文字の大きさ
大
中
小
130 / 162
連載
253.
月明かりがきれいな夜、私は大きな湖の前でボケ~っと佇んでいた。
遺跡のスイッチか何かを踏んづけてしまって、知らない場所に転送されてしまった。ここはどこだろうか、リンクスくんたちは大丈夫だろうか、どうやって帰ろうか。いろいろ疑問はあるけれど、とりあえず何も思いつかないのできれいな湖面を眺めていた。
それにしても大きな湖だ。
周囲を見ると山の深くにあるみたいなのに、縦にも横にもすごく広い。なんとなくだけど、深さもかなりありそうだった。
よく周囲を見渡すと、ところどころに石の構造物みたいなのが見える。
表面は朽ちて苔むしているけれど、それは人工物のように見えた。
私はなんとなくこの景色に見覚えがある気がした。
今の私じゃなく、前世の私が見たことがあるもの、そうダムと呼ばれるものに雰囲気がよく似ている。
「あんた何者だい……?」
ハスキーな女性の声が、背中から聞こえた。
振り返ると、二十歳ぐらいの若い女の人がいた。背が高く美人だけど、目つきが鋭く、迫力のある美女だ。その目元にもまたなんとなく見覚えがある気がして、私は不思議な気分になった。
「えっと、迷子なんですけど。遺跡を歩いてたら、突然この場所に飛ばされて~」
私は正直に事情を告げる。
私が遺跡から飛ばされたということは、行方不明になった子供たちも同じ場所に飛ばされている可能性がある。
この女性が何者かはわからないけれど、もしかしたら情報が掴めるかもしれない。
そう思ったんだけど、女性の警戒は解けなかった。
「ふざけんじゃないよ。この場所に飛ばされてきた子供たちはみんなピーピー泣いてたっていうのに、あんた、飛ばされてきてもずっと落ち着きをはらっていたじゃないかい」
なんだ見られていたのか。
それにどうやら行方不明になった子供たちのことも知っているようだ。
「それはちょっとびっくりしすぎて、泣く気もなくなっちゃったというか。お姉さん、他の子たちのことも知ってるんですね。実はその子たちを探していたんです。合わせてもらえませんか?」
「断るね、あんたみたいな得体の知れない奴、子供に合わせられるかい。びっくりしすぎて泣く気もなくなった? 嘘つくんじゃないよ。そもそも立ち姿からして、明らかに普通の子供とは違うんだよ。背後から攻撃を仕掛けようとしてみても、隙が一切見えなかった」
え、監視されてる間、攻撃しようとしてたの。
何、このお姉さん、怖い。
でも、口ぶりからすると、子供のことは保護してくれてるようだし、悪い人ではなさそうだ。
さて、どうやって危険な存在じゃないと理解してもらおうか。
そう思ってたら、お姉さんは貫手に構えた両腕に炎を纏わせはじめた。
「まあいい、何者か話す気がないなら、ボコボコにして聞き出すまでさ」
うわーん、このお姉さん、悪い人じゃないけど喧嘩っぱやい。
リンクスくんたちのもとに戻るまでは、倒れるわけにはいかない。きっと心配してるだろうし。
私もしょうがなく、天輝さんに手を掛ける。
「やめんか、リオン」
すると、また別の声がそれを制止した。
その声の主は、白髪の老人だった。老人とは言っても、背すじはピシャッと伸びていて、白い髪はオールバックで綺麗に整えられている。その顔は老いてもかっこよくて、若い頃はさぞかし美形だったのだろうなとわかる。
「爺さん、なんで止めるんだい」
「そのお嬢さん、確かに普通の子供とは違うようだが、どうにも悪い存在ではなさそうだよ」
「こんなに得体が知れないのに?」
お姉さんからの扱いは、完全にUMAか宇宙人みたいだ。
「身元も確かじゃよ。額の紋様を見て、何か気づかんかね」
お爺さんはくすっと笑うと、私の額に刻まれた失格の印を目の動きだけで指し示した。
「紋様……?」
お姉さんはそう呟くと、さっきまでの警戒した態度とは真逆に、つかつかと近づいてきて私の額を顰めっ面で覗き込む。
「失格……? そういえば何か、どこかで……聞いたことがあるような……。う~ん……若者の間で流行ってるおしゃれなのかい……?」
その答えをきいたお爺さんはやれやれと首を振った。
「ちと貴族社会から離れさせ過ぎたかのう……」
どうやら二人のやりとりを聞いてると、お爺さんもお姉さんも貴族ゆかりの人のようだ。
しかも、私の失格の印をお爺さんは知っているようだから、私の国の人か、情報が伝わるぐらいに近い国の人。お姉さんが魔法を使おうとしたことを合わせると、むしろ私の国の人の確率が高い。そう考えると、私が飛ばされてきた場所も、国内という感じがする。
これは運が良かったのかも。
その後、お爺さんの取りなしで、子供が避難している場所に私も連れてってくれることになった。
「あたしは反対だね。結局、その子は何者か名乗ってないじゃないか」
お姉さんはぷんぷん怒りながらも、一番先頭を進んで道案内してくれる。
「あ、エトワって言います。よろしくお願いします、リオンさん」
「ふんっ」
お姉さんからの返事はなかった。
隣を歩く白髪のお爺さんが、困ったような笑みを浮かべながら私に謝ってくれる。
「すまんのう。リオンはここ数日とても機嫌が悪くてのう」
「何かあったんですか?」
「本来、あの子には二週間前から休暇を取ってもらう予定だったんじゃよ。久しぶりに旦那や息子に会えると楽しみにしておったんじゃ。しかし、のっぴきならぬ事態が起きてしまってのう。ワシの元に残ってもらうことになったんじゃ。それからすっかり拗ねてしまってなあ……」
「はー、それは可哀想ですね」
「勝手に人の家庭の事情を雑談の種にしてるんじゃないよ!」
怒られてしまった。
まあでも、最もな話である。話題を変えよう。
「そういえば、お爺さんの名前を聞いてなかったですね」
「おお、そうだったか、すまんすまん。ワシの名はレイモンド、しがない旅人のじじいじゃよ」
そういってレイモンドさんは、パチリと綺麗なウインクをした。
感想 1,691
あなたにおすすめの小説
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
凱旋した英雄は聖女を選びました。~冬の補給路を守っていた私は静かに軍を去ります~
握夢(グーム)「君は後方にいただけだ」――
凱旋した英雄の婚約者からそう切り捨てられた私は、
静かに軍を辞職しました。
――冬の補給路管理。
――兵糧配分。
――医薬品輸送。
――損耗率管理。
全部、私の仕事だったのですが。
三週間後、
王国軍は補給崩壊。
「なぜ食糧が届かない!」
「なぜ兵が飢える!」
……逆にお聞きしますが、
今まで“なぜか全部上手く回っていた”理由を、
一度でも考えたことはありましたか?
