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高校生の頃
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椋野夕輝は、夕愛高校に通う2年生。
この町の教育施設は、1箇所にまとめられており、小学校から同じ通学路を通る、若芝蒼空とは、すぐに仲良くなった。
ガラリと扉が開いた。
「夕輝、終わったぞ。帰ろうぜ」
「また、告白されたのか?」
「あー、うん。でも、断った」
その答えを聞いて、夕輝は、ホッ、とした。
蒼空は、背も高いし、かっこいい。それに、町では有名な、旅館の跡取り息子だった。
その為、こうやって女子から告白される事は、珍しい事じゃなかった。
「だれ?」
「世砂」
「美人じゃん。付き合っておけばよかったんじゃね?」
はは、っと蒼空は笑い声をあげた。
俺は、いつからか、蒼空のことが好きになっていた。
もちろん、恋愛の対象としてだ。
だけど、その想いは、一生、心に、しまっておくつもりだった。
橙赤色の、いつも見ている風景の中を歩き、いつもの別れ道で、2人は立ち止まった。
少しだけ冷たい風が、横切る。
「後1ヶ月したら、俺ら、3年生になるんだな」
「進路かぁ。お前はいいよな。旅館継ぐんだろ?」
「まぁ、いずれはそうなるんだろうけど、まだ、さ、考えたくないよなぁ」
「もし、後継がなくたって、なんでもできるんじゃないか? お前、かっこいいし、頭もいいんだし」
それに比べて、俺は……特に取り柄もない。
背も大きくないし、とりわけ、かっこいいわけでも、頭が良いわけでもない。
「大人になりたくねえなぁ」
「まだ、あと、一年あるぞ。あっそうだ、『春祭り』行くだろ?」
「もう、そんな時期だなぁ」
3月入ってすぐ、春の到来を祝う為の祭りが、毎年行われる。
毎年決まって、夕輝は、蒼空と行っていた。
「今年くらい、彼女でもつれてけよ」
冗談で言うと、蒼空は眉をあげて、踵を向ける。
広い、蒼空の背中を眺め、胸が、チクリ、と痛んだ。
「寄り道しないで、まっすぐ帰れよ」
「ガキじゃないっつーの!」
夕輝は、顔を縮めて、舌を出した。
「じゃーな」
蒼空は、口を手で覆って吹き出していた。
途中で半身を向け、彼のあげた手を目で追いつつ、夕輝も背を向け、帰路に就いた。
「夕輝、遅かったじゃない。森にとられたらどうするの?」
「もう、そんな、ガキじゃねーよ!」
母親の言葉を、面倒、だと思いながら2階に昇る。
うちは、この町に昔からある家で、周りは森に囲まれている。
『夕方になったら、森に入ってはいけない』
それは、この町の子供が、大人になるまで、言われ続けている事だった。
「森に入ったら、無くし物するなんて、迷信だろ?」
「バカにしちゃいかん、夕輝。昔あそこで……」
「ああ! もう、いいよ!」
じいちゃんの、長い話しを聞かされるのは、まっぴらで、夕輝は茶碗に残るご飯を、一度に、口に、放り込んで、部屋に戻った。
※
「ねえ、椋野くん、お願いがあるんだけど」
ある日、1人でいるときに、蒼空がフった、世砂が話しかけてきた。
「蒼空の事なら、知らないぞ?」
「そんなこと言っていいのかな?」
「なんだよ、気持ち悪ぃ」
「気持ち悪いのは、どっち?」
ニヤニヤと笑う世砂を見て、夕輝は顔色を変えた。
「あは、そうだよね。椋野くん、蒼空くんの事、好きでしょ? 私、気づいちゃったんだから。気持ち悪い……」
世砂は最後、吐き捨てるように言った。
「蒼空くんに、言っちゃっても、いいの?」
「…………だろ」
「え? なに? 聞こえませんけど?」
「ダメに決まってんだろ」
世砂は穢らわしいものでも見るように、目を細めた。
「私、蒼空くんの事、諦められないんだよね。だから、ね? 協力、してくれるでしょ?」
悪魔が、バカにしたように笑い、言ったのは。
