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過去を手繰る
Ep.13 勇者の剣/ルイ(2)
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◆登場人物紹介(既出のみ)
・ルイ…神の国から来た『勇者』の少女
・シア…冒険者の『サポーター』。栗毛の短髪の青年。アッシュとはこの旅の前からの付き合いがある。
・クリス…『英雄』で一行のリーダー。人間の国の第二王子。金髪の碧眼の青年
・アッシュ…冒険者の『英雄』。黒髪長身の美人
・アレク…騎士で『サポーター』。クリスの婚約者でもある。
・サム…魔法使いの『サポーター』。可愛いらしいドレスを着た、金髪巻き髪のエルフの少女
・メル…魔法使いの『英雄』。黒髪の寡黙な青年
====================
その日出会った魔獣は、ヒュドラという首が9本もある大きな蛇だった。九つの頭はそれぞれが意思を持つように違う動きをして、つまりは九つの方向から攻撃を仕掛けてくる。
対してこちらの人数は私を入れて7人だ。それぞれが一つずつの頭を相手にしたとしても、まだ人数が足りない。少なくともそのうち二人は二つの頭を相手しなければいけないのに、さらにヒュドラは尻尾をも振るって攻撃をしてくる。
なのに……
私はその戦力になる事ができなかった。
サムちゃんが水の魔法でヒュドラの体を巻き取り、動きを封じた。まだ自由に動ける九つの頭が、それぞれ私たちに向かってくる。
その一つが牙を剥いて襲い掛かって来たのをなんとか剣で受け止めたけれど、そこからどうにもできなくなった。これが精いっぱいだ。
その蛇の頭が私の剣を咥えたまま、変な臭いのする息を吐き出した。
「毒ブレスに気を付けろ!」
クリスさんの声が聞こえたけれど、もう遅い。頭からまともに浴びてしまい、息が苦しくなった。でもそれも一瞬の事で、腰に付けたバッグから温かい何かが全身に広がり、苦しさがすうと解けた。
「ナインテールのお陰で助かりました」
アレクちゃんも毒を浴びたらしい。その声に斜め前を見ると彼女の体もきらきらと光っていた。
そっか、ナインテールのアミュレットを持っていたんだっけ。毒とか麻痺とかの状態異常にある程度は耐えられるようになると聞いている。
でも毒の心配はないとはいえ、このままでずっとは居られない。何よりも、目の前に見える大蛇の牙がとても怖い……
「ルイ、お前は下がれ」
隣で戦っているシアくんから声が掛かった。
「で、でも……」
「そいつは俺が相手するからお前はサムのところまで下がれ!」
そんな事言っても、シアくんだってもうすでに一つの頭を相手にしているのに。
「大丈夫だ、私たちもいる」
アッシュさんの声で、さらにシアくんの向こうを見ると、彼女は交互に襲い来る二つの頭を相手にしながら、こっちの様子をも気にしてくれている。
「大丈夫だ」
そのシアくんの言葉で、思い切って蛇の頭を振るい払う。と、その瞬間私にだけ突風が吹いて後方に飛ばされた。派手に転ぶと思って目をつぶったのに、また別の風が吹いて優しく支えられ、少し尻もちをついただけで済んだ。
「アッシュ、流石ね」
飛ばされた先で横に居たサムちゃんが、ぽそっと小声でそう言ったのが聞こえた。
私が振り払った蛇の頭は、もうシアくんが相手をしている。アッシュさんと同じように、凄い剣さばきで2方向からの攻撃を防いでいる。
クリスさんもメルさんも、それぞれ二つを。アレクちゃんは一つだけれど、でも余裕の表情だ。
サムちゃんはヒュドラの体と尾の動きを止める為に、次々に水の魔法を繰り出して拘束している。
私だけが…… 何も出来ていない……
ギャッ!
