そして家族になる

小貝川リン子

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第五章 繋がる心

クリスマス・プレゼント① ※

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 穏やかな目覚め。カーテンから差し込む朝日が優しく瞼を撫でる。珍しいことに、千紘は颯希より先に目が覚めた。
 
「んん……」
 
 でもまだ寝ていたくて寝返りを打つと、颯希の肌に触れた。昨晩、颯希は千紘にパジャマを着させる余裕はあったのに、自分は下着姿のままで眠ったのだろう。
 
 ひとのことばかり考えて、自分のことはなおざりで、そんな颯希が千紘は好きだったけれど、いつか風邪でも引くんじゃないかと心配になる。
 
 千紘は、颯希の胸に耳を当てた。ゆっくりと心臓が脈打つのが伝わる。体内を巡る血は温かくて気持ちがいい。体温を分け合いたくて、千紘も服を脱いだ。
 
 起こさないようにそっと抱きつけば、しっとりした肌がぴったりと密着する。颯希の温もり、心臓の音、巡る血潮を直に感じる。温かくて、気持ちがいい。
 
 千紘はうっとりと目を瞑った。颯希が目を覚ますまで、しばらくこのままじっとしていよう。そう思ったのだが。
 
 千紘は気付いてしまった。颯希の下腹部の違和感に。薄い布をはち切れんばかりに押し上げる、勇猛果敢な膨らみに。下着越しに撫でてみれば、鼓動と同じリズムで脈打っているのが伝わる。
 
 朝勃ちだ。千紘にも経験がある。しかし颯希がしているのは初めて見た。いつも千紘の方が遅く起きるから見る機会がなかっただけで、颯希も健康な青年らしくしっかり朝勃ちするらしい。
 
 千紘はもぞもぞと布団に潜り込んで、猛り勃ったそれを窮屈そうな下着から救出した。布団の中に性の残り香が充満し、千紘は生唾を飲んだ。昨晩玄関でした時よりも清潔そうな、それでいて濃厚な颯希の匂いだ。
 
 舐める前に、好きなだけ匂いを嗅ぐ。颯希が寝ているから、やりたい放題だ。起きていたら絶対にやめさせられるだろうし、颯希も千紘を触ってくるから、匂いを嗅ぐことに集中できない。
 
 だんだん、後ろが切なくなってきた。昨夜の名残で容易く熱を持つ。思わず手が伸びていた。くちゅ、といやらしい音を鳴らして、そこは指を呑み込んだ。
 
 外側は乾いているのに、内側はどろどろに蕩けている。熱い。柔らかい。自分の体がこんなにいやらしいなんて知らなかった。
 
「ん……ンぅ……」
 
 颯希の温もりと匂いを全身で感じながら、くちゅ、くちゅ、と音を立てて後ろを慣らす。まるで颯希にしてもらっているように、自らに錯覚させる。
 
 けれど、やっぱり何かが違う。決定的に何かが足りない。自分の指なんかじゃ絶対に届かない場所がある。もっと奥の気持ちいい場所を、颯希に触ってもらいたい。胎の奥が切なく疼く。きゅうん、と指を甘噛みする。
 
 千紘は下着を脱ぎ捨て、颯希に跨った。滲み出てきた愛液と先走り汁とを擦り合わせ、互いの性器に塗り付けて、その滑りを利用して恐る恐る腰を落とした。
 
「んんっ……!」
 
 いつも、颯希任せのセックスをしていた。キスで甘やかされ、前戯で蕩けさせられ、挿入はまずは正常位、二回目があるとしたらバックで、これも全部颯希がリードしてくれる。
 
 だから、たまには千紘が主導権を握ってもいいんじゃないだろうか。千紘が腰を振って颯希を気持ちよくさせてあげる、そういうセックスをしても。
 
「あぁんっ!」
 
 ようやく根元まで埋まった。いつもより深く突き刺さっている。内臓が圧迫されるような感覚があり、少し苦しい。苦しいけれど、じわじわと快感が上ってくる。ただ挿れただけなのに、微動だにせずにいるというのに、快感がどんどん体を侵食していく。
 
「あっ、はぁン、やば、これぇ……っ」
「……おい」
「……!」
 
 寝起きの低く掠れた声が響き、千紘は顔を上げた。安眠を邪魔されて怒っているのか、颯希の目付きは鋭い。
 
「……オハヨ」
 
 颯希は無言のまま千紘の腰を掴み、下から激しく突き上げた。ずどん、と尻から脳天まで一直線に衝撃が走り、千紘は、嬌声というには艶っぽさの足りない悲鳴を上げた。
 
「ん゛ぁァッ! あっ、ぁ、あ、あぁ゛っ! やめ、や゛、まっで、まってぇ゛っ!」
「昨日散々したのに、まだ足りなかったか。このエロガキ」
「ぃがッ! い゛っ、あァ゛あっ! やだやだやらぁっ、どすどすしないれぇ゛っ!」
「お前から仕掛けてきたんだ。何されたって文句はねぇよな?」
 
