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邂逅
邪神様、大きい虫は好きですか
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次の日、覚悟を決めた俺とマチルダは、エドガーを先頭に縦一列になって、前の者の背に手を当てビクビクしながら進んだ。ちなみにクロノアは駄々を捏ねて不参加だ、ズル過ぎだ。
「おい、お前達。後衛の俺を先頭にして恥ずかしくないのか。悠太、あんまりくっつくな、歩きづれえ!」
「あ、あんまり大きな声を出すなよ、エドガー。びっくりするだろ」
「そうよ、兄さん。たまには私達の役にたって」
一番後ろで俺の背に手を当てながらついてくるマチルダに酷い言われようをされるエドガー、自業自得だ。
すでにキモ蜘蛛もデカムカデも何体かは倒した。エドガー一人で。何体かは知らない。だってほとんど見ていないのだから。
人には絶対に無理なものがあるのだ。
俺達は入り組んだ迷宮をレイヴが作ったマップを見ながら慎重に先へ進む。
先程からあの蜘蛛達は現れていない。
どうやらデカ虫ゾーンは終わったようだ。
しかし今度は素早く動く大ネズミ。人間の子供くらいの大きさのネズミが赤い目をして攻撃してくる。
きゃー! マチルダの絶叫が迷宮に響き渡る。
俺は颯爽とネズミとの間合いを詰め、頭から真っ二つにした。
「マチルダ、もう大丈夫。俺が始末したから」
頭を抱え蹲るマチルダにそっと手を差し伸べた。
「もう、いない?」
「ああ、もういないよ」
マチルダが俺の手を取り立ち上がった。
「今度またネズミが現れても、俺がすぐ倒してやるから安心してくれ」
俺を見るマチルダの目が、尊敬と信頼を表していた。
「おい、さっきまで虫にビビってたヤツが格好つけんじゃねえーよ!」
「なんの事だ、エドガー。俺もマチルダも虫相手に臆してなんかないぞ。お前も仮にマチルダの兄なら、妹をちゃんと安心させてやるんだな」
「ああん、悠太テメェには言われたくねぇよ!」
己の非力さと悔しさのあまり、俺に難癖をつけるエドガーを尻目に、俺とマチルダは手を握りながら迷宮を進んだ。
「待て、こら悠太! 俺を置いていくな!」
歩き出してすぐに赤目の大ネズミ二体と、新たな魔物四体が現れた。
大きさは大ネズミと同じ位の白いウサギ、額にちょこんとツノが生えていて、このウサギも目が赤い。あっ、ウサギは元々赤いか。
「君は大ネズミを、わたしは大ウサギをやる」
マチルダが素早く指示を出し、俺達二人は華麗に魔物達を瞬殺した。
「君とわたしには敵ですらないね」
「そうだな。弱すぎてあくびが出そうだ」
俺とマチルダは互いを信頼と尊敬の眼差しで見つめ合う。
「おい、そこの二人。今更格好つけても遅いからな!」
俺達は迷宮の奥を目指す、新たな強敵を求めて。
◇
そらからは頭だけが牛の牛男が、どこから持ってきたのか剣を片手に襲ってきたり、上半身裸のヘビ女が変な液体を吐いて襲いかかってきたりしたが、俺とマチルダの前では敵ですらなかった。
そしてレイヴから貰ったマップでは迷宮は地下二階までしかなかったのだが、更に下へと繋がる階段を発見した。
俺達は互いに目をやると無言で頷き、階段を降りた。
階段を降りた先は、何もない空間が広がっていた。まるで巨大な部屋だ。
俺達は慎重に前へ進むと、奥に巨大な影が現れた。
「何かとてつもなく大きいのがいるね」
「ああ、大きな翼らしきものも見えるな」
「なぁお前達、あれはどう見てもドラゴンだろ。なにいい雰囲気を作って格好つけてんだよ」
「兄さんは黙ってて」
「そうだぞ、エドガー。こういう時は格好から入るもんだ」
我が親しき友人が場違いな事を言い出したので二人で諌めた。
「ったく、虫相手でビビってたくせによ。で、あれと戦うのか」
