二人の為のピアノソナタ

凛音の過去

凛音小学3年生。

母の夢を背負ってピアニストを目指すため、日々猛特訓をしていた。

そんなピアノ漬け日々に嫌気が差していた凛音は、この日練習をサボるために学校の図書室で時間を潰していた。

放課後の図書室は人が少なく、シーンと静まり返っていた。

本の匂いに包まれる中、凛音は一冊の本を手に取った。

モーツァルトの伝記

それを見た凛音は自分を笑った。

ピアノの練習から逃げてきたのに本当に自分はピアノが好きなんだなとつくづく感じた。

「モーツァルト好きなの？」

と男の子に声をかけられた。
名札の色からして六年生だとわかった。

「好きって程でも無いけど」

「ふーん、もしかしてピアノ弾いてるの？」

凛音はこくりと頷いた。

「そうなんだ！実は俺も弾いてるんだよ！
ねぇ！聴かせてみせてよ！」

いきなりの頼みに凛音は戸惑いを隠せなかった。
すると男の子は凛音の手を引いて音楽室へと連れて行く。

「ちょっと、私弾くなんて言ってないよ」

「いいから、いいから」

そして無理やりピアノの前に座らされた。
凛音はもうこうなったら適当にやり過ごそうと思った。

本番でもないから好きなように弾く事にした。

演奏を終えると男の子が大喜びしてくれた。

「すげー！上手いね！」

凛音は型にはまらない演奏でここまで喜んでくれるんだと、初めて知った。

そして自由に演奏する楽しさも感じた。
男の子はありがとうと言って、走って帰ってしまった。

一体何だったのか、それ以降男の子と会うこともなくわからないまま時間は過ぎていった。


それから数年、高校生になった凛音はピアニストなる為に必死に練習を続けた。

母の指導に熱が入り、怒られる毎日だ。
そんなとき図書室で出会った男の子を思い出していた。

私は自由に演奏をしたいと強く思った。
その時、ふと私は母のためのに自分の思いを殺してまでピアニストになりたいんたろうか？

いや、違う。

そこまでして叶えたい事じゃない。
そう思った凛音は母と喧嘩をして、ピアニストの夢を捨てた。

そして自由の演奏を求め、音大へと入学する