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違和感を感じた。
けれど、俺はその違和感の正体を確かめるまでには、意識を持っていけず、俺の意識は夢と現実の狭間でゆらゆらと揺れている。
背中が温かい。
それは、目覚めた瞬間の布団の中の心地よさと同じで、熱すぎることもなく、どこまでも心地よくて、離れ難い。
そう、まるで人の体温のようにちょうど良く、心が緩やかに、安心する。
「……」
目覚め難いという意識よりも「人の体温」という自分の言葉に驚き、一気に目が覚めた。
俺の意識が全身に行き渡る。
俺の感覚が全身で研ぎすまされる。
そして、これは夢ではなく、現実だと認識する。
何か……いや、誰か、俺の背中に——いる?
俺は布団の中でそっと体をずらし、背中に感じる何かから距離をとる。
そして、一度大きく息を吸ってから、俺は体を振り返らせた。
「!」
「信じらんねぇ」
「だから、間違えちゃっただけだって。私の家の間取りだと、私の部屋がちょうど大ちゃんの部屋あたりなのよね」
「そういう問題じゃねぇだろ」
俺は大きく息を吐き出し、目の前で美味しそうにご飯を食べるひかりを見つめる。
「あ、やっぱり智子さんのぬか漬け美味しい。もうこの味が恋しくて」
「まぁ、嬉しい。どんどん食べてね」
「はい!」
俺は鮭の身を箸でつつきながらも、自分の体が未だに朝の衝撃に支配されていて、ちっとも食べたいという気持ちにならない。
そう、俺はこんなにも戸惑っていて、混乱しているというのに。
その元凶であるひかりは何事もなかったかのように普通に朝ご飯を元気いっぱいに食べている。
なんなんだよ、こいつ……。
体が未だ食欲さえ感じる余裕がないほどに混乱しているとはいえ、このまま食べずに部活なんて出来ない。
俺はひかりから視線を外して、ご飯を掻き込んだ。
体に入っていく食べ物たちが俺の混乱を、衝撃を、押し流してくれると信じて。
「……試合は今週の土曜日にうちでやるからな。一年も出る可能性あるから、気合い入れるように」
「はいっ!」
兵頭主将の声に全員の返事が揃い、グラウンドへと部員たちが駆け出して行く。開け放たれた部室のドアへと向かっていた俺は、呼びかけられた声に振り向いた。
「藤倉、ちょっと」
兵頭主将がまっすぐ俺を見つめていた。一瞬、安田と香川が俺の方へと視線を向けたが、そのまま足を止めることはなかった。
「はい」
部室には俺と兵頭主将の二人だけが残っていた。
部室のドアはいつの間にか閉じられていた。
グラウンドの音が遠ざかる。
窓からは久しぶりに雨の香りが混じらないスッキリとした風が入ってきた。
「お前、気付いているよな?」
兵頭主将は壁に背中を寄りかからせ、腕組みをしたまま俺をまっすぐ見上げている。
「……何を、」
俺はかろうじて兵頭主将の視線を外すまいとするが、その声は小さく掠れていた。
「何を言っているのかわかりません、って顔じゃないだろ。いつから気付いていた?」
鋭い視線が向けられる。
その視線を自分から外すことは、もう、出来ない。俺はそっと息を吸い込み、言葉を選びながら吐き出す。
「日曜日の練習試合のときに。少しだけ変だなって、思いました」
情けないくらい俺の声は小さく震えていた。
「どこが、変だった?」
兵頭主将の声はとても静かでまっすぐだった。
「姿勢が、あの、ちょっと……」
続く言葉をためらった俺に、兵頭主将は表情を変えることなく言った。
「崩れていたか。そうだろうな」
兵頭主将は大きくため息をついてから、俺へと視線を戻した。その表情は、とても静かで、何の感情も俺には読み取れない。悔しさ、怒り、悲しみ、後悔……本当はそんな感情が渦巻いているはずなのに。その抑え込まれた感情を、俺は読み解くことすらできない。
だけど、それでもなにか、何か言わなきゃいけない気がして、俺は口を開いた。
「あの、主将、俺、」
「監督にはもう話してある」
俺の声を遮る様に兵頭主将が言葉を被せた。
「だから、お前は何も気にしなくていい。お前はいつも通りに自分の練習をしろ。自分の野球をしろ。それだけ言っておきたかった」
「あ、あの、俺……」
開きかけた口からは、言葉にならない思いだけが逃げていく。
俺は結局、何も言えなかった。
