この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

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プロローグ

井の沢南佐は頼まれ動く 井の沢南佐の肩書追加 寺の僧侶に女神の助手

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 俺はそのまま、ななからの説明を聞いた。
 客観的な証拠はないが、彼女はいわゆる創造主ということらしい。
 数多くの世界をつくり、その世界のことはそこにいる住人に任せる。
 自分勝手な話かもしれないが、自分の気持ちを分かってくれる存在を作りたかったとのこと。

「世界の作り方を知ったら、俺もその世界の神になれるってことか」

 目の前にいる女の子、ななが神であるという証拠はない。
 俺に特別な力があり、彼女は、俺がその力を持っていることに気付いた。
 いや、彼女の影響を受けて、自然に変な力が身に付いたってことか。
 普通の人間ではないということはその時点で分かったが、自分で女神って言うかね。
 まぁ普通の人間にはない力が俺にもあることは分かった。もっとも現実世界では全く発揮できないが。
 それでも俺は普通じゃなくなった。
 そんなことを冗談で言ったのだが、ななは睨みつけてきた。

「依頼されてやる作業と、誰も望んでいない作業の違い分かる? 神の領域なんて言葉はあるけど、能力の解析だけの話じゃないんだよ? 立場ってものも指し示す言葉なんだからね? そっちの言葉の定義と私のとは違うこともあるの」

 ほんとに女神してんだな。
 でなきゃこんなきつい口調にもならない。
 けど、神様だから何でもできるってわけではなさそうだ。
 もしそうなら、俺の思いを読み取って、もっといろんな説教かますはずだから。

「で、私の仕事はその世界に住む人達の願いを叶えること。とは言っても何でもかんでも叶えるつもりはないわ。周りが不幸になっても私だけ幸せになりたいっていう願いは私の希望に反するもの。その逆もそう」

 生きていればいいこともあるが嫌なこともある。
 思い通りにならないことも数多い。そこの交差点を見るだけでもそれは分かる。
 東西の道を通る者ばかりの望みを叶えてたら、南北の道を通る者はいつまでたっても進むことは出来ない。

「昨日も言った通り、その世界で生まれた文明や文化に関してはその世界の人達で解決すべきこと。だけど世界が生まれた当初からあるものや、時間が経って生まれたトラブルで悩む人が多かったり、多くの人が解決を望む事柄には様子を見てから解決策を考えるって感じね」

「で、具体的にはどんな願いを採用するんだ?」

 願い事は彼女の耳に直接届くらしい。
 もっともすべての人間(?)の、何かを願う思い全てが届くのではなく、彼女を祀っている神社や教会を通じてやってくる。
 しかもただお参りすればいいというものではなく、普段から彼女への信仰を持っている者の声でないと聞こえないらしい。

「同じことを希望しているのに、相反する意見ってほどではないにせよ、人によっては意見が違うこともあるのよね。その場合は、行き過ぎてない願いの方を選んだりもする。たとえば農作物が不作で、豊作にしてほしいなんて言う願いがそうね」

 その中の特定の作物だけにしてほしいという願いや、種類を問わず質や味さえよければいいという願いもある。
 その場合、後者の願いを選び取る。前者はその結果、住民達の努力によってできること。責任の所在がななにあるのか住人にあるのかがその判断基準になっているようだ。

「あとは自分達で出来るのに神頼みにしちゃうとか。慌ててるときは特にそう。これは仕方がないんだけどね。だからその場合は願いを叶えるんじゃなくて気持ちを落ち着かせる手伝いをする形で解決させるの」

 願い事を叶えることもあるが、自力で願いを叶えさせる手助けをする方が多いんだそうだ。

「で、今回は被災した地域復興の件を受けようかと思ってるの」

「東北もそうだが、関西の一部では未だに地域復興を願い続けている、地震の被災地があるらしいんだがな」

 とりあえずツッコんでみたが、その願い主のいる地域は次元が違った。
 確かにこことは違う世界という意味での次元も違ったが、被災したレベルが違った。

「大きな邪竜に暴れられて困ってるっていうお願いがある。誰かが召喚したものだったら放置でいいけど、自然に発生したっぽいのよね」

「一介の坊さんに何を求めてるんだお前は」

 手のひら程度の範囲で地形を変形させる能力はある、と認めよう。
 その程度で、地域ってどれくらいの範囲かは分からんが、戦後の復興をどうやって手伝うのか。

「だから、南君に丸投げしようってんじゃないの。私の手伝いをしてくれればいいって言ったでしょ?」

 まぁそれなら気は楽でいいが、何を手伝うというのか。

「一人でやる作業って、寂しいよね」

 まあ確かに、ここの冬は毎年豪雪。一人きりでやる雪かき作業は機械化で便利にはなったけどそれでも寒いし一人きりなのは変わらんし、まぁ寂しいよな、うん。
 って言うか、命の危険に晒すことはしないって言ってなかったか?
 舌の根乾かねぇうちにそゆこと言うかお前は!

「出来れば死にたくないんだけどな」

「大丈夫。死ぬことはないから」

 怖いこと言ったよ?!
 今、なんか怖いこと言ったよ?!
 死ぬことはないけど、それ以外の怖いことがこの身に起こるってことじゃねぇの?!

「慎んで辞退申し上げます」

 当然だろ。
 そっちからすれば普通じゃない数少ない人間だろうが、こっちにゃそんな自覚はねえし

 けどな。
 誰かに頼られる経験って、初めてのような気がするんだ。
 そりゃそうだ。
 みんなが俺に依頼してくる理由は、俺の肩書、そして職業目当てだから。
 だから代役がいればそいつに頼みに来る。
 けど、俺にしかない力があって、それには特に不安定な要素がないらしい。
 俺にもしその力がなかったら当然アテにはされないだろう。
 けど出会ってしまった。
 普通の人なら見ることが出来ない存在を、俺には見ることが出来た、らしい。

 彼女の談だがな

 だから、もし俺にそんな力がなかったとしたら、ななは俺を必要とはしなかった、と解釈することは出来ない。
 なぜなら、俺にそんな力がなかったら、そもそも彼女と出会うことは有り得なかった。
 そんな力を持つ存在に手伝ってもらうことを望んでいる彼女がいる、ということ自体俺は知らなかったはずだから。

 決して悪い気分じゃない。

「じゃ、早速行ってみようか」

 つくづく、何度も思うが、実に現金な奴だ。
 まあいいか。
 こいつと一緒なら身の安全は保障されると言う。

「その世界との行ったり来たりする手段はどんなんだ? まさか電車で行ったり来たりじゃあるまいな?」

「横の鳥居よ。私の意思でその性質を変えることが出来る。南君にはそんな力はないけど、その思いを私に介してそれに届けるようにするから、私が意識不明になっても瀕死になっても他の所に存在していても問題なし。南君にも私と同じようにその鳥居の性質を変化をさせられるよ」

 安心して私に任せなさい!
 そんな頼りになりそうな声が彼女の心の中で充満しているかのような笑顔。

 やれやれだ。

「お付き合いしますよ、お姫様、と」

「お姫様じゃない」

 ん? 気に障ることを言ったか?

「女神さまです!」

 あぁ、なるほど。そういうことか。
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