 あまりに激しく揺さぶられて、下手をすると舌を噛みそうだが、口を閉じることもできない。意味を成さない文字列ばかりが勝手に溢れて、自分でもうるさいなぁと思う。
 
 颯希に跨る姿勢は辛く、千紘は上体を倒して颯希にしがみついた。こうすることで揺れは収まり、颯希にくっつけたことで安心感を得られるが、より深いストロークを可能にしてしまった。
 
 ずるる、とカリ首が穴の縁に引っ掛かるギリギリのところまで抜かれ、そこから一気に奥まで貫かれる。赤く熟れた穴の縁を、熱くて硬い肉の塊が何度も何度も押し広げ、何度も何度も擦っていく、その感覚に千紘は打ち震えた。
 
「あ゛ッ――あァ゛いく、いくいぐい゛ぃッ、ぐ――ッッ!!」
 
 激しく痙攣する腰を無理やり押さえ込まれ、胎の奥に熱い粘液がぶち撒けられた。びゅるるるっ、と勢いよく噴き出して、胎の奥のそのまた奥まで這入り込んで、種を植え付けようと必死だ。最後の一滴を注ぎ込むまで、奥をぐりぐり擦られた。
 
 千紘は、颯希にしがみついたまま動けなかった。余韻で腰がガクガク震え、膝もガクガクで使い物にならず、どういうわけか手までが震えて、文字通り指一本まともに動かせない。
 
 今の絶頂は、千紘の知るそれとは種類の違うものだった。よく分からないが、いつまでもいつまでも気持ちいい。イッた後も甘い快感が残り、じんわりと全身に広がる。指の先、つま先、脳髄の芯までじんじん痺れて、それがまた波紋のように全身に波及して。
 
「……悪い。激しくしすぎたか」
 
 颯希に撫でられると、ビクビクッ、と腰が痙攣する。皮膚まで敏感になっているらしかった。触れられるだけで、息ができないほど気持ちいい。きゅんきゅん、と後ろが颯希を締め付ける。
 
「っ……抜くぞ」
「ぁ、やだぁ、ぬかないでぇ……」
「ばか……」
 
 にゅるん、と色々な液体の残滓を纏ったそれを引き抜かれる。たったそれだけの刺激が、今の千紘にとっては十分な快感だった。
 
「んぁぁ……♡」
「なんて声出してんだ……」
 
 颯希は、自力では動けない千紘をベッドに寝かせ、自身に手を伸ばした。しかし、その手が目的を果たすことはない。颯希は顔を青くして千紘を見た。
 
「お前、これ……!」
「ん……ナマでやっちった。にへへ」
「にへへ、じゃねぇ。何やってんだ、人がせっかく……」
「だってぇ、してみたかったんだもん」
「だからって」
「さつきぃ……もっかいしてぇ?」
 
 千紘は、後ろの窄まりを両手で押し開いてねだった。股を開くより穴を広げる方が、千紘としては恥ずかしくなかったのだが、果たしてその姿は颯希の目にはどのように映っただろうか。慎ましやかな蕾が物欲しげにヒクついて白い蜜を垂らす、その光景は。
 
「んゃ゛あぁっ……! やっ、は、きたぁ゛ぁっ!」
 
 一息に熱杭を打ち込まれた。乱暴に突き刺されたのに、痛みなんて全くない。気持ちいいのと、空白を埋めてもらえた充足感とでいっぱいだった。
 
「っ……その声やめろって」
「だってぇ゛っ、きもち、ひっ、きもぢぃからぁ゛っ」
「なんでそんなに煽るんだよ……っ」
 
 颯希は千紘の脚を抱え、激しく腰を揺すった。ぐちゅぐちゅ、ぬちゅぬちゅ、いやらしい水音がリズムを刻む。ギシギシとベッドが軋んだ悲鳴を上げる。千紘もまた、喉を引き攣らせて喘いだ。喘いでいるのか叫んでいるのか、もう分からない。
 
 エラの張ったカリ首の段差を使って、前立腺をごりゅごりゅ擦られる。普段から前立腺は弱いし、颯希もよく責めてくれるけれど、薄い膜がないだけで感じ方が全然違う。より強く、深く、抉られる感じがして、千紘はあっという間に達した。しかし律動は止まらない。
 
