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炎上
しおりを挟む夕刻。
佐世保の港に大きな炎が空まで届く勢いで上がっていた。
風に煽られた黒い煙が天へ天へ昇っていく。
港の倉庫群に放たれた日は一気に港中に広がった。
「本当にやりやがった…。」
警察署長がつぶやく。
圭も同意した。
昨日、佐世保の役所に脅迫状が届いていた。異国との交易を辞めなければ、佐世保の港の倉庫群に火を放つ、といった内容だった。
送り主は誰か不明である脅迫状出会ったので、役所へのイタズラが嫌がらせだと思われていた。一応、警察消防署各位に気をつける様に通達はあったものの、そんな大胆な行動を起こす人間はそうそう居ないので、深く警戒していなかった。
圭や他の警察官が、まだ近くにいるかもしれない犯人を捜索する。
警察署長と圭は2人で行動をしていた。実は、2人とも火を放った犯人に心当たりがあったのだ。
「片山、もしもん時はおいが叩っ斬る。」
圭は静かに頷いた。しかし、心の中では署長の手を汚すまい、と考えていた。
(どうか、この予感が当たりません様に。)
神や仏に願いをする柄では無いが、圭は心の中で念じた。
パニックの民衆をかき分けて、港近くの洋館が並ぶ石畳の通りを抜け、小路に入り犯人を探す。2人は息も切らさず素早く移動した。
一時とはいえど、戦場を共にした薩摩の志士達だ。呼吸すら合わせて行動する。
前をゆく署長が振り向いて圭に合図を送ってくる。圭も目で了解の合図を送った。ここから二手に分かれての捜索だ。
一気に人気のない路地に入る。
冷たい空気が肺に入る。
しばらく進むと、背後から不意に薩摩弁で声をかけられた。
「片山どんではなかですか。さしかたぶいですなぁ。」
圭が背後をとられることはまず無い。相手がそれだけ手練れだと言うことだ。
(予感が当たってしまったか。)
警察署長と圭は、役所に届いた脅迫状の字とそこの押印されていた家紋に見覚えがあった。
「鮫島…。」
振り向くとやはりそこに立っていたのは見知った顔の人間だった。
「火を放ったのはお前か?」
「そう。分かってたでしょう?俺だって。」
分かっていた。分かっていたのだが…。
こいつは、昔から過激な思想で危ない人間だと言うことも知っていた。
「それは自白だな。」
「あぁ。だって、かつての仲間だった俺を殺すつもりでしょう?良いんですよ。どのみちあなたは裏切り者だ。」
鮫島が言い終わらないうちに圭は銃剣から発砲して、鮫島の息の音を止めた。静かな闇の中の路地に銃声が反響した。
後ろから「おいがすっち、ゆうたろうが。」と声がした。
署長である。署長が圭の肩を揺さぶって怒りをぶつけた。
「最後まで頭のおかしい奴だ。」
息を整えて、圭は一言放った。
「いつかはこうなるはずだった。しかし、お前がする必要は無かった。」
警察署長もすぐに冷静さを取り戻し、圭に告げた。圭は何も答えられなかった。鮫島の事は2人とも幼少期から知っているが、頭のおかしい人間で、生かしておくわけにはいかないと何度も問題になる程だった。しかし、腕が立つので今まで兵士として生かされていた。西南の役でも共に戦った仲間だ。
「どうなるか分かってるな?」
「はい。勿論であります。」
圭は、人殺しの罪を被ることになった。
相手は放火犯だ。無罪の可能性もあるが、今の圭は殺人犯なのだった。
「圭さん!!」
路地の遠くから声がする。
何者でも無い。蒼の声だ。
「圭さんがやったの…?」
「ああ、俺が殺したさ。しかも銃でな。」
蒼は圭と目を合わせることができなかった。
それ程までに、圭の目は冷たく鋭く、正気でなかった。
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