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4 小さな意地と大きな抱擁
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静まり返った室内を優の素足がペたりと跳ねる。
優の足取りは初めの頃の面影を残さないほどにここ数日で見違えるほど立派になり、普通に歩くどころか走る事まで出来るようになっていた。
優しく編まれた畳を踏みしめ、艶のある板の床を抜け、草木で覆われた大地を踏み締める。
人の柔らかな皮膚では何かと不都合があるだろうと雫が用意してくれた履き物にもだいぶ慣れ、ここ数日で優は住まいとしている建物周辺をよく出歩いていた。
これまで住んでいた森とは違い、ほんの僅かに白い霞のようなものがかかる世界。日の浮き沈みや風が吹き抜ける感覚はあっても、動物の鳴き声と言った他の生物の気配は一切感じない、なんとも不思議な場所だった。
今後狩りをするといっても、ここではお目当ての肉類にはありつけないのかもしれない。
そう思いながら優がキョロキョロと周囲を見渡しながら散策をしていると、ぴちょん、と聞こえる音に大きな耳がぴくんと立ち上がる。足を止め、左右の耳を別々の方向に傾けながら音の出処を探していると、少し遠くの方から再びぴちょんと音が聞こえた。
「……こっちか?」
等間隔にならぶ木々を抜けると、ふわりと鼻をくすぐる甘い香り。すんすんとその匂いを辿りながら森をぬけていくと、そこには大きな湖があった。
様々な木々が取り囲むように輪を作り、その中央にある大きな水溜り。森と変わらずにもやがかかり、向こう岸までは確認が出来ないが、それだけでもその大きさが理解できる。
ぴちょん。水面が揺れると共に水の音が今度ははっきりと聞こえた。
ゆらゆらと揺れる水面下には小さな影がいくつも泳いでおり、どうやら優の耳に届いた音の発生源はこれららしい。
「こんなところあったんだ」
方角からして家の裏手にあたるところだろうか。立ち並ぶ木々になる木の実も見た事が無いものも多く、全く別な種類なのだろう。
まだ泳ぐ魚を捕まえられるほどにこの身体を動かせる自身もない。ならば、と優は一本の木の幹をぺしぺしと叩くと、決意したように眉根を寄せてこくりとひとつ頷いた。
視線の先には丸くぽってりとした桃のような果実。すん、と鼻を動かせば感じる甘い香りはおそらくこれから漂ってきている。
「これくらいなら今の俺だって」
狼は基本的に木登りをする生き物ではない。血を駆け巡る俊敏な身体を駆使する狩りにおいて、その必要が無いからだ。
だが、獣に戻れないのならこの身体でできることを探せばいい。優はそう思い、目の前の気に手を伸ばした。
獣とは違う長い手足を伸ばし、別れている枝に手を引っ掛けるような形で少しずつ身体を持ち上げる。目指すは高所に見えるあの果実。
一本、また一本とよじ登っていくと、もう少しで手が届くところまで何とか登ることが出来た。
細い木の枝に跨りながら懸命に果実へと手を伸ばす。
指先が振れるまであともう少し。優はさらに前のめりに身体を傾けると、薄皮で覆われた果実に指が掠る。
これ以上前へと進むのは枝が折れてしまう可能性もある。だが、あと一息なのだ。歯を食いしばりながらぐっと腕を伸ばす。
「あと、もう少し……っ」
がさりと木の葉を揺らしながらもどかしい距離を埋めるように手を伸ばす。
息を飲むような数秒の後、指先を添えるように薄皮の果実を掌で覆うように包み込み、五本の指で握り込んだ。
「よし……!」
その時だった。樹木がかわいた音を立てると共にガクリと身体が大きく揺れる。
枝が折れたのだと理解した時には優の身体は前のめりの姿勢のまま、地面へ吸い込まれるように落ちはじめていた。
優の足取りは初めの頃の面影を残さないほどにここ数日で見違えるほど立派になり、普通に歩くどころか走る事まで出来るようになっていた。
優しく編まれた畳を踏みしめ、艶のある板の床を抜け、草木で覆われた大地を踏み締める。
人の柔らかな皮膚では何かと不都合があるだろうと雫が用意してくれた履き物にもだいぶ慣れ、ここ数日で優は住まいとしている建物周辺をよく出歩いていた。
これまで住んでいた森とは違い、ほんの僅かに白い霞のようなものがかかる世界。日の浮き沈みや風が吹き抜ける感覚はあっても、動物の鳴き声と言った他の生物の気配は一切感じない、なんとも不思議な場所だった。
今後狩りをするといっても、ここではお目当ての肉類にはありつけないのかもしれない。
そう思いながら優がキョロキョロと周囲を見渡しながら散策をしていると、ぴちょん、と聞こえる音に大きな耳がぴくんと立ち上がる。足を止め、左右の耳を別々の方向に傾けながら音の出処を探していると、少し遠くの方から再びぴちょんと音が聞こえた。
「……こっちか?」
等間隔にならぶ木々を抜けると、ふわりと鼻をくすぐる甘い香り。すんすんとその匂いを辿りながら森をぬけていくと、そこには大きな湖があった。
様々な木々が取り囲むように輪を作り、その中央にある大きな水溜り。森と変わらずにもやがかかり、向こう岸までは確認が出来ないが、それだけでもその大きさが理解できる。
ぴちょん。水面が揺れると共に水の音が今度ははっきりと聞こえた。
ゆらゆらと揺れる水面下には小さな影がいくつも泳いでおり、どうやら優の耳に届いた音の発生源はこれららしい。
「こんなところあったんだ」
方角からして家の裏手にあたるところだろうか。立ち並ぶ木々になる木の実も見た事が無いものも多く、全く別な種類なのだろう。
まだ泳ぐ魚を捕まえられるほどにこの身体を動かせる自身もない。ならば、と優は一本の木の幹をぺしぺしと叩くと、決意したように眉根を寄せてこくりとひとつ頷いた。
視線の先には丸くぽってりとした桃のような果実。すん、と鼻を動かせば感じる甘い香りはおそらくこれから漂ってきている。
「これくらいなら今の俺だって」
狼は基本的に木登りをする生き物ではない。血を駆け巡る俊敏な身体を駆使する狩りにおいて、その必要が無いからだ。
だが、獣に戻れないのならこの身体でできることを探せばいい。優はそう思い、目の前の気に手を伸ばした。
獣とは違う長い手足を伸ばし、別れている枝に手を引っ掛けるような形で少しずつ身体を持ち上げる。目指すは高所に見えるあの果実。
一本、また一本とよじ登っていくと、もう少しで手が届くところまで何とか登ることが出来た。
細い木の枝に跨りながら懸命に果実へと手を伸ばす。
指先が振れるまであともう少し。優はさらに前のめりに身体を傾けると、薄皮で覆われた果実に指が掠る。
これ以上前へと進むのは枝が折れてしまう可能性もある。だが、あと一息なのだ。歯を食いしばりながらぐっと腕を伸ばす。
「あと、もう少し……っ」
がさりと木の葉を揺らしながらもどかしい距離を埋めるように手を伸ばす。
息を飲むような数秒の後、指先を添えるように薄皮の果実を掌で覆うように包み込み、五本の指で握り込んだ。
「よし……!」
その時だった。樹木がかわいた音を立てると共にガクリと身体が大きく揺れる。
枝が折れたのだと理解した時には優の身体は前のめりの姿勢のまま、地面へ吸い込まれるように落ちはじめていた。
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