そんな俺の肩を兵頭主将は軽く小突くと、「練習いくぞ」と背中を向けて、歩き出した。
俺は自分の唇を噛み締めて、その背中を追った。
兵頭主将に俺がかけられる言葉なんて、何もないから——
「大ちゃん!」
駅の改札を抜けたところで、ひかりの声が聞こえた。
俺は足を止め、人混みを確認する。
ひかりは改札の向かい側の壁に立っていて、俺の姿を見つけると、まっすぐ俺に向かって駆けてくる。
「……なんだよ、まるで俺のこと待ってたみたいじゃんか」
俺が駆け寄って来たひかりに冗談めかして言うと、ひかりはまっすぐ俺を見上げた。
「うん。大ちゃんのこと、待ってたよ」
「え?」
いつもの様に「そんなわけないでしょ」とかなんとか返ってくると思っていた俺は、その素直なひかりの言葉に動揺する。
「え、なに?なんか、あった?」
そんな俺の様子をまっすぐ見つめていたひかりが、小さく笑った。
「何、動揺してるのよ。変な大ちゃん。LINE入れたのに見てないでしょ?」
「え、あ、そういえば」
俺は制服のズボンのポケットからスマホを取り出す。
スマホの画面にひかりからのメッセージが表示されている。
「あ、母さんの誕生日……」
「今週の土曜日でしょ?みんなで外食するって」
俺はスマホを持ったまま固まっている。
やばい。完全に忘れていた。
「忘れてたでしょ?」
ひかりが俺の顔を覗き込み、その大きな瞳がまっすぐ俺を見つめてくる。
「……忘れてた」
俺は額に手を当てて、肩を落とした。
部活が終わったあとに買い物なんて無理だし、土曜日は試合だし。プレゼントを用意する時間がまったくないではないか。
三年前の誕生日にプレゼントを渡し損ねたときの母さんの様子が思い出される。あんなことには二度となりたくない。母さんの誕生日だけはもう忘れるまい、そう誓ったのに。
「そんなことだと思ったからさ、一緒に用意したことにしてあげようと思って」
「マジ?いいの?いや、ホント、助かる!!」
ひかりの呆れ顔が今の俺には天使の微笑みに見える。
俺の素直な喜びっぷりに、ひかりがまた小さく笑った。
「もちろん、タダじゃないけどね」
ひかりの満面の笑顔ほど恐いものはない。
俺は過去の経験から、痛いほど学んでいる。
「な、なに、すればいいわけ……?」
俺のテンションは急降下する。
「とりあえず、歩こうか」
ひかりの笑顔に俺の顔は引きつり、「お、おう」とそれだけ答えるのが精一杯だった。
そして、その数分後——
「え、ちょっと、待って。無理でしょ、それは」
混乱した俺はひかりから逃げる様にベンチを立った。
家まで五分もかからない距離にある小さな公園に俺とひかりはいた。
いつもの様に家へと続く細い路地に入る曲がり角を曲がろうとした俺の腕を、ふいにひかりが掴んだ。
「ちょっと、来て」
ひかりに逆らえない俺は、ひかりに引っぱられるまま、家へと続く路地とは反対の路地へと入っていく。
ほどなくして小さな公園が現れる。
と言っても、公園と呼べるほどの遊具はなく、ベンチが二つに砂場が一つあるだけの住宅地の空き地に申し訳程度に作られた公園だ。
ひかりはその公園の中、外灯に照らされたベンチに俺を引っぱっていくと、目だけで座る様に俺を促した。
俺がベンチに腰掛けると、ひかりはその隣に距離を空けずに座ってきた。
肩が触れる。
夏服から伸びた腕がぶつかる。
いや、ないだろ。
俺はひかりと距離を取ろうと、少し体をずらした。
そんな俺の腕をひかりの両手が掴んだ。
「大ちゃん……お願い、」
俺を見上げるひかりの目が潤んでいた。
ひかりの泣き出しそうな表情に、俺はどうしていいのか分からなくなる。
「え、ちょ、ひかり?」
ひかりのただならぬ様子に俺は混乱し、俺の心臓は震える様に早くなっていく。
「お願い……」
「お願いって、何だよ?」
俺は自分の心臓の音で耳が塞がれそうになりながらも、必死で言葉を紡ぐ。
ひかりは俺から視線を外す様に俯くと、俺の腕を掴んでいた両手を静かに離した。
俺の腕には冷たいひかりの体温がしっかりと刻み込まれていた。
ひかりは両手を膝の上でギュッと握った。
そして、その両手を見つめたまま、俺に言った。
「キス……して」
消えそうなほど小さなひかりの声が、俺の耳に届いた。
「は……?」
そして届いたひかりの言葉が信じられず、俺はただただひかりを見つめる。
今、こいつ、なんて?
ひかりのまっすぐな黒髪が肩から胸へと滑り落ちる。
ひかりの表情はその髪に隠れた。
握りしめた両手は少し震えていた。
「ひかり?」
俺の声にひかりは顔を上げ、まっすぐ俺に視線を合わせる。
「キス、してほしいの」
そして、今度はハッキリとそう言った。
ひかりはまるで何かを吹っ切ったかのように、しっかりと俺の目を見つめ、笑った。
先ほどの様に震えて泣いているひかりはもういなかった。
そして、そんなひかりに俺の混乱はますますひどくなる。
「え、ちょっと、待って。無理でしょ、それは」
俺にまっすぐ顔を寄せようとするひかりの肩を両手で押止めた俺は、ひかりから逃げる様にベンチを立った。
「何なんだよ。できるわけねぇだろ。大体、お前、新一はどうしたんだよ?」
俺はひかりに背中を向けたまま、言葉を吐き出す。
「俺をからかうのもいい加減にしろよ」
外灯がチカチカっと光を揺らした。
夏のニオイを風が運んでくる。
木々の揺れる音が夜の公園に響き渡った。
「……なんで、なんで、気付かないの?」
そしてひかりの声が、泣き出しそうなひかりの声が、俺の背中に届く。
「どうして、ちゃんと、見てくれないの?」
ひかりがベンチから立ち上がる気配がする。
振り返った俺の目の前にひかりは立っていた。
涙を溜めた両目がまっすぐに俺を見上げている。
「ちゃんと、見て、大ちゃん」
ひかりが俺の両手を握った。
冷たいひかりの体温が伝わってくる。
熱くなっていく俺の体温がひかりの両手に流れていく。
「どうして、気付いてくれないの?こんなに、ちゃんと、私は……」
ひかりの目から涙がこぼれた。
「大ちゃんが好きなのに……」
俺はひかりの大きな両目に吸い込まれる様に、視線を外すことが出来ず、ひかりの目からこぼれていく涙を見つめた。
「ひかり……?」
「新ちゃんと付き合ってるなんて、嘘に決まってるじゃない」
「いや、だって、ひかりが、」
「そうだよ、私が言ったよ。だけど、言わせたのは、大ちゃんじゃない」
「え」
「大ちゃん、いつも思ってたでしょ?いっそ、私が他の誰かのモノだったらって」
ひかりの言葉に俺は一瞬、息ができなかった。
胸の中に直接拳を突き付けられた、そんな感じだった。
「……大ちゃん、つらそうだったから」
「……」
俺は声を出せなかった。
いや、言葉が何も出てこなかった。
今日、部室で兵頭主将と向かい合ったときよりも俺の喉は渇いていて、ひかりに何を言えばいいのか、分からなかった。
いや、ひかりの言葉を否定することが出来なかった。
「大ちゃんはね、私のこと見る度に、つらそうな表情するの。傷ついた表情するの。……気付いてないの?」
「……俺は……」
掠れた小さな俺の声が夜風にさらわれる。
「大ちゃんはさ、そうやって、人のこと遠ざけたくせに、いざ、私が遠ざかると、今度は……」
ひかりはもう泣いていなかった。
ひかりの頬には涙の跡が残っている。
ひかりが、とても優しく、笑った。
「行かないでって、私のことが好きだって、言ってさ……とんだ小悪魔なんだから」
「俺は何も……」
「言ってるよ。全身で、言ってるの。ねぇ、もういいでしょ?」
ひかりが目を閉じた。
その小さな顎が少し上を向く。
繋いだ両手に力が加わる。
ひかりの両足のかかとがそっと地面から離れる。
俺は少し屈む様にしてひかりに顔を寄せる。
唇から柔らかな感触が伝わってくる。
ひかりが、全身で、俺を好きだと伝えていた。
そう、きっと——いつもひかりは俺に伝えていたのだろう。
だけど、俺はそれに気付かなかった。
いや、気付こうとしてなかった。
唇がそっと離れる。
俺は繋いだ両手を離し、ひかりの体を思い切り抱きしめた。
ひかりがいつもの様に小さく笑った。
俺が一番好きなひかりの表情だった。
「ごめん……ひかり……」
「ホント、ひどい奴だよ、大ちゃんは」
ひかりの手が俺のシャツをキュッと掴んだ。
ひかりの呼吸が、体温が、感触が、触れ合うすべてが、俺に伝えてくれている。
「大ちゃん、今なら、わかるでしょ?」
ひかりが俺の腕の中で俺を見上げる。
「今なら、見えるでしょ?」
ひかりが笑った。
