桜の下でさよならを

book bear

文字の大きさ
12 / 12

桜の下でさよならを

しおりを挟む
手紙を読んでから一週間がたった。

一矢は手紙を読み、弦希を疑ったことを恥じた。
大晦日の帰り道、弦希は勝負を放棄して抜け駆けしようとしているのではないかと思っていたが、そうではなかったようだ。

あの時何を話そうとしのかは一矢は知らなかったが手紙の内容を読んで、自分の見当違いだったことはわかった。


愛弓は手紙を読んで、二人がなんでぎこちなかったのかを知った。

二人とも喧嘩していたわけでもなく、弦希は一矢の背中を押すために、一矢は私に想いを伝えるために仕方のない状況だったのだ。

3人は昔と変わりなくお互いを想い続けていた。
それを私が勝手に悪い想像を膨らませてしまってただけだった。

それぞれ誤解が溶け、最後の日を迎えることができた。


--------------------------------------------------

一矢は桜の木の下で愛弓を待っていた。

今日から3人はそれぞれ新しい道へ進んで行く。
今までは3人で一人だったけど、今日からは独り立ちをしていく。

正直不安だった、一人でやっていけるのだろうか。
一人で歩む人生とは散りゆく桜の花びらのように儚いものなのかもしれない。

「何不安そうな顔してんの」

愛弓はいつもの明るい表情でやってきた。

「いや、今日でさよならかって思うと色々考えてしまってね」

「今日で最後か・・・・さみしいね・・・・」

そう言いながら小石をける足元を見ながら愛弓は言った。

「うん。

けど、弦希が言ったように離れていても、僕たちずっと一緒だ」

一矢は自分に言い聞かせるように言った。

そうだ、この先一人じゃない。僕にはいつも二人の心がそばにいてくれる。

だから胸を張って生きよう。

「そうだね、そういえば手紙なんて書いてあったの?」

「え、それは・・・・」

一矢は言葉が詰まった。

愛弓を大事にしろ、そして自分に正直になれ

ふと弦希の言葉を思い出した。
逃げてはいけない、今度こそ気持ちを伝えないと。

「愛弓、僕は愛弓の事が好きだ!」

風が止まり、吹き上げられていた桜の花びらが散る中、愛弓は驚いた表情で一矢の目を見つめていた。
その瞬間は、二人の時間は止まったかのように長く感じられた。

一矢の目は真剣だった。
気持ちが真っ直ぐに伝わってくる。

愛弓は嬉しさがゆっくりと少しずつ心の奥から湧いてきたことを感じていた。

「手紙の内容を聞いたのに、いきなり何なの」

愛弓は嬉し涙を見られたくなくて顔を伏せた。

「俺は愛弓とは離れたくない、今日で最後なんて耐えられない。

それに、弦希との約束なんだ愛弓を大事にする事、そして自分の気持ちに正直に生きる事。

それが手紙の内容だ」


一矢は止まらない涙を拭き続ける愛弓を優しく抱きしめた。

一矢の胸の中で

「ありがとう」

と愛弓は言った。


--------------------------------------------------

夕日の指す中


「そろそろ、弦希とのお別れをしようか」

「そうだね」

これで本当に最後、そう思うと二人とも涙を堪えることができなかった。

「弦希、ありがとう」

二人はそれぞれ弦希にお礼を言った。
涙で視界がにじむ中、二人の前に弦希の影が見えた。

「二人ともありがとうな、末永く幸せにやれよ」

目に留まりきらなくなった涙が溢れると同時に影は消えていった。

二人は弦希の想いを胸にこれから先生きていく。

たとえ辛いことがあってももう一人じゃない。
僕たちはずっと一緒だ。

二人は桜の木の下で夕日を眺めながら弦希へ最後の別れを言った

「さようなら」

二人の涙を拭うように春風が頬を撫でていった。

しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?

さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。 しかしあっさりと玉砕。 クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。 しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。 そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが…… 病み上がりなんで、こんなのです。 プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...