「当たり前だろ。あいつを倒してお金持ちになるんだよ」
「そうよ、兄さん。あれを倒して剣の借金を払うの」
やれやれといった素振りでエドガーも了承した。
「なら、ヴェールに帰ったら良い酒をたらふく飲もうぜ!」
そのエドガーの言葉を合図に、俺たち三人はドラゴン目掛けて一気に走り出した。
近くに行くと、でかい。二階建ての家を三つ並べたくらいの巨大さだ。ごめん、俺の例えではこれが精一杯だ。
俺とマチルダは左右に分かれドラゴンに迫り、それぞれ首を落とそうと跳び上がる。が、ドラゴンは立ち上がる事で、俺達の攻撃を回避した。
そこにエドガーの火炎魔術がドラゴンの頭にヒットする。その攻撃で怯んだドラゴンに、俺はドラゴンの脚や体、腕を足場に頭まで駆け登り、首を落とそうと剣を振るう。
だが、硬い鱗に阻まれ剣が弾かれた。せっかくのチャンスを武器の選択ミスで不意にしてしまった。
「チッ! 硬すぎだろ」
俺は地面に着地してあらためてドラゴンを見上げた。
でかい、まるでビルのようだ……
「悠太、避けろ!」
その声にハッとすると、ドラゴンの口から赤い光が溢れ、俺を目掛けて一直線に炎が放たれた。
俺は横に転がるように跳んで、なんとか回避し片膝をついてドラゴンを睨んだ。
「なんだよ、ゲームと一緒かよ」
視界の端から、マチルダが横から飛び込むように接近してドラゴンの脚を斬りつけるが、その攻撃も浅すぎて殆どダメージを与えられない。
しかも、マチルダを追い払うかのように尾を振ってマチルダを迎撃した。
マチルダは後方にくるりと跳んで、その一撃を躱し一旦距離をとった。
「硬すぎ、君なんとかならない」
俺は無言で剣をしまい、神刀マルディールを手に、マチルダに無言でうなずいた。
「エドガー、援護を頼む!」
その言葉に応えてエドガーはドラゴンの顔に大量の氷槍魔術を撃ち込む。それと同時に俺はドラゴンを踏み台にして、一気に頭まで駆け登る。
そしてドラゴンの額に刀を深く突き刺すが、それだけでは決定打にはならなかった。
それならと、刺したままの刀にマナを纏わせ、風の斬撃を放ちドラゴンの額を撃ち抜いた。
激しい衝撃と大量の土煙りをあげてドラゴンは倒れた。
「悠太、無事か!」
土煙りで視界が閉ざされてエドガーの声だけが聞こえる
「大丈夫、生きてる!」
エドガーに答えると、突如何かが俺の胸に飛び込んできて後ろに倒された。
「すごいよ、君!」
マチルダが抱きついて、満面の笑みで褒めてくれた。
「女神様から授かったコレのおかげだよ」
俺は少しテレて、右手に持った刀を軽く振って見せた。
「おい、悠太。俺の大事な妹と何してやがんだ!」
土煙りが収まり、エドガーが大声で叫びながら側にくると、マチルダを引き離した。
「テメェにだけは妹は渡さんからな!」
「兄さん、訳のわからない事は言わないで。わたしは悠太を褒めていただけ」
「まったくこれだからエドガーは、イケメンなのにモテないんだよ」
「うるせぇー! この前の酒場では俺の方がモテてただろうが!」
「……兄さん、わたしに内緒で悠太を連れまわさないでって言ったよね」
エドガーが自爆した。これも的違いな事を言うからだ。
とりあえず怒っているマチルダを宥めて、倒したドラゴンの後始末をしようとしたが時間が掛かりそうなのでやめた。
そのままドラゴンをマジック袋に入れた。
「悠太、お前のマジック袋は本当にすげぇな」
女神様謹製のマジック袋だ。
このくらいは当たり前なのだよ。
「うん、刀もね」
そう、神刀マルディールに斬れないものはないのだ。
新たにそう名付けた刀を見て誇らしくなった。
ちなみに、クロノアソードと名をつけようとしたら、クロノアに大反対されたので、剣の名付けは保留している。
俺達は意気揚々と迷宮の出口を目指す。
だが恐怖は忘れた頃にやってくる、絶対にくる。
