この僧侶、女子高生っぽい女神の助手 仕事は異世界派遣業

網野ホウ

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幕間その2

幕間:ななからの新たな仕事の追加と怖さ

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「ねぇ南」
「んぁ?」
「ちょっと仕事手伝って?」

 例によっていつもの朝。
 数多くの世界を創った創造主のななの手伝いをするために、女神ななの家に来てるんだし、ななもそのことを知っている。
 知っているというより、なな自身が言い出しっぺなんだが、わざわざ俺に手伝ってと頼んでくる。
 一癖も二癖もある仕事に違いない。

「いやその……そんなに身構えなくていいから……」

 すり寄る女の子。後ずさる三十前男。
 いや、この場合這いよる女の子という方がいいのか?
 形容しがたききれいな女の子のようなもの。

 自分で言っててちと怖い。顔を向けられたのは幸いだった。
 長い黒髪が顔全体を隠してたら、そりゃもう間違いなくアレだわ。

「何青ざめてんのよ。お願い事があるってだけじゃない」

 わざわざそんなこと言うから怖ぇんじゃねーか!

「な、何の願い事だよ。願い事を三つ言え。ただしその一つ目は、願い事を一つだけにする、という……」

「あなたの方こそ何言ってんのか分かんないわよ。んーと、お手伝いしてもらう仕事の種類を増やしたいの」

 あ、今すぐ何かやってくれってんじゃないのか。

「何の仕事? 折り紙と地面をどうこうする力さえあれば手伝えることなら吝かじゃねぇけど?」

「うん……あのね……」

 予感が当たってしまった。
 前世の記憶を持ったまま別世界に転移する者の、別世界での案内をしてくれ、というものだった。

「おいちょっと待て」
「何?」
「『何?』じゃねぇだろうよ。俺がその別世界の住人だったらあんないもしてやれるさ。行ったことのない世界の案内をどうやるってんだよ!」

 まさか転生先が俺の住む世界だとしても、せいぜい湯川市の案内しか出来ねぇぞ?
 修業先は本山のある東京だったが、そこだって土地勘があるとは言えねぇし。

「あ~、そういうことじゃないんだよねぇ」
「んじゃどういうことよ?」

 ななの話を聞いてみた。聞いていくうちに、確かに同情すべき点はあるが……。

「例えばある人が、チート能力の魔王になりたいって願って、それを叶えるじゃない?」
「あぁ、それで?」
「別の人が、チート能力の持ち主になって、とんでもない力を持つ魔王を倒して英雄になる人生を送りたいって願うじゃない?」
「ふむ、それで?」

「前者の魔王のいる世界にその人を転移させると、その魔王を倒して英雄になれるじゃない?」
「まぁそうだな」
「魔王になりたいって人は、まさか倒されるとは思わないじゃない」
「そうなるわな」

「思ってたんとちゃうー! とか言って私にクレームつけてくるのよっ」
「……まぁ、そうだな」
「逆に英雄になるはずが魔王に倒されるとするじゃない?」
「ふむ、それで?」
「英雄にしてあげるって言われたのにどうしてくれるんだーってクレーム付けられちゃうのよ」
「大変ですね」

 ドンッ!
「ちょっとっ! 真面目に聞いてる?!」

 突然切れるなよ怖ぇよ。

「聞いてるよ。それで?」

「だぁかぁらぁ!」

 要点を言う前にこんな接続詞だけを区切って、しかも力を入れるなな。
 嫌な予感しかしない。

「なんで神々を超えるこの女神様が、そんなことでクレームつけられなきゃなんないのよ! 本人も少しは努力しなさいよっての!」

 あー、今日もお茶とお茶菓子がおいしいですね。
 朝ご飯の前にお茶菓子を食べるのもどうかと思うんですが。

「ちょっと南! 人の話聞きなさいよ!」

 人じゃねぇだろお前! 女神様だろ!
 都合のいいように自分のこと言いかえるんじゃねぇ!
 何で朝っぱらから始末の負えない素面な酔っぱらい相手にせにゃならんのだ!
 給料減らしてもいいからそんなこいつの話し相手だけは勘弁してくれよ!

「それにしてもお前、どんだけ世界拵えたのよ。百や二百じゃねぇだろ」
「そりゃまぁねぇ。五桁まではいってないかな?」

 ってことは八千くらい作ったってのか?
 随分といろいろ世界の理を思いつくもんだ。

「クレームの入れようがないように、転移や転生したい奴中心の世界をその度ごとに作ったらどうだ?」
「その世界の周りの住人がいなくなっちゃうじゃないのよっ。頭おかしいんじゃないのあんた?」

 あんた呼ばわりまでしてきたよこの神。

「で、文句言われたくないからその身代わりとして、俺にその仕事をさせるってこと?」
「そゆことー」

 何このニコニコ顔。
 分かってんじゃん、みたいな顔。
 頼りにしますねって顔。
 だから俺の異性の好みは、こんな年下じゃない……。
 あぁ、こいつ年上だっけ。
 いや、だからと言って限度なしじゃねーよっ!
 二十桁も年上の女性が理想なわけねーっつーの!
 んな顔に騙されねぇっつーの!

「神のお前が面倒くさいなら、神よりも欠点が多い人間ならもっと面倒くさく感じるって思わない?」
「南なら、私のためなら平気って言ってくれるって信じてるからっ」

 すげー笑顔。
 一つの曇りもない爽やかな笑顔なのに、俺は本能で、全身全霊で拒絶反応起こしてやがる。
 顔芸通り越して、顔技だな、これ。

「お前……本物のニャル何とかじゃないだろうな?」
「クトゥルーとか何とかの神話に出てくる神様だっけ?」

 俺の趣味のサブカルチャー関連の本を、ななの家の中にかなり持ち込んでいる。
 暇つぶしの目的だったが、ななも何度も目を通している。

「……あんなかわいいモノに例えるなんて、ななはちょっとだけうれしいです。そしてそんな程度の物と比べるな、とちょっと腹を立てたくなります」

 笑顔の表情は少しも変わらないってのが怖いよ。

「でも、南だから許してあげます、ねっ」

「は……ハイ……」

 ななからのそのお願いは、なし崩しに受け入れさせられてしまった……。
 そして頭の中でこんなことを思う。

 その姿を見、声を聞く者を、駒のように扱う、異なる世界の神が住む神社(家)。
 異駒とはよく言ったもんだな……。

 でもどんなに怖くても、本業より高額の収入が得られるこの職場を手放したくないっ!

 ……今時生臭くない坊さんなんて、見つける方が難しいんじゃないかなぁ、うん。
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