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春祭り
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結局、『春祭り』には、蒼空の方から誘いが来た。
「明日、祭り。11時でいいよな?」
「おぅ!」
あっという間に、その日はやって来た。
世砂とは、祭りの終わりに上がる、花火の前に、偶然を装って、落ち合うことになっていた。
それまでは、毎年しているように、店を回り、たこ焼きを食べ、遊ぶ。
「おい、夕輝。これ」
「ぜってー、やだ。ほら、これだ!」
ちょんまげ帽子を、蒼空に被せ、顔とのバランスの悪さに、大笑いしていると、手に持っていたネコの耳を、夕輝は付けられた。
「夕輝、可愛い」
「にゃーん、てか?」
もしかしたら、今年が最後かも知れない。
なんとなく、そんな事を思うと、淋しいという気持ちが、襲い、夕輝は腹を抱えて、笑っていた。
花火の前。
約束どおり、世砂が今見つけたかのように、声をかけて来た。
「蒼空くんも来てたんだ。友達帰っちゃったんだ、一緒に花火見てもいいでしょ?」
蒼空は、俺の方を見て、救いを求めていた。
「仕方ねぇな」
腰に手を当てて、笑って、了承すると、蒼空も諦めたように、息を吐いた。
ごめんな……蒼空。
「あー、おれ、ちょっと、食いもん買って来るわ。腹減った」
世砂からは、合流した後、蒼空と2人きりにしろ、と言われていた。
焼きそばを買って食べた後、飲み物を片手に、適当に、ぶらぶらした。
(つまんねぇな、1人じゃ)
多少、興 気になる露店もあったが、蒼空のいない今は、やる気が起きなかった。
(そろそろいいか……)
一通り回って、2人のところに戻ってみる。
「なぁ……」
後ろにいる夕輝に、2人は気づかなかった。
「椋野くんて、蒼空くんのこと、好きなんだよ。しってた? あー言っちゃった」
なんで……?
「夕輝が? ……嘘だろ?」
「ねぇ? あり得ないでしょ?」
遠目でも分かるくらい、蒼空が驚いているのが分かった。
そして、返事に困ったように、苦笑い。
「はは……それは、困ったな」
と、言った。
言わない約束だった。
なのに……
手から零れ落ちる。
持っていた、飲み物が、地面に落ちた。
その時、はじめて、2人は俺がいた事に、気づいた。
見られたくない!
蒼空が、振り向く前に、夕輝は走っていた。
「夕輝!」
聞こえた気もする。
だけど、振り返られなかった。
ただ、ひたすらに、日が落ちて、橙赤色の路を。
走って
走って
走って……
無我夢中で、辿り着いたのは……
たぶん、誰も来たことのない、場所。
想っているだけでよかった。
だけど……知られてしまった。
いう事ができないことくらい、分かってたのに。
幼馴染で、親友、それでよかった。
一面に咲く、忘れ草の、強烈な橙赤色が、目を埋め尽くし、溢れて、頬を伝った。
そして、夕輝は……願った。
『想いを。忘れさせてください』
と。
「明日、祭り。11時でいいよな?」
「おぅ!」
あっという間に、その日はやって来た。
世砂とは、祭りの終わりに上がる、花火の前に、偶然を装って、落ち合うことになっていた。
それまでは、毎年しているように、店を回り、たこ焼きを食べ、遊ぶ。
「おい、夕輝。これ」
「ぜってー、やだ。ほら、これだ!」
ちょんまげ帽子を、蒼空に被せ、顔とのバランスの悪さに、大笑いしていると、手に持っていたネコの耳を、夕輝は付けられた。
「夕輝、可愛い」
「にゃーん、てか?」
もしかしたら、今年が最後かも知れない。
なんとなく、そんな事を思うと、淋しいという気持ちが、襲い、夕輝は腹を抱えて、笑っていた。
花火の前。
約束どおり、世砂が今見つけたかのように、声をかけて来た。
「蒼空くんも来てたんだ。友達帰っちゃったんだ、一緒に花火見てもいいでしょ?」
蒼空は、俺の方を見て、救いを求めていた。
「仕方ねぇな」
腰に手を当てて、笑って、了承すると、蒼空も諦めたように、息を吐いた。
ごめんな……蒼空。
「あー、おれ、ちょっと、食いもん買って来るわ。腹減った」
世砂からは、合流した後、蒼空と2人きりにしろ、と言われていた。
焼きそばを買って食べた後、飲み物を片手に、適当に、ぶらぶらした。
(つまんねぇな、1人じゃ)
多少、興 気になる露店もあったが、蒼空のいない今は、やる気が起きなかった。
(そろそろいいか……)
一通り回って、2人のところに戻ってみる。
「なぁ……」
後ろにいる夕輝に、2人は気づかなかった。
「椋野くんて、蒼空くんのこと、好きなんだよ。しってた? あー言っちゃった」
なんで……?
「夕輝が? ……嘘だろ?」
「ねぇ? あり得ないでしょ?」
遠目でも分かるくらい、蒼空が驚いているのが分かった。
そして、返事に困ったように、苦笑い。
「はは……それは、困ったな」
と、言った。
言わない約束だった。
なのに……
手から零れ落ちる。
持っていた、飲み物が、地面に落ちた。
その時、はじめて、2人は俺がいた事に、気づいた。
見られたくない!
蒼空が、振り向く前に、夕輝は走っていた。
「夕輝!」
聞こえた気もする。
だけど、振り返られなかった。
ただ、ひたすらに、日が落ちて、橙赤色の路を。
走って
走って
走って……
無我夢中で、辿り着いたのは……
たぶん、誰も来たことのない、場所。
想っているだけでよかった。
だけど……知られてしまった。
いう事ができないことくらい、分かってたのに。
幼馴染で、親友、それでよかった。
一面に咲く、忘れ草の、強烈な橙赤色が、目を埋め尽くし、溢れて、頬を伝った。
そして、夕輝は……願った。
『想いを。忘れさせてください』
と。
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