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条件は一つ

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 スベルド領にあるスロスト商会は、隣国も含めた貿易で利益を上げているという。
 ならば俺の通信機や蒸気自動車の販売を、一手にお任せしても良いんではないでしょうか?
 つまりは代理店の様な物なんだけど、難はちょっと遠すぎる事かな。
 まあ、蒸気自動車を何台か購入してもらって、それを使ってひたすら往復便…長距離トラックの製造も必要かな?

 ホワイト・オルター号に案内し、蒸気自動車と通信機を見せると、スロスト商会頭は、 神妙な顔で商品を見つめ乍ら、 
「なるほど…子爵様のの開発した商品を、伯爵さまの領地で製造しているのですね。そしてそれをこの街で販売する権利を、私に預けていただけると…」
「ええ…もちろん身内であるからと言うのもありますが、スロスト商会といえば大商会。お任せするに問題はございませんので」
 販売を一任すると言う俺の言葉に、スロストさんの口の端が少しだけ上がる。
「して…その権利はいかほどで?」
「無償で結構ですよ。ただし一つだけ条件がございます」
 そう、俺からの条件は一つだけ。
「お聞きしましょう。出来る条件であれば、のませて頂きます」
 儲け話を逃す手は無いもんな…ましてや大商会を率いているんだから、当たり前っちゃ~当たり前のお返事。
「私からは、出た利益の1割を使って、孤児院を設立して頂きたい。この街だけにとどまらず、この領内で飢える子供が出ない様にして欲しいのです。子供は宝。大人が働かず食うに困るのは自業自得ですが、罪もない子供を飢えさせたくは有りません。私や父の領地では、すでに子供達は手厚い保護をしておりますが、この地でもして欲しいのです。利益を恵まれない子供達に些少でも還元する、社会貢献に使う…これが条件です」
 俺の条件を聞いたスロストさんは、少し離れたマチルダさんを呼んだ。
「マチルダ…子爵様と伯爵様の領地で行っている孤児への政策の詳細を教えてほしい。私も全力で取り組みたい」
 父親の言葉にちょっと目を見開いて驚いたマチルダさんだったが、すぐに頷いた。
 まあ聞いた話だと、金の亡者とは言い過ぎだが、商売には厳しく利益を追い求め続けた父だったというから、孤児に金を使うなんて意想外な事なんんだろうな。
「子爵様…このスロスト感心いたしました。利益を還元する…社会貢献…初めて聞いた考えと言葉です。ですが、さすがネス様の使徒殿。慈愛に満ちた考えであると思います。委細了解しました。利益の2割を使い、子供達だけでなく恵まれない人々を救いましょう!」
 これには俺もマチルダさんもびっくり! だけど親戚が心のある人で良かった。
「ですが会頭。その為には儲けなければなりません。これらの卸値が…運送に関しては…」
「ほうほう! なるほど、では高値でふっかけても…それならば、この様な形で販売を…」
 俺とスロストさんの話し合いはまだまだ続くのであった。
「「ふっふっふっふっふっふっふ…」」
 周囲の冷めた目も気付かない程、商売の話に熱中した…

「あのぉ…トールヴァルド様、父さん…そろそろ食事にしたいと思うのですが…」
 マチルダさんが止めてくれなければ、まだまだ熱く語り合ってかもしれない。
 周りを見ると、母さんを中心に、また我が家の女性陣が集まって、キャッキャウフフしていた。
 あ~外はもう日も傾き始めてるなあ。
「そうだね。スロストさん、ぜひ皆さんでホワイト・オルター号で夕飯を召し上がって行ってください」
 
 私の記憶が確かならば、彼はこの世界にやって来てまだ1年にも満たない。彼の持つ異世界独特の調理法は、彼が幼馴染である少女の為に、献身的な努力により鍛え上げたのだと伝え聞いている。それは何年もの永い年月、その幼馴染を飽きさせないためであったとも、彼は語っていた。その類稀なるセンスと鍛え上げられたテクニックで、ドワーフ達が心血を注ぎ作り上げた調味料を使い、どの様な異世界料理を仕上げてくるのか楽しみである。
 さあ、幼馴染を永年唸らせた異世界料理道を極めた鉄人ユズキよ、この世界の美食を喰い尽くした大商会の会頭に、その腕を見せつけるがいい! 

『大河さん…これは流石に元ネタ知らない人が多いですよ?』
 ば、馬鹿な! こんな有名なセリフを知らない人がいるだと!?
『時代です…』
 ………

 この世界の料理は、基本的に、焼くか煮るかのどちらかである。
 しかも味付けは塩がメインだ。
 砂糖も少量出回ってはいるのだが、上白糖では無いので少々えぐみもあるにもかかわらず、お値段はお高めである。
 胡椒もあるのだが、栽培方法が確立していないので需要が安定せず、これまたお高めの贅沢品。
 なので塩味以外に中々出会えないし、出会っても甘いか胡椒で少々味変した程度。
 そこにドワーフ謹製の醤油や味噌やうま味出汁を使って、ユズキの持つ地球の調理法を駆使すればどうなるか…
 よく見るラノベの飯テロと同じ現象が起きるのは必然と言えよう。

 スロスト会頭は、もう夢中で運ばれてくる料理をかき込んでいた。
「大変おいしゅうございました」
 …会頭、そのネタは知らないはずだよな? 天然か!?

 さらに食後のデザートは、我が家の女性陣も大好きな、ユズキ特製の究極レア・チーズケーキだ! 食ってみんさい!
 ほれほれ、女性陣は恍惚とした顔で…ちょっと放映できない様な状態だけど…

「と、トールヴァルド子爵様! この料理に使っている調味料とレシピも我が商会に卸して頂けませんか!?」
 むふふ…喰いつきよったな、会頭。
 いいでしょう。後程、じっくねっとりとお話しましょうか…ふっふっふっふ
 
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