気持ち悪い鳴き声に目を向けると、クリスさんが蛇の首の一つを切り落としたところだった。が、その首の断面がみるみるうちに盛り上がり、あっという間に蛇の頭の形になった。何あれ、気持ち悪い。
「再生能力だ。切ってもまた首が生えてくる。これじゃあキリがないな」
イラついた様にクリスさんが言った。
「私の魔法で焼いた部分は治る様子がない。恐らく火が弱点だろう。しかし火魔法だけで首を焼き切るのは面倒だ」
「メル、私がもう1体引き受けよう。お前は私たちが切った所を焼き潰してくれ」
「わかった」
アッシュさんとメルさんは、それぞれ戦っている相手から視線を逸らさず、そう言葉を交わした。
メルさんから引き受けた分を合わせて、アッシュさんが相手をしている蛇の頭は三つになった。その攻防は一段と厳しくなっている。
斜め後ろから回り込むように迫って来た蛇の頭を、振り返って剣で払う。振り切ったところで、別の方向から襲い掛かって来た牙が、彼女の左肩に噛みついた。
「っつ!」
その首に向かって、また上げた剣を振り下ろして切り落とす。
「メル!」
メルさんは片手で蛇の頭を相手にしながら、もう片手で間髪入れずに火魔法を打ち込んだ。
焼けた後から次の首が生える事はなかった。
「おっしゃ!」
それを見たシアくんが片方の蛇の首を落とすと、またメルさんが焼く。クリスさんもアレクちゃんも次々と首を落とし、そうして最後の首を落とされ焼き潰されたヒュドラは、その大きな体を池の端に横たえた。
「大丈夫か?」
そう言って、アッシュさんは真っ先に私の所に来てくれた。彼女の方が肩を噛まれて怪我をしているのに。
彼女はいつもそうだ。異世界から来た私の事をとても気にしてくれる。
この世界の住人でない私は、皆と違って体がうんと丈夫らしい。簡単には疲れない。ちょっとやそっとじゃ怪我もしない。それが私の「強さ」なのだと。
でもそれだけだ。皆の様なスキルや特別な技術があるわけじゃない。
皆は本当に強いんだ。
特にアッシュさんとシアくんは、闘技大会で勝ち抜いて選ばれた人で。つまりは王都で一番強い二人なのだそうだ。
私は何にも出来ない。
所謂勇者の剣があって、それを持っていれば『英雄』の3人が倒した魔獣の魔力がそこに集まる事になっているらしい。これを持てるのは、勇者だけなんだって。
だから皆私を守ってくれる。
ただこうして、皆の後ろに隠れているだけでいいんだって。
====================
(メモ)
アミュレット(#10、Ep.10)
(Ep.5)
・ルイ…神の国から来た『勇者』の少女
・シア…冒険者の『サポーター』。栗毛の短髪の青年。アッシュとはこの旅の前からの付き合いがある。
・クリス…『英雄』で一行のリーダー。人間の国の第二王子。金髪の碧眼の青年
・アッシュ…冒険者の『英雄』。黒髪長身の美人
・アレク…騎士で『サポーター』。クリスの婚約者でもある。
・サム…魔法使いの『サポーター』。可愛いらしいドレスを着た、金髪巻き髪のエルフの少女
・メル…魔法使いの『英雄』。黒髪の寡黙な青年
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その日出会った魔獣は、ヒュドラという首が9本もある大きな蛇だった。九つの頭はそれぞれが意思を持つように違う動きをして、つまりは九つの方向から攻撃を仕掛けてくる。
対してこちらの人数は私を入れて7人だ。それぞれが一つずつの頭を相手にしたとしても、まだ人数が足りない。少なくともそのうち二人は二つの頭を相手しなければいけないのに、さらにヒュドラは尻尾をも振るって攻撃をしてくる。
なのに……
私はその戦力になる事ができなかった。
サムちゃんが水の魔法でヒュドラの体を巻き取り、動きを封じた。まだ自由に動ける九つの頭が、それぞれ私たちに向かってくる。
その一つが牙を剥いて襲い掛かって来たのをなんとか剣で受け止めたけれど、そこからどうにもできなくなった。これが精いっぱいだ。
その蛇の頭が私の剣を咥えたまま、変な臭いのする息を吐き出した。
「毒ブレスに気を付けろ!」
クリスさんの声が聞こえたけれど、もう遅い。頭からまともに浴びてしまい、息が苦しくなった。でもそれも一瞬の事で、腰に付けたバッグから温かい何かが全身に広がり、苦しさがすうと解けた。
「ナインテールのお陰で助かりました」