「や゛、ひっ、あ゛、ぁ゛、あァあん゛ッ! やらっ、ゃ、やぁあ゛っ!」
「なにがやなんだよ。すぐイクくせに」
「いっ、ひっ♡ いっひゃ、いっひゃうがらぁ゛っ――!」
 
 中でイクのが癖になっている。前から何も出ていないことに気付かないまま、千紘は快感に溺れた。
 
 颯希は一旦険しい顔をして動きを止め、千紘の痙攣が収まるのを待たず再び腰を打ち付ける。一突きで襞が捩れ、雄を子宮へと誘うように蠢いて、それを繰り返した後に千紘はまたも絶頂へ至る。
 
「ん゛ぁ♡ はひ、は、あぁぁ♡ やっ♡ やらぁ♡ きもひ♡ しぬぅぅ゛……っ」
「千紘……千紘、ほらこっち」
「あ゛、ァあ♡」
 
 颯希が体を倒し、優しく抱きしめてくれる。冬の朝、一番寒い時間帯なのに、触れ合う肌は汗で湿っていて、それがどうしようもなく嬉しかった。後ろも悦んで、きゅんきゅん颯希を締め付ける。
 
「さ、っきぃ……♡」
「気持ちいいな、千紘」
「きっ、きもち、ぃい♡ すきぃ♡」
「……」
 
 颯希は大きく腰をグラインドさせ、千紘の蜜壺を激しく掻き回した。粘着いた音もベッドの軋みも、己の悲鳴じみた嬌声も、今の千紘には届かなかった。目に映るのは、颯希の欲情しきった雄の表情。余裕のない獣じみた息遣い。
 
「もう、っ、出るから……っ」
 
 千紘は、自ずから迎え腰になった。浮いた腰の下に颯希の手が回り、しっかりと抱き支えてくれる。宙を蹴る足を、千紘は颯希の腰に絡めて抱きついた。
 
 もうこれ以上、一ミリだって離れたくない。一つに溶け合い、混ざり合って、一つの熱い塊となって高みへと昇り詰めたい。
 
「……っ!」
「んン゛ん゛ッ――っ♡♡」
 
 絶頂の瞬間、唇を奪われた。舌に蹂躙されながら、胎の奥に迸る熱を感じた。たっぷりと注がれたそれは一目散に子宮を目指し、千紘の中を駆け上がる。
 
 キスでイッたのか中出しでイッたのかもはや分からないが、激しく痙攣する千紘の肢体を、颯希は上から押し潰して圧迫した。奥の扉をこじ開けるように、ぐりゅぐりゅと念入りに精を擦り付ける。絶対に孕ませてやる、そんな熱情を感じる。
 
 体の外側も内側も、全てが颯希に埋め尽くされた。口の中、喉の奥、胃の腑、胎の中に至るまで、颯希のいないところはない。心臓までもが颯希に握られている。いつか颯希を産むのかもしれない。そんな訳の分からないことを、千紘は酩酊する頭の片隅で思った。
 
 はっと息を吹き返すと、颯希はいまだ千紘の中にいた。注ぎ込んだ精液が零れないようにと、栓をされているみたいだ。そんなことしなくても、零さないのに。千紘が思わず締め付けると、颯希は小さく呻いた。
 
「締めんな」
「だってぇ……かってになるしぃ……」
「悪い。もう抜くから」
 
 そう言いつつ、颯希はなかなか動こうとしない。縮んだペニスを埋め込んだまま、ちゅっちゅと千紘にキスを落とす。先ほどの貪るようなキスとは打って変わって、優しく甘やかすようなキスだ。千紘も夢中になって颯希の唇に吸い付いた。
 
「んふ、ん、ンぅ……やば、こぇ……きもひぃ♡」
 
 意識しなくても後ろが勝手にヒクヒク震える。颯希のものも硬度を取り戻しているように感じる。
 
「にゃ、ぁぅ……も、もっかいしよ……♡」
「……」
 
 颯希は眉間に皺を刻み、険しい表情をした。ベッドで見せる表情ではない。
 
「……しない」
「にゃんれ」
「にゃ……なんでもだ」
 
 颯希はきつく目を瞑り、深く溜め息を吐いた。そして、とうとう抜去した。
 
「ンぁ♡」
 
 どろり、と白い蜜が零れ落ちた。せっかくいっぱい出してもらったのにもったいない。そう思って、千紘は蕾を押さえた。まだ温かい、颯希の体温を指先に感じた。
 
「……お前ってやつはほんとに……」
 
 颯希は眉間を押さえ、またも溜め息を吐いた。
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