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それはきっと、夜明け前のブルー
夜明け①
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朝四時がまだ夜だということを、私はこの日初めて知った。
部屋の中も窓の外も、まだ真っ暗だ。
そんな中起き出して、パパとママに見つからないようにこっそり身支度をするのは、悪いことをしているようでかなりドキドキした。
廊下はシンと静まり返っていて、いつもは気にならない床鳴りがやたら大きく聞こえる。
玄関の鍵を開ける音も、恐ろしいくらい大きく響く。
それでも、ママたちが起きてくる気配はない。
ホッと胸をなで下ろし扉を開けようとして、ふと手が止まった。
……文通の相手は、ほんとに黒崎くんなのかな。
もし扉の向こうにいる人が、まったく知らない人だったらどうしよう。
ブルーが届けてくれた手紙だから大丈夫だろうけれど、この暗闇のせいかちょっと不安になる。
ううん、黒崎くんはブルーを知っていたし、筆跡も同じだったし、間違いない。
……でも、よく考えれば、手紙が黒崎くんからだとしても、文通相手が私だと気づいていないのなら、ここには来ないんじゃないだろうか。
じゃあ、来ているのは別の人になっちゃう……。
ぐるぐる考えながら出るかどうか迷っていると、傘立てにあるパパの大きな傘が目に入った。
念のためにそれを掴んで、ドキドキしながらゆっくりと扉を開ける。門に寄りかかるようにして立つ大きな人影が見えた。
ドキッとして、つい傘を刀のように構える。
じりじりと用心しながら近づくと、大きな人影がくるりとふり返り、
「……なにしてんの?」
聞き慣れた声とともに、門灯に照らされた黒崎くんの呆れ顔が見えた。
「黒崎くん……」
「おはよ」
ささやくような声で言って、口の端を上げてちょっと笑う。
ホッとして、肩の力が抜ける。私は傘を刀のように握りしめたまま挨拶を返した。
「その傘はいらないから置いて、後ろに乗って」
停めていた自転車に跨り、後ろを指差す。
黒崎くんは文通相手が私だとわかっていたみたいに、まったく驚くことなく普段どおりだった。
「えっ、自転車?」
「ん、ばあちゃんの借りてきた。早く乗って」
「え、あ、あの、でも」
黒崎くんは相変わらず淡々として何でもないことのように言うけれど、私にとっては男の子と二人乗りするなんて初めてのことで、戸惑ってしまう。
これは、少女漫画みたいに横座りでいいのかな……。
馬みたいに跨がるのは、違うよね。
どう乗ればいいか迷いながらおそるおそる荷台に座ると、黒崎くんは私の手を掴んで自分のお腹に回させた。
「落ちないように、しっかりつかまってて」
わ、わわわ……。
引き寄せられて、頬がピタッと黒崎くんの広い背中にくっつく。Tシャツ越しでもわかる彼の体温と腹筋の感触に、ぼわっと頬が熱くなった。
口から心臓が飛び出てしまいそうなくらい鼓動が大きく跳ね回る。
あわてて身体を起こすと、それに気づいてまた手が引き寄せられた。
「危ないから、ちゃんとつかまって」
「は、はい……」
もうどうしていいかわからなくて、私は石像のように固まった。
そんな私に気づくことなく、ゆっくりと自転車は進み始める。
アワアワしている自分が恥ずかしい。
ドキドキしたりあわてふためいているのは私だけで、黒崎くんにとってはなんでもないことなんだと思うと、少し切なかった。
肩にかけていたトートバッグを落としそうになって、ぎゅっと持ち手を握る。
もう片方の手で落ちないように黒崎くんにつかまりながら、私は到着するまでに頬のほてりがおさまることを願った。
部屋の中も窓の外も、まだ真っ暗だ。
そんな中起き出して、パパとママに見つからないようにこっそり身支度をするのは、悪いことをしているようでかなりドキドキした。
廊下はシンと静まり返っていて、いつもは気にならない床鳴りがやたら大きく聞こえる。
玄関の鍵を開ける音も、恐ろしいくらい大きく響く。
それでも、ママたちが起きてくる気配はない。
ホッと胸をなで下ろし扉を開けようとして、ふと手が止まった。
……文通の相手は、ほんとに黒崎くんなのかな。
もし扉の向こうにいる人が、まったく知らない人だったらどうしよう。
ブルーが届けてくれた手紙だから大丈夫だろうけれど、この暗闇のせいかちょっと不安になる。
ううん、黒崎くんはブルーを知っていたし、筆跡も同じだったし、間違いない。
……でも、よく考えれば、手紙が黒崎くんからだとしても、文通相手が私だと気づいていないのなら、ここには来ないんじゃないだろうか。
じゃあ、来ているのは別の人になっちゃう……。
ぐるぐる考えながら出るかどうか迷っていると、傘立てにあるパパの大きな傘が目に入った。
念のためにそれを掴んで、ドキドキしながらゆっくりと扉を開ける。門に寄りかかるようにして立つ大きな人影が見えた。
ドキッとして、つい傘を刀のように構える。
じりじりと用心しながら近づくと、大きな人影がくるりとふり返り、
「……なにしてんの?」
聞き慣れた声とともに、門灯に照らされた黒崎くんの呆れ顔が見えた。
「黒崎くん……」
「おはよ」
ささやくような声で言って、口の端を上げてちょっと笑う。
ホッとして、肩の力が抜ける。私は傘を刀のように握りしめたまま挨拶を返した。
「その傘はいらないから置いて、後ろに乗って」
停めていた自転車に跨り、後ろを指差す。
黒崎くんは文通相手が私だとわかっていたみたいに、まったく驚くことなく普段どおりだった。
「えっ、自転車?」
「ん、ばあちゃんの借りてきた。早く乗って」
「え、あ、あの、でも」
黒崎くんは相変わらず淡々として何でもないことのように言うけれど、私にとっては男の子と二人乗りするなんて初めてのことで、戸惑ってしまう。
これは、少女漫画みたいに横座りでいいのかな……。
馬みたいに跨がるのは、違うよね。
どう乗ればいいか迷いながらおそるおそる荷台に座ると、黒崎くんは私の手を掴んで自分のお腹に回させた。
「落ちないように、しっかりつかまってて」
わ、わわわ……。
引き寄せられて、頬がピタッと黒崎くんの広い背中にくっつく。Tシャツ越しでもわかる彼の体温と腹筋の感触に、ぼわっと頬が熱くなった。
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「危ないから、ちゃんとつかまって」
「は、はい……」
もうどうしていいかわからなくて、私は石像のように固まった。
そんな私に気づくことなく、ゆっくりと自転車は進み始める。
アワアワしている自分が恥ずかしい。
ドキドキしたりあわてふためいているのは私だけで、黒崎くんにとってはなんでもないことなんだと思うと、少し切なかった。
肩にかけていたトートバッグを落としそうになって、ぎゅっと持ち手を握る。
もう片方の手で落ちないように黒崎くんにつかまりながら、私は到着するまでに頬のほてりがおさまることを願った。
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