この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

文字の大きさ
11 / 44
第一章 一件目、異世界龍退治

俺となな 一旦教会に戻り次の予定へ

しおりを挟む
 酒場を出た俺とななは、ぐりの背中に乗って現場に向かった。
 近づくにつれ、龍の大きさも姿も次第にはっきり見えてくる。

「湯川駅の建物と同じくらいの大きさか? 大きいだろうが、やっぱあの酒場の町からでも見えはしないな。それよりずっと遠いあの神殿の鳥居からも見えたお前の視力も大したもんだよなー」

 神様に上から目線の言い方も我ながらなんかおかしい話だが。
 時代外れの格好をした女子という見た目だからついそんなことも口に出てしまう。
 高所に慣れるわけがない。が、それを誤魔化すためじゃなく素直な感想が普通に出てくるのは、やはり人間離れした五感を持ってるからだな。

「それと……たしかに氷漬けされてるわね。氷漬けにしてる人達も視認できた。十人くらいはいるかしら?」

 酒場では、そんな術をかける者がいるかもしれないという予測しかできなかった証言を聞いた。
 その情報を確認出来たはいいが、誰かに喋っていい話じゃない。
 そいつらが何者かが分からず、その意図が不明のままでは、俺達がそいつらの仲間と思われかねない。

「お前の見える光景を記録しておけば何かの役には立つと思うんだがなぁ」

「カメラは? 折り紙で作れるよね?」

 スマホの機能にもついてたじゃないか。デジカメだってある。
 日常目にする機会が多いし、何よりぐりを作り出すのを思いついた俺としたことが、ななに先を越されるとは。

「お、おぉ。そう言えば作れたんだよな。風にもあおられないようだし作ってみるか」

 カメラで撮った写真が、この世界でどれだけ信ぴょう性を持たせられるかは疑問だが、まぁ何もないよりはましだ。
 それでもななは、ぐりの飛行速度を遅くするように言ってくる。

「何でまた?」

「下にいる人たちが見上げた時に、不審に思われるのはまずいわよ? 幸いぐりの体は白いから、周りの雲と似た感じで動いたら、いくらかは目を誤魔化せられるんじゃない?」

 隠密活動も楽じゃない。
 だがこんな経験は、おそらくななは数えきれないほどの場数を踏んできてるんだろう。
 ぐりの飛ぶ速さをななの指示通りにする。
 そして折り紙の奴さんからカメラに変形させて完成。ぐりの背中の上にポンと置くとそれは実体化する。

「プリントは出来ないけど撮影したのをそのまま見れるデジカメにした。……あぁ、確かに人らしき姿はあるな。七……八人くらいか?」

 龍からかなり離れながらも大体等間隔で、取り囲むような位置で彼らは佇んでいる。
 もっとも全員が同じ目的でそこにいるかどうかは分からない。

「うん、今のところ誰もこっちを見向きもしない。龍の姿も撮影できる?」

「おぅ。……これ……龍って……石の彫刻みたいにも見えなくはないな……」

 古代生物の恐竜の姿に似た物が山脈の中腹にいる。
 その龍は左半身を晒して、まるで眠っているような顔で凍っていた。

「でも、生き物というより南君の言う通り、石でできてるって感じよね」

 現場の全体を撮り、そこにいる人や龍もその一部を拡大させたり全体が入るまで縮小させたりして、何度もシャッターを切った。

「さて、スタート地点に戻りましょっか。どう処理すればいいか大体分かったし、あとはお願いを聞き届ける私達と、問題の元凶との関連を、お願いしてきた住民達に分かってもらう作戦考えなきゃ」

 やけにあっさりと用件が済んだな。
 まあすぐに返れるのは有り難い。
 って言うか、助かった!

 やっぱり高い所は苦手なんだよ!

 ※※※※※ ※※※※※ ※※※※※

 そこからまた例の鳥居の所に戻ってきた。
 嫌な汗をかいている。
 おまけにまたも陸酔いというやつか、足元がふらついている。

 俺がななと出会った場所は、俺の近所の神社の社の中。
 この世界で、それに当てはまると思われる神殿が鳥居の奥にある。
 しかしななは「教会って呼んでたわね」と、前に来た時のことを思い出してた。

「まぁあの神社と同じでね、私の家と融合させとけば誰からも見られずに出入りできるよ」

 不審者の通報をされずに済むのはいいが、この後はどう動くのか。
 退治してくれって願い事が来てるんじゃなかったのか?