”春祭りに、蒼空を呼び出して欲しい”
という事だった。
この町の教育施設は、1箇所にまとめられており、小学校から同じ通学路を通る、若芝蒼空とは、すぐに仲良くなった。
ガラリと扉が開いた。
「夕輝、終わったぞ。帰ろうぜ」
「また、告白されたのか?」
「あー、うん。でも、断った」
その答えを聞いて、夕輝は、ホッ、とした。
蒼空は、背も高いし、かっこいい。それに、町では有名な、旅館の跡取り息子だった。
その為、こうやって女子から告白される事は、珍しい事じゃなかった。
「だれ?」
「世砂」
「美人じゃん。付き合っておけばよかったんじゃね?」
はは、っと蒼空は笑い声をあげた。
俺は、いつからか、蒼空のことが好きになっていた。
もちろん、恋愛の対象としてだ。
だけど、その想いは、一生、心に、しまっておくつもりだった。
橙赤色の、いつも見ている風景の中を歩き、いつもの別れ道で、2人は立ち止まった。
少しだけ冷たい風が、横切る。
「後1ヶ月したら、俺ら、3年生になるんだな」
「進路かぁ。お前はいいよな。旅館継ぐんだろ?」
「まぁ、いずれはそうなるんだろうけど、まだ、さ、考えたくないよなぁ」
「もし、後継がなくたって、なんでもできるんじゃないか? お前、かっこいいし、頭もいいんだし」
それに比べて、俺は……特に取り柄もない。
背も大きくないし、とりわけ、かっこいいわけでも、頭が良いわけでもない。
「大人になりたくねえなぁ」
「まだ、あと、一年あるぞ。あっそうだ、『春祭り』行くだろ?」
「もう、そんな時期だなぁ」
3月入ってすぐ、春の到来を祝う為の祭りが、毎年行われる。
毎年決まって、夕輝は、蒼空と行っていた。
「今年くらい、彼女でもつれてけよ」
冗談で言うと、蒼空は眉をあげて、踵を向ける。
広い、蒼空の背中を眺め、胸が、チクリ、と痛んだ。
「寄り道しないで、まっすぐ帰れよ」
「ガキじゃないっつーの!」
夕輝は、顔を縮めて、舌を出した。
「じゃーな」
蒼空は、口を手で覆って吹き出していた。
途中で半身を向け、彼のあげた手を目で追いつつ、夕輝も背を向け、帰路に就いた。
「夕輝、遅かったじゃない。森にとられたらどうするの?」
「もう、そんな、ガキじゃねーよ!」
母親の言葉を、面倒、だと思いながら2階に昇る。
うちは、この町に昔からある家で、周りは森に囲まれている。
『夕方になったら、森に入ってはいけない』
それは、この町の子供が、大人になるまで、言われ続けている事だった。
「森に入ったら、無くし物するなんて、迷信だろ?」
「バカにしちゃいかん、夕輝。昔あそこで……」
「ああ! もう、いいよ!」
じいちゃんの、長い話しを聞かされるのは、まっぴらで、夕輝は茶碗に残るご飯を、一度に、口に、放り込んで、部屋に戻った。
※
「ねえ、椋野くん、お願いがあるんだけど」
ある日、1人でいるときに、蒼空がフった、世砂が話しかけてきた。
「蒼空の事なら、知らないぞ?」
「そんなこと言っていいのかな?」
「なんだよ、気持ち悪ぃ」
「気持ち悪いのは、どっち?」
ニヤニヤと笑う世砂を見て、夕輝は顔色を変えた。
「あは、そうだよね。椋野くん、蒼空くんの事、好きでしょ? 私、気づいちゃったんだから。気持ち悪い……」
世砂は最後、吐き捨てるように言った。
「蒼空くんに、言っちゃっても、いいの?」
「…………だろ」
「え? なに? 聞こえませんけど?」
「ダメに決まってんだろ」
世砂は穢らわしいものでも見るように、目を細めた。
「私、蒼空くんの事、諦められないんだよね。だから、ね? 協力、してくれるでしょ?」
悪魔が、バカにしたように笑い、言ったのは。
”春祭りに、蒼空を呼び出して欲しい”
という事だった。
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