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飲み会で
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翌日。
約束通り、飲み会は開かれた。
クラスメイトだった2人と、世砂が来ていた。
「やっほー、椋野くん。元気だった? なんか、垢抜けちゃって。やっぱり都会行った人は違うなー」
「おぉう! みんな元気そうだなぁ」
あまり好きじゃなかった気持ちは、久々の再会という喜びに優しく包まれて、溶けて、なくなっていった。
「木村は、中本と結婚式したんだぜ?」
「へぇっ? あの中本?」
「いや、まぁ。年末に子供が産まれます」
「マジかよ……」
木村が頭の後ろを撫でて、溶けそうな表情をしている。
こうやって話を聞くと、本当に長いこと帰ってきてなかったのだと、夕輝は感じた。
積もった話は、尽きることはなくて、ずっと途切れなかった。
それで……蒼空の大事な人は?
ここにいる事を考えると、きっと世砂がそうなんだろう。
夕輝の胸が、何故か、ツキン……と軋んだ。
「ねぇ、蒼空くん、ちょっと」
そんな時、世砂が、蒼空を呼び出すところを、見てしまった。
何かが漏れ出すように、腹の奥底で、もやもやとする。
なんだよ、俺。
その現象に名前が付いてしまうのが怖くて、夕輝はコップをあおっていた。
「ねぇ、ちょっと! あなた達どうなってるのよ?」
「……どうもなってない」
世砂はため息を吐いた。
「あなたも、煮え切らない人ね。さっさと気持ちを伝えなさいよ。見てるこっちがイライラするわ!」
「そんな訳にはいかないだろ。だって、あいつは忘れてるんだぞ? いきなり言ったら、逃げられるかも知れないし……大体、お前が変な事を夕輝にたのむから」
「あーもう! 分かってるわよ。だから、こうして、今でも気にかけてるのよ……」
少し涙目になった世砂を見て、蒼空が口を覆った。
「ごめん」
「いいのよ……悪いのは私だし。それより、いいわね! 椋野くんを、このまま帰しちゃダメだからね」
「それくらいの事は、分かってる」
夕輝には、今日、この後、全てを打ち明けることにしていた。
席まで戻ってくると、夕輝の様子を見て驚く。
「おいおい、飲ませたのか?」
「違う違う。こいつが勝手に間違ったんだって……」
木村と一緒に来ていた、久留岩が首を振っていた。
夕輝は、テーブルに突っ伏し、大きめに開いた首周りから見える白い肌が、今は桜色に染まっていた。
胸元に下げていたネックレスの飾りが後ろになっていて、蒼空は手を伸ばした。
開くようになっていて、中には……写真が入っていた。
「お熱いわね……悩む事ないんじゃない?」
手元を覗き込んだ世砂が、蒼空の背中をバシッと勢いよく叩く。
「ほら、もうこんなだし。みんなもう帰りましょ! 蒼空くん、よろしくね!」
「え? ああ」
手許を見たまま、蒼空は止まっていた。
ネックレスに入っていたのは、自分も飾っている、2人の写真だった。
「ん……」
夕輝が身体を起こした。
酔っているからなのか、自分の気持ちが、そう、感じさせているのか、妙に色っぽかった。
「かえるの?」
「歩けるのかよ?」
トロンとした目で蒼空を見上げていた夕輝が、ふにゃり、と笑うと立ち上がった。
「あっとと、あははは」
大きくよろめく夕輝を受け止めると、熱る体温と、無防備な身体のしなやかさに、鼓動を早くさせる。
すぐ目の前にある、頭のてっぺんから、蒸気して立ち昇る整髪料の匂い。
家までもつかな……?
全てを打ち明けるよりも先に、蒼空は食べてしまいたくなる衝動と闘うことになった。
約束通り、飲み会は開かれた。
クラスメイトだった2人と、世砂が来ていた。
「やっほー、椋野くん。元気だった? なんか、垢抜けちゃって。やっぱり都会行った人は違うなー」
「おぉう! みんな元気そうだなぁ」
あまり好きじゃなかった気持ちは、久々の再会という喜びに優しく包まれて、溶けて、なくなっていった。
「木村は、中本と結婚式したんだぜ?」
「へぇっ? あの中本?」
「いや、まぁ。年末に子供が産まれます」
「マジかよ……」
木村が頭の後ろを撫でて、溶けそうな表情をしている。
こうやって話を聞くと、本当に長いこと帰ってきてなかったのだと、夕輝は感じた。
積もった話は、尽きることはなくて、ずっと途切れなかった。
それで……蒼空の大事な人は?
ここにいる事を考えると、きっと世砂がそうなんだろう。
夕輝の胸が、何故か、ツキン……と軋んだ。
「ねぇ、蒼空くん、ちょっと」
そんな時、世砂が、蒼空を呼び出すところを、見てしまった。
何かが漏れ出すように、腹の奥底で、もやもやとする。
なんだよ、俺。
その現象に名前が付いてしまうのが怖くて、夕輝はコップをあおっていた。
「ねぇ、ちょっと! あなた達どうなってるのよ?」
「……どうもなってない」
世砂はため息を吐いた。
「あなたも、煮え切らない人ね。さっさと気持ちを伝えなさいよ。見てるこっちがイライラするわ!」
「そんな訳にはいかないだろ。だって、あいつは忘れてるんだぞ? いきなり言ったら、逃げられるかも知れないし……大体、お前が変な事を夕輝にたのむから」
「あーもう! 分かってるわよ。だから、こうして、今でも気にかけてるのよ……」
少し涙目になった世砂を見て、蒼空が口を覆った。
「ごめん」
「いいのよ……悪いのは私だし。それより、いいわね! 椋野くんを、このまま帰しちゃダメだからね」
「それくらいの事は、分かってる」
夕輝には、今日、この後、全てを打ち明けることにしていた。
席まで戻ってくると、夕輝の様子を見て驚く。
「おいおい、飲ませたのか?」
「違う違う。こいつが勝手に間違ったんだって……」
木村と一緒に来ていた、久留岩が首を振っていた。
夕輝は、テーブルに突っ伏し、大きめに開いた首周りから見える白い肌が、今は桜色に染まっていた。
胸元に下げていたネックレスの飾りが後ろになっていて、蒼空は手を伸ばした。
開くようになっていて、中には……写真が入っていた。
「お熱いわね……悩む事ないんじゃない?」
手元を覗き込んだ世砂が、蒼空の背中をバシッと勢いよく叩く。
「ほら、もうこんなだし。みんなもう帰りましょ! 蒼空くん、よろしくね!」
「え? ああ」
手許を見たまま、蒼空は止まっていた。
ネックレスに入っていたのは、自分も飾っている、2人の写真だった。
「ん……」
夕輝が身体を起こした。
酔っているからなのか、自分の気持ちが、そう、感じさせているのか、妙に色っぽかった。
「かえるの?」
「歩けるのかよ?」
トロンとした目で蒼空を見上げていた夕輝が、ふにゃり、と笑うと立ち上がった。
「あっとと、あははは」
大きくよろめく夕輝を受け止めると、熱る体温と、無防備な身体のしなやかさに、鼓動を早くさせる。
すぐ目の前にある、頭のてっぺんから、蒸気して立ち昇る整髪料の匂い。
家までもつかな……?
全てを打ち明けるよりも先に、蒼空は食べてしまいたくなる衝動と闘うことになった。
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