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第三章 三件目 異世界への転移、転生希望者へ一言
新たなお仕事 ~嫌な予感は当たるもので~
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まさかどこぞの商品のサービスセンター係みたいなことをやらされるとは思わなかった。
転移予定者の希望を聞いて、なるべくそれに沿った転移先に同行する羽目になるとは。
ななの魔術によって体にチップのようなものを埋め込まれた。
転移者が転移先にある程度慣れたら、そのチップを頼りにななの家に帰還できるという仕組み。
パスポートみたいなのを持たせることも考えてたみたいだったが、それをなくしたら帰れなくなるだろうから、だとさ。
付き添いが必要ないパンフを用意した方がいいと思うんだがな。
つーか、手回し早すぎねぇか? ななのやつ。
「はぁ?! その世界……っつーか、俺が住んでる世界のことだってすべて知ってるわけじゃねぇのに、なんで全く無縁の奴が行きたがってる俺とは無縁の別世界に付き添わなきゃならねぇんだよ!」
「細かいこと気にしないの。髪の毛なくなっちゃうわよ? っていうか、もうないし」
「剃ってるだけだ! アホウ!」
「それだけ南が文句を言う仕事よ? それを引き受けてくれたら、報酬もかなりのものになると思うけどなー」
金はどんなにあっても困るということはない。
そんな言葉は嘘である。
だって、金をたくさん持ってることを他人に知られると、それを何とかして横取りしたいと思う奴も現れる。
そういう奴に限ってなかなか諦めてくれないもんだからな。
しかし必要な物ではある。あればあるほど、生きるために必要な物品の質を高めることも出来る。
そして本業だけでは、その質を高めることは出来ず、生きるために必要な要素の一つである健康を維持することは難しい。
ということで、報酬は大事である。
雇い主は、人間の感覚から相当ずれている普通の神仏よりも格が違う女神とあらばなおさらだ。
だから断じて安請け合いではない。
俗世でのサビ残とか何とかとは違う。
苦労した分報われるのである。
だが、やってることは、はっきり言えば子守りも同然。
俺が付き添いを頼まれたのは、俺の住んでいるところとは違う世界で自ら命を絶った、十才くらいの少年だった。
彼がいた世界は、俺の世界のように魔法が存在しない、社会は人間の身によって形成された世界。
彼の話によれば、そこでいじめを受け、それを苦にして自殺したようである。
別世界でも命を絶つ以外に方法を思いつけないほどのいじめを受けたのかと悲しい気持ちになるが、だからと言って俺が出来ることと言えば、俺の知らない世界でそんな彼がある程度生活に慣れるまで付き添うこと。
彼から離れるタイミングは俺に任せる、というななからの依頼。
魔法や人間以外の種族が自治体を作っているこの世界で、俺の何が彼の役に立つというのか。
まったくもって、やれやれである。
「で、なな……女神様から遣わされたわけだが……」
「あぁ。あのきれいな女神様からこうして気を遣われるなんて嬉しい限りだ。よろしく頼む。俺は……」
何か横柄な感じだ。言葉遣いも碌にしっかり覚えてなかったのか。
もっともそれを指導するのは俺の仕事の範疇じゃない。
「お前の名前とかは俺は知る必要はない。お前はこの世界の文字とか言葉は言えるんだろう?」
彼は頷く。
「どうしたものか、この町の人たちの会話とか、話は分かるように聞こえてくるし、店の看板の文字も分かる。でも君の話しも分かるよ?」
世界に固有名詞はない。俺が住む星には、地球という名前はあるのにな。
前々から不思議に思ってたことの一つだ。
そして今俺とこいつがいるこの都市、地名も知らない。
こいつが一人前になるまで一緒に生活をしなければならない、という規則でもないし、俺が望めばすぐにななの家に戻れる。
だから俺はこの町や地名の名前など知るつもりもない。
そして俺は、そいつの名前も知るつもりもなかった。
「で、俺、これからどうしよう?」
「知らん」
そいつは驚いて俺の方を見ている。
「お、お前、この世界での俺の案内役じゃ……」
「ただ付き添ってるだけ。案内役じゃないと何度言えば分かる」
「初めて聞いたよ!」
ななも少しくらい説明しろよ。
何でも俺に丸投げか?
