二人の為のピアノソナタ

湊音の過去3

中学生になった時湊はある悩みを抱えていた。

コンクールに向けて千早希の指導の元レッスンをしていたが全く納得行く演奏が出来ないでいた。

「湊音、もっと感情を込めて演奏しなさい。あなたの演奏はピアノで音を出しているだけ、曲は感情を乗せて初めて完成するの」

そんなこと分かっている。けど上手く感情が乗らないのだ。

作家がどういう思いで作ったのか、そしてどんな曲なのか理解しないと感情が乗せられないと先生は言う。

身近な人の気持ちでさえ理解するのに苦労するのに昔の面識のない人の気持ちなんて理解できるわけ無いだろうと湊音は思っていた。

そのせいで感情が乗らないのだ。

そしてコンクールの日を迎えたが結果は最悪だった。

湊音はもうピアノを辞めようかと思っていた。
上達しないし、日々の練習が苦痛に感じ始めていた。

母にどう話せばいいか悩んだ。

結局素直に今の気持ちを伝えた。

「お母さん、俺ピアノを辞めたい」

怒られるかと思っていたが、母は優しい表情で話を聞いてくれた。

「なんで辞めたいの？」

湊音は演奏に感情が乗らないこと。
そのせいでいい演奏ができない事を話した。

すると母はゆっくりと話し始めた。

「確かに昔は湊音の演奏聴いていると活き活きとしているのが良く伝わったわ。

そして今はやらなければという焦りがあなたの演奏から感じる。

今の湊音は求められている演奏をしなければって考えにとらわれてるんじゃない？

誰に向けて演奏をすればいいのか定まってないでしょう？

だから感情が乗せられないのよ。

感情というのは伝えるもの。

だから伝えたい誰かを思い浮かべなさい」

母の言葉が自分の中にすっと入ってきた。

そうだ、幼かったあの時は母の喜ぶ姿が見たくて母の為に演奏をしていた。

だから活き活きと演奏ができたのか。

「ありがとう、母さん俺まだやれるかもしれない」

それは良かったと言った母の笑顔は湊音の心に焼き付いていた。

この時から湊音は母の為に演奏することを誓った。