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混沌
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震災当日に遡る
柚月は仕事から帰宅して、夕食の用意をしていた。
テレビからはバラエティの賑やかな声が溢れ出している。
柚月は寝る時もテレビを付けていないとだめな体質で、人の声がないと孤独感に襲われて不安になってしまうのだ。
テレビから溢れる声が、誰かと繋がっているような気がして孤独感を忘れることができる。
姉は総司と結婚し、もう四年。
柚月は彼氏ができるわけでも無く、ずっと一人暮らしをしていた。
30歳になり、焦る気持ちもあったが総司の事を未だに忘れることができないでいたのだ。
あらゆる手段を使って総司との距離を置いて忘れようとした。
呼び方を総ちゃんから総司さんにしてみたり、携帯から連絡先を消したりもした。
もちろんSNSの繋がりも断ち切った、けれど1ミリたりとも忘れることができなかった。
むしろ、繋がりがなくなってしまった分、余計に恋しくなってしまい、以前よりも気持ちが強くなっていた。
離れれば離れるほど、その人の事を考え、想ってしまう。
断ち切るためにやった事が裏目に出てしまったのだ。
そんな自分が惨めで可哀想に思えていた。
自分で自分に同情し、泣いた日もあった。
自分が悲しみを背負っている間は、二人が幸せになってくれている。
二人の為にもこの悲しみは背負わなければいけない、そんな気持だけが、複雑だったが唯一柚月の支えでもあった。
夕食をテーブルへ運び椅子に座る。
誰もいないけど、いただきますと言って手を合わせた。
箸に手を伸ばした時、違和感を感じた、なにか来る、そう思った途端に、家のいたる所からカタカタと音がし始めた。
携帯の地震アラートが鳴り響く。
それから数秒後に大きな揺れが襲ってきた。
食器棚やテレビは倒れ、ガラスの割れる音が部屋に響く。
柚月はとっさにテーブルの下へ隠れて揺れに飛ばされないようにテーブルの足をしっかりと掴んだ。
僅か数分の揺れだったが、ものすごい長く感じられた。
揺れが収まってからも、まだ体が揺れているような錯覚に陥っていた。
せっかく作った夕食も散らかってしまった。
突然の出来事に放心していた時、玄関がノックされているのに気づいた。
さっきの揺れで電気が止まってしまい、インターホンは使い物にならないのだろう。
玄関のレンズから外を見るとそこには姉が立っていた。
「あれ?お姉ちゃん?」
「柚月?ちょっと話があるの、開けてくれない?」
柚月は姉を部屋へと招いた。
柚月はとりあえず椅子に座り、葉月と向かい合った。
「お姉ちゃん話って?」
「いきなりで申し訳ないんだけど、柚、あなた総ちゃんの事、今でも好きでしょ?」
柚月は予想もしない姉の言葉に戸惑いを隠せなかった。
さっきの地震の事はまるで無かったかのような口ぶりで聞いてきた。
「え?いきなり何?話ってそんなこと?」
「大事な事なの!好きなの?嫌いなの?」
姉の顔は真剣そのものだった。
姉はふざけてこんな事を聞くような人では無いことを柚月は知っている。
少し躊躇って柚月は言った。
「好きだけど・・・・」
すると姉は安心した顔になった。
「そう、良かった、じゃあ頼みがあるの。
私にはもう時間がないの、だから柚に総ちゃんの事を頼みたいの。
今からあなたは葉月として生きていきなさい、そして、3日後に府立病院に居る総ちゃんを妻として迎えに行ってほしいの、そして総ちゃんの妻として総ちゃんを支えて欲しい。」
あまりにも突拍子もない内容に柚月は話を遮った。
「待って待って意味がわかんない。総司さん入院してるの?それに私がお姉ちゃんの名前で生きる?意味わかんないよ」
「今は細かい事を説明している暇は無いの、それと、今日総ちゃんと会う予定だったんだけど、総ちゃんが万が一記憶を取り戻したら、会えなくなったこと謝っといて、それとこの箱、開けるべき時が来るまで総ちゃんに見られないように保管しといて」
記憶が戻ったら?
箱?
柚月は混沌とした展開に追いつけずにいた。
さっきの地震は幻だったのだろうか?
姉は地震の事には触れず訳のわからない話しかしない。
「お姉ちゃん、落ち着いて、さっきの地震で混乱してるんだよね?
