所詮俺は、彼女たちの性の踏み台だった。

並河コネル

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第五章 宮守明日香【後編】

第二十八話 愛情表現 *

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 週が明け、再び土曜日がやってきた。

 あれから二人は、毎週土曜日に会おうと約束をした。
 明日香はもっと頻繁に会いたがったが、大輔としてはまだ完全にセックスに自信が付いたわけではない。不審がられない程度にやんわりと断り、間隔を保つようにした。


 浦和で待ち合わせをして食事を楽しんだ後、大輔は彼女を部屋に招き入れる。
 玄関に入るなり、明日香は爪先立ちになって彼に抱き着き、強引にキスをしてきた。

「大輔さんっ……」
「明日香……今日は随分、積極的だね」
 彼女の唇を見つめながら大輔が囁くと、明日香は甘美な息を吐いた。

「私、この間の夜のことが、頭から離れなくて……」
「俺もだよ。俺も、この一週間ずっと、明日香のこと考えてた」
「……嬉しい」
 二人は再び唇を重ねる。

 キスをしながらベッドルームに入って行く二人。
 リボン結びにしたベルトを自らほどこうとする彼女を見て、大輔が尋ねる。

「明日香。シャワー浴びなくて良いの? 大丈夫?」
「……浴びる」
「じゃあ、入っておいで。脱がせてあげたいけど、そうすると俺、止まらなくなっちゃいそうだから。明日香が出たら、俺も入るよ」

 彼女の腰に手を添えて、バスルームに連れていく大輔。すると明日香は、身体を反転させて抱き着いてきた。 
「やっぱりイヤ!」

 唇を押し付けるようにキスをし、舌を潜りこませてくる明日香。
 大輔は彼女の背中に腕を回し、その体を受け止めた。 

「したいの……今すぐ」
「俺も。今すぐ明日香を抱きたい」
「大輔さん……」
 
 抱き合いながら寝室に入ると、大輔は恋人をベッドに横たわらせ、首筋に舌をなでつけた。
「先にセックスして、そのあと二人で一緒に、お風呂に入ろう」
「……うん」

 彼はジャケットを脱ぎ、明日香のワンピースの前ボタンを外しにかかる。接吻を間に挟みながらも、彼女をあっという間に下着姿にした。

「明日香、自分でブラ外して。俺の前で脱いで見せて」
「恥ずかしい……」
「明日香のおっぱいが見たい」
「もう、やだぁ……」

 そう言いつつも、明日香は徐にブラジャーを外す。片手で胸を隠し、下着を床に放り投げた。
 大輔自身もボクサーパンツ一枚になり、胸を隠している彼女の腕を剥がす。

「綺麗だよ、明日香」
「……本当?」
「うん。今すぐかぶりつきたい」
「恥ずかしいけど……嬉しい」
 
 あまり落差のない胸の谷間に、大輔が唇を当てる。舌の先でチロチロと乳首を舐めると、明日香は早々と息を荒らげた。
 彼女が太腿を擦り合わせているのを確認すると、片方の手で胸を揉み、もう片方の手で陰部を撫でる。

「すごいよ明日香。下着の上からでも、濡れてるのがわかる」
「大輔さん……気持ちいい……感じるの……」
「今日もいっぱい、舐めてあげるよ」
「だめぇ……」

 乳首を吸いながら、ショーツを脱ぐように彼女を誘導する大輔。躊躇なく全裸になった明日香が彼を求める。
「大輔さん、キスして。お願い」
「うん。たくさんしよう」

 奪い合うように口づけを交わし、大輔は彼女の秘部を指先で柔らかく撫でた。唇を合わせながら悶える明日香。
「んんっ……ん……あっ、んっ!!」 

 彼の指が中に入ってくると、堪えきれずに口を放して仰け反る。
「あああ……」
「明日香、気持ちよくしてあげる」
 
 いったん指を抜いてから、改めて二本の指を蜜壺に挿し込む。愛しい人の喘ぎ声を聞きながら、頭を下げていく。淫らな湿気が漂う茂みに顔を埋め、大輔は丁寧に陰核を舐めた。

 明日香は足をバタつかせながら、彼の頭を引きはがそうとする。
「だめっ! やっぱりだめっ、大輔さんっ……」

 頭を下げたまま応える大輔。
「明日香、イクことを意識しちゃダメだよ。明日香が気持ち良くなることが、一番大事なんだから。イクのはオマケぐらいに考えて。もっとリラックスして」
「でも……」
 不安そうに眉を下げる明日香。