「きゃー! で、でたあー!」
不意打ちを受けた俺とマチルダは泣き叫びながら迷宮の出口まで全力で走った。振り向きもせずに、ただ全力で。
「おい、お前達。後衛の俺を先頭にして恥ずかしくないのか。悠太、あんまりくっつくな、歩きづれえ!」
「あ、あんまり大きな声を出すなよ、エドガー。びっくりするだろ」
「そうよ、兄さん。たまには私達の役にたって」
一番後ろで俺の背に手を当てながらついてくるマチルダに酷い言われようをされるエドガー、自業自得だ。
すでにキモ蜘蛛もデカムカデも何体かは倒した。エドガー一人で。何体かは知らない。だってほとんど見ていないのだから。
人には絶対に無理なものがあるのだ。
俺達は入り組んだ迷宮をレイヴが作ったマップを見ながら慎重に先へ進む。
先程からあの蜘蛛達は現れていない。
どうやらデカ虫ゾーンは終わったようだ。
しかし今度は素早く動く大ネズミ。人間の子供くらいの大きさのネズミが赤い目をして攻撃してくる。
きゃー! マチルダの絶叫が迷宮に響き渡る。
俺は颯爽とネズミとの間合いを詰め、頭から真っ二つにした。
「マチルダ、もう大丈夫。俺が始末したから」
頭を抱え蹲るマチルダにそっと手を差し伸べた。
「もう、いない?」
「ああ、もういないよ」
マチルダが俺の手を取り立ち上がった。
「今度またネズミが現れても、俺がすぐ倒してやるから安心してくれ」
俺を見るマチルダの目が、尊敬と信頼を表していた。
「おい、さっきまで虫にビビってたヤツが格好つけんじゃねえーよ!」
「なんの事だ、エドガー。俺もマチルダも虫相手に臆してなんかないぞ。お前も仮にマチルダの兄なら、妹をちゃんと安心させてやるんだな」
「ああん、悠太テメェには言われたくねぇよ!」
己の非力さと悔しさのあまり、俺に難癖をつけるエドガーを尻目に、俺とマチルダは手を握りながら迷宮を進んだ。
「待て、こら悠太! 俺を置いていくな!」
歩き出してすぐに赤目の大ネズミ二体と、新たな魔物四体が現れた。
大きさは大ネズミと同じ位の白いウサギ、額にちょこんとツノが生えていて、このウサギも目が赤い。あっ、ウサギは元々赤いか。
「君は大ネズミを、わたしは大ウサギをやる」
マチルダが素早く指示を出し、俺達二人は華麗に魔物達を瞬殺した。
「君とわたしには敵ですらないね」
「そうだな。弱すぎてあくびが出そうだ」
俺とマチルダは互いを信頼と尊敬の眼差しで見つめ合う。
「おい、そこの二人。今更格好つけても遅いからな!」
俺達は迷宮の奥を目指す、新たな強敵を求めて。
◇
そらからは頭だけが牛の牛男が、どこから持ってきたのか剣を片手に襲ってきたり、上半身裸のヘビ女が変な液体を吐いて襲いかかってきたりしたが、俺とマチルダの前では敵ですらなかった。
そしてレイヴから貰ったマップでは迷宮は地下二階までしかなかったのだが、更に下へと繋がる階段を発見した。
俺達は互いに目をやると無言で頷き、階段を降りた。
階段を降りた先は、何もない空間が広がっていた。まるで巨大な部屋だ。
俺達は慎重に前へ進むと、奥に巨大な影が現れた。
「何かとてつもなく大きいのがいるね」
「ああ、大きな翼らしきものも見えるな」
「なぁお前達、あれはどう見てもドラゴンだろ。なにいい雰囲気を作って格好つけてんだよ」
「兄さんは黙ってて」
「そうだぞ、エドガー。こういう時は格好から入るもんだ」
我が親しき友人が場違いな事を言い出したので二人で諌めた。
「ったく、虫相手でビビってたくせによ。で、あれと戦うのか」
「当たり前だろ。あいつを倒してお金持ちになるんだよ」
「そうよ、兄さん。あれを倒して剣の借金を払うの」
やれやれといった素振りでエドガーも了承した。
「なら、ヴェールに帰ったら良い酒をたらふく飲もうぜ!」
そのエドガーの言葉を合図に、俺たち三人はドラゴン目掛けて一気に走り出した。
近くに行くと、でかい。二階建ての家を三つ並べたくらいの巨大さだ。ごめん、俺の例えではこれが精一杯だ。
俺とマチルダは左右に分かれドラゴンに迫り、それぞれ首を落とそうと跳び上がる。が、ドラゴンは立ち上がる事で、俺達の攻撃を回避した。
そこにエドガーの火炎魔術がドラゴンの頭にヒットする。その攻撃で怯んだドラゴンに、俺はドラゴンの脚や体、腕を足場に頭まで駆け登り、首を落とそうと剣を振るう。
だが、硬い鱗に阻まれ剣が弾かれた。せっかくのチャンスを武器の選択ミスで不意にしてしまった。
「チッ! 硬すぎだろ」
俺は地面に着地してあらためてドラゴンを見上げた。
でかい、まるでビルのようだ……
「悠太、避けろ!」
その声にハッとすると、ドラゴンの口から赤い光が溢れ、俺を目掛けて一直線に炎が放たれた。
俺は横に転がるように跳んで、なんとか回避し片膝をついてドラゴンを睨んだ。
「なんだよ、ゲームと一緒かよ」
視界の端から、マチルダが横から飛び込むように接近してドラゴンの脚を斬りつけるが、その攻撃も浅すぎて殆どダメージを与えられない。
しかも、マチルダを追い払うかのように尾を振ってマチルダを迎撃した。
マチルダは後方にくるりと跳んで、その一撃を躱し一旦距離をとった。
「硬すぎ、君なんとかならない」
俺は無言で剣をしまい、神刀マルディールを手に、マチルダに無言でうなずいた。
「エドガー、援護を頼む!」
その言葉に応えてエドガーはドラゴンの顔に大量の氷槍魔術を撃ち込む。それと同時に俺はドラゴンを踏み台にして、一気に頭まで駆け登る。
そしてドラゴンの額に刀を深く突き刺すが、それだけでは決定打にはならなかった。
それならと、刺したままの刀にマナを纏わせ、風の斬撃を放ちドラゴンの額を撃ち抜いた。
激しい衝撃と大量の土煙りをあげてドラゴンは倒れた。
「悠太、無事か!」
土煙りで視界が閉ざされてエドガーの声だけが聞こえる
「大丈夫、生きてる!」
エドガーに答えると、突如何かが俺の胸に飛び込んできて後ろに倒された。
「すごいよ、君!」
マチルダが抱きついて、満面の笑みで褒めてくれた。
「女神様から授かったコレのおかげだよ」
俺は少しテレて、右手に持った刀を軽く振って見せた。
「おい、悠太。俺の大事な妹と何してやがんだ!」
土煙りが収まり、エドガーが大声で叫びながら側にくると、マチルダを引き離した。
「テメェにだけは妹は渡さんからな!」
「兄さん、訳のわからない事は言わないで。わたしは悠太を褒めていただけ」
「まったくこれだからエドガーは、イケメンなのにモテないんだよ」
「うるせぇー! この前の酒場では俺の方がモテてただろうが!」
「……兄さん、わたしに内緒で悠太を連れまわさないでって言ったよね」
エドガーが自爆した。これも的違いな事を言うからだ。
とりあえず怒っているマチルダを宥めて、倒したドラゴンの後始末をしようとしたが時間が掛かりそうなのでやめた。
そのままドラゴンをマジック袋に入れた。
「悠太、お前のマジック袋は本当にすげぇな」
女神様謹製のマジック袋だ。
このくらいは当たり前なのだよ。
「うん、刀もね」
そう、神刀マルディールに斬れないものはないのだ。
新たにそう名付けた刀を見て誇らしくなった。
ちなみに、クロノアソードと名をつけようとしたら、クロノアに大反対されたので、剣の名付けは保留している。
俺達は意気揚々と迷宮の出口を目指す。
だが恐怖は忘れた頃にやってくる、絶対にくる。
「きゃー! で、でたあー!」
不意打ちを受けた俺とマチルダは泣き叫びながら迷宮の出口まで全力で走った。振り向きもせずに、ただ全力で。
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