エトワ、今回用意したメンバーでお前の考えたアルミホイルの商品化をしてみるといい。何か必要なものがあれば、シルフィール家の代表として相談に乗る」
「は、はい! ありがとうございましゅ!」
私もこくこくと頷く。ちょっと噛んだ。だって怖いんだもん、お父さま。
こうしてよくわからないうちに、アルミホイル商品化チームが結成されてしまった。
私の言いたいことといえばひとつ。兎にも角にも――
おおげさすぎるよ!!
お父さまのお話のあと、ロールベンツさんと相談することになった。
ロールベンツさんは初対面のときとは違い、とても恐縮した様子で私に話しかけてくる。
「え、エトワお嬢さま、このたびは大変なご無礼をお許しください」
「いえいえ、私の方こそなんかごめんなさい!」
私の妙な立場がロールベンツさんに迷惑をかけてしまった気がする。
「特許関係のことはレメテンスさんが準備してくれています。若手の弁理士ですが腕がいいと評判の方なので、任せておいて大丈夫でしょう」
「そうなんですか」
そうなのかー。
公爵家のお抱えになるぐらいだから、そりゃ優秀だよね。この世界に特許制度があるなんて昨日まで知らなかった私は、レメテンスさんの仕事については何の助けにもなれない。なのでロールベンツさんとアルミホイルの話をと思ったけど、こちらも準備が必要なようだった。
「私たちの目標はアルミホイルの製造とその販路を作り上げることなのですが、販路の確保には商会が必要です。製造だけを担当するより、直営の商会で販売した方が儲けも大きいでしょう。エトワお嬢さまには私が経営するゴールデン&スマイリー商会の幹部になっていただこうかと」
「ええっ、そんな!?」
何もしてないのにいきなり商会の幹部だなんて申し訳ないですよ、と返そうとしたら、その前に慌てた様子でロールベンツさんが言葉を被せてきた。
「そうですよね、ええ、その通りです! エトワお嬢さまとしては幹部などという立場では、甚だご不満であることと思います! 私もその点に大きな疑問を感じていました! 先ほどから! ずっと! 感じておりました! アルミホイルの発明者であるお嬢さまにはもっと輝かしい役職についていただかなければなりません! こうなりましたらエトワさまが代表を務める商会を立てましょう! ああ素晴らしい! 早速手続きをしてまいります! お父さまにはくれぐれもよろしくお願いします! このロールベンツ、お嬢さまのために誠意を尽くし必死にがんばっていると!」
切羽詰まった表情でそう言い切ったあと、ロールベンツさんは、屋敷の外へずだだだだと走っていった。私はその姿を呆然と見送る。
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