13 / 38
第一章 星野恭子
第十三話 卑怯な男
しおりを挟む
大学三年の夏休みを、大輔は心ゆくまで堪能した。
期間中は殆ど彼女の部屋で過ごし、彼女の家から予備校に通った。海水浴を兼ねた温泉旅行も十二分に満喫し、彼は念願の【彼女と海水浴】のイベントを達成した。
お盆休みに帰省した姉は、「大学生の癖に、彼女と同棲なんて生意気」と火を噴いて怒ったが、浮かれた大輔には馬耳東風であった。
彼の理想の大学生像は、着実に完璧なものに仕上がっていた。
夏休みが明け、大学では後期の授業が始まった。
九月下旬。東京はまだ夏のような暑さだった。
この暑さの中、大学に向かう気などとてもなれなかったが、初日にサボるとサボり癖がついてしまう。
汗をにじませながら登校した大輔だったが、目的の授業が急遽休講となり、見事に出鼻を挫かれる。
「恭子さん。今日これから、そっちに行くよ」
携帯電話の留守電にメッセージを残しつつ、彼女の部屋に向かう。
折角ここまで来たのだから、彼女の部屋に寄っていこう。
彼女に会うのは、実に一週間ぶりだ。
夏休みずっと彼女のアパートで寝泊まりしていたせいか、ものすごく久しぶりな感じがする。
折り返しの電話かメールが来るかと期待していたが、着信のないまま彼女の部屋の前に到着してしまった。
携帯電話を改めて確認してみるが、やはり着信はない。彼女の連絡無精は未だに健在だった。
襷がけにしている鞄から、アヒルのキーホルダーの付いた鍵を取り出す。
鍵を挿し込んで、ノブを回す。
扉を引いて中を覗いた彼は、思わず声を呑んだ。
「えっ……なっ……」
部屋の中に、何もない。
彼女の姿はおろか、家具も照明もカーテンも、何もない。
彼女の部屋は、空室になっていた。
「ちょ、ちょっと……なにこれ? どうなってるの?」
誰に話しかけるでもなく、独り言を呟く。
三歩下がって部屋番号を改めて確認するが、間違ってはいない。
靴を脱ぎ捨てて部屋に上がる。
ガランと広がった、フローリングの床。
ベッドやクローゼットが置いてあった場所には僅かに痕跡が残っていて、ついこの間まで主が存在していたことを物語っていた。
部屋の真ん中で、呆然と立ち尽くす。
徐々に肩で呼吸を始める。
どういうこと?
これって、どういうこと?
引っ越したってこと、だよな。
俺に黙って、引っ越したってことだよな。
携帯を取り出して、もう一度恭子に電話を掛ける。
コール音が続いた後、留守番電話に切り替わる。
「恭子さん、今、部屋に来たよ。どういうこと? 今どこにいるの?」
努めて冷静に喋る。
「引っ越したの? なんで教えてくれなかったの? なんで……」
大きく息を吸う大輔。
「なんで勝手にいなくなるんだよ!!」
****
大輔は大急ぎで駅に戻り、大学に引き返した。
空き部屋から金子に電話をかけ、恭子が今大学にいると聞かされたからだ。
『冷静に話すって約束するなら、恭子に会わせてあげるよ』
多摩動物公園駅から走ってトンネルを抜け、構内に向かって進む。
運動があまり得意ではない大輔。すぐに息が切れ、脚が動かなくなる。
それでも、休んでは走り休んでは走り。滝のような汗を流しながら、金子が指定した中央図書館に向かう。
図書館の二階の入り口に、金子が立っていた。
「恭子、階段の下にいるよ」
外階段を下った先を覗くと、恭子が所在なげに佇んでいるのが見える。
無言で階段を降りようとすると、金子に腕を掴まれた。
「約束は守ってよ」
「そのつもりです」
顎から汗を滴り落としつつも、落ち着いた口調で返す。
一階に下りると、彼女はぎこちない笑顔を見せた。
海で日焼けしたブロンズ色の彼女の肌に、真っ白いシャツが映えている。
彼が数えきれないほど触れたその胸元には、ピンクゴールドのネックレスが光っていた。
