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第二章
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理不尽に2人から怒られた後、兄貴は朝御飯を作りに台所に行った。今日もありがとう、お母さん。
その間おれとアレクは着替えとテーブルの準備を任されたので着替えるためにベッドから出る。
みんな裸で寝てたけど風呂に入れてくれたみたいだ。ついでにいつもの身体の痛みもない。
寝る前に回復魔法をかけてくれたらしい。兄貴の時も朝平気だったから多分兄貴がかけてくれてたんだろう。
もしかけてくれてなかったら…今回2倍だったのかと思うとゾッとする。回復魔法大事。
「ふふーん♪マシロちゃん♪」
「うわっ!」
丁度片足を降ろした時に抱きつかれてそのままベッドに逆戻りした。
驚きでバクバク鳴る心臓を落ち着かせながら、背中に引っ付いたままのアレクに文句を言う。
「ちょっと!危ないだろっ」
「だってぇ、目の前に可愛いお尻があったからさー、抱きしめたくなるでしょ普通」
「じゃあもうしたからいいな。朝御飯の準備しなくちゃ怒られるって」
「マシロちゃんってば冷たいなー。せっかく両思いになったんだよ?さっきの照れ照れした可愛いマシロちゃんはどこにいっちゃったの?」
ゔっ、確かに起きたばっかりの時はおれも凄く浮かれまくってさ。でも…
「あんたらにこんこんと怒られてちょっと落ち着いた」
「いやあれは怒るでしょ!だって甘い夜の目覚めは可愛い天使で始まるはずだったのに…厳つい裸のおっさんだよ!?」
「うるさっ、耳元で叫ばないで」
「やり直しを要求します」
「は?…ひぃうっ、ちょ、どこ触って…っ」
「はあ…乳首ぷっくりして可愛い…じゃなくて、『おはようアレク、今日も大好き』って言ってキスして」
「はあ!?あっ、んぅ…摘むなぁ…っ」
「ねぇマシロちゃん、お願い…」
耳元で囁かれる甘い声にゾクゾクしながらも顔をアレクに向けて…凍りつく。
「ひ…っ」
思わず出てしまった声は明らかに引きつっていたのに、勘違いをしたアレクが嬉しそうに耳に声を吹きかけてきた。
「恥ずかしいのかな?ふふっ、じゃあ…キスは今度でいいから、『アレク大好き』って言って。だったらいいでしょ?」
「ア、アレク…」
「なーに?マシロちゃん」
「後ろ…」
「え?後ろ?」
恐怖で顔面蒼白になりながらも伝えると、おれの言葉で振り返ったアレクがビシッと固まった。
無理もない。そこには手に美味しそうなサンドウィッチの乗ったお皿と包丁を持った兄貴が仁王立ちでおれ達を…主にアレクを見下ろしていたからだ。
目が完全に据わっている。
「飯、出来ました」
「え、あ、ありがとう…」
違う、違うぞアレク。そうじゃない。おれにも分かる。いくら混乱してるからってそれは無いぞ。
ほら見ろ!兄貴の目に殺気が追加されちゃったじゃんか…っ!
ゴゴゴゴ…ッと黒いものを背負う兄貴の姿は、見た目賊なのもあって迫力が半端ない。
完全にビビってしまっているおれに、兄貴がアレクから目を逸らさないまま話しかけてきた。
「マシロ」
「は、はい…っ!」
「お前は裸で俺の飯を食う気か?」
「いえ!滅相もございません!」
「じゃあさっさと服を着ろ」
「直ちに!」
おれは渾身の力でアレクを引っぺがし、部屋の端にあるクローゼットへダッシュした。
全裸でダッシュして恥ずかしいとか言ってられない。羞恥心より今は命が大事だ。
置いてけぼりにされたアレクがおれの名前を呼ぶと、ドスっと鈍い音と共に短い悲鳴が聞こえた。
予想外の音にパンツを履き終わった体制のまま反射でベッドの方に顔を向ける。
…そこには、おれに手を伸ばしたまま固まる裸のアレクと、それを阻止するようにベッドに包丁を突き立てた兄貴の姿がった。
ひええ…っ。
刺す気が無いにしても怖すぎる…。え、無いよね?
アレクも同じ事を考えているのか顔が引きつっている。
「殿下」
「はいっ!」
「今すぐ着替えて飯を食うか、そのまま部屋を出て行くか、どちらにしますか?」
そのままって、裸で…?
有るようで無い選択肢におれもアレクも一瞬ポカンとするが、それはそれは深い溜め息を吐いた兄貴に速攻で着替えますと答えていた。
それから3人で美味しいはずなのに食べた気のしない朝御飯を食べ、アレクは後で明日の服を届けさせると言い残してそそくさと帰って行った。
昼過ぎまで時間あるとか言ってなかったか?裏切り者め…。
徐々に機嫌は治ってきていたものの、今の兄貴と2人きりはちょっと気まずい。
律儀に用意してくれていたデザートのアイスをちびちび食べなから様子を伺っていると、兄貴が食後のホットコーヒーを一気に煽った。それ淹れたてなんだけど…。
火傷しないのかな?あ、火属性だから大丈夫なのか…?え、怖い…。
なんと声を掛けるべきかオロオロしているうちに、絞り出すような声が聞こえた。
「…悪かった。ちょっと、やり過ぎた」
ちょっと…?と正直思ったけど、とりあえず聞こえなかったことにする。
「いや…おれ達が悪かったし、ご飯作ってくれてたのにごめんね」
「殿下も怒ってたよな…」
「怒ってたって言うよりビビってたよ」
おれを残して逃げるくらいには。
まあ包丁目の前に刺されたら仕方がない。でも覚えてろよ。
「はあ…いい歳してやきもちとは情けねぇ…。明日殿下にも謝らねぇと…」
「多分やめといた方がいいと思うよ」
余計に怖がらせるだけだから。それにしても、あれ、やきもちか…。
穴の空いたベッドを見てさらに落ち込んでる兄貴の背中を慰めつつ、やきもちで惨劇が起こらないように、一人一人をちゃんと大事にしようと心に誓ったのだった。
その間おれとアレクは着替えとテーブルの準備を任されたので着替えるためにベッドから出る。
みんな裸で寝てたけど風呂に入れてくれたみたいだ。ついでにいつもの身体の痛みもない。
寝る前に回復魔法をかけてくれたらしい。兄貴の時も朝平気だったから多分兄貴がかけてくれてたんだろう。
もしかけてくれてなかったら…今回2倍だったのかと思うとゾッとする。回復魔法大事。
「ふふーん♪マシロちゃん♪」
「うわっ!」
丁度片足を降ろした時に抱きつかれてそのままベッドに逆戻りした。
驚きでバクバク鳴る心臓を落ち着かせながら、背中に引っ付いたままのアレクに文句を言う。
「ちょっと!危ないだろっ」
「だってぇ、目の前に可愛いお尻があったからさー、抱きしめたくなるでしょ普通」
「じゃあもうしたからいいな。朝御飯の準備しなくちゃ怒られるって」
「マシロちゃんってば冷たいなー。せっかく両思いになったんだよ?さっきの照れ照れした可愛いマシロちゃんはどこにいっちゃったの?」
ゔっ、確かに起きたばっかりの時はおれも凄く浮かれまくってさ。でも…
「あんたらにこんこんと怒られてちょっと落ち着いた」
「いやあれは怒るでしょ!だって甘い夜の目覚めは可愛い天使で始まるはずだったのに…厳つい裸のおっさんだよ!?」
「うるさっ、耳元で叫ばないで」
「やり直しを要求します」
「は?…ひぃうっ、ちょ、どこ触って…っ」
「はあ…乳首ぷっくりして可愛い…じゃなくて、『おはようアレク、今日も大好き』って言ってキスして」
「はあ!?あっ、んぅ…摘むなぁ…っ」
「ねぇマシロちゃん、お願い…」
耳元で囁かれる甘い声にゾクゾクしながらも顔をアレクに向けて…凍りつく。
「ひ…っ」
思わず出てしまった声は明らかに引きつっていたのに、勘違いをしたアレクが嬉しそうに耳に声を吹きかけてきた。
「恥ずかしいのかな?ふふっ、じゃあ…キスは今度でいいから、『アレク大好き』って言って。だったらいいでしょ?」
「ア、アレク…」
「なーに?マシロちゃん」
「後ろ…」
「え?後ろ?」
恐怖で顔面蒼白になりながらも伝えると、おれの言葉で振り返ったアレクがビシッと固まった。
無理もない。そこには手に美味しそうなサンドウィッチの乗ったお皿と包丁を持った兄貴が仁王立ちでおれ達を…主にアレクを見下ろしていたからだ。
目が完全に据わっている。
「飯、出来ました」
「え、あ、ありがとう…」
違う、違うぞアレク。そうじゃない。おれにも分かる。いくら混乱してるからってそれは無いぞ。
ほら見ろ!兄貴の目に殺気が追加されちゃったじゃんか…っ!
ゴゴゴゴ…ッと黒いものを背負う兄貴の姿は、見た目賊なのもあって迫力が半端ない。
完全にビビってしまっているおれに、兄貴がアレクから目を逸らさないまま話しかけてきた。
「マシロ」
「は、はい…っ!」
「お前は裸で俺の飯を食う気か?」
「いえ!滅相もございません!」
「じゃあさっさと服を着ろ」
「直ちに!」
おれは渾身の力でアレクを引っぺがし、部屋の端にあるクローゼットへダッシュした。
全裸でダッシュして恥ずかしいとか言ってられない。羞恥心より今は命が大事だ。
置いてけぼりにされたアレクがおれの名前を呼ぶと、ドスっと鈍い音と共に短い悲鳴が聞こえた。
予想外の音にパンツを履き終わった体制のまま反射でベッドの方に顔を向ける。
…そこには、おれに手を伸ばしたまま固まる裸のアレクと、それを阻止するようにベッドに包丁を突き立てた兄貴の姿がった。
ひええ…っ。
刺す気が無いにしても怖すぎる…。え、無いよね?
アレクも同じ事を考えているのか顔が引きつっている。
「殿下」
「はいっ!」
「今すぐ着替えて飯を食うか、そのまま部屋を出て行くか、どちらにしますか?」
そのままって、裸で…?
有るようで無い選択肢におれもアレクも一瞬ポカンとするが、それはそれは深い溜め息を吐いた兄貴に速攻で着替えますと答えていた。
それから3人で美味しいはずなのに食べた気のしない朝御飯を食べ、アレクは後で明日の服を届けさせると言い残してそそくさと帰って行った。
昼過ぎまで時間あるとか言ってなかったか?裏切り者め…。
徐々に機嫌は治ってきていたものの、今の兄貴と2人きりはちょっと気まずい。
律儀に用意してくれていたデザートのアイスをちびちび食べなから様子を伺っていると、兄貴が食後のホットコーヒーを一気に煽った。それ淹れたてなんだけど…。
火傷しないのかな?あ、火属性だから大丈夫なのか…?え、怖い…。
なんと声を掛けるべきかオロオロしているうちに、絞り出すような声が聞こえた。
「…悪かった。ちょっと、やり過ぎた」
ちょっと…?と正直思ったけど、とりあえず聞こえなかったことにする。
「いや…おれ達が悪かったし、ご飯作ってくれてたのにごめんね」
「殿下も怒ってたよな…」
「怒ってたって言うよりビビってたよ」
おれを残して逃げるくらいには。
まあ包丁目の前に刺されたら仕方がない。でも覚えてろよ。
「はあ…いい歳してやきもちとは情けねぇ…。明日殿下にも謝らねぇと…」
「多分やめといた方がいいと思うよ」
余計に怖がらせるだけだから。それにしても、あれ、やきもちか…。
穴の空いたベッドを見てさらに落ち込んでる兄貴の背中を慰めつつ、やきもちで惨劇が起こらないように、一人一人をちゃんと大事にしようと心に誓ったのだった。
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