「はぁ……。こんなんで俺、この世界でどうしろと……」
「どうもこうも、臨んだことを叶えやすい環境の世界って聞いたぞ? お前が女神様に臨んだことをこの世界でやり遂げる。ただそれだけだ」
ななを『女神様』などと改まった呼び方をするのは、何かむずむずして落ち着かない。が、こいつにそんな俺の感情を理解してもらうつもりもない。
この場限りの間柄なのだ。
「相談に乗ってくれてもいいだろー?」
「お前がこれから何をするつもりかも、そして今のお前の種族が何なのかも知る必要もないし知るつもりもないと思ってるんだがな」
転移前は俺と同じ人間。
魔法や魔物がいる世界に転移したいという希望を持っている。
ななからはそう聞いた。
「他の情報は、南には特に必要ないと思うから言わないでおくね。伝えるとその人に情が湧くことだってあるだろうし」
ななの気遣いに感謝である。
「この世界で、誰も敵わないほどの力を持つ魔王になりたいってお願いしたのに、誰も見向きもしないどころか、付き添いからも関心持たれないなんて……」
ななの愚痴のあとは、ななの面談相手の愚痴かよ。
何という面倒くさい副業だ……。
愚痴を聞く、という特別報酬の項目はないものか。
あるわけがないな。宝くじが当たるってことだけだからなぁ……。
「これじゃどこでどうしたらいいか分かんねぇよ」
お前が分からないのに何で俺に答えを求めようとするんだ、まったく。
転移予定者の希望を聞いて、なるべくそれに沿った転移先に同行する羽目になるとは。
ななの魔術によって体にチップのようなものを埋め込まれた。
転移者が転移先にある程度慣れたら、そのチップを頼りにななの家に帰還できるという仕組み。
パスポートみたいなのを持たせることも考えてたみたいだったが、それをなくしたら帰れなくなるだろうから、だとさ。
付き添いが必要ないパンフを用意した方がいいと思うんだがな。
つーか、手回し早すぎねぇか? ななのやつ。
「はぁ?! その世界……っつーか、俺が住んでる世界のことだってすべて知ってるわけじゃねぇのに、なんで全く無縁の奴が行きたがってる俺とは無縁の別世界に付き添わなきゃならねぇんだよ!」
「細かいこと気にしないの。髪の毛なくなっちゃうわよ? っていうか、もうないし」
「剃ってるだけだ! アホウ!」
「それだけ南が文句を言う仕事よ? それを引き受けてくれたら、報酬もかなりのものになると思うけどなー」
金はどんなにあっても困るということはない。
そんな言葉は嘘である。
だって、金をたくさん持ってることを他人に知られると、それを何とかして横取りしたいと思う奴も現れる。
そういう奴に限ってなかなか諦めてくれないもんだからな。
しかし必要な物ではある。あればあるほど、生きるために必要な物品の質を高めることも出来る。
そして本業だけでは、その質を高めることは出来ず、生きるために必要な要素の一つである健康を維持することは難しい。
ということで、報酬は大事である。
雇い主は、人間の感覚から相当ずれている普通の神仏よりも格が違う女神とあらばなおさらだ。
だから断じて安請け合いではない。
俗世でのサビ残とか何とかとは違う。
苦労した分報われるのである。
だが、やってることは、はっきり言えば子守りも同然。
俺が付き添いを頼まれたのは、俺の住んでいるところとは違う世界で自ら命を絶った、十才くらいの少年だった。
彼がいた世界は、俺の世界のように魔法が存在しない、社会は人間の身によって形成された世界。
彼の話によれば、そこでいじめを受け、それを苦にして自殺したようである。
別世界でも命を絶つ以外に方法を思いつけないほどのいじめを受けたのかと悲しい気持ちになるが、だからと言って俺が出来ることと言えば、俺の知らない世界でそんな彼がある程度生活に慣れるまで付き添うこと。
彼から離れるタイミングは俺に任せる、というななからの依頼。
魔法や人間以外の種族が自治体を作っているこの世界で、俺の何が彼の役に立つというのか。
まったくもって、やれやれである。
「で、なな……女神様から遣わされたわけだが……」
「あぁ。あのきれいな女神様からこうして気を遣われるなんて嬉しい限りだ。よろしく頼む。俺は……」
何か横柄な感じだ。言葉遣いも碌にしっかり覚えてなかったのか。
もっともそれを指導するのは俺の仕事の範疇じゃない。
「お前の名前とかは俺は知る必要はない。お前はこの世界の文字とか言葉は言えるんだろう?」
彼は頷く。
「どうしたものか、この町の人たちの会話とか、話は分かるように聞こえてくるし、店の看板の文字も分かる。でも君の話しも分かるよ?」
世界に固有名詞はない。俺が住む星には、地球という名前はあるのにな。
前々から不思議に思ってたことの一つだ。
そして今俺とこいつがいるこの都市、地名も知らない。
こいつが一人前になるまで一緒に生活をしなければならない、という規則でもないし、俺が望めばすぐにななの家に戻れる。
だから俺はこの町や地名の名前など知るつもりもない。
そして俺は、そいつの名前も知るつもりもなかった。
「で、俺、これからどうしよう?」
「知らん」
そいつは驚いて俺の方を見ている。
「お、お前、この世界での俺の案内役じゃ……」
「ただ付き添ってるだけ。案内役じゃないと何度言えば分かる」
「初めて聞いたよ!」
ななも少しくらい説明しろよ。
何でも俺に丸投げか?
「はぁ……。こんなんで俺、この世界でどうしろと……」
「どうもこうも、臨んだことを叶えやすい環境の世界って聞いたぞ? お前が女神様に臨んだことをこの世界でやり遂げる。ただそれだけだ」
ななを『女神様』などと改まった呼び方をするのは、何かむずむずして落ち着かない。が、こいつにそんな俺の感情を理解してもらうつもりもない。
この場限りの間柄なのだ。
「相談に乗ってくれてもいいだろー?」
「お前がこれから何をするつもりかも、そして今のお前の種族が何なのかも知る必要もないし知るつもりもないと思ってるんだがな」
転移前は俺と同じ人間。
魔法や魔物がいる世界に転移したいという希望を持っている。
ななからはそう聞いた。
「他の情報は、南には特に必要ないと思うから言わないでおくね。伝えるとその人に情が湧くことだってあるだろうし」
ななの気遣いに感謝である。
「この世界で、誰も敵わないほどの力を持つ魔王になりたいってお願いしたのに、誰も見向きもしないどころか、付き添いからも関心持たれないなんて……」
ななの愚痴のあとは、ななの面談相手の愚痴かよ。
何という面倒くさい副業だ……。
愚痴を聞く、という特別報酬の項目はないものか。
あるわけがないな。宝くじが当たるってことだけだからなぁ……。
「これじゃどこでどうしたらいいか分かんねぇよ」
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