二人の為のピアノソナタ

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湊音の過去4

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母の為に演奏をすると誓ってから演奏に感情を乗せることができるようになり、コンクールでも成績をどんどん積み上げていた。

そして20歳の時に念願のピアニストデビューを果たし順調に思えたが、22歳の時辛い出来事が起きる。


梅雨に入り雨の日が続いていた。


最悪だ今日の天気晴れだったから傘を持ってきていない。

湊音の家は駅から徒歩10分の所にある。
傘を刺さずに帰ってもなんとかなる時間だ。
コンビニで傘を買うか迷った末、結局買わずに走って家に帰る事にした。

「ただいまー、最悪だよ今日天気予報晴れだったよね?」

「おかえりなさい、突然降ってきたわね、ついてないわね」

いつものように温かく出迎えてくれた。
この時まではいつもと変わらない様に見えた。
しかし、夕飯を食べ終わるなり、母は改まった様子で湊音に話しかけた。

「湊音、実はこの前の健康診断の事なんだけどね。
私癌になってるみたいなの、それでしばらく入院する事になったの。

だから、家の事しばらく頼んだわね」


「癌?それってステージは?」

「食道のステージ3よ」

湊音はどん底に落とされた気分だった。
ステージ3の食道となると5年の生存率は20%以下、
かなり厳しい状況だった。

なんて声をかけたらいいのかわからず沈黙が続く。

「心配かけてごめんね」

「いや、謝らなくていいよ。
それより治療はどうなるの?」


「手術と抗がん剤よ」

「そうか、いつから入院なの?」


「来週から入院する事になってる、大丈夫よ」

辛いのは母の方なのになんで僕が励まされているんだろう。
しっかりしないと。

「当たり前だろ、ちゃんと退院してくれよ」


「もちろんよ」

そう言った母の笑顔は心配させないように心がけてぎこちない笑顔になっていた。
本当は泣きたいくらい怖いだろう。
なのにこんな時にでも息子に心配をかけまいと強がっている。

湊音は部屋に行くと泣いた。

「こんな時にまで、俺の心配して・・・・
自分の心配してくれよ・・・・・」

それからも湊音はコンサートをこなしていた。
早く母が退院できるように思いを込めて一つ一つ丁寧に演奏をした。

母さん、聞こえてる?
早く元気になってくれ。
そしてまた、僕の演奏を目の前で聴いてほしい。

それが僕がピアニストしてやっていける活力になる。

頼むから、帰ってきて。
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