大輔は黙ったまま彼女の眼の前に立ち、ポケットから鍵を取り出した。恭子の部屋の鍵である。
「これ、返さないと大家さんに怒られるでしょ」
日ごろから柔和な大輔であったが、その殊更泰然とした態度が、逆に彼の怒りを如実に表していた。
恭子は彼と視線を合わせることなく、鍵を受け取る。
「留守電ですごく怒ってたから、怒鳴られるかと思った」
「電車に乗ってる間に、頭が冷えたよ」
自嘲する大輔。
本当は頭など全く冷えていない。
今すぐ、胸につかえているものを全部吐きだしたいぐらいだ。
しかし、構内で怒鳴るわけにはいかない。また金子に殴られるのがオチだ。
彼女が黙って消えた理由は、なんとなく想像がつく。
俺のことが、鬱陶しくなったんだろう。
セックスだけの関係で十分満足なのに、海に連れて行かれたり、水族館や遊園地へ連れまわされたり。
俺の理想とする【恋人と過ごす夏休み】に付き合わされて、時間も金も使わされて。こんな状態がこれから先も続くのかと、うんざりしたんだろう。事実彼女は、どこへ行っても、あまり楽しそうではなかった。
その容姿ゆえにどこでも注目を集める彼女は、人目に付く場所に出かけることを嫌った。
口先では「見られても気にしてない」と言っていたが、本心は違っていた。
できれば目立たない場所で、極端に言えば自宅から一歩も出ずに、恋人と一緒の時間を過ごせればそれで良かった。
だけど俺は、それじゃ満足できなかった。
初めて彼女が出来て。嬉しくてたまらなくて。
あちこちに連れ回して、見せびらかしたかった。
彼女は、情夫を求めていた。
俺は、アクセサリーのような恋人を求めていた。
俺たちは、初めから求めるものが違っていたんだ。
大輔は鞄のベルトを握り締め、彼女に問う。
「いつから?」
「え?」
「別れようって、いつから思ってた?」
あちこちに視線を泳がしながら、恭子が答える。
「大輔君が……寝込んだあたりから」
「今年のゴールデンウィーク?」
「そう」
「そっか。結構前からだね」
「……うん」
ここでようやく、大輔は額の汗を拭った。
「それだけ知りたかったから。じゃあ」
踵を返して北門へ歩いていこうとすると、恭子が引き留める。
「『どうして』って……訊かないの?」
彼女の言葉に、冷ややかな顔の大輔が振り返る。その顔は冷静と言うより、冷淡と表現するほうが適当であった。
「『どうして』? どうしてって、そりゃ『好きじゃなくなったから』じゃないの」
「……『そうじゃない』って言ったら?」
彼女の返事に、大輔は眉を吊り上げて露骨に苛立った。
「なに? 『好きだけど、さようなら』とか言いたいの? やめてくれないかな、そういうの。振られる方からしたら、たまったもんじゃないよ」
彼の中の地雷を踏んだと察した恭子は、顔を強張らせて押し黙る。
「じゃあ訊くけどさ、今でも俺のこと好きなの? だったら別れるのやめようよ」
「……」
「ほら、返せない。結局恭子さんは、綺麗に終わらせたいだけでしょ? でもね、それは振る側のエゴだよ」
「私、そんなつもりじゃ……」
大きな瞳に涙を溜める恭子。
大輔は唇を噛んだ。
イヤだ。
もう彼女の口から何も聞きたくない。
もう彼女の泣き顔も見たくない。
俺の頭から、彼女の記憶を消し去ってしまいたい。
振られるって、こういうことなのか。
傷つけられて、悲しみの針が振り切れてしまうと、相手の存在まで否定してしまうのか。
「ごめん。きつい言い方して。でも俺も動揺しているんだ」
彼女のことが本気で好きだった。
たしかに頑固なところはあったけど、それを覆い隠して余りあるほどの魅力が、彼女にはあった。
胸が痛い。
針で刺されているように、ズキズキと痛む。
これは、失恋の痛みなのか、彼女を傷つけている痛みなのか。
この痛みを、彼女も感じているのだろうか。
「恭子さん、ごめん。俺、もう行くよ」
