【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 

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 .......コンっコンっコンっ



 ........コンっコンっコンっ



 ........コンっコンっコンっ



 次の日、私は窓ガラスを何か硬いもので突ついているかのような音に気が付いて目を覚ましました。

 「..........んんん??」

 寝ぼけたまま窓に目を向けると、大きな翼をバサバサと広げた鷲のような鳥が私を見つめていました。

 あまりにも眠たいので夢かとも思いましたが、どうやらこれは現実のようでした。

 「........あら?足に持っているのは.........手紙かしら?」

 鳥が何かを持っていることに気が付いた私は窓を開きました。

 手紙など貰ったことがなかったので、伝書鳩ならぬ伝書鳥だと思いもしなかったのです。

 私が鳥からその手紙を受け取ると、すぐに鳥は飛び立ち空の向こうへと消えてしまいました。

 空は雲ひとつない快晴で、眩しい太陽の光に私は目を細め、視線を落としました。



 手紙は見るからに上等な封筒に入れられていました。

 私はそれをひっくり返して封蝋を確認した瞬間、思わずその手紙を落としそうになってしまいました。


 .................それは”王家の紋章”だったのです。


 おそるおそる中を開き、中身を確認するとそれは招待状のようでした。

 今夜開かれる第3皇子の誕生日パーティーへの.............。


 窓の外をチラリと覗くとアルラーナ侯爵家の使用人がせわしなく屋敷中を走り回っていました。

 いつもとは違う侯爵家の様子を見て、私はこの手紙の存在に納得が行きました。

 (........きっとこれは間違えて私の元に送られて来てしまったのね)

 この外の様子から察するに、フェリシダが第3皇子の誕生日パーティーに招待されているのでしょう。

 私はこの間違って届けられた招待状をどうすることもできず、困り果てながら窓の外を見つめ続けていました。



 ..........それから何分後のことだったでしょうか。


 「..........あら、窓の外に何かあって?」

 その言葉に振り向けば、いつもの数倍華やかな装いに身を包んだフェリシダがそこには立っていました。

 美しいプラチナブロンドの髪は綺麗に巻かれていて、胸元に大きなリボンがついた美しいピンクのドレスに彼女は身を包んでいました。

 耳元には大きなダイヤのイヤリング.............そして、胸元には............私がルーからいただいたネックレスをしていたのです。


 「............返して..........返してください。」


 今日、塔を出るのなら、私はこのネックレスを取り返すことができません。

 ですから、私は彼女に懇願したのです。

 治ったはずの背中の傷が痛むようで、私の声は震えました。

 フェリシダはその私の言葉を聞いて、分かりやすく顔を歪めました。

 しかし、次の瞬間彼女は不気味なほどにっこりと笑ったのです。


 「嫌よ???このネックレスだって、ずっと机の奥にしまわれているのは可哀想だわ。見られるために作られた物だもの。今日は私が王城のパーティーへと連れていってあげるのよ。感謝して欲しいくらいだわ???」

 「.............」

 どう言っても、返してはくれなさそうでした。

 私は諦め、手紙を差し出しました。


 「王城からの手紙です。どうやら、間違って届いたようなのです。」

 「あら、王城からの招待状??? おかしいわね......アルラーナ家への招待状はもう届いていたけれど.......???」


 フェリシダは私の手から、招待状を受け取り中身を確認し始めました。

 2枚目の手紙に彼女が目を通すと、分かりやすく彼女は目を輝かせました。


 「”フェリシダ・アルラーナ嬢 私の16歳を祝う生誕パーティーにお越しくださいませんか。貴方に見せたい美しい花畑が王城にはあります。貴方がきっと飛び込んでみたくなる程に”ですって! ........................そうだわ!!!縁談を断られたのにもきっと何か理由があるのよ。そうではないなら、こんな手紙を私個人にわざわざ送ってこないもの!!!」


 彼女は大事そうに手紙を抱きしめ、嬉しそうにその場でくるくると回りだしました。

 その一方で、私は不思議に思っていました。

 フェリシダに送られて来た手紙の内容は口調は違えど、まるでルーが私に当てたメッセージのような気がしたからです。

 勿論気のせいであって、そんなはずはないのですがあの出会いの日に私が語った夢を知っているかのような文章でした。


 ........................私は頭をふるふると振ってそんな考えを追い出しました。


 (.........どう考えてもありえない話だもの)


 目の前にいるフェリシダは、興奮が収まったようでにっこりと微笑んで、私に背を向けました。


 「あら、もう時間だわ。では、ごきげんよう。ボロ切れのようなワンピースでは、パーティーには連れていけないの」


 振り向いた彼女は嘲笑を浮かべながら、首を振り、塔の外へと出て行きました。


 同じ父親を持つ子供なのに、彼女は華やかな装いで夜会に出かけ、私は薄汚れたワンピースに身を包みずっと閉じ込められて来ました。

 彼女のように豪華なドレスや宝石を身に付けたい訳ではありません。

 ................ですが、どうしようもなく虚しくなります。

 彼女が持っているものを私は何も持っていませんから。


 屋敷の門から大きな馬車が出て行くのが遠めに見えました。

 フェリシダは王城へと向かったようです。

 明るいうちに、王城へと到着するでしょう。

 私は小さく息を吐いて、部屋の掃除を始めました。

 部屋にはほとんど物がないですが、ルーがくれた湿布や煎じ薬、そして彼がくれた花を押し花にして残していたノート、ボロボロになってしまったヴィーナの本などがありました。

 私はヴィーナの本の近くに謝罪の手紙をつけておきました。

 こんなもので許されるはずはありませんが、少しでも謝罪の意を伝えておきたかったのです。



 そうして一時間が経った頃でしょうか........。

 ...........再び、塔の外が騒がしくなったような気がしました。

 ですが、フェリシダのパーティーの準備を無事に終えた使用人達が、軽く打ち上げのようなものをしているのだと思い、私はあまり気には止めていませんでした。

 違和感を感じたのは、塔の階段を複数人が登って来ていることに気がついた時でした。



 ...........カツンカツンッカツンッカツン


 ルーなら外から来ますし、衛兵がくる時間でもありません。

 フェリシダも外出中のはずです。

 おまけにこんな大人数の足音なんて聞いたことがありません。

 私は身を強張らせ、ドアが開く瞬間を見つめていました。



 ....................ギギギイイイイイイ

 ゆっくりと重い扉が開かれていきます。





 その扉の先から出て来たのは.....................



 「リア、約束通り君を迎えに来た。」

 美しい顔に綺麗な笑顔を浮かべたルーでした。
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