アレクちゃんも毒を浴びたらしい。その声に斜め前を見ると彼女の体もきらきらと光っていた。
そっか、ナインテールのアミュレットを持っていたんだっけ。毒とか麻痺とかの状態異常にある程度は耐えられるようになると聞いている。
でも毒の心配はないとはいえ、このままでずっとは居られない。何よりも、目の前に見える大蛇の牙がとても怖い……
「ルイ、お前は下がれ」
隣で戦っているシアくんから声が掛かった。
「で、でも……」
「そいつは俺が相手するからお前はサムのところまで下がれ!」
そんな事言っても、シアくんだってもうすでに一つの頭を相手にしているのに。
「大丈夫だ、私たちもいる」
アッシュさんの声で、さらにシアくんの向こうを見ると、彼女は交互に襲い来る二つの頭を相手にしながら、こっちの様子をも気にしてくれている。
「大丈夫だ」
そのシアくんの言葉で、思い切って蛇の頭を振るい払う。と、その瞬間私にだけ突風が吹いて後方に飛ばされた。派手に転ぶと思って目をつぶったのに、また別の風が吹いて優しく支えられ、少し尻もちをついただけで済んだ。
「アッシュ、流石ね」
飛ばされた先で横に居たサムちゃんが、ぽそっと小声でそう言ったのが聞こえた。
私が振り払った蛇の頭は、もうシアくんが相手をしている。アッシュさんと同じように、凄い剣さばきで2方向からの攻撃を防いでいる。
クリスさんもメルさんも、それぞれ二つを。アレクちゃんは一つだけれど、でも余裕の表情だ。
サムちゃんはヒュドラの体と尾の動きを止める為に、次々に水の魔法を繰り出して拘束している。
私だけが…… 何も出来ていない……
ギャッ!
気持ち悪い鳴き声に目を向けると、クリスさんが蛇の首の一つを切り落としたところだった。が、その首の断面がみるみるうちに盛り上がり、あっという間に蛇の頭の形になった。何あれ、気持ち悪い。
「再生能力だ。切ってもまた首が生えてくる。これじゃあキリがないな」
イラついた様にクリスさんが言った。
「私の魔法で焼いた部分は治る様子がない。恐らく火が弱点だろう。しかし火魔法だけで首を焼き切るのは面倒だ」
「メル、私がもう1体引き受けよう。お前は私たちが切った所を焼き潰してくれ」
「わかった」
アッシュさんとメルさんは、それぞれ戦っている相手から視線を逸らさず、そう言葉を交わした。
メルさんから引き受けた分を合わせて、アッシュさんが相手をしている蛇の頭は三つになった。その攻防は一段と厳しくなっている。
斜め後ろから回り込むように迫って来た蛇の頭を、振り返って剣で払う。振り切ったところで、別の方向から襲い掛かって来た牙が、彼女の左肩に噛みついた。
「っつ!」
その首に向かって、また上げた剣を振り下ろして切り落とす。
「メル!」
メルさんは片手で蛇の頭を相手にしながら、もう片手で間髪入れずに火魔法を打ち込んだ。
焼けた後から次の首が生える事はなかった。
「おっしゃ!」
それを見たシアくんが片方の蛇の首を落とすと、またメルさんが焼く。クリスさんもアレクちゃんも次々と首を落とし、そうして最後の首を落とされ焼き潰されたヒュドラは、その大きな体を池の端に横たえた。
「大丈夫か?」
そう言って、アッシュさんは真っ先に私の所に来てくれた。彼女の方が肩を噛まれて怪我をしているのに。
彼女はいつもそうだ。異世界から来た私の事をとても気にしてくれる。
この世界の住人でない私は、皆と違って体がうんと丈夫らしい。簡単には疲れない。ちょっとやそっとじゃ怪我もしない。それが私の「強さ」なのだと。
でもそれだけだ。皆の様なスキルや特別な技術があるわけじゃない。
皆は本当に強いんだ。
特にアッシュさんとシアくんは、闘技大会で勝ち抜いて選ばれた人で。つまりは王都で一番強い二人なのだそうだ。
私は何にも出来ない。
所謂勇者の剣があって、それを持っていれば『英雄』の3人が倒した魔獣の魔力がそこに集まる事になっているらしい。これを持てるのは、勇者だけなんだって。
だから皆私を守ってくれる。
ただこうして、皆の後ろに隠れているだけでいいんだって。
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(メモ)
アミュレット(#10、Ep.10)
(Ep.5)
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