「大ちゃんの周りにあるもの、周りにいる人、ちゃんと見えるでしょ?」
「……ひかり」
「待ってた。ずっと待ってたの。大ちゃんが目覚めるの」
「俺、眠ってたの?」
ひかりの言葉に俺は小さく笑う。
「うん。何も見たくない、何も感じたくない、もう傷つきたくないって、目を閉じてたでしょ?」
ひかりの大きな瞳がまっすぐ俺を見つめる。
俺は小さく息を飲んだ。
「なんで、」
「なんで、だろうね。大ちゃんのことなら悲しいくらい分かっちゃう。だから……」
ひかりがふいに視線を落とし、そのまま俺の胸に顔を埋めた。
「ほかに気になる人ができたら、わかっちゃうんだよ」
俺の心臓が一瞬、動きを止めた。
「え、」
俺の脳裏に豊田と歩いたときの光景が、川上と肝試しの脅かし役をしたときの光景がよぎる。
「今、ほかの子の顔、浮かべたでしょ?」
ひかりの声が聞いたこともないくらい低くなった。
「え、いや、」
動揺する俺の声にひかりが顔を上げ、俺を睨む様に見上げる。
「あんなに閉じこもっておきながら、ちょっと目覚め始めたら、ほかの子に目移りするなんて、ホント、信じられない」
「いや、ホントに、別に、何も、」
ひかりがじっと俺を見つめている。
「……ゴメンナサイ」
「あー、やっぱり、何かやましいことあるんだ!」
「いや、やましいことなんてないけど!」
「じゃあ、なんで謝るの?」
「それは、ひかりが怒ってるから、だから、」
「うわぁ、よくわからないけど、とりあえず謝っておくの?サイテー」
「なんだよ!じゃあ、どうすればいいんだよ」
戸惑う俺の腕の中で、ひかりが笑った。
「大ちゃん」
ひかりが俺の名前を呼び、そっと背伸びをした。
「好き」
ひかりの瞼がそっと閉じられる。
「……俺も好きだよ、ひかり」
俺はもう一度、ひかりの唇に自分の唇を重ね合わせた。
触れ合う唇から体温が伝わる。
ひかりの冷たい体温が俺に流れ込む。
ひかりの唇が俺の体温に温められる。
冷たい風がひかりの髪を揺らした。
ゆっくりと唇を離すと、ひかりが「おかえりなさい」と呟く様に言った。
「ただいま」
俺はそう答えて、もう一度、腕に力を込め、ひかりを抱きしめた。
「え?待って。じゃあ、今日が初めてじゃないの?」
「うん。何度か、間違えたことあるよ」
家へと向かう細い路地で、俺は思わず足を止めた。
隣を歩くひかりが立ち止まった俺を振り返る。
「大ちゃん、ホントに全然気付かなくてさ。こっちが悲しくなっちゃった」
「ウソだろ、いくらなんでも、そんなこと……」
額に手を当てて項垂れる俺をひかりの大きな瞳が覗き込む。
「ギュッと硬く体を丸めて、何も感じない様に苦しそうにしてさ。だから、時々揺すったり、名前呼んだりしたんだけど……」
「それってさ、ひかりのせいで俺、うなされてたとかじゃ、」
指の間からそっとひかりの顔を伺った俺は、思わず固まる。「ん?」と何も聞こえなかったかのように満面の笑顔で見つめてくるひかりがそこにいた。
この笑顔は……。
俺の肩が震えた。
「大ちゃん、やっぱり、智子さんのプレゼントの件、なかったことにしようか?」
その完璧な笑顔を崩さずにひかりが言った。
「え、いや、それだけは!ごめんなさい!俺が悪かったです!」
俺はこれでもかと頭を下げた。
「うーん、仕方ないなぁ。じゃあ、プレゼントは一緒に用意したことにするとして……何かほかのこと考えておくね」
「え、ほか?」
「どうしようかなぁ。何がいいかなぁ」
立ち止まったままの俺を置いて、ひかりが楽しそうにブツブツ言いながら俺に背を向けて歩き出す。
二メートル程先で振り返ったひかりが俺に笑って言った。
「大ちゃん?早く帰ろうよ。お腹空いちゃった」
「お、おう」
俺はひかりの声に引っ張られる様に大きく足を踏み出した。
この時の俺は、ひかりに言わせれば、まだ目覚めたばかりで、急に鮮やかになった世界に戸惑っている状態だったのだろう。
溢れる世界のひとつひとつを丁寧に見るには時間が必要だった。
——もう少し早く目覚めていれば、何か変わっただろうか?
少なくとも、ひかりの思い詰めた表情に、溢れる涙に、少しは思いを巡らすことが出来たのではないだろうか?