「大輔君……」
そんな顔しないで。
振ったのは恭子さんの方なんだよ。
俺は、君に振られたんだ。
「俺さ、恭子さんみたいに大人じゃないんだ。『いつまでも仲のいい友達で』なんて、とても言えない。ただ、恭子さんに会えて、一緒に居られて良かったよ。沢山いろんなこと教えてもらったし、楽しかった。ありがとう。それだけは言っておくよ」
淡々と礼を述べる大輔にむけて、恭子が声を震わせる。
「大輔君。私、あなたのことが本当に好きだった。でも、私はあなたには相応しくないの。本当にごめんね」
大輔は返事をせずに、彼女に背を向けて歩き出す。
どうして言うんだよ。
気づかないようにしていたのに。
わかってるよ。本当はわかってる。
君は俺のことを嫌ってなんかいない。
鬱陶しいなんて思ってなんかいない。
君は俺のために身を引いたんだ。
俺の足を引っ張ってるって、思ったんだ。
ゴールデンウィークに倒れて、俺が限界まで無理してるって、それが自分のせいだと思い込んで。
このままじゃ俺が駄目になって、試験も落ちるって。
俺は卑怯だ。
そうだと分かっていながら、彼女に問い詰めなかった。
心のどこかで、彼女とこのまま付き合い続けていたら、試験は無理かもしれないと思っていた。
公務員を諦めないにしても、レベルは落とすべきかもしれないと、本当は考えていた。
彼女が消えた時、どこかホッとしている自分がいた。
それを、認めたくなかった。
認められなかった。
「ごめん。恭子さん、俺のほうなんだ。君に相応しくないのは、俺の方なんだ」
奥歯を噛み締めて、走り出す。
額から汗が吹き出し、目に染みる。
大輔は頬を伝う涙を拭い、トンネルをくぐった。
期間中は殆ど彼女の部屋で過ごし、彼女の家から予備校に通った。海水浴を兼ねた温泉旅行も十二分に満喫し、彼は念願の【彼女と海水浴】のイベントを達成した。
お盆休みに帰省した姉は、「大学生の癖に、彼女と同棲なんて生意気」と火を噴いて怒ったが、浮かれた大輔には馬耳東風であった。
彼の理想の大学生像は、着実に完璧なものに仕上がっていた。
夏休みが明け、大学では後期の授業が始まった。
九月下旬。東京はまだ夏のような暑さだった。
この暑さの中、大学に向かう気などとてもなれなかったが、初日にサボるとサボり癖がついてしまう。
汗をにじませながら登校した大輔だったが、目的の授業が急遽休講となり、見事に出鼻を挫かれる。
「恭子さん。今日これから、そっちに行くよ」
携帯電話の留守電にメッセージを残しつつ、彼女の部屋に向かう。
折角ここまで来たのだから、彼女の部屋に寄っていこう。
彼女に会うのは、実に一週間ぶりだ。
夏休みずっと彼女のアパートで寝泊まりしていたせいか、ものすごく久しぶりな感じがする。
折り返しの電話かメールが来るかと期待していたが、着信のないまま彼女の部屋の前に到着してしまった。
携帯電話を改めて確認してみるが、やはり着信はない。彼女の連絡無精は未だに健在だった。
襷がけにしている鞄から、アヒルのキーホルダーの付いた鍵を取り出す。
鍵を挿し込んで、ノブを回す。
扉を引いて中を覗いた彼は、思わず声を呑んだ。
「えっ……なっ……」
部屋の中に、何もない。
彼女の姿はおろか、家具も照明もカーテンも、何もない。
彼女の部屋は、空室になっていた。
「ちょ、ちょっと……なにこれ? どうなってるの?」
誰に話しかけるでもなく、独り言を呟く。
三歩下がって部屋番号を改めて確認するが、間違ってはいない。
靴を脱ぎ捨てて部屋に上がる。
ガランと広がった、フローリングの床。
ベッドやクローゼットが置いてあった場所には僅かに痕跡が残っていて、ついこの間まで主が存在していたことを物語っていた。
部屋の真ん中で、呆然と立ち尽くす。
徐々に肩で呼吸を始める。
どういうこと?
