王子様より素敵な人

ミツビリア*

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恋のライバル関係

未来からの危機

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 王子からの手紙には
『******が貴女に危険を誘う』と書いてあったが何に危険が含んでいるかはわからない。何故だか空白なのだ。わからぬまま、そっと机の上に置いた。

 文章の隣には、沈むお日様と明るいお月様が描かれていた。



 その夜、ふと淡い光で目を覚ます。なんと手紙から文字が浮かび上がっていたのだ!

「……はッ!?」

『カイン・ガトール』…ふわふわと文字が浮かんでいる。

(カインの名前ッ!じゃあ、『カイン・ガトールが貴女に危険を誘う』ということ?!)


慌ただしく胸の鼓動が早まる。

(これはッ!あのイベントしか!)

脳裏に浮かぶのは前世の記憶であった。


****



 王子が手紙を送りつけてから三日後に訪れてきた。
何処かに散歩していこうという提案である。



 私達はすぐ近くにある丘の大木で涼んでいることにした。

「殿下、お菓子がありますのよ。三番目のモノが一番出来が良いですわ。どうぞ召し上がってくださいまし」

「あぁ、頂くよ、ありがとう」

 手作りとも言えるクッキーを手渡す。カインの為にお菓子作りからではあるが料理的な腕を磨こうと思っているのだ。

 すると、王子は何かに気づいて、私が差し出したクッキーの三番目をぱっくりと手で割った。スルスルと小さな紙がクッキーの中身から出てくる。

「………どうぞお召し上がりになって下さい」

「………」

 王子は食べる振りをしながら、私があらかじめ入れておいた紙をスッと黙読する。

私は
『魔力をこの紙に通せ』と書いた。
 王子は手から紙へ魔力を込める。淡い光が紙へと流れた。

『彼は全てを知っている』

 上手く成功すれば、白紙の欄にこの文字が浮き出るはずだ。これは、特殊なインクを使って書いたものである。

 そのインクは、使って文字を書くと魔力を込めれば無色透明から普通に見えるほどまでにインクが浮きでるという優れ物だ。魔力をまた込めればまた無色透明に戻る。
 だが、貴族には普及されているため、大体怪しい白紙の部分があると、魔力を込めるのだとか。

 高価なものだが、私は父が持っていたものを使わせて貰った。

「?!じゃあ!アイツは…カインは!!」

王子の顔から優しげな表情が消えてゆく。

(やっぱりシナリオと違う。これはカインイベントで起こる"白銀の月夜に"のイベントだわ…)

 "白銀の月夜に"というのは、この世界と酷似した、私が前世でプレイしていた乙女ゲームのイベントである。

 主人公である転入生が、そのイベントの主な登場人物のカインの謎を解いていくストーリー。カインルートでは最も大きな一つである。
 カインの親友である王子も助っ人として絡んでくるので、その王子のおかげでフィーシアが付いてくるというおまけ付きだ。勿論、王子の特別な扱いを受けるヒロインはフィーシアからの過剰な扱いを受けるのだ。

(本来ならばカインはまだ王子に明かしていない年齢の筈…それなのに王子が私に問いているということは…カイン?)

 しばらく黙り込んでいた王子は私の方へ振り向いた。

「ご馳走さま。今日はありがとう。君は可憐な笑顔で見守ってくれるだけでいいからね」

 頭にポンっと手を置かれた。ファルはオロオロとして私を見たが、王子は更にニコッと笑顔で念を押す。
きっと、この事件には足を踏み入れてはならないということだろう。

でも。

自分でも自然と口角が上がるのが分かる。

「イヤですわ!何故私が決めれませんの?未来の為ですもの、さぁ、お見送りしますわね」

王子は驚き、目を見開いた。

「うん、じゃあ何かあったらそいつらは全て無くすね」

 ふわりと笑顔の花が咲く。私も釣られて笑ってしまった。

(そう、私はカインと歩んでいくって決めたから)

ゆっくりと深呼吸をする。
未来で目に広がるのは何の景色だろう、のんびりと考えながら。


 そして事件は遠くもない未来で起こることになる。


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