「俺のこと見て、明日香。ほら、明日香の中に指を入れてるよ。たまらないよ、明日香の中。あったかくて、すごく潤ってる」
 指をゆっくり出し入れしながら囁くと、明日香は熱を帯びた息を吐き、上半身を捻らせた。

「感じてくれてるんだね。凄く嬉しいよ。君が愛おしい。全部舐め尽くしたい」
 膨れ上がった桃色の粒をゆっくりと舐めると、彼女が腰を反らせ始める。

「あっ、だめっ……ああっ、大輔さん!!」
 明日香は小刻みに体を震わせると、大輔の頭を抑えていた手を脱力させた。

 絶頂に達した明日香が、赤い顔で手を伸ばしてくる。
「大輔さん、こっちに来て。抱き締めて」

 お互いに抱き合い、唇を重ね合う。
 大輔は彼女の耳の後ろや首筋にもキスをし、乳房を揉みながら尋ねた。

「明日香……そろそろ挿れても、いい?」
「……うん」

 彼女の頬に口づけをし、大輔はベッド脇のナイトテーブルに手を伸ばす。
 引き出しから避妊具の箱を取り出して、中を開けようとした時。

「待って」
 明日香がその腕を掴んで引き止める。

「どうしたの?」
 大輔が問いかけると、彼女は彼が恐れていた言葉を発した。

「大輔さんの、触りたい」

 彼女の申し出に、途端に顔を強張らせる。
「どうしたの、急に」

「この間もそうだけど、私、大輔さんのに、全然触ってないから。触りたいなって思って」
 悪戯っぽい顔で話す明日香。

 なんでそんなこと言いだすんだ。
 今までそんな素振り、全然見せなかったのに。

「無理にしてくれなくていいよ」
「無理なんかじゃないよ」
「俺が舐めたから、自分もやらなきゃって思ってない?」
「思ってないよ」
「お返しとかそういうのだったら、別にいいよ。そういうの、要らないから」

 頼む。頼むから、この話はお終いにしてくれ。
 黙って俺に、抱かれて欲しい。

「どうしたの、大輔さん……なんか変だよ」
 明らかに普段と様子が違う大輔に、明日香は途端に狼狽うろたえだす。

「私、大輔さんの気に障るようなこと、なにかした?」
「してないよ」
「じゃあなんで……」

 悄然とした彼女に向けて、大輔は必死に笑顔を作った。
「明日香の気がすすまないこと、させたくないんだよ」

 桃色に染まっていた彼女の肌が、みるみる白くなっていく。
 先ほどまでの幸せそうな表情は失せ、悲壮な顔に変貌していく。大輔は胸が痛んだ。

「大輔さん、私に触られたくないんだね。だったらハッキリ言って欲しかったな。回りくどいのなんて、大輔さんらしくないよ。『遠慮しないで』って言ったの、大輔さんじゃない」

 大輔は応えられなかった。
 そうじゃない。
 触られたくないんじゃない。
 好きな人に、愛している人に触られたくない男なんて、いるわけないだろ。

 君に触れられて、自分がどうなってしまうのかわからない。
 それを見て、君がどう感じるか。どう思うのか。
 それを想像するのが怖いんだ。

「ごめんなさい。今日は、もう帰るね……」
 声を裏返しながらベッドから降りる明日香。

 ここで君を見送ってしまったほうが、君のためかもしれない。
 君はもう俺とのセックスで、エクスタシーも経験した。
 俺の役目は、ここまでなのかもしれない。
 性器を触られるのが怖い男なんて、セフレ失格だろ?

