魂が百個あるお姫様

雨野千潤

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番外トーマ編

01 俺が王女に見初められた件

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「わたくしの婚約者になって欲しいんですの」

ある日の昼下がり。
アベル騎士団の詰め所で、俺は何故か王女様に詰められている。


「婚約者?」

それは寝耳に水だ。
聞き違いではないかと思わず確認してしまう。

「そうです。結婚を前提とする婚約者ですわ」

「俺と結婚したいってこと?」

「勿論」

ソフィーナの鬼気迫る目が怖い。
どうやらコレはプロポーズのようだと理解した俺は、幾つかの確認事項を思いつく。

「俺はまだ剣を捧げる主を決めていないが、もしその時が来たら俺は家族よりも主を優先する。それでもいいのか?」

「良くありませんわ」

「良くないのかっ?」

「トーマには騎士を辞めていただきたいの」

「俺、アベル騎士団の副団長なんだけどっ?」

ようやく堂々と名乗れるくらいの規模にまで育て上げたというのに。
いやいや、事情があるのだろう。
もう少しくらい話を聞いてみようと続ける。

「辞めたら俺は無職になるんだが」

「トーマにはお兄様の側近になってもらいます」

「クリストの?」

少し前まではアルフレッドの側近だったクリストだが、今や王太子だ。
側近の一人や二人くらい必要だろう。
まさか自分が抜擢されるとは夢にも思わなかったが。

「何故クリストの側近に?」

「そこで仕事ぶりを見て、使えそうならば爵位を与えるとお父様が」

「爵位?」

「わたくしの臣籍降嫁先ですわ」

「…」

なるほどね、と頭を掻く。
あの親馬鹿なルーファスが騎士ごときの男に娘をやらんと。

「そこまで面倒な手回しをして、何故俺なわけ?」

「わたくし、結婚は好きな人としたいんですの。政略は絶対に嫌」

「あー…」

確かに二回も婚約解消すればそんな気持ちにもなるだろう。
気持ちはわからなくもない。

「少し考えさせてくれ」

考える時間が欲しいと告げると、ソフィーナの顔が途端に泣きそうになる。

「…泣くのはちょっと、ズルイ」

「だって普通なら喜んで飛びつく案件でも、爵位に興味がないトーマは断るもの」

「俺が断ると?」

「わたくしを恋愛対象に見ていないこと、わかっていますもの」

「…」

肯定も否定も出来ずに黙る。

ソフィーナの気持ちに気付いていなかったわけではないが、そこまで真剣には考えていなかった。

正直、俺はそんなに自意識過剰にできていない。
どうせ熱病みたいなもので、そのうちご立派な相手に嫁いでいくんだろうと思っていた。

「うーん」

そうだなぁと腕を組んで考える。

「トーマは昔『騎士って柄じゃない』と自嘲していたとユーリに聞きましたわ」

「なんでそんな昔にポロったことを覚えてんだ、あいつはよ」

クソ生意気で可愛い妹を思い浮かべ毒づく。

あれは王都騎士団を辞めてきた俺に罪悪感を感じていたから慰めに言った言葉だろうが。
都合よく掘り出してくんな、馬鹿妹。

「わかった。じゃあ一年間お試し期間で」

妙案を思いついたと手を叩く。
ソフィーナはきょとんとした顔で「お試し期間?」と首を傾げた。

「とりあえず一年間やってみて考えよ」



「で?一年間休暇を取りたいと?」

ジークが赤髪の頭を抱えてはぁとため息をつく。

「一年後に戻るかどうかはわかんねぇけどな」

「お前、王太子の側近とかマジなのか?」

「ジークだってやってただろ?」

「やってたから言ってんだ。俺は側近っつっても護衛みたいなモンだったけど」

大変だぞと脅すような顔で迫られる。
俺だって大変じゃないなんて欠片も思っていないのだが。

「アベル騎士団は人数も増えてきて強くなったし今は平和だから訓練ばかりの毎日だし。別に抜けてもそんなに困らないけどよ。お前はいいのか?騎士を辞めても」

「うーん、わかんね」

「わかんねって…。お前、別に王女様のことそんな好きでもないだろ」

痛いところを突かれ、俺はウッと右手で胸を押さえる。

確かに今回引っかかっている点は、俺がそこまでソフィーナを好きなのかどうかということだ。
だけど…。

「無碍に断って泣かせてまで俺って騎士になりたかったっけ?とも思うから」

「お前…、最低」

俺の前で言うなよとジークが睨む。
確かに騎士であることに誇りを持っているジークには失礼だったと思い「ごめん」と小さく謝った。

「まぁいいぜ、お前の人生だもんな。行ってこいよ。今まで有難うな」

「今生の別れみたいに言うなよ。戻ってくるかもしれないし、俺が騎士辞めても親友だよな?」

な?と確認すると、お道化たように肩を竦め「そうだな」と返してくれた。


休暇を取ってベリアへ行くことを報告に行くと、ユーリは「話は既に聞いています」と言ってパチンと指を鳴らした。

途端にヨツイ達メイド軍団に部屋に連れ込まれ、大勢で寄ってたかって揉みくちゃにされる。
服を剥ぎ取られ、髭を剃られ、髪を整えられ、気が付けば鏡の中には貴族らしい男が立っていた。

「馬子にも衣装ですわねぇ」

揶揄いつつ俺の顔に眼鏡を装着する。

「コレは?」

「ニノからのプレゼント。どんな脳筋男でも賢く見せる魔法の小道具ですわ」

「いや、普通の伊達眼鏡だろ」

プレゼントというなら貰うけど、と眼鏡を確認する。
うん、魔道具とかじゃない。普通の度なし眼鏡。

「ソフィのこと。断っていたら兄様を嫌いになっているところでしたわ」

「いや、そう言われても」

「兄様、ソフィは可愛い子です。昨夜だって号泣してましたから」

「ショックで!?」

「嬉しくてに決まってるでしょう!」

嬉しくて号泣…。

そうなのかと鼻がむず痒くなる。
なんだろう、照れているのか?俺は。

「頑張ってくださいね。兄様に側近なんて出来る気が微塵もしませんけれど」

「そうかもな」

「嘘ですわ。少しは否定してくださいな」

「頑張ってはみる」

ぎゅうと抱き着かれ、ヨシヨシと頭を撫でる。
この甘えん坊の妹のことも心配だが、両親も義弟も傍に居るのだから大丈夫だろう。
どちらかというと俺は俺の方が心配だ。

「アレクサ、一緒に来てくれない?」

「ナンデデスカ」
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