異世界召喚された装甲兵は、自分の意思で選択する

竹桜

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第三十六話 縁切り

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 この世界に帰ってきて、1ヶ月が経った。

 3人とは、今日は別行動だ。

 私はある人物を応接室に待っていた。
 
 純麗は自分の意志を示した。

 私も示さなければ。

 扉がノックされた。
 
 入室の許可を出すと、私と似た中年の男が入ってきた。

 私の父だ。

 私の人生にレールをひいた張本人だ。

 「心配したぞ。正樹」

 そう言いながら、父は席に座った。

 「それは私の身ですか?それか田村株式会社の未来をですか?」

 父は少し驚いた表情を浮かべた。

 「な、何を言っているんだ?息子の心配をするのは、当然のことではないか。会社のためではない1人の親として心配しているんだ」

 「それなのに、私の初めてした選択を無下にしたのに。親としてか。面白いな」

 父はなんのことか分からず困惑した表情を浮かべていた。

 「な、何を言っているんだ?初めての選択とはなんのことだ?」

 「子猫のことだ」

 「子猫?」

 「ああ、子猫だ。幼い頃に雨に濡れている子猫を育てようとした。だが、貴方はその子猫を勝手に捨てたことだ」

 「そ、それは、そんな子猫では無く、他の子猫を私が購入すると考えたからだ」

 「私はあの子猫を育てたいと思ったんだ。あの時絶望したさ。私の人生は父にひかれたレールしか進むしか無いと」

 「だが、私は幸運なことがあった。異世界に召喚されたんだ。そこで愛する者達を見つけ、自分の意志で選択することが出来たんだ」

 父と目を合わせた。

 「だから、もう邪魔をしないでくれ。やっと見つけんだ。自分の人生を」

 「そ、そんなことは許さないぞ、正樹。お前は、田村株式会社の社長に、私の跡を継ぐのだ」

 「これが何だが分かりますよね?」

 私は1枚の紙を父の前に出した。

 父の顔に驚愕を浮かべていた。

 「そ、それは、妻の字。そ、それに、書かれている内容は、なんだ?」

 「書いてある通りですよ」

 紙に書かれている内容は父と離婚し、私を母の実家の養子にするというものだった。

 この紙は母が死ぬ前にこれを渡してくれたのだ。

 「それに、貴方は母と約束しているはずだ。1度だけお願いを聞くと」

 そう、父は母と約束していたのだ。

 最後に。

 1度だけ何でもお願いを聞くと。

 父の顔色は良くなかったが、私は止まらない。

 「私は昔から田村という名字が嫌いだった。この名字で、少しでも利益を得ようと近付いてくる人間が大量にいるからだ。だが、異世界で、田村では無い私を好きでいてくれる人達に出会えたんだ」

 私は3人が待っている方を向き、父の目を見た。
 
 「だから、もう邪魔しないでくれ。自分の意志で選択した人生を」

 「そうか」

 そう呟き父は諦めの表情を浮かべた。

 「分かった。妻との約束を守る」

 その後は事前に準備していた書類に書き込んだ。

 書き終えた。

 これで、父と母は離婚した。

 なので、私は田村では無く、本当に篠井 正樹になった。

 私は用事がなくなったので、席を立ち上がり、ドアノブに手を掛けた。

 後ろから声が聞こえてきた。

 「最後に聞きたいことがある。結婚相手はどんな者達なんだ?」

 私はドアノブから手を離し、元父の方を向いた。

 「1人目は亡国の王女で、裁縫が趣味です。2人目はハーフエルフで、花を育てるのが好きです。3人目はクラスの委員長で、家事が得意です」

 「私には勿体ない者達です。彼女達の為なら、英雄に、いや、神を殺す覚悟だってあります」

 私は扉の方を向いた。

 「最後になるが、これだけは覚えておいてくれ。私は正樹のことを愛していた。だから、どうか幸せになってくれ」

 ドアノブに手を掛けた。

 「ここまで育ててくれてありがとうございました。父上」

 私は部屋を出た。

 部屋から嗚咽が聞こえてきた。

 その嗚咽を聞きながら、私は3人の元に向かった。

 
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