「明日香」
 その思考とは裏腹に、大輔は無意識にベッドから降りていた。下着を拾う彼女を背中から抱き締める。

 明日香は彼から顔を背けた。彼女の横顔は、今まで見たことがないぐらい悲しみに満ちていた。唇を噛み締め、瞳を朱色に染め、瞼には涙が溜まっている。

「ごめん……俺が悪かった」
「大輔さん……」
 声を上ずらせる明日香の身体を、きつく抱きしめる。 

 明日香。
 俺はやっぱり、君のことが諦められないよ。 
 君にとって、もっと素晴らしい未来が他にあるとしても、俺の隣にいて欲しい。
 こんな情けないオッサンだけど、君のそばにいさせて欲しい。

 彼女の両肩をつかみ、自分と向き合わせる大輔。
 明日香の瞳から涙がこぼれると、彼は唇でそれを拭った。

「明日香は悪くないよ。何も悪くない。俺が、男らしくなかった。ごめん。ちゃんと話すよ」

 大輔はベッドの中で、彼女に全てを話して聞かせた。恭子のこと、千夏のこと、綾乃のこと。セックスが、恋愛が、怖くなってしまっていたこと。
 
 ****

「大輔さんの初めての彼女って、そんなに大胆な人だったんだ……初めてのセックスがその人とじゃ……基準も狂うよね」

 二人はバスルームで湯船につかっていた。

 大輔の告白を受けて、明日香は驚くと同時にとても嬉しそうだった。
 彼が包み隠さず打ち明けてくれたこと。そして自分が彼を変える女性になれたこと。それらを誇りに思っているようだった。
 そして話を終えた二人は、一緒に入浴をすることにした。

「大輔さんは、最初の彼女のこと恨んでる?」
「恨んでなんかないよ。これは俺自身の問題だからね。彼女との時間は素晴らしかったよ。俺なんかには勿体ない女性だった」

 大輔は彼女を太腿に乗せて、背中から抱きしめていた。明日香の首や頬にキスをすると、彼女は気持ちよさそうに目を閉じる。

「そんなに素敵な人だったんだ」
「まぁね。勉強ばっかで世間知らずだった俺に、セックスだけじゃなくて、色んなことを教えてくれた。同い年とは、とても思えなかったよ」
 
 不満そうに口を尖らせた明日香が、腹の上にある彼の掌を握った。
「なんか、ヤキモチ焼いちゃう」
「昔の話だよ」
 彼女の顔に唇を近づけると、明日香は顎をあげて唇を重ねた。

「私ね、大輔さんのことが全部知りたいし、全部に触れたいの。大輔さんは嫌かもしれないけど、我慢して私に付き合ってよ」

 予想外の提案に、戸惑う大輔。
 てっきり、「それなら私も触らない」と言ってくると思っていた。

「萎えちゃったら、またイチからやり直しでもいいし、そのままその日はナシでもいい。どうしても嫌って言うなら、終わってからでもいいの。お願い、私に触らせて。それで、大輔さんがされて嬉しいこと、してあげたいの。でも私下手だから、あんまり期待しないでね」
 
 屈託なく笑顔を見せる彼女を見て、大輔は自身が彼女を見誤っていたと痛感した。
 恐らく彼女は、口淫が好きなわけでも、得意なわけでもない。
 しかしそういった行為で、愛情を示したいと思っている。

 自分もそうだ。
 彼女を気持ちよくしてあげたいから、やっている。
 見返りなんて、どうでもいい。

 愛しい人への愛情表現。
 それが前戯であり、セックスなんだ。

「ありがとう、明日香。酷い言い方して、本当にごめん」
 大輔は愛おしそうに、彼女の首筋に唇を当てる。

「君に会えて、俺はすごく幸せだよ。明日香、君を愛してる」
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