俺の店の屋根裏がいろんな異世界ダンジョンの安全地帯らしいから、握り飯を差し入れてる。

網野ホウ

文字の大きさ
165 / 196
四人目の相棒は許嫁

ミュウワとの、初めての語らい

しおりを挟む
 夕方の握り飯タイムがすべて終わるまで、あの時からミュウワは静かな笑顔を絶やさずにいた。
 これが、傷だらけで命からがら逃げてきた連中のオアシスみたいな役目を果たす。
 まぁ俺一人じゃ華はないことは自覚してるがな。
 そういう意味でもミュウワがいてくれて助かる。
 二人目のシェイラはそうでもなかったが、一人目のコルトの歌や三人目のショーアの技術は、握り飯と同じくらい、時にはそれを上回る効果を見せてくれた。
 それほどではないが、彼女の笑顔も安心をもたらすんだろうな。
 まぁ俺の自由時間をゼロにしたことは、それに免じて目をつぶろう。
 で、今は完成したてのプレハブの、彼女の部屋にいるわけだが。

「で、一通りの家具は揃えてある。風呂場はシャワーと湯舟を揃えてるし、一応調理場もな。言わずもがな洗濯機にトイレも」

 軽く説明をしてるが、ミュウワはベッドの上に敷かれた布団の手触りを楽しんでいる。
 人の話は聞いてほしいんだがな。
 必要事項だし。

「個室のよりもぽよんぽよんしてますよ、これっ。ほらっ」

 ほらって言われてもな。
 一応ベッドは離して二つ据え付けてもらった。
 離れてるからな。
 シングルな。
 それにしても、顔は満面の笑みなんだが、子供が体中せわしなく動かしてはしゃぐような感じじゃなく、やはり物静かにベッドに戯れている。
 まさに行儀よくって言葉がぴったりなんだが……。
 年齢聞いても無駄だよな。
 人間の年とそっちの種族の年じゃいろいろとギャップがありすぎる。
 ま、俺とこいつの残りの人生の時間って、間違いなく向こうの方がはるかに長いんだろうな。
 で、カウラはそんなこいつを俺の縁談の相手に決め付けたわけだが……。

「……お前、じゃなくて、ミュウワってさ」
「あ、はいっ」

 布団の感触に夢中になって、人の話を聞かないと思いきや、すぐに反応してくれるところは何と言うか……大人っぽさは感じるんだよなぁ。
 けど布団の手触りは手放したくないって感情が、布団から離れようとしない左手が物語っている。

「カウラがさ、俺に結婚相手にどうだ? みたいなこと言ってたけどさ……。初対面の相手をそんな風に決め付けられるのって、どうよ? 俺は、見た目は悪くなかったし、今までの手伝いの姿勢は好感が持てたし、名前を聞いた時以外に不快感は全くなかったし」

 俺の言うことを聞けーって言って、その通りに動く相手も、何かロボットみたいで嫌な感じはするけどな。
 陰で不満を言いまくるのも、こっちがストレス溜まる一方だし。

「え……と、コウジさんのことは、かなり前から噂で聞いてました。もちろんカウラお婆様から聞いたような話じゃなく……」

 まぁ屋根裏部屋の噂のことだよな。
 魔物が現れるダンジョンに、必死でもがいてふと気づいたら目の前にその入り口があって、っていういつも聞く噂話。

「それまでは、特にお婆様からは聞いたことはありませんでした。ただ、噂話が耳に届いたあたりから、物思いに沈むことは結構ありました。コウジさんのことを気にかけていたんだなって、あとで気付きました」

 まぁあのばーさんのことは、今はいいや。

「不思議な部屋で、分け隔てなく命の危険が迫った人達を助けてくれる部屋の主が、実在するって話を聞いて」

 まぁ事実に基づいた話だから、よく聞く嘘っぱちっぽい噂話とはわけが違うよな、うん。

「聖人君子を連想して、近寄りがたい人ってイメージでした」

 持ち上げすぎだ、バカヤロウ!

「でも助ける手段がおにぎりって話を聞いて、何となくユニークなイメージもありました。楽しい方なんだろうなぁって」

 噂話ってのは、時々理不尽に感じる。
 間違っちゃいない情報が流れるのはいい。
 だが、それより重要な情報が流れないってのはどういうことだっての!

「私は冒険者じゃありませんから、その方と会いたいと思っても会えるはずがない人だなって。別の世界に住む人って感じがしました」

 うん、その通りだな。
 別の世界に住む人ですが何か?