自分が何言ってるか分かってる?」
柚月の問に、葉月ははっきりと答えた。
「混乱なんかしてないよ、意味がわからないってのは柚の言うとおり、けど、柚にしか頼めないの。
それに、私はやらないといけない事があるから・・・ごめんね」
「え、ちょっと待ってよ!お姉ちゃん!」
葉月は悲しそうな表情で微笑みかけた。
「柚、ごめんね、総ちゃんの事よろしくね」
そう言って家を飛び出していった。
それ以来、姉との連絡がつかなくなってしまった。
そして3日後に、柚月は府立病院へと向かった。
姉の言ったとおり、総司は記憶が無く柚月の事も覚えてない様子だった。
柚月は仕事から帰宅して、夕食の用意をしていた。
テレビからはバラエティの賑やかな声が溢れ出している。
柚月は寝る時もテレビを付けていないとだめな体質で、人の声がないと孤独感に襲われて不安になってしまうのだ。
テレビから溢れる声が、誰かと繋がっているような気がして孤独感を忘れることができる。
姉は総司と結婚し、もう四年。
柚月は彼氏ができるわけでも無く、ずっと一人暮らしをしていた。
30歳になり、焦る気持ちもあったが総司の事を未だに忘れることができないでいたのだ。
あらゆる手段を使って総司との距離を置いて忘れようとした。
呼び方を総ちゃんから総司さんにしてみたり、携帯から連絡先を消したりもした。
もちろんSNSの繋がりも断ち切った、けれど1ミリたりとも忘れることができなかった。
むしろ、繋がりがなくなってしまった分、余計に恋しくなってしまい、以前よりも気持ちが強くなっていた。
離れれば離れるほど、その人の事を考え、想ってしまう。
断ち切るためにやった事が裏目に出てしまったのだ。
そんな自分が惨めで可哀想に思えていた。
自分で自分に同情し、泣いた日もあった。
自分が悲しみを背負っている間は、二人が幸せになってくれている。
二人の為にもこの悲しみは背負わなければいけない、そんな気持だけが、複雑だったが唯一柚月の支えでもあった。
夕食をテーブルへ運び椅子に座る。
誰もいないけど、いただきますと言って手を合わせた。
箸に手を伸ばした時、違和感を感じた、なにか来る、そう思った途端に、家のいたる所からカタカタと音がし始めた。
携帯の地震アラートが鳴り響く。
それから数秒後に大きな揺れが襲ってきた。
食器棚やテレビは倒れ、ガラスの割れる音が部屋に響く。
柚月はとっさにテーブルの下へ隠れて揺れに飛ばされないようにテーブルの足をしっかりと掴んだ。
僅か数分の揺れだったが、ものすごい長く感じられた。
揺れが収まってからも、まだ体が揺れているような錯覚に陥っていた。
せっかく作った夕食も散らかってしまった。
突然の出来事に放心していた時、玄関がノックされているのに気づいた。
さっきの揺れで電気が止まってしまい、インターホンは使い物にならないのだろう。
玄関のレンズから外を見るとそこには姉が立っていた。
「あれ?お姉ちゃん?」
「柚月?ちょっと話があるの、開けてくれない?」
柚月は姉を部屋へと招いた。
柚月はとりあえず椅子に座り、葉月と向かい合った。
「お姉ちゃん話って?」
「いきなりで申し訳ないんだけど、柚、あなた総ちゃんの事、今でも好きでしょ?」
柚月は予想もしない姉の言葉に戸惑いを隠せなかった。
さっきの地震の事はまるで無かったかのような口ぶりで聞いてきた。
「え?いきなり何?話ってそんなこと?」
「大事な事なの!好きなの?嫌いなの?」
姉の顔は真剣そのものだった。
姉はふざけてこんな事を聞くような人では無いことを柚月は知っている。
少し躊躇って柚月は言った。
「好きだけど・・・・」
すると姉は安心した顔になった。
「そう、良かった、じゃあ頼みがあるの。
私にはもう時間がないの、だから柚に総ちゃんの事を頼みたいの。
今からあなたは葉月として生きていきなさい、そして、3日後に府立病院に居る総ちゃんを妻として迎えに行ってほしいの、そして総ちゃんの妻として総ちゃんを支えて欲しい。」
あまりにも突拍子もない内容に柚月は話を遮った。
「待って待って意味がわかんない。総司さん入院してるの?それに私がお姉ちゃんの名前で生きる?意味わかんないよ」
「今は細かい事を説明している暇は無いの、それと、今日総ちゃんと会う予定だったんだけど、総ちゃんが万が一記憶を取り戻したら、会えなくなったこと謝っといて、それとこの箱、開けるべき時が来るまで総ちゃんに見られないように保管しといて」
記憶が戻ったら?
箱?
柚月は混沌とした展開に追いつけずにいた。
さっきの地震は幻だったのだろうか?
姉は地震の事には触れず訳のわからない話しかしない。
「お姉ちゃん、落ち着いて、さっきの地震で混乱してるんだよね?
自分が何言ってるか分かってる?」
柚月の問に、葉月ははっきりと答えた。
「混乱なんかしてないよ、意味がわからないってのは柚の言うとおり、けど、柚にしか頼めないの。
それに、私はやらないといけない事があるから・・・ごめんね」
「え、ちょっと待ってよ!お姉ちゃん!」
葉月は悲しそうな表情で微笑みかけた。
「柚、ごめんね、総ちゃんの事よろしくね」
そう言って家を飛び出していった。
それ以来、姉との連絡がつかなくなってしまった。
そして3日後に、柚月は府立病院へと向かった。
姉の言ったとおり、総司は記憶が無く柚月の事も覚えてない様子だった。
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