それはきっと、夜明け前のブルー

遠藤さや

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それはきっと、夜明け前のブルー

夜明け②

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 十分ほどして着いたのは、海沿いの堤防だった。
 
 ……こんなところがあったんだ。

 引っ越してから数ヶ月経つけれど、まだ海の方は探索していなかったことを思い出す。共学へ転校することに手一杯で、海が近いと聞いたことも忘れていた。

「こっち。暗いから足元に気をつけて」

 暗闇の中でキョロキョロしていると、黒崎くんは慣れた様子で堤防に作られた小さな階段を上っていく。
 そのあとをついて堤防に上って、思わずため息が漏れた。

「わぁ……」

 波の音と潮風が一気に押し寄せてくる。
 まるで包み込まれているみたいに海を近くに感じた。
 遠くまで続く闇よりももっと濃く暗い黒色に、波だけが白く浮かび上がる。
 打ち寄せて静寂に溶けていく波音と、潮風が運ぶ夜の匂いに、きゅうっと胸が苦しくなった。

「もしかして、海見るの初めての人?」

 海に足を投げ出すようにして座り、黒崎くんが私を見上げる。
 暗いからよく見えないけれど、笑っているに違いない。

「見たことありますっ」

 前にも同じようにからかわれたことを思い出して唇をとがらせると、黒崎くんは笑いながら手招きして、私に隣に座るように促した。

「ブルーの目の色が空の色に似てるって、手紙に書いたの覚えてる?」

「は、はい。夜明け前の、空の色……」

「ん、それを北野に見せたくて」
 
 またきゅうっと胸が苦しくなる。
 はっきりは見えなくても、優しい声から黒崎くんがどんな表情かおをしているかが想像できた。
 
「ありがとう……嬉しい」

 ……あれ。

 お礼を言って隣に座り、ハッと気づく。
 自然に受け入れていたけれど、私はまだ文通のことを何も聞けていない。
 こうやって迎えに来てくれたから、文通相手が黒崎くんなのは間違いないけれど、それでも謎なままのことが多すぎた。

 「あ、あの、手紙は……黒崎くんが書いたの?」

 思い切って尋ねると、黒崎くんはちょっと気まずそうに首の後ろを摩り、

「ごめん。今日会ったらすぐに話そうと思ってたんだけど、北野が武士みたいに出てきた衝撃がすごくて忘れてた」

「あ、あれは……もしかしたら、黒崎くんじゃないかもって、その……」

 恥ずかしくて口ごもる私を、黒崎くんは目を細めてまたクスクスと笑った。

 わわわ……。

 隣に座って近づいたせいか、さっきよりも黒崎くんの表情かおがよく見える。
 最初の頃からは考えられないくらいの優しい笑顔に、ドキンと胸が高なった。
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