「私の家族は……ご覧になったでしょう? 叔父や叔母、その両親とか……。カウラお婆様を中心にした家族なんですよ。だからたくさんの人数で、一緒に同じ家に住んでるんです」
「一回訪問しただけで、それは分かった。賑やかでいいじゃないか」

 親類同士でにらみ合うような関係じゃない限りな。

「みんな仲良しなんです。でも、やはり仕事はまちまちで、コウジさんのことを見かけたことがあるって言う家族もいました。ちょっとだけ羨ましいなって思いましたけど、何となく高貴なイメージを持ってしまったので、私はその話聞かなくてもいいかなぁって」
「そんな風に思ってる奴が、一番家族の中で距離が近い件についてだな……」
「あはは。面白いですね」

 そんなこんなで月日が流れるうちに、その部屋の様子や俺の名前も噂の中に入るようになった。
 苗字は一致する、部屋の様子も自分が覚えている部分もあることから、意を決して家族全員に告げたんだそうだ。

「気に病んでた、というのは分かりました。自分は夫に、その子供達にひどい仕打ちをしてしまった、と」

 そんなことを言われても、玄孫の俺には当時の人達の心境には全くタッチすることはできないんだがなぁ。
 ミュウワの言う通り、気に病みすぎだろ、それ。

「もし可能なら、その償いの為に何かをしてあげたい。噂通り、部屋の主が一人暮らしなら、こっちで一緒に生活してもらいたいがどうだろう? と」

 急に重っ苦しい話になってきたな。

「勝手に話を進められてもな。こっちにはこっちの都合ってもんがあるわけだし、そっちの世界の人と関係を持った人が先祖にいるなんて、誰も考えられないだろ」
「えぇ。私もそう思いました。なので私が進言したんです。もし行けるなら行ってみて、気持ちを落ち着けてから、その人と話を進めてみては? と」

 聡明だな。
 年の功とはいえ、感情に走って何でもかんでも決め付ける年寄り。
 それを諫める若人か。

「実は、私はお近づきになりたくないって思ってたんですよ」
「聖人君子すぎるからか?」
「はい。たくさんの駒ってる人を助ける仕事をする人って素敵だと思いますけど、どうやって生活してるのかなぁって。趣味とかないのかなぁ。遊んだりしないのかなぁって」

 遊ぶ相手がいない。
 趣味を探してる暇もない。
 金に困らなけりゃこの生活でもいいと思えるようにはなったな。
 誰かを助けて、その手ごたえを感じられるようになったしな。

「そう言うミュウワだって、趣味がなさそうじゃねぇか」
「読書とか好きですよ? でもここに来てからは……」

 こいつ、何かしてたか?

「コウジさんのことを見てるのが楽しいです」

 おいバカ止めろ。
 こっちが顔赤くなるわ。

「ここに来る人達とのやり取りが喧嘩腰で、不機嫌そうにおにぎりたくさん作って、それを配って、ここに来る人達がおにぎり食べるごとに元気になっていって、なのにコウジさん、不機嫌なままなのが、なんか面白くて。その顔見ると、全然聖人君子じゃなくて、ただの人だったんだなって」

 ……まぁ笑ってくれてもいいけどよ。
 でも、口を押えて笑う異世界人って……こいつが初めてなんじゃないか?
 どうだったかな?

「イメージと全然違いました。それに、先日の……」

 また顔が赤くなる。
 先日の?
 あぁ、あれか。

「カレーだな? カレーライスだな? 俺よりカレーライスと結婚したいんだな?」
「え? え、えーと、いやいや。えっと……」

 図星だな。
 どんどん顔が赤くなっていく。
 額に入れて壁に掛けてある認証状とかを目当てに言い寄ってくる連中と比べりゃ、ほんとに無邪気この上ない。
 けどな。

「炊飯器三つ空にするほど好きなんだもんな」
「言わないでください……」

 何だよこの食い気に満ち溢れた言葉攻め。
 誰得だよ。

「でもここに俺と一緒に行くように言われたのがきっかけだよな。ミュウワは抵抗なかったのか?」
「学業終えてから、ずっと家の手伝いばかりしてましたから……。魔力はありますけど特別強い術が使えるわけでもなかったし、体力とかも人と比べてそうでもなか」
「ダウト」
「はい?」

 人と比べてそうでもなかった?
 あのあしらい方、ここに来る冒険者達の体が万全だって、あんなことできる奴ぁ一人もいねぇぞ。

「まるで筋肉を使わない感じだったじゃねぇか。あの放り投げっぷりは」
「冒険者している家族達は、指先一つで吹っ飛ばしたりしますよ?」
「そんな奴らがよく俺のところに来たもんだ。どんな生き物がそっちのダンジョンにいるんだよ」

 怖ぇよ。
 超怖ぇよ。

「冒険者をしている家族はたくさんいますが、その中で二人くらいしか行ったことないって」

 それでも……ちょっとそっちの世界、怖いかも。

「それに、気に入らないのであれば戻ってきてもいいし、結婚前提でなくてもいいって。コウジさんのお手伝いができればって。だから、そんな人のそばに行くんだから、ちょっと緊張しちゃって……」
「緊張? してたのか?」
「はい、してました」

 嘘つけ。
 初対面の時とこれまでの態度、そんなに変化なかったぞ?