「しかしあんなでかいやつをどうしろと? つーか、あれ、ほんとに暴れてたのか? 龍の石像って言われりゃ、へーそうなのかって信じられるレベルだぞ」

 彫刻とはいったが、石を恐竜みたいな感じに積み上げて、細かい、例えば鱗だとか爪だとかを丁寧に削っていったような感じの像。
 背中に翼がついていたが、その翼を使って空を飛んだなんていう話はなかったな。

「私も普通の生き物だと思ってたからどう対処しようか考えてたんだけど、南君の言う通り石像よね。ならもう見当は出来てる。でも問題は解決した後にあるのよ。『心配しなくていいですよー』って言いふらしてそれを信じてもらえるかどうかなのよね」

 確かにそうだ。
 安心できる状態になっても、その世界に住む人たちが疑心暗鬼のままだったら事件解決したとは言い難い。
 ななが本物の神様だってことを分かってもらえるなら一番手っ取り早いんだろうが。

「……つまりこの世界でもななは女神様って拝まれてんだよな?」

「まあそうね」

「その女神像はないのか?」

 この世界のななの姿はどんなのかは分からない。
 まさかこの世界でも、そんな着物が……通用するわきゃないか。
 通用してたらあの酒場で、一言でも話題に上がってたはずだろ?

「時間も時間だしいっか。とりあえずうちを出て、この世界の教会の中に行ってみましょ」

 時間も時間って何の時間のことなのか。
 まぁいいや。
 ななの言う通りに従うしかないか。

 教会の中は、神社のような高床ではなく、地面は石畳。
 西洋の宗教の教会には行ったことはないが、多分それに似た構造だろう。

「へぇ。鎧をまとって兜をかぶって……さながら戦乙女って感じだな」

 ちょっとだけ心が揺らいだ。
 格好良さに勇ましさ、そして美しさが兼ね備えているようなその像。
 俺の隣で、俺の言葉を聞いてドヤ顔している人物、いや、女神様がそのモデルってわけだ。
 ってことはだ。

「ん? また折り紙? 今度は何折るの?」

「奴さん作って、それがこれと同じ鎧に変わってくれねぇかなってな」

「だめよ、それ。女神のコスプレしてる人としか見られないわよ」

 コスプレなんて言葉、どこで覚えたよ?

「だがあの酒場の用心棒二人の装備を見れば、今の格好よりは受け入れてもらえるとは思うぞ? 怪しまれるより、度が過ぎた悪ふざけならごめんなさいの一言で切り抜けられる分まだましだろ?」

 俺もななのことは言えないが、この世界じゃちょっと異端っぽい感じがしないでもない。

「まぁそれも一理あるけどさ……」

「……女神像そっくりじゃねぇか。こっちの方が眼福だな」

「そりゃそうでしょうよ。こっちが本物だもの」

 思った通り、作った折り紙から全身鎧が出来上がった。
 ななは気が乗らなそうに鎧一式を身につけたが、俺はつい本音を出しちまった。
 だが、ななの言う「時間も時間だし」って一言が気になった。

「いつまでもここに居続けたって意味ないでしょ? 聞き取りって訳にはいかないけど、噂話に聞き耳を立てるくらいなら許されるんじゃない? 予備知識がなきゃ噂話聞いても意味が分からないままだったしね。時間ってのは、あそこみたいに酒場で話を聞くことが出来る時間じゃないのかなってことよ」

 なるほどね。
 だが俺がこの格好のままだったら、せっかく見栄えのいいななの姿が意味をなさなくなる。
 この世界に住む者達から警戒されないための、ななに付けさせた鎧なんだからな。

「ひょっとしてさぁ……。こんな風に身に纏える物って、そういう道具ばかりとは限らないんじゃない?」

 なながいきなり訳の分からないことを言い出し、俺はそれを瞬時に理解できなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...