【R18】忘れ草の咲く森〜想いを失ったのは、結ばれるきっかけにすぎなかった〜

天野すす

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高校生の頃

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 椋野夕輝むくのゆうきは、夕愛高校に通う2年生。


 この町の教育施設は、1箇所にまとめられており、小学校から同じ通学路を通る、若芝蒼空わかしばそらとは、すぐに仲良くなった。


 ガラリと扉が開いた。


「夕輝、終わったぞ。帰ろうぜ」
「また、告白されたのか?」
「あー、うん。でも、断った」


 その答えを聞いて、夕輝は、ホッ、とした。

 蒼空は、背も高いし、かっこいい。それに、町では有名な、旅館の跡取り息子だった。

 その為、こうやって女子から告白される事は、珍しい事じゃなかった。


「だれ?」

世砂よすな

「美人じゃん。付き合っておけばよかったんじゃね?」


 はは、っと蒼空は笑い声をあげた。

 俺は、いつからか、蒼空のことが好きになっていた。

 もちろん、恋愛の対象としてだ。

 だけど、その想いは、一生、心に、しまっておくつもりだった。



 橙赤だいだいあか色の、いつも見ている風景の中を歩き、いつもの別れ道で、2人は立ち止まった。

 少しだけ冷たい風が、横切る。


「後1ヶ月したら、俺ら、3年生になるんだな」

「進路かぁ。お前はいいよな。旅館継ぐんだろ?」

「まぁ、いずれはそうなるんだろうけど、まだ、さ、考えたくないよなぁ」

「もし、後継がなくたって、なんでもできるんじゃないか? お前、かっこいいし、頭もいいんだし」


 それに比べて、俺は……特に取り柄もない。

 背も大きくないし、とりわけ、かっこいいわけでも、頭が良いわけでもない。


「大人になりたくねえなぁ」

「まだ、あと、一年あるぞ。あっそうだ、『春祭り』行くだろ?」

「もう、そんな時期だなぁ」


 3月入ってすぐ、春の到来を祝う為の祭りが、毎年行われる。

 毎年決まって、夕輝は、蒼空と行っていた。


「今年くらい、彼女でもつれてけよ」


 冗談で言うと、蒼空は眉をあげて、踵を向ける。


 広い、蒼空の背中を眺め、胸が、チクリ、と痛んだ。


「寄り道しないで、まっすぐ帰れよ」
「ガキじゃないっつーの!」

 夕輝は、顔を縮めて、舌を出した。

「じゃーな」

 蒼空は、口を手で覆って吹き出していた。


 途中で半身を向け、彼のあげた手を目で追いつつ、夕輝も背を向け、帰路に就いた。




「夕輝、遅かったじゃない。森にとられたらどうするの?」

「もう、そんな、ガキじゃねーよ!」


 母親の言葉を、面倒、だと思いながら2階に昇る。


 うちは、この町に昔からある家で、周りは森に囲まれている。


 『夕方になったら、森に入ってはいけない』


 それは、この町の子供が、大人になるまで、言われ続けている事だった。


「森に入ったら、無くし物するなんて、迷信だろ?」
「バカにしちゃいかん、夕輝。昔あそこで……」
「ああ! もう、いいよ!」


 じいちゃんの、長い話しを聞かされるのは、まっぴらで、夕輝は茶碗に残るご飯を、一度に、口に、放り込んで、部屋に戻った。



           ※


「ねえ、椋野くん、お願いがあるんだけど」

 ある日、1人でいるときに、蒼空がフった、世砂が話しかけてきた。


「蒼空の事なら、知らないぞ?」
「そんなこと言っていいのかな?」
「なんだよ、気持ち悪ぃ」
「気持ち悪いのは、どっち?」


 ニヤニヤと笑う世砂を見て、夕輝は顔色を変えた。


「あは、そうだよね。椋野くん、蒼空くんの事、好きでしょ? 私、気づいちゃったんだから。気持ち悪い……」


 世砂は最後、吐き捨てるように言った。


「蒼空くんに、言っちゃっても、いいの?」
「…………だろ」
「え? なに? 聞こえませんけど?」
「ダメに決まってんだろ」


 世砂は穢らわしいものでも見るように、目を細めた。


「私、蒼空くんの事、諦められないんだよね。だから、ね? 協力、してくれるでしょ?」


 悪魔が、バカにしたように笑い、言ったのは。
”春祭りに、蒼空を呼び出して欲しい”
 という事だった。
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