「俺の第一印象はお淑やかだったんだが、一部を除いてその印象が全く変わらないんだが?」
「え? そうですか? 初対面からしばらく何日か経つまでは緊張しっぱなしでしたけど、今ではほとんどしてませんよ?」

 普段からこんな言動ってことか。
 態度が急変する可能性はゼロ。
 これは有り難い。大歓迎だ。
 だが……。

「俺はずっと手伝ってもらえたら気が楽なんだが、あとはそっちだよな。返事に気を遣わなくていいから、率直に言ってどうだ?」
「毎日カレーライスなら喜んで!」

 こいつは……。
 米不足になることはなさそうだけどさ。
 その度ごとに……。

「米研ぎ、辛いぞ?」
「う……」
「月に一回」
「週一っ。あ、そのカレーうどんとやらも試してみたいですっ」

 ……まぁ基本的に、俺の言うこときちんと守ってくれるし、マナーとかもいいし、おまけに、ここで作っても良さそうだし……。

「分かった。ただし週一になるように努力する。やってる暇がない場合もあるからな」
「ありがとうございますーっ」

 ぴょこんと立って深々とお辞儀をするその姿も可愛げがあるな。

「じゃあこれからもよろしく、ってことでいいか?」
「はいっ。お世話になりますっ」

 となると……随分時間が経ってるな。

「じゃあもう寝ろ。明日も早起きだぞ?」
「あれ? コウジさん、お風呂は?」
「ん? 入るよ?」

 って、浴室に指差してるが、何だ?

「一緒に、お風呂どうぞ?」

 おい。
 おい。

「今日初めて長々と会話した相手と、いきなり一緒にお風呂ってお前」
「私、あとに入りますから」

 順番に入ろうってことかよ。
 びっくりするわ。

「下にも風呂があるんだよ。俺の住まいだからな。つか、今までもそうだったろうが」
「じゃあ一緒に寝ましょっ!」

 何なんだ。
 何なんだこいつは。

「二つベッドがあることですし」

 ……分かった。
 こいつ、修学旅行のノリだわ。
 眠くなるまで布団の中でお喋りしようってやつだ。
 で、よく朝寝坊して、引率教師にたたき起こされるパターンだこれ。

「……いくら自分専用の部屋ができたと言っても、やることは今までと変わらないんですっ。風呂に入ってさっさと寝て早起きしろっ」
「えー……」

 ……屋根裏部屋では凛として、自分の部屋ではデレかよ。
 それはそれでめんどうだぞおい。

「黙って寝ろっ!」

 こんな時は、最後に一言ピシッと決めて、さっさと部屋から出るに限る。
 あれ?
 でも、あいつ、誰かに襲われても……。
 平然として返り討ちにするんだよな。
 いや。
 いやいや。
 これは俺のモラルの問題だ。うん。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

五十一歳、森の中で家族を作る ~異世界で始める職人ライフ~

よっしぃ
ファンタジー
【ホットランキング1位達成!皆さまのおかげです】 多くの応援、本当にありがとうございます! 職人一筋、五十一歳――現場に出て働き続けた工務店の親方・昭雄(アキオ)は、作業中の地震に巻き込まれ、目覚めたらそこは見知らぬ森の中だった。 持ち物は、現場仕事で鍛えた知恵と経験、そして人や自然を不思議と「調和」させる力だけ。 偶然助けたのは、戦火に追われた五人の子供たち。 「この子たちを見捨てられるか」――そうして始まった、ゼロからの異世界スローライフ。 草木で屋根を組み、石でかまどを作り、土器を焼く。やがて薬師のエルフや、獣人の少女、訳ありの元王女たちも仲間に加わり、アキオの暮らしは「町」と呼べるほどに広がっていく。 頼れる父であり、愛される夫であり、誰かのために動ける男―― 年齢なんて関係ない。 五十路の職人が“家族”と共に未来を切り拓く、愛と癒しの異世界共同体ファンタジー!

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

男が英雄でなければならない世界 〜男女比1:20の世界に来たけど簡単にはちやほやしてくれません〜

タナん
ファンタジー
 オタク気質な15歳の少年、原田湊は突然異世界に足を踏み入れる。  その世界は魔法があり、強大な獣が跋扈する男女比が1:20の男が少ないファンタジー世界。  モテない自分にもハーレムが作れると喜ぶ湊だが、弱肉強食のこの世界において、力で女に勝る男は大事にされる側などではなく、女を守り闘うものであった。  温室育ちの普通の日本人である湊がいきなり戦えるはずもなく、この世界の女に失望される。 それでも戦わなければならない。  それがこの世界における男だからだ。  湊は自らの考えの甘さに何度も傷つきながらも成長していく。  そしていつか湊は責任とは何かを知り、多くの命を背負う事になっていくのだった。 挿絵:夢路ぽに様 https://www.pixiv.net/users/14840570 ※注 「」「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...