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第二十話 こんなに好きになるなんて *

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 大輔のマンションの寝室。
 薄暗い部屋の中で、彼の呻き声が微かに聞こえる。

 全裸で仰向けになっている、ベッドの上の大輔。同じく生まれたままの姿の明日香が、彼自身を愛撫していた。
 彼女が口を動かすたびに、軽く波打った艶やかな髪が、大輔の下腹や太腿に流れる。

 大輔は長い息を吐き、手を伸ばして彼女の肩を軽く叩いた。
「明日香、明日香。ちょっと待って……タイム」

 ちゅぽんと音を鳴らし、明日香は大輔から口を離した。
「どうしたの?」
「もう無理。出ちゃう」
 上半身を起こし、彼女の乱れた髪を直してやる。

「口に出して良いのに」
「ダメ」
「なんで?」
「明日香の中でイキたい」

 明日香がようやく、彼のところに戻ってくる。掌で大輔の顔を包み込み、何度もキスをしながら話しかける。
「ねぇ、ねぇ。もう、大丈夫だよね?」
「うん。多分」

 夏休みに二人で過ごした、二泊三日の温泉旅行。
 その間に、大輔はトラウマをほぼ克服した。

 もともと旅行を企画した段階で、大輔は「毎晩は無理だよ」と念を押してきた。
 ならばいい機会だと、セックスは初日の夜だけにして、その後明日香は彼自身に触りまくることにした。

 初めは躊躇していた大輔だったが、彼女があまりにも真面目に、且つ熱心にやりたがったので、根負けした格好となった。挿入はしなかったが、彼も明日香を十二分に愛し満足させたことは、言うまでもない。

 どこをどう触ったら良いのか、嫌なのか。
 どこをどう舐めたら気持ちいいのか、悪いのか。
 メモを取ることは流石にしなかったが、明日香は大輔に丁寧にヒアリングをした。

 男性にこんなことを質問するのは、勿論生まれて初めてだった。
 何となく触り、何となく舐める。相手がしてくれたから、お返しという義務感だけで、今までやってきた。
 しかし今回は別だ。彼の為ならばと一肌脱いだ。

 その甲斐もあって、三日目の朝に彼女が愛した時、彼のそれは硬く屹立した。
 明日香は喜び、そのまま口で受け止めた。

 大輔は出すのを嫌がったが、彼女は出して欲しいとせがんだ。今まで付き合った女性には出したのに、自分にだけは出さない。そんなことは納得できなかった。

 明日香が特にこだわっていたのは、彼が最初に付き合った、暎子似の恋人の存在だった。

 大輔に大きな影響を及ぼした彼女。そして未だに彼女は、彼の中で特別な存在となっている。それがどうにも気に入らない。
 彼女と経験したことは全て、自分ともやらないと気が済まなかった。時が来たらイラマチオだってしてやると、心に決めていた。

 そして、休みが明けた土曜日。
 明日香は満を持して、セックスの最中に彼に触れた。
 そして彼は無事に、彼女を受け入れることができたのだ。

「ありがとう。まさか明日香が、こんなに一生懸命してくれると思わなかったよ」
 大輔が彼女の髪を撫でながら、キスをする。

「頑張ったんだから、ご褒美ちょうだい」
 誘うような視線で彼を射抜く。
「勿論。たくさんあげるよ」

 大輔は避妊具を装着すると、壁にもたれ掛るようにして座り、膝の上に彼女を誘った。
「明日香、ここにきて」

 明日香が彼と向き合って座ろうとすると、「待った」をかけられる。
「ううん、逆、逆。背中向けて」
「逆?」
「そう。背中から抱きしめてあげる」
 頷く明日香。
 
 彼に背中を向けると、男根に手を添えて自ら挿入し腰を落とす。
「あ、あっ……ん」
 顎を上げ、目を瞑る明日香。

「明日香、キスしよう」
 彼女は大輔のほうに顔を向け、舌を絡める。
「んんっ!!」
 明日香は鼻から息を吐いた。彼が手を回してきて、乳房を掴んでいる。

 彼女の首筋を舐めながら、乳首を弾いたり、陰部を撫でる大輔。明日香はビブラートのような喘ぎ声を上げた。

「これだと、明日香のいろんなところ、いっぱい触れる」
「いやぁ……あぁっ……」

 彼女の手を取り、股間に持っていく。
「明日香、触ってみて。繋がってるところ」
 細い指先が、結合部に触れる。大きく息を吐く明日香。

「すごい……入ってる」
「そうだよ。入ってるよ」
「もう、いやぁ……」

 大輔は更に彼女に要求してくる。
「明日香、自分でも触って。明日香の大事なところ」

 朦朧とした様子で尋ねる明日香。
「自分で……触るの?」
「挿れながら触ると、気持ち良いよ」

 小さく首を横に振る。
「だめ。恥ずかしい……」
「やって見せてよ。明日香がオナニーするところ、見たい」
「そんなぁ……」

 なかなか承諾しない彼女の腰に手をあて、下からゆっくりと突き上げてくる。飛び上るような声を出す明日香。
「動かしていてあげるから。触ってごらん」
「だめっ……」
 そう言いながらも、左手を乳房に当て、右手の指を陰核にあてる明日香。