これは、
誰にも評価されなかった兵站官(へいたんかん)が、
隣国の辺境伯にだけ価値を見抜かれ、
人生を取り戻す物語。
今更「戻ってきてくれ」と泣きつかれても、
私は隣国の最高機密ですので――!
王太子殿下、最初の一曲は私ではないのですね 〜我慢をやめた公爵令嬢は、婚約指輪をお返しいたします〜
ゆぷしろん 王太子カーティスの婚約者フローラは、彼に何度も「君なら分かってくれる」と我慢を強いられてきた。王宮の茶会や演奏会、誕生日の晩餐までも、殿下は王弟の落胤であるサビーナを優先し、フローラの傷を見ようとしない。ついに生誕舞踏会の最初の一曲まで奪われた彼女は、周囲の視線にさらされながらも笑顔の裏で限界を迎え、婚約解消を決意する。
翌日、王妃の前でこれまでの扱いを訴えると、サビーナもまた殿下の都合のよい言葉に利用されていたと判明。カーティスは自分の甘えと無責任さを認めきれず、国王は婚約解消と王太子活動の停止を命じる。
フローラは誰かの都合に合わせ続ける人生をやめ、自分の心を優先する穏やかな日々を取り戻す。そして、彼女を一人の人として尊重するルシアンの手を取り、初めて自ら望んだ新たな未来へ歩み出していく。
捨てられた三歳の聖女ですが、辺境伯家に拾われたら家族全員が過保護でした
由香神殿で無能と決めつけられ、三歳で捨てられた少女リリア。
辺境伯家に保護された彼女は、厳つい辺境伯やお兄様たち、領民にまで溺愛されながら幸せな日々を送ることに。
けれど実はリリアは、数百年に一人現れる伝説級の聖女だった。
これは捨てられた幼女聖女が、たくさんの愛に包まれながら成長していく物語。
絆の糸が見える幼女は、辺境伯家の宝物になりました ~捨てられた私が本当の家族を見つけるまで~
由香雪山に捨てられた三歳の幼女リリアには、人と人を結ぶ「絆の糸」が見える力があった。
実の家族から伸びる糸は途切れそうなほど細い。
けれど、冷血辺境伯と呼ばれるアレクシスから伸びる糸は温かな金色に輝いていた。
前世では孤独だったリリアは、辺境伯家で初めて家族の愛を知る。
これは捨てられた幼女が、本当の家族の宝物になるまでの心温まる物語。
『病弱な幼馴染を優先してください』と言った妻が消えた翌日、夫は領地の会計書類が全て白紙になっていることに気づいた
歩人(あゆと)侯爵家に嫁いで五年。ルチアは夫エミルの領地会計・社交・使用人管理を全て一人で担ってきた。だがエミルはいつも幼馴染のアリーチェを優先する。「アリーチェは体が弱いんだ、お前とは違う」——その言葉を百回聞いた日、ルチアは微笑んで離縁届に署名した。「ええ、私は丈夫ですから。どうぞ幼馴染様をお大事に」。翌朝、エミルが目にしたのは——税務報告の締切、領民からの陳情の山、そして紅茶の淹れ方すら知らない自分。三ヶ月後、かつて「地味な妻」と呼ばれたルチアは、辺境伯の財務顧問として辣腕を振るっていた。
婚約破棄された翌日、王家の紋章が私の腕に現れました
あめとおと
伯爵令嬢エレノアは、王都の舞踏会で婚約者から突然の婚約破棄を告げられる。
理由は「平凡で地味だから」。
さらに彼は新たな恋人を伴い、人前でエレノアを侮辱した。
失意のまま屋敷へ戻った翌朝――。
エレノアの左腕に、見たことのない黄金の紋章が浮かび上がる。
それは王家の直系だけに現れるという“継承の紋章”だった。
混乱する彼女のもとへ現れたのは王国騎士団。
そして告げられる。
二十年前に失踪した第一王女には、生後間もない娘がいたこと。
その娘こそがエレノアだと。
突然始まった王家での生活。
優しい祖父である国王、過保護な王族たち、そして王国随一と名高い騎士団長。
一方、エレノアを捨てた元婚約者は、自分が取り返しのつかない失敗をしたことを知る。
婚約破棄から始まる、王家認定シンデレラストーリー。