——もう少しだけ、早く目覚めることができていたなら……
けれど、俺はその違和感の正体を確かめるまでには、意識を持っていけず、俺の意識は夢と現実の狭間でゆらゆらと揺れている。
背中が温かい。
それは、目覚めた瞬間の布団の中の心地よさと同じで、熱すぎることもなく、どこまでも心地よくて、離れ難い。
そう、まるで人の体温のようにちょうど良く、心が緩やかに、安心する。
「……」
目覚め難いという意識よりも「人の体温」という自分の言葉に驚き、一気に目が覚めた。
俺の意識が全身に行き渡る。
俺の感覚が全身で研ぎすまされる。
そして、これは夢ではなく、現実だと認識する。
何か……いや、誰か、俺の背中に——いる?
俺は布団の中でそっと体をずらし、背中に感じる何かから距離をとる。
そして、一度大きく息を吸ってから、俺は体を振り返らせた。
「!」
「信じらんねぇ」
「だから、間違えちゃっただけだって。私の家の間取りだと、私の部屋がちょうど大ちゃんの部屋あたりなのよね」
「そういう問題じゃねぇだろ」
俺は大きく息を吐き出し、目の前で美味しそうにご飯を食べるひかりを見つめる。
「あ、やっぱり智子さんのぬか漬け美味しい。もうこの味が恋しくて」
「まぁ、嬉しい。どんどん食べてね」
「はい!」
俺は鮭の身を箸でつつきながらも、自分の体が未だに朝の衝撃に支配されていて、ちっとも食べたいという気持ちにならない。
そう、俺はこんなにも戸惑っていて、混乱しているというのに。
その元凶であるひかりは何事もなかったかのように普通に朝ご飯を元気いっぱいに食べている。
なんなんだよ、こいつ……。
体が未だ食欲さえ感じる余裕がないほどに混乱しているとはいえ、このまま食べずに部活なんて出来ない。
俺はひかりから視線を外して、ご飯を掻き込んだ。
体に入っていく食べ物たちが俺の混乱を、衝撃を、押し流してくれると信じて。
「……試合は今週の土曜日にうちでやるからな。一年も出る可能性あるから、気合い入れるように」
「はいっ!」
兵頭主将の声に全員の返事が揃い、グラウンドへと部員たちが駆け出して行く。開け放たれた部室のドアへと向かっていた俺は、呼びかけられた声に振り向いた。
「藤倉、ちょっと」
兵頭主将がまっすぐ俺を見つめていた。一瞬、安田と香川が俺の方へと視線を向けたが、そのまま足を止めることはなかった。
「はい」
部室には俺と兵頭主将の二人だけが残っていた。
部室のドアはいつの間にか閉じられていた。
グラウンドの音が遠ざかる。
窓からは久しぶりに雨の香りが混じらないスッキリとした風が入ってきた。
「お前、気付いているよな?」
兵頭主将は壁に背中を寄りかからせ、腕組みをしたまま俺をまっすぐ見上げている。
「……何を、」
俺はかろうじて兵頭主将の視線を外すまいとするが、その声は小さく掠れていた。
「何を言っているのかわかりません、って顔じゃないだろ。いつから気付いていた?」
鋭い視線が向けられる。
その視線を自分から外すことは、もう、出来ない。俺はそっと息を吸い込み、言葉を選びながら吐き出す。
「日曜日の練習試合のときに。少しだけ変だなって、思いました」
情けないくらい俺の声は小さく震えていた。
「どこが、変だった?」
兵頭主将の声はとても静かでまっすぐだった。
「姿勢が、あの、ちょっと……」
続く言葉をためらった俺に、兵頭主将は表情を変えることなく言った。
「崩れていたか。そうだろうな」
兵頭主将は大きくため息をついてから、俺へと視線を戻した。その表情は、とても静かで、何の感情も俺には読み取れない。悔しさ、怒り、悲しみ、後悔……本当はそんな感情が渦巻いているはずなのに。その抑え込まれた感情を、俺は読み解くことすらできない。
だけど、それでもなにか、何か言わなきゃいけない気がして、俺は口を開いた。
「あの、主将、俺、」
「監督にはもう話してある」
俺の声を遮る様に兵頭主将が言葉を被せた。
「だから、お前は何も気にしなくていい。お前はいつも通りに自分の練習をしろ。自分の野球をしろ。それだけ言っておきたかった」
「あ、あの、俺……」
開きかけた口からは、言葉にならない思いだけが逃げていく。
俺は結局、何も言えなかった。
そんな俺の肩を兵頭主将は軽く小突くと、「練習いくぞ」と背中を向けて、歩き出した。