 最近、自慰行為はあまりしていない。それがセックスの障害になると思っているからだ。大輔に会えない土曜日だけは、彼恋しさに少しだけしてしまう。

 オナニーなんかよりも、彼とのセックスのほうが、何倍も何十倍も、気持ちいい。精神的な満足度から言ったら、比べ物にならない。
 こんなことを思えるようになったのだから、自分もステップアップしたに違いない。暎子もきっと、少しは見直してくれるだろう。話すつもりはないが。

 明日香が肩をすぼめて、声を震わせる。
「あっ……だめっ、イキそう!」
「いいよ、明日香。イッて。動くの、このままでいい? もっと動かす?」

 腰を揺らしながら大輔が尋ねると、彼女は髪を振り乱した。
「ううん……今のままで、いいっ!」
「明日香……凄く可愛いよ。こんなに乱れて……あぁ、たまんない……」
 大輔は彼女のうなじにキスをする。

「やっぱりダメっ、私ばっかり……」
 今日は既に大輔にたっぷり愛され、絶頂に達している。

「いいよ……明日香がイクところ、何度も見たいから」
「だめっ! ああっ、イクっ……大輔さん!!」
 彼に寄りかかりながら気を遣ると、明日香は前のめりに倒れ込んだ。

「明日香、大丈夫? 疲れちゃった?」
 大輔は彼女を気遣いながらも、その腰を両手で掴んで引き上げる。

「大丈夫……あぁあっ!!」
 言下に後ろから挿れられ、背中を仰け反らせる明日香。

「明日香……すごく気持ちいいよ……」
「大輔さん……もうダメぇ……」
「ダメ? じゃ、うつぶせになっていいよ。後ろから挿れてあげる」

 杭を抜かれた明日香は、そのまま力なく腹這いになる。大輔が覆いかぶさってきて、彼女の閉じた股間にモソモソと入ってくる。

「……入る?」
「入るよ。明日香、ちょっとだけ足、開いて」 
「うん」

 彼女の反応を確かめるようにしながら、大輔が入ってくる。明日香の太腿を足で挟み、ゆっくりと動かし始めると、彼女は気持ち良さそうに鼻を鳴らした。

「んっ、ん、んんっ……」
「明日香、大丈夫? 苦しくない?」
「うん、大丈夫……すごい気持ち良い……もっと……ちょうだい……」

 顔をシーツに押し付けて呻くと、大輔は一定のリズムで挿し込んでくる。明日香は気持ち良さで、気が遠くなりそうだった。

「あぁ……ヤバい。メチャクチャ気持ちいい……明日香、たまんないよ」
「うん。私も……気持ち……あっ、待って……あっ!!」
 足先をピンと伸ばし、シーツを掴んで体を震わせる明日香。

 大輔が性器を引き抜き、彼女の顔を窺う。
 明日香は半目で呆然とし、シーツに唾液を広げていた。

「明日香、イッたの? 大丈夫?」
「うん……多分。いつもと違う感じがしたから、ちょっとビックリした」
 愛する男の首に腕を絡め、明日香は幸せそうに身体を寄せた。
 
 もしかしてこれって、世にいう【中イキ】ってやつなのかな。
 暎子の言う【本当に気持ちいいセックス】って、このことなのかな。
 自分ではそのつもりだけど、どうなんだろう。

 前に彼が「気持ち良さの感じ方なんて、人それぞれ」みたいなこと言ってたけど、確かにそうだよね。
 暎子が感じた気持ち良さを、私が感じることなんて、実際は不可能なんだ。

「大輔さん……好き。こんなに誰かを好きになるなんて、思ってなかった」
 明日香は彼の胸に顔を埋めた。

「大輔さん。私、大輔さんの特別になりたいな……大輔さんの一番の、特別」
「とっくになってるよ」

 大輔は愛おしそうに彼女の髪や頬を撫で、穏やかな声でこう続けた。
「明日香。俺にとって君は、本当に特別な女性だよ。愛してる」

 大輔は彼女を仰向けにさせ、唇を合わせた。
 明日香が招くように彼の臀部に手をあてると、大輔は深く腰を沈めていった。
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