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未熟な冒険者のコルト
コルトの進路
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「コウジさん……」
雑用を一通り済ませたあとは、夜の握り飯タイムに備える。
が、コルトが不安そうな顔をして近寄って来る。
めんどくさい話が出て来なきゃいいが。
「私……スカウトされた」
「はい?」
※※※※※ ※※※※※
夜の握り飯タイムの後。
コルトの歌が終わってみんなが寝静まった時間。
「ま、四人くらいならいいよな」
「わ、私は別に気にしませんけど」
ドライヤーを貸している。
コルトは寝る前に服を洗い、ドライヤーで乾かす。
流石にこれは申し訳ないと思う。
しかしそれしか方法はない。
店の品物に風呂敷などがある。
コルトがそれでもいいというから、それをあげた。
風呂敷を裁断して下着にしたり服にしたり。
なかなか器用なことをする。
服もどき。まあ服でもいいんだが。
その服もそんなに数が多くない。
私物があれば他人を部屋に入れるのを躊躇してたと思う。
「私はずっとここにいるつもりでしたけど、それでも何となくこの部屋、借り物のような気がするんですよね」
セレナと呼ばれた女エルフ。
彼女からテンシュと呼ばれてる宝石職人とやらの男、そして俺。
コルトに持ち掛けられた話について、相談に乗ってほしいと言われた。
「行けばいいじゃねぇか」
「コウジさん、冷たいっ」
ということで、四人でコルトの部屋で話し合い、というわけだ。
口火を切る……というか、提案したのはこの店主とやらだった。
「まず、軽く自己紹介すると、いろんな物や人が持っている力を見ることができるんだ。で……コルトちゃん、だっけか。彼女は特殊な力を持ってるのは分かった」
「この人、宝石が専門なんだけど、私の世界に来てからは他の物が持つ力も詳しく見ることができるようになっちゃって……」
「セレナ、余計な事言わなくていい。で、その力を自分の世界で発揮してはどうか、と思ってな」
道理だな。
俺が反対意見を持つはずがない。
だがしかし。
「私……何にも怯えることなく毎日を穏やかに過ごしたいんです。ここだと、誰からも嫌な役目を押し付けられずに生活できますし……」
強くなった。
そう思ったんだがな。
「テンシュさん、と言いましたか? いきなりそんな話を切り出したのは、何か当てがあるんですか?」
コルトを自分の世界に連れて行こうとする者達は今まで何人かいた。
他の世界には行けないが、かつての仲間達が強引に連れ帰ろうとしたこともあった。
この男、強引に連れて帰ろうとするのではなく、こうして膝を突き合わせて話し合いを求めてきた。
連中よりは好感は持てるし、大雑把な人物評はコルトが把握しているようだ。
だからあいつらよりは安心だろうな。
けどコルトはどう思うか、なんだよな。
コルトがいなくなったら、『畑中雑貨店』の経営が難しくはなるだろう。
だがそれはコルトの責任じゃないし、コルトの役目じゃない。
こいつの厚意に俺が甘えてるだけだ。
だから帰るのを希望したら、その対策を俺が考える。ただそれだけだ。
となると、この男が抱える課題は、コルトを説得できる材料があるかどうか、なんだが……。
「特別な力とか、強大な力を持つ者ってのは、役目を果たすと厄介者になりかねないんだよな」
いきなりコルトをビビらすようなことを言ってきたよこいつ。
……ほれ、ビビってる。
ちょっと体震えてんぞ、コルト。
「だがコルトちゃんの場合は、まず誰かを傷つける力ではないってことがその例外の一つになりそうだ」
だが無理やり眠らせることもできなくはない。
その間、当たり前だが眠る以外に行動を起こせない。
力の使い方によってはかなりヤバいんだよな。
「で、ただ帰るってことじゃない。雇い主がいる。ババ……コホン。ウルヴェスだ」
何のことかよく分からん。
どんな奴かも分からんし。
ただ、コルトは固まっている。
「て……天流法国時代の……ですよね」
「そ。でも国王の座はライリーに譲位して、天流教主になったのよね」
「あいつもコルトちゃんの噂を耳にしている。仕事柄迷宮とかダンジョンによく足を運ぶようになってな」
そのウル何とかから常々託されてるらしい。
そのエルフの女の子にあったら声をかけてくれ、みたいな?
