俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

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未熟な冒険者のコルト

さよなら、コルト そして

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 私は、自分の世界に戻って来て、一か月経とうとしています。
 コウジさんにいろいろ意地悪を言われて、私もかなり警戒しましたけど、あの部屋で歌っていた時と同じくらい充実した毎日を過ごしています。

 コウジさん宛てに手紙を書きました。

 ※※※※※ ※※※※※

「自分で何かをする、自分が何かをする。そんな活動はほとんどないぞ?」

 あの時、あんなことを言われてほんとに怖かったんですからね?

「お前の元仲間の五人。お前の力のことを知って近寄ってきたんだったな。あの五人の都合のいいように働かされるところだった、というわけだ」

 あの件の後、あの戦士さんから事の顛末を教えてもらったんだそうです。

「その五人ではなく、その教主とやらの都合に振り回される。指示を出す上の人間の思考、思想、立場、影響力が変わっただけのこと」

 何と言うか……シビアでしたよね、コウジさん。

「今のお前は確かに自由だ。自分の思いのままに活動することができる。けどそれも、ここ限定だ。この二部屋だけがお前の支配する世界ってわけだ」
「物の言い方が物騒ですよ、コウジさんっ」
「事実だろ? そして、この部屋から一歩出ただけで四面楚歌……お前に向けられる悪意だらけの世界ってわけだ」

「……このコウジさんとやら、警戒心強すぎるな。まぁ知らない世界に立ち入るならもっと慎重になってもおかしくはないか」
「……テンシュの方がもっとひどかったわよ?」
「うるせぇよ」

 私の横で変な会話が聞こえてきたんですが、それどころじゃありませんでした。
 確かに私は世間知らずなところがあったんだな、って実感しました。
 そして、私のことを考えてくれず、私の力だけを目的とする人達ももっとたくさんいるかもしれない、ということも。

「けどな。そうは思わない奴もいる。俺とかそうだ」

 確かにコウジさんは私の歌を、BGM代わりにしか考えてない、みたいなことは言ってましたね。
 あとは私へのバツ。それくらい。
 だから基本的には無関心。
 関心を持つ人は、そんな風に思うんですね。

「だが、お前がその力を使う際、どういう信念を持ってるか。それをどんなことがあっても曲げずにいられるか。曲げられそうになったらその件を拒否できるか。……そう言うことだと思うぞ?」
「私は……」
「別にお前の信念はどうだとか、俺が知る必要はない。それが定まってれば、この人達からの提案をどうするか、すぐに答えられると思うが」

 ※※※※※ 

 あの後はそんなやりとりをしたのは覚えてます。

 最初にコウジさんと出会った時は、命を救ってもらったという思いでいっぱいでした。
 コウジさんがあの部屋でしていることを見て、まるで神様だと思いました。
 私の世界での私の行動は結局誰から見ても何の価値もなく、自分の身を犠牲にしなければ何の役にも立ちそうにないことを感じ、絶望しか感じられませんでした。
 救ってくれた戦士の方の話しを耳にした時、あの世界に自分の居場所はないのだと思いました。

 だから、コウジさんのお手伝いができて、まるで神様のお使いになれたような気がしてうれしかった。
 でも、コウジさんには魔力などはなく、自分にはコウジさんの活動を超える、効果のある力を持つことが分かって、内心喜びました。

 でも今度は、それを自分の物にしようとする人達が出てきました。
 私のことを考えてくれない人ばかり。
 けれども私の味方をしてくれる人もいました。
 そして、私に感謝の言葉をかけてくれる人たちももっとたくさんいました。

 でも、ここに来れない人達もいました。
 ここに着く前に力尽きた人もいたみたいです。

 そのことに気付いてから、自分一人だけの力の無力さも感じました。
 けど、どう頑張っても不可能なこともある。
 だから、自分が出来る範囲を伸ばせるなら、どこまでも伸ばしたい。そう思いました。

 曲げずにいつまでも持ち続けられる信念。
 コウジさんが言ってくれたその言葉を大切にしています。

 教主様からも、その言葉を大切にしてもらってます。
 時々、邪な思いを持つ人が傍に寄ってきます。
 悪だくみとか策略とかを考える人達も多くいるようです。
 そして恐らくその人は、私を自分の思う通りに動かしている、と思ってるに違いありません。

 私は、あの部屋で、何の差別なく多くの人達を喜ばすために活動している方々がいると知りました。
 その最たる方はコウジさんでした。
 コウジさんは神様だと思ってたけど、普通の人間だと知って驚きました。

 おにぎりを作る時のコウジさんは、いつも真剣な顔でした。
 でも、何となく苦しそうな顔をしてるようにも見えました。
 無理もありません。
 店のこともあったんですもんね。
 助けになりたいと思いました。
 鎧を作った時は喜んでくれましたね。
 でも、その顔もほんの一瞬だけでした。

 コウジさんだけじゃありませんでした。
 ここに来る冒険者の方々も、コウジさんみたいに誰かのために活動していました。

 この歌声を、間に合わないかもしれないそんな人達にも届けたいと思いました。
 コウジさんの代わり、あの部屋でないと会えない人達の代わり、というわけじゃないですけど……。

 元気にしてあげて、聞く人の心の中を穏やかに出来たら。

 それが私の、誰が相手になっても譲ることをしない、曲げない信念です。
 今ではその信念の元、教主様に守られながら、オルデン法国にとどまらず世界中を元気に渡り歩いてます。
 毎日が充実しています。

 コウジさんも、いつまでもお元気で。

 追伸:私の職名ですけど、聖歌司という名称に決まりました。もっとも同じ力を持つ人はいないんですけどね。

 ※※※※※ ※※※※※

 ……という手紙を俺は受け取った。

 手紙だけなら、その事実は本当かどうか疑わしかったりするんだが、信頼せざるを得ない。
 ……あのさぁ……。
 手紙って普通、誰かに託すもんだと思うんだよ。

「いいじゃないですか。こうして届けられるようになったんですから」
「本人が渡すもんじゃねぇだろ! しかも恥ずかしげもなく、読んで読んでってせがむんじゃねぇ!」
「あはっ。元気な姿を見られて私も安心しました。じゃ、行ってきまーす」

 ……異世界、適当すぎねぇか?
 しょっちゅう簡単に平気な顔で出入りできるの、コルトだけだぞ? どういう仕組みだよほんとにっ!
 疲れてくるわ。

 ……元気そうで何よりだけどよ。
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