これって、どういうこと?
引っ越したってこと、だよな。
俺に黙って、引っ越したってことだよな。
携帯を取り出して、もう一度恭子に電話を掛ける。
コール音が続いた後、留守番電話に切り替わる。
「恭子さん、今、部屋に来たよ。どういうこと? 今どこにいるの?」
努めて冷静に喋る。
「引っ越したの? なんで教えてくれなかったの? なんで……」
大きく息を吸う大輔。
「なんで勝手にいなくなるんだよ!!」
****
大輔は大急ぎで駅に戻り、大学に引き返した。
空き部屋から金子に電話をかけ、恭子が今大学にいると聞かされたからだ。
『冷静に話すって約束するなら、恭子に会わせてあげるよ』
多摩動物公園駅から走ってトンネルを抜け、構内に向かって進む。
運動があまり得意ではない大輔。すぐに息が切れ、脚が動かなくなる。
それでも、休んでは走り休んでは走り。滝のような汗を流しながら、金子が指定した中央図書館に向かう。
図書館の二階の入り口に、金子が立っていた。
「恭子、階段の下にいるよ」
外階段を下った先を覗くと、恭子が所在なげに佇んでいるのが見える。
無言で階段を降りようとすると、金子に腕を掴まれた。
「約束は守ってよ」
「そのつもりです」
顎から汗を滴り落としつつも、落ち着いた口調で返す。
一階に下りると、彼女はぎこちない笑顔を見せた。
海で日焼けしたブロンズ色の彼女の肌に、真っ白いシャツが映えている。
彼が数えきれないほど触れたその胸元には、ピンクゴールドのネックレスが光っていた。
大輔は黙ったまま彼女の眼の前に立ち、ポケットから鍵を取り出した。恭子の部屋の鍵である。
「これ、返さないと大家さんに怒られるでしょ」
日ごろから柔和な大輔であったが、その殊更泰然とした態度が、逆に彼の怒りを如実に表していた。
恭子は彼と視線を合わせることなく、鍵を受け取る。
「留守電ですごく怒ってたから、怒鳴られるかと思った」
「電車に乗ってる間に、頭が冷えたよ」
自嘲する大輔。
本当は頭など全く冷えていない。
今すぐ、胸につかえているものを全部吐きだしたいぐらいだ。
しかし、構内で怒鳴るわけにはいかない。また金子に殴られるのがオチだ。
彼女が黙って消えた理由は、なんとなく想像がつく。
俺のことが、鬱陶しくなったんだろう。
セックスだけの関係で十分満足なのに、海に連れて行かれたり、水族館や遊園地へ連れまわされたり。
俺の理想とする【恋人と過ごす夏休み】に付き合わされて、時間も金も使わされて。こんな状態がこれから先も続くのかと、うんざりしたんだろう。事実彼女は、どこへ行っても、あまり楽しそうではなかった。
その容姿ゆえにどこでも注目を集める彼女は、人目に付く場所に出かけることを嫌った。
口先では「見られても気にしてない」と言っていたが、本心は違っていた。
できれば目立たない場所で、極端に言えば自宅から一歩も出ずに、恋人と一緒の時間を過ごせればそれで良かった。
だけど俺は、それじゃ満足できなかった。
初めて彼女が出来て。嬉しくてたまらなくて。
あちこちに連れ回して、見せびらかしたかった。
彼女は、情夫を求めていた。
俺は、アクセサリーのような恋人を求めていた。
俺たちは、初めから求めるものが違っていたんだ。
大輔は鞄のベルトを握り締め、彼女に問う。
「いつから?」
「え?」
「別れようって、いつから思ってた?」
あちこちに視線を泳がしながら、恭子が答える。
「大輔君が……寝込んだあたりから」
「今年のゴールデンウィーク?」
「そう」
「そっか。結構前からだね」
「……うん」
ここでようやく、大輔は額の汗を拭った。