つまりこいつの独断専行なんかじゃなく、受け皿はずっと前から用意されているってことか。
にしても、宗教ねぇ。
そのトップに立つ者ってぇと、些かまともじゃないような気がするがなぁ。
「時の権力者、ってイメージが拭えないな。クーデター起こされりゃコルトもただじゃ済まないだろ」
「多分ないな」
「ないわね。権力なんてないもの」
なんだそりゃ。
「絶大な魔力は持ってる。だがそれ以上にしたたか……というか、賢さが高い」
「テンシュはそっち方面しか見ないものね。慈悲もあるわよ? でも明らかに反抗した場合は容赦ないけど」
しかし権力がないってことは、権力争いは生じない。
本人の取り巻き同士の争いは起きるだろう。
そこに巻き込まれる可能性はあるなー。
でも宗教っつったらなぁ。
ま、それは向こうの世界の事情だな。
いずれ、この部屋にいつまでもいるのは、こいつにとってはいい環境とは思えん。
それに……。
コルトは俺に縋るような顔を向けた。
自分がいなくなったら、ここはどうなるのか。
そんなことを言いたげな顔でもある。
自分の占める影響力を大きくして、それを理由に留まろうと考えているのか。
たしかにコルトがいなくなったら、俺個人としてはかなり痛い。
「コルト。俺は……」
三人は俺を注視している。
雑用を一通り済ませたあとは、夜の握り飯タイムに備える。
が、コルトが不安そうな顔をして近寄って来る。
めんどくさい話が出て来なきゃいいが。
「私……スカウトされた」
「はい?」
※※※※※ ※※※※※
夜の握り飯タイムの後。
コルトの歌が終わってみんなが寝静まった時間。
「ま、四人くらいならいいよな」
「わ、私は別に気にしませんけど」
ドライヤーを貸している。
コルトは寝る前に服を洗い、ドライヤーで乾かす。
流石にこれは申し訳ないと思う。
しかしそれしか方法はない。
店の品物に風呂敷などがある。
コルトがそれでもいいというから、それをあげた。
風呂敷を裁断して下着にしたり服にしたり。
なかなか器用なことをする。
服もどき。まあ服でもいいんだが。
その服もそんなに数が多くない。
私物があれば他人を部屋に入れるのを躊躇してたと思う。
「私はずっとここにいるつもりでしたけど、それでも何となくこの部屋、借り物のような気がするんですよね」
セレナと呼ばれた女エルフ。
彼女からテンシュと呼ばれてる宝石職人とやらの男、そして俺。
コルトに持ち掛けられた話について、相談に乗ってほしいと言われた。
「行けばいいじゃねぇか」
「コウジさん、冷たいっ」
ということで、四人でコルトの部屋で話し合い、というわけだ。
口火を切る……というか、提案したのはこの店主とやらだった。
「まず、軽く自己紹介すると、いろんな物や人が持っている力を見ることができるんだ。で……コルトちゃん、だっけか。彼女は特殊な力を持ってるのは分かった」
「この人、宝石が専門なんだけど、私の世界に来てからは他の物が持つ力も詳しく見ることができるようになっちゃって……」
「セレナ、余計な事言わなくていい。で、その力を自分の世界で発揮してはどうか、と思ってな」
道理だな。
俺が反対意見を持つはずがない。
だがしかし。
「私……何にも怯えることなく毎日を穏やかに過ごしたいんです。ここだと、誰からも嫌な役目を押し付けられずに生活できますし……」
強くなった。
そう思ったんだがな。
「テンシュさん、と言いましたか? いきなりそんな話を切り出したのは、何か当てがあるんですか?」
コルトを自分の世界に連れて行こうとする者達は今まで何人かいた。
他の世界には行けないが、かつての仲間達が強引に連れ帰ろうとしたこともあった。
この男、強引に連れて帰ろうとするのではなく、こうして膝を突き合わせて話し合いを求めてきた。
連中よりは好感は持てるし、大雑把な人物評はコルトが把握しているようだ。
だからあいつらよりは安心だろうな。
けどコルトはどう思うか、なんだよな。
コルトがいなくなったら、『畑中雑貨店』の経営が難しくはなるだろう。
だがそれはコルトの責任じゃないし、コルトの役目じゃない。
こいつの厚意に俺が甘えてるだけだ。
だから帰るのを希望したら、その対策を俺が考える。ただそれだけだ。
となると、この男が抱える課題は、コルトを説得できる材料があるかどうか、なんだが……。
「特別な力とか、強大な力を持つ者ってのは、役目を果たすと厄介者になりかねないんだよな」
いきなりコルトをビビらすようなことを言ってきたよこいつ。
……ほれ、ビビってる。
ちょっと体震えてんぞ、コルト。
「だがコルトちゃんの場合は、まず誰かを傷つける力ではないってことがその例外の一つになりそうだ」
だが無理やり眠らせることもできなくはない。
その間、当たり前だが眠る以外に行動を起こせない。
力の使い方によってはかなりヤバいんだよな。
「で、ただ帰るってことじゃない。雇い主がいる。ババ……コホン。ウルヴェスだ」
何のことかよく分からん。
どんな奴かも分からんし。
ただ、コルトは固まっている。
「て……天流法国時代の……ですよね」
「そ。でも国王の座はライリーに譲位して、天流教主になったのよね」
「あいつもコルトちゃんの噂を耳にしている。仕事柄迷宮とかダンジョンによく足を運ぶようになってな」
そのウル何とかから常々託されてるらしい。
そのエルフの女の子にあったら声をかけてくれ、みたいな?
つまりこいつの独断専行なんかじゃなく、受け皿はずっと前から用意されているってことか。
にしても、宗教ねぇ。
そのトップに立つ者ってぇと、些かまともじゃないような気がするがなぁ。
「時の権力者、ってイメージが拭えないな。クーデター起こされりゃコルトもただじゃ済まないだろ」
「多分ないな」
「ないわね。権力なんてないもの」
なんだそりゃ。
「絶大な魔力は持ってる。だがそれ以上にしたたか……というか、賢さが高い」
「テンシュはそっち方面しか見ないものね。慈悲もあるわよ? でも明らかに反抗した場合は容赦ないけど」
しかし権力がないってことは、権力争いは生じない。
本人の取り巻き同士の争いは起きるだろう。
そこに巻き込まれる可能性はあるなー。
でも宗教っつったらなぁ。
ま、それは向こうの世界の事情だな。
いずれ、この部屋にいつまでもいるのは、こいつにとってはいい環境とは思えん。
それに……。
コルトは俺に縋るような顔を向けた。
自分がいなくなったら、ここはどうなるのか。
そんなことを言いたげな顔でもある。
自分の占める影響力を大きくして、それを理由に留まろうと考えているのか。
たしかにコルトがいなくなったら、俺個人としてはかなり痛い。
「コルト。俺は……」
三人は俺を注視している。
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