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港町の灯り
しおりを挟む圭は、勤務後に近くの川沿いの土手に向かっていた。
人混みを掻き分けて歩く。
この日は花火大会。
吊るされた提灯が潮風になびく。
佐世保の街に、こんなにも人が集まるなんてことは滅多にない。
体格の良い圭は、他の者たちより頭ひとつ抜きん出ている。待ち合わせ場所が近くなるにつれ、人混みの中を見下ろして蒼の姿を探した。
圭は、花火に興味があるわけではないが蒼が観に来いと言うので、仕方なく観にきてみたのだった。
早く蒼に会いたい。
待ち合わせ場所まで急ぎたいが、あまりにも人が多くて先に進めない。
「すみもはん、通らせてください。」
謝りながら少しずつ前に進む。
待ち合わせ場所は、祭りの喧騒から離れた河原の橋の下だ。祭りの太鼓も花火も屋台も見えてはいるものの遠くに感じる。
人を掻き分けて、やっとの思いで圭は到着したが、そこに蒼の姿はなかった。
(早くきすぎたのか…?)
なんだかんだで、蒼に会えることを楽しみにしていた圭は、少し落胆した。
それも束の間、背後から声をかけられた。
「そこのマッポさん、お仕事サボって一緒に花火を見ませんか?」
調子の良い声が聞こえた。
「坊ちゃん…。」
「ごめん、待たせた。なかなかに人が多いものだから参ったよ。」
振り向くと蒼が立っていた。
普段とは違う、浴衣姿の蒼だ。
白い肌に藍染が映える。
肌に反射する月明かりが艶かしい。
普段の洋装もよく似合っているが、顔が美しいから和装もよく似合っている。
「どう?似合うかい?」
「えぇ。似合いますよ。よくお似合いです。」
素直に「似合っている」と伝える。
すると蒼が、そんなぶっきらぼうに言われると嘘に聞こえる、と応えた。
圭は本当に素直な気持ちを述べただけなのに。
「片山さんは、仕事帰りかい?そんな見窄らしい格好しちゃって!今日は年に一度の花火大会だって言うのに。」
「よそ行きの服を持ちませんので。」
毎日、仕事なのでわざわざ私服を持っている必要が今までなかったのだ。
2人並んで浮かれ気分の人混みの中へと歩き出した。花火が近づけば近づくほど、人が押し寄せてくる。人の数が増えるほど混雑するので、2人の物理的な距離が徐々に縮まっていく。
石畳の路を抜け河川敷に辿り着く。そこでは皆が一斉に空を見上げる。
2人も天を見上げる。夜空に花火が輝くと、遅れて、ドン、ドン、と地面が鳴った。
深い黒の夜空に明るい
人混みに紛れて、蒼が圭の左の手のひらを自身の右手で優しく包んだ。微かに指先が触れると、圭は少し驚いて、いつもは鋭い目を丸くした。それを見た蒼はニヤッと笑って見せた。しかし、圭は何をするか察して蒼の右手を手繰り寄せた。花火の音に呼応する様に心臓が高鳴った。
「綺麗だね…。」
「あぁ、本当に綺麗だ。」
蒼は圭の花火に照らされた横顔を見つめる。昼間とはどこか違う、優しい横顔に見えた。
互いに、「花火より君の方が綺麗だ」と言いたかったが、言わなくても伝わる様な気がしていた。
出会ってから日は浅いが、いつの間にか言葉が無くても通じ合える関係になっていた。
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