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2.不機嫌な人
ブルー
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「詩、ダラダラしてるなら先にお風呂入っちゃいなさいよ。テスト勉強するんでしょ」
「んー」
ママの催促に生返事をして、ごろりと寝返りを打つ。午後八時になる前から、私は縁側に寝転んでブルーを待っていた。
ブルーをなで回したい。ぷにぷにの肉球を触りたい。モフモフに顔をうずめたい。
そうしないと立ち直れないくらい落ち込んでいた。
考えないようにしようとしても、お昼休みのことが頭の中で勝手に再生されてしまう。過剰に反応して、空回りしてる自分が恥ずかしい。勉強なんて、まったく手につかなかった。
私は、黒崎くんに完全に嫌われてしまったようだ。
午後からの授業では、そちらを見なくても話しかけるなオーラがはっきりと感じ取れた。休み時間も放課後も教室からすぐいなくなってしまって、避けられていることは鈍い私でもわかった。
あの「くだらねぇ」は、勘違いしてはしゃぐ長谷くんに向けた言葉だと由真ちゃんがフォローしてくれたけれど、とてもそうとは思えない。
「次の席替えまで石になる……」
ため息まじりにひとり言をこぼして、ごろんともう一度寝返りを打つと、塀の上に灰色の影が見えた。
ブルーだ……!
勢いよく起き上がって、縁側から身を乗り出す。
ブルーは私を見つけてひと鳴きした後、庭へ降り立った。そのまましなやかな動きで縁側に跳びのる姿が、今日もとても美しい。
「こんばんは、ブルー。今日のおやつは煮干しだよ」
一刻も早くなでたい気持ちをぐっと抑えて、煮干しを縁側に置いて近づいて来てくれるのを待つ。近寄ってきたブルーは、すぐにはおやつを食べずに顎をあげて首元を私に見せた。
「あ……」
首輪に結ばれた、淡いピンク色の紙。すぐに昨日私が書いた手紙への返事だとわかった。
しぼんでいた心が、空気を吹き込んだ風船みたいにふくらんでいく。
ドキドキと高鳴る鼓動を感じながら、私はブルーの首輪からそうっと手紙を取り外した。
『こんばんは
お返事ありがとう
とても驚いたのですが、猫の名前はうちでもブルーです
青い目がとても綺麗だから名付けました』
わ、わわわ……!!!
素敵な偶然に心が弾む。興奮して思わず縁側から投げ出した足をバタバタとさせてしまった。
「ブルー」
新たな気持ちで名前を呼ぶと、役目を終えて煮干しを食べていたブルーがこちらを見上げる。それだけで嬉しくなって、つい口元がほころぶ。
私はすぐに返事を書いた。
何度も返すと迷惑かも、と少し考えたけれど、この嬉しさを伝えたい気持ちの方が大きかった。
『お返事ありがとうございます
とても嬉しいです
本当の名前もブルーと聞いてびっくりしました
青い目がとても綺麗ですね
ブルーは何歳ですか?』
これでやり取りが終わるのが残念で、図々しいかなと思いつつ質問を書いてみた。最後に名前を書くかどうか迷って、私は下の名前の「詩」だけを記した。
どうか、返事が来ますように……。
願いを込めながら丁寧に折りたたんで、ブルーの首輪に巻きつける。
「郵便屋さん、お願いします」
私がぺこりと頭を下げると、ブルーは少し得意げにニャアオと鳴いた。
「んー」
ママの催促に生返事をして、ごろりと寝返りを打つ。午後八時になる前から、私は縁側に寝転んでブルーを待っていた。
ブルーをなで回したい。ぷにぷにの肉球を触りたい。モフモフに顔をうずめたい。
そうしないと立ち直れないくらい落ち込んでいた。
考えないようにしようとしても、お昼休みのことが頭の中で勝手に再生されてしまう。過剰に反応して、空回りしてる自分が恥ずかしい。勉強なんて、まったく手につかなかった。
私は、黒崎くんに完全に嫌われてしまったようだ。
午後からの授業では、そちらを見なくても話しかけるなオーラがはっきりと感じ取れた。休み時間も放課後も教室からすぐいなくなってしまって、避けられていることは鈍い私でもわかった。
あの「くだらねぇ」は、勘違いしてはしゃぐ長谷くんに向けた言葉だと由真ちゃんがフォローしてくれたけれど、とてもそうとは思えない。
「次の席替えまで石になる……」
ため息まじりにひとり言をこぼして、ごろんともう一度寝返りを打つと、塀の上に灰色の影が見えた。
ブルーだ……!
勢いよく起き上がって、縁側から身を乗り出す。
ブルーは私を見つけてひと鳴きした後、庭へ降り立った。そのまましなやかな動きで縁側に跳びのる姿が、今日もとても美しい。
「こんばんは、ブルー。今日のおやつは煮干しだよ」
一刻も早くなでたい気持ちをぐっと抑えて、煮干しを縁側に置いて近づいて来てくれるのを待つ。近寄ってきたブルーは、すぐにはおやつを食べずに顎をあげて首元を私に見せた。
「あ……」
首輪に結ばれた、淡いピンク色の紙。すぐに昨日私が書いた手紙への返事だとわかった。
しぼんでいた心が、空気を吹き込んだ風船みたいにふくらんでいく。
ドキドキと高鳴る鼓動を感じながら、私はブルーの首輪からそうっと手紙を取り外した。
『こんばんは
お返事ありがとう
とても驚いたのですが、猫の名前はうちでもブルーです
青い目がとても綺麗だから名付けました』
わ、わわわ……!!!
素敵な偶然に心が弾む。興奮して思わず縁側から投げ出した足をバタバタとさせてしまった。
「ブルー」
新たな気持ちで名前を呼ぶと、役目を終えて煮干しを食べていたブルーがこちらを見上げる。それだけで嬉しくなって、つい口元がほころぶ。
私はすぐに返事を書いた。
何度も返すと迷惑かも、と少し考えたけれど、この嬉しさを伝えたい気持ちの方が大きかった。
『お返事ありがとうございます
とても嬉しいです
本当の名前もブルーと聞いてびっくりしました
青い目がとても綺麗ですね
ブルーは何歳ですか?』
これでやり取りが終わるのが残念で、図々しいかなと思いつつ質問を書いてみた。最後に名前を書くかどうか迷って、私は下の名前の「詩」だけを記した。
どうか、返事が来ますように……。
願いを込めながら丁寧に折りたたんで、ブルーの首輪に巻きつける。
「郵便屋さん、お願いします」
私がぺこりと頭を下げると、ブルーは少し得意げにニャアオと鳴いた。
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