俺は自分の唇を噛み締めて、その背中を追った。
兵頭主将に俺がかけられる言葉なんて、何もないから——
「大ちゃん!」
駅の改札を抜けたところで、ひかりの声が聞こえた。
俺は足を止め、人混みを確認する。
ひかりは改札の向かい側の壁に立っていて、俺の姿を見つけると、まっすぐ俺に向かって駆けてくる。
「……なんだよ、まるで俺のこと待ってたみたいじゃんか」
俺が駆け寄って来たひかりに冗談めかして言うと、ひかりはまっすぐ俺を見上げた。
「うん。大ちゃんのこと、待ってたよ」
「え?」
いつもの様に「そんなわけないでしょ」とかなんとか返ってくると思っていた俺は、その素直なひかりの言葉に動揺する。
「え、なに?なんか、あった?」
そんな俺の様子をまっすぐ見つめていたひかりが、小さく笑った。
「何、動揺してるのよ。変な大ちゃん。LINE入れたのに見てないでしょ?」
「え、あ、そういえば」
俺は制服のズボンのポケットからスマホを取り出す。
スマホの画面にひかりからのメッセージが表示されている。
「あ、母さんの誕生日……」
「今週の土曜日でしょ?みんなで外食するって」
俺はスマホを持ったまま固まっている。
やばい。完全に忘れていた。
「忘れてたでしょ?」
ひかりが俺の顔を覗き込み、その大きな瞳がまっすぐ俺を見つめてくる。
「……忘れてた」
俺は額に手を当てて、肩を落とした。
部活が終わったあとに買い物なんて無理だし、土曜日は試合だし。プレゼントを用意する時間がまったくないではないか。
三年前の誕生日にプレゼントを渡し損ねたときの母さんの様子が思い出される。あんなことには二度となりたくない。母さんの誕生日だけはもう忘れるまい、そう誓ったのに。
「そんなことだと思ったからさ、一緒に用意したことにしてあげようと思って」
「マジ?いいの?いや、ホント、助かる!!」
ひかりの呆れ顔が今の俺には天使の微笑みに見える。
俺の素直な喜びっぷりに、ひかりがまた小さく笑った。
「もちろん、タダじゃないけどね」
ひかりの満面の笑顔ほど恐いものはない。
俺は過去の経験から、痛いほど学んでいる。
「な、なに、すればいいわけ……?」
俺のテンションは急降下する。
「とりあえず、歩こうか」
ひかりの笑顔に俺の顔は引きつり、「お、おう」とそれだけ答えるのが精一杯だった。
そして、その数分後——
「え、ちょっと、待って。無理でしょ、それは」
混乱した俺はひかりから逃げる様にベンチを立った。
家まで五分もかからない距離にある小さな公園に俺とひかりはいた。
いつもの様に家へと続く細い路地に入る曲がり角を曲がろうとした俺の腕を、ふいにひかりが掴んだ。
「ちょっと、来て」
ひかりに逆らえない俺は、ひかりに引っぱられるまま、家へと続く路地とは反対の路地へと入っていく。
ほどなくして小さな公園が現れる。
と言っても、公園と呼べるほどの遊具はなく、ベンチが二つに砂場が一つあるだけの住宅地の空き地に申し訳程度に作られた公園だ。
ひかりはその公園の中、外灯に照らされたベンチに俺を引っぱっていくと、目だけで座る様に俺を促した。
俺がベンチに腰掛けると、ひかりはその隣に距離を空けずに座ってきた。
肩が触れる。
夏服から伸びた腕がぶつかる。
いや、ないだろ。
俺はひかりと距離を取ろうと、少し体をずらした。
そんな俺の腕をひかりの両手が掴んだ。
「大ちゃん……お願い、」
俺を見上げるひかりの目が潤んでいた。
ひかりの泣き出しそうな表情に、俺はどうしていいのか分からなくなる。
「え、ちょ、ひかり?」
ひかりのただならぬ様子に俺は混乱し、俺の心臓は震える様に早くなっていく。
「お願い……」
「お願いって、何だよ?」
俺は自分の心臓の音で耳が塞がれそうになりながらも、必死で言葉を紡ぐ。
ひかりは俺から視線を外す様に俯くと、俺の腕を掴んでいた両手を静かに離した。
俺の腕には冷たいひかりの体温がしっかりと刻み込まれていた。
ひかりは両手を膝の上でギュッと握った。
そして、その両手を見つめたまま、俺に言った。
「キス……して」
消えそうなほど小さなひかりの声が、俺の耳に届いた。
「は……?」
そして届いたひかりの言葉が信じられず、俺はただただひかりを見つめる。
今、こいつ、なんて?
ひかりのまっすぐな黒髪が肩から胸へと滑り落ちる。
ひかりの表情はその髪に隠れた。
握りしめた両手は少し震えていた。
「ひかり?」
俺の声にひかりは顔を上げ、まっすぐ俺に視線を合わせる。
「キス、してほしいの」
そして、今度はハッキリとそう言った。
ひかりはまるで何かを吹っ切ったかのように、しっかりと俺の目を見つめ、笑った。
先ほどの様に震えて泣いているひかりはもういなかった。
そして、そんなひかりに俺の混乱はますますひどくなる。
「え、ちょっと、待って。無理でしょ、それは」
俺にまっすぐ顔を寄せようとするひかりの肩を両手で押止めた俺は、ひかりから逃げる様にベンチを立った。
「何なんだよ。できるわけねぇだろ。大体、お前、新一はどうしたんだよ?」
俺はひかりに背中を向けたまま、言葉を吐き出す。
「俺をからかうのもいい加減にしろよ」
外灯がチカチカっと光を揺らした。
夏のニオイを風が運んでくる。
木々の揺れる音が夜の公園に響き渡った。
「……なんで、なんで、気付かないの?」
そしてひかりの声が、泣き出しそうなひかりの声が、俺の背中に届く。
「どうして、ちゃんと、見てくれないの?」
ひかりがベンチから立ち上がる気配がする。
振り返った俺の目の前にひかりは立っていた。
涙を溜めた両目がまっすぐに俺を見上げている。
「ちゃんと、見て、大ちゃん」
ひかりが俺の両手を握った。
冷たいひかりの体温が伝わってくる。
熱くなっていく俺の体温がひかりの両手に流れていく。
「どうして、気付いてくれないの?こんなに、ちゃんと、私は……」
ひかりの目から涙がこぼれた。
「大ちゃんが好きなのに……」
俺はひかりの大きな両目に吸い込まれる様に、視線を外すことが出来ず、ひかりの目からこぼれていく涙を見つめた。
「ひかり……?」
「新ちゃんと付き合ってるなんて、嘘に決まってるじゃない」
「いや、だって、ひかりが、」
「そうだよ、私が言ったよ。だけど、言わせたのは、大ちゃんじゃない」
「え」
「大ちゃん、いつも思ってたでしょ?いっそ、私が他の誰かのモノだったらって」
ひかりの言葉に俺は一瞬、息ができなかった。
胸の中に直接拳を突き付けられた、そんな感じだった。
「……大ちゃん、つらそうだったから」
「……」
俺は声を出せなかった。
いや、言葉が何も出てこなかった。
今日、部室で兵頭主将と向かい合ったときよりも俺の喉は渇いていて、ひかりに何を言えばいいのか、分からなかった。
いや、ひかりの言葉を否定することが出来なかった。
「大ちゃんはね、私のこと見る度に、つらそうな表情するの。傷ついた表情するの。……気付いてないの?」
「……俺は……」
掠れた小さな俺の声が夜風にさらわれる。
「大ちゃんはさ、そうやって、人のこと遠ざけたくせに、いざ、私が遠ざかると、今度は……」
ひかりはもう泣いていなかった。
ひかりの頬には涙の跡が残っている。
ひかりが、とても優しく、笑った。
「行かないでって、私のことが好きだって、言ってさ……とんだ小悪魔なんだから」
「俺は何も……」
「言ってるよ。全身で、言ってるの。ねぇ、もういいでしょ?」
ひかりが目を閉じた。
その小さな顎が少し上を向く。
繋いだ両手に力が加わる。
ひかりの両足のかかとがそっと地面から離れる。
俺は少し屈む様にしてひかりに顔を寄せる。
唇から柔らかな感触が伝わってくる。
ひかりが、全身で、俺を好きだと伝えていた。
そう、きっと——いつもひかりは俺に伝えていたのだろう。
だけど、俺はそれに気付かなかった。
いや、気付こうとしてなかった。
唇がそっと離れる。
俺は繋いだ両手を離し、ひかりの体を思い切り抱きしめた。
ひかりがいつもの様に小さく笑った。
俺が一番好きなひかりの表情だった。
「ごめん……ひかり……」
「ホント、ひどい奴だよ、大ちゃんは」
ひかりの手が俺のシャツをキュッと掴んだ。
ひかりの呼吸が、体温が、感触が、触れ合うすべてが、俺に伝えてくれている。
「大ちゃん、今なら、わかるでしょ?」
ひかりが俺の腕の中で俺を見上げる。
「今なら、見えるでしょ?」
ひかりが笑った。
「大ちゃんの周りにあるもの、周りにいる人、ちゃんと見えるでしょ?」
「……ひかり」