「それだけ知りたかったから。じゃあ」
踵を返して北門へ歩いていこうとすると、恭子が引き留める。
「『どうして』って……訊かないの?」
彼女の言葉に、冷ややかな顔の大輔が振り返る。その顔は冷静と言うより、冷淡と表現するほうが適当であった。
「『どうして』? どうしてって、そりゃ『好きじゃなくなったから』じゃないの」
「……『そうじゃない』って言ったら?」
彼女の返事に、大輔は眉を吊り上げて露骨に苛立った。
「なに? 『好きだけど、さようなら』とか言いたいの? やめてくれないかな、そういうの。振られる方からしたら、たまったもんじゃないよ」
彼の中の地雷を踏んだと察した恭子は、顔を強張らせて押し黙る。
「じゃあ訊くけどさ、今でも俺のこと好きなの? だったら別れるのやめようよ」
「……」
「ほら、返せない。結局恭子さんは、綺麗に終わらせたいだけでしょ? でもね、それは振る側のエゴだよ」
「私、そんなつもりじゃ……」
大きな瞳に涙を溜める恭子。
大輔は唇を噛んだ。
イヤだ。
もう彼女の口から何も聞きたくない。
もう彼女の泣き顔も見たくない。
俺の頭から、彼女の記憶を消し去ってしまいたい。
振られるって、こういうことなのか。
傷つけられて、悲しみの針が振り切れてしまうと、相手の存在まで否定してしまうのか。
「ごめん。きつい言い方して。でも俺も動揺しているんだ」
彼女のことが本気で好きだった。
たしかに頑固なところはあったけど、それを覆い隠して余りあるほどの魅力が、彼女にはあった。
胸が痛い。
針で刺されているように、ズキズキと痛む。
これは、失恋の痛みなのか、彼女を傷つけている痛みなのか。
この痛みを、彼女も感じているのだろうか。
「恭子さん、ごめん。俺、もう行くよ」
「大輔君……」
そんな顔しないで。
振ったのは恭子さんの方なんだよ。
俺は、君に振られたんだ。
「俺さ、恭子さんみたいに大人じゃないんだ。『いつまでも仲のいい友達で』なんて、とても言えない。ただ、恭子さんに会えて、一緒に居られて良かったよ。沢山いろんなこと教えてもらったし、楽しかった。ありがとう。それだけは言っておくよ」
淡々と礼を述べる大輔にむけて、恭子が声を震わせる。
「大輔君。私、あなたのことが本当に好きだった。でも、私はあなたには相応しくないの。本当にごめんね」
大輔は返事をせずに、彼女に背を向けて歩き出す。
どうして言うんだよ。
気づかないようにしていたのに。
わかってるよ。本当はわかってる。
君は俺のことを嫌ってなんかいない。
鬱陶しいなんて思ってなんかいない。
君は俺のために身を引いたんだ。
俺の足を引っ張ってるって、思ったんだ。
ゴールデンウィークに倒れて、俺が限界まで無理してるって、それが自分のせいだと思い込んで。
このままじゃ俺が駄目になって、試験も落ちるって。
俺は卑怯だ。
そうだと分かっていながら、彼女に問い詰めなかった。
心のどこかで、彼女とこのまま付き合い続けていたら、試験は無理かもしれないと思っていた。
公務員を諦めないにしても、レベルは落とすべきかもしれないと、本当は考えていた。
彼女が消えた時、どこかホッとしている自分がいた。
それを、認めたくなかった。
認められなかった。
「ごめん。恭子さん、俺のほうなんだ。君に相応しくないのは、俺の方なんだ」
奥歯を噛み締めて、走り出す。
額から汗が吹き出し、目に染みる。
大輔は頬を伝う涙を拭い、トンネルをくぐった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる