灯影、そして君の面影

本野汐梨 Honno Siori

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2人の刻

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 夏の短い夜を2人で過ごすのも悪く無い。

 こぼれ落ちそうな満月が圭の住む寄宿舎の一室を照らしていた。狭い部屋だが、窓は広い。広い窓を開けるとぬるい風が吹き込む。風はぬるいが、涼しい。

 蒼は圭の過去を知ってから、繊細な彼のことを守りたいと思う様になっていた。
 それと同時に、圭の夢に度々出てくるという青年の事が気になって仕方がない。死んだ人間に嫉妬の念を抱いていた。胸に渦巻く感情を抑えながら圭との時間を楽しんでいた。


 夜風を浴びながら2人は寝酒を口に運ぶ。互いの体温を感じる距離で寄り添っていた。

「あのね、片山さんを見てると胸が苦しくなる時があるんだ。」

「……。」

「それだけ好きって事さ。」

 蒼が長いまつ毛を伏せて、一杯、また一杯と酒を口に運ぶ。
 一方の圭は、頭の中で先ほどの蒼の言葉を咀嚼していた。

 しばらくの沈黙ののち、ゆっくり圭が口を開いた。

「この関係は長くないかもしれませんよ。あなたは山神家の跡取りを作らないといけないでしょうし。一方の私は戦争で負けた身ですから…。身分も違います。」

「その時はその時だと思わないかい?今は今を楽しもう。だってこんなに好きな人に出逢えたんだもの。」

 その言葉に圭は呆れた様な顔をしてみせた。蒼はいつも前向きで、過去も未来もなく、今だけを考えている。過去を振り返り、未来に不安を感じる圭とは真逆である。

 蒼が2杯目に手を伸ばそうとするので、圭がほどほどにしろ、と注意する。蒼は圭に、子供じゃない、と口答えする。

「片山さんだって、酒を肴に酒を飲むのはお辞めなさいよ。体に悪いですよっと。」

「う、うるさい…。俺も俺の父も祖父も酒を肴に酒を飲んでいたが往生した。酒は薬なんだ。」

(あらあら…。こりゃ酔いが回り始めてるな。)

 今度は蒼が圭に呆れた。

「薩摩の人は品のない大酒飲みだから嫌だねぇ。」

「さ、薩摩を馬鹿にするとは!」

 おちょくればおちょくる程面白い。そんな時間が楽しい、愛おしい。

「そういえば蒼って下の名前で呼んでほしいな~。ね!圭さん!」

 圭が、酔って赤い顔を更に赤くしながら「あおい…。」と、小さい声で呟く。

「聞こえないよ!!圭さん!!」

「うっ……。」

 このままずっと2人で酒を飲んで、言葉を交わして、肌に触れて、そして眠る。

 そんな毎日が続けばいいのに。


「圭さんは、ずっと佐世保にいるの?」

「分からんが…。そもそも俺が決めて佐世保にいる訳でも有りませんのでね。」

「そっか…。じゃあいつかは結婚して薩摩に帰っちゃったりするのかな?寂しいな。」

「結婚は…。今更だろうと思いますけどね。もう地元の連中とも長く連絡を取っておりませんし。お前こそ、急に商売で遠い異国に旅立つとか仰らないで。結婚、とかも。俺にはちゃんと、事前に言ってくださいね。」

「うん…。そうするよ。」

 この時間が永遠にではない事が分かっているからこそ愛おしいのかもしれない。そんな事を2人は思った。
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