「待ってた。ずっと待ってたの。大ちゃんが目覚めるの」
「俺、眠ってたの?」
ひかりの言葉に俺は小さく笑う。
「うん。何も見たくない、何も感じたくない、もう傷つきたくないって、目を閉じてたでしょ?」
ひかりの大きな瞳がまっすぐ俺を見つめる。
俺は小さく息を飲んだ。
「なんで、」
「なんで、だろうね。大ちゃんのことなら悲しいくらい分かっちゃう。だから……」
ひかりがふいに視線を落とし、そのまま俺の胸に顔を埋めた。
「ほかに気になる人ができたら、わかっちゃうんだよ」
俺の心臓が一瞬、動きを止めた。
「え、」
俺の脳裏に豊田と歩いたときの光景が、川上と肝試しの脅かし役をしたときの光景がよぎる。
「今、ほかの子の顔、浮かべたでしょ?」
ひかりの声が聞いたこともないくらい低くなった。
「え、いや、」
動揺する俺の声にひかりが顔を上げ、俺を睨む様に見上げる。
「あんなに閉じこもっておきながら、ちょっと目覚め始めたら、ほかの子に目移りするなんて、ホント、信じられない」
「いや、ホントに、別に、何も、」
ひかりがじっと俺を見つめている。
「……ゴメンナサイ」
「あー、やっぱり、何かやましいことあるんだ!」
「いや、やましいことなんてないけど!」
「じゃあ、なんで謝るの?」
「それは、ひかりが怒ってるから、だから、」
「うわぁ、よくわからないけど、とりあえず謝っておくの?サイテー」
「なんだよ!じゃあ、どうすればいいんだよ」
戸惑う俺の腕の中で、ひかりが笑った。
「大ちゃん」
ひかりが俺の名前を呼び、そっと背伸びをした。
「好き」
ひかりの瞼がそっと閉じられる。
「……俺も好きだよ、ひかり」
俺はもう一度、ひかりの唇に自分の唇を重ね合わせた。
触れ合う唇から体温が伝わる。
ひかりの冷たい体温が俺に流れ込む。
ひかりの唇が俺の体温に温められる。
冷たい風がひかりの髪を揺らした。
ゆっくりと唇を離すと、ひかりが「おかえりなさい」と呟く様に言った。
「ただいま」
俺はそう答えて、もう一度、腕に力を込め、ひかりを抱きしめた。
「え?待って。じゃあ、今日が初めてじゃないの?」
「うん。何度か、間違えたことあるよ」
家へと向かう細い路地で、俺は思わず足を止めた。
隣を歩くひかりが立ち止まった俺を振り返る。
「大ちゃん、ホントに全然気付かなくてさ。こっちが悲しくなっちゃった」
「ウソだろ、いくらなんでも、そんなこと……」
額に手を当てて項垂れる俺をひかりの大きな瞳が覗き込む。
「ギュッと硬く体を丸めて、何も感じない様に苦しそうにしてさ。だから、時々揺すったり、名前呼んだりしたんだけど……」
「それってさ、ひかりのせいで俺、うなされてたとかじゃ、」
指の間からそっとひかりの顔を伺った俺は、思わず固まる。「ん?」と何も聞こえなかったかのように満面の笑顔で見つめてくるひかりがそこにいた。
この笑顔は……。
俺の肩が震えた。
「大ちゃん、やっぱり、智子さんのプレゼントの件、なかったことにしようか?」
その完璧な笑顔を崩さずにひかりが言った。
「え、いや、それだけは!ごめんなさい!俺が悪かったです!」
俺はこれでもかと頭を下げた。
「うーん、仕方ないなぁ。じゃあ、プレゼントは一緒に用意したことにするとして……何かほかのこと考えておくね」
「え、ほか?」
「どうしようかなぁ。何がいいかなぁ」
立ち止まったままの俺を置いて、ひかりが楽しそうにブツブツ言いながら俺に背を向けて歩き出す。
二メートル程先で振り返ったひかりが俺に笑って言った。
「大ちゃん?早く帰ろうよ。お腹空いちゃった」
「お、おう」
俺はひかりの声に引っ張られる様に大きく足を踏み出した。
この時の俺は、ひかりに言わせれば、まだ目覚めたばかりで、急に鮮やかになった世界に戸惑っている状態だったのだろう。
溢れる世界のひとつひとつを丁寧に見るには時間が必要だった。
——もう少し早く目覚めていれば、何か変わっただろうか?
少なくとも、ひかりの思い詰めた表情に、溢れる涙に、少しは思いを巡らすことが出来たのではないだろうか?
——もう少しだけ、早く目覚めることができていたなら……
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