二人の為のピアノソナタ

book bear

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最後の曲

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連弾に誘われてから一週間後の夜、二人は喫茶店で待ち合わせをしていた。

前と同じおまかせブレンドを注文し、凛音は早速話を始めた。

「湊音さん、私一週間考えてみたんですけど、それでやっぱり私は自分のペースで演奏したいって思ったんだす。

ピアニストって、お客さんに求められる演奏をしないといけない、そういうの私には向いてないんですよね。

私も昔ピアニストを目指してたんですけど、ある日、成り行きで適当に思うままに知らない男の子に演奏をすることになったんです。

そしたら私の演奏を喜んでくれて、私それが嬉しくて、好きなように演奏するだけでも人を喜ばせれるんだって思ったんです。

それでも高校生になるまでは、ピアニストを目指して頑張っていたんです。

けれど、私はこんな演奏をしたいわけじゃない、母の夢のために、自分の演奏を閉じ込めてまでピアニストになりたくないって思って夢を捨てたんです。

その時から私は自分の演奏で気ままに生きる道を選びました。

だから、湊音のお誘いは受けれません。

ごめんなさい」


湊音は黙って凛音の話を聞いていた。
そして、断わられるだろうとわかっていた。

「凛音さんの気持ちはわかりました。

じゃあ、最後にお願いを一つだけいいですか?」

凛音は少しだけ身構えた。

「はい」

「駅のフリーピアノで僕の演奏を聴いてください」

こうして二人はフリーピアノの元へやってきた。

また、終電のない駅で二人きり。

「これは僕から凛音さんへの最後の贈り物です。

では、聴いてください」

そう言うと湊音はピアノの前に座った。

これが最後、湊音さんと会うのもも最後なのかもしれない。
だって私達に会う理由はもうないのだから。

私達を繋ぐピアノの方向性が変わってしまった。
湊音はピアニストへ
凛音は自由の音楽へ

それぞれの道を歩み始める。

今から聴く曲は別れの曲であり、湊音から凛音への感謝と応援の気持ちの演奏でもある。

凛音は心を空っぽにして湊音の演奏を全